置いていったもの
短編です
カバンから鍵を取り出して、鍵穴に・・・入らない。
よく見ると表札が無い。あれ、もしかして、いない?
とりあえず、このアパートを管理している、不動産屋に行こう。
「あの、すみません、○○アパートの203号室って・・・」
「こんにちは、あれ、あそこの家の方なら、引っ越しましたよ?」
「あ、え、そうなんですか」
嘘でしょう!?いつの間に!?全く気づかなかった。
「えっと失礼ですが、どのようなご関係で?」
店主が訝し気に私を見る。
「えっと・・・」
改めて聞かれると、答えに困るけどこういう時は落ち着いて。
「友人です」
「ご友人の方・・・・」
「あの、彼、何か言ってませんでしたか?」
「あー、そうですね、なんだか急いでらっしゃる様子でしたねぇ・・・」
仕事が変わったわけでもないのに急ぐ必要はないはず。私が知らないうちに引っ越してしまうなんて、酷い人。
「あぁ、そう言えば、このクマのぬいぐるみ、ご存じですか?203号室の方が忘れていかれたんですけど」
これ、私がプレゼントしたクマちゃん。信号が途切れたからチェックしないと、と思ってたんだ。そうかぁ、忘れて行っちゃったのかぁ。
「これ、私があげたものです」
そう言うと、お兄さんは、私にクマのぬいぐるみを渡してくれた。でも、次の引っ越し先は教えてくれなかった。守秘義務があるらしい。でもここで食い下がったら、変に思われるだろうから、連絡してみますとだけ言って、不動産屋を出た。
「さて、と」
一旦家に帰って、クマの背中を開けると、私のいれた盗聴器が壊れていた。でもぬいぐるみに切った後はないから、きっと私の存在に気が付いたわけじゃない。でもなにか違和感はあったのかもしれない。職場は変わっていないのだから、きっと周辺に新たな家を見つけたんだろう。
もう仕方がないなぁ。私が“恋は障害があればあるほど燃える性分”って、彼わかってるのかしら。盗聴器に気づかれたくらいじゃ私へこたれないんだから!
今や私と彼を繋ぐものは、この使えない合鍵とぬいぐるみだけ。でも私、彼を見つけ出して見せる。この合鍵だって、手に入れるのすごく簡単だったんだもの。彼、結構抜けてるところあるから、仕事帰りに肩がぶつかったふりして鍵を手に入れるの。まったく気づいていなかった。あとは粘土で型を取って、親切な人のふりして「落としましたよ」なんて言えば完璧。あの時初めて喋っちゃったのよねぇ~。
あぁ、でも次のお家を見つけたら気を付けなくちゃ。最近彼の私物をこっそり持って帰りすぎた気はしてたのよね。歯ブラシはさすがに、気づかれちゃうよねぇ。反省。
今度はうまくやる。まずは彼の新しいお家を見つけなきゃ。楽しみだなぁ、どんなお家にしたんだろう。急いでいたって言ってたから、きっとそんなに間取りやサイズ感をこだわってる暇はなかっただろうし、もしかしたら繋ぎ的に家賃の安い家を探して、落ち着いたら別の家を探す算段なのかもしれない。
まずは別の不動産屋をチェックね。あとは、最近アパートに新しく入居した人がいないか、を念入りにチェックしなきゃ。
あぁ、忙しい。待っていてね、愛しのあなた!
——やる気が出て来たぁ!——
迷探偵・・・




