第8話 『国王の前で』
2日間で全10話連続投稿企画実施中!
作品名を『精神科医召喚 ~推しが死んだので異世界でセンターにします~ 』
から
『チート精神科医召喚 ~推しが死んだので異世界でセンターにします~ 』
に変更しました。
王都中央大劇場。
この国一番の大劇場で天井は高く、巨大な星型シャンデリアが輝く。
舞台の良く見える貴賓席には王座が据えられ、そこにはヴァルハイト王国国王が座っている。
そして隣のブロックには貴族や将軍にくわえて報道部隊も大勢詰めているのが見えた。
まさに国を挙げての一大行事であることを物語っている。
本選に進んだのは30組。
Re:Genesisの出番は12番目だ。
もう間もなく10番目の出場者のパフォーマンスが始まる。
Re:Genesisの5人は舞台袖でスタンバイしている。
この異色のグループに対して、観客席のざわめきは、明らかに冷たい。
「異種族混合グループだろ?」
「しかも唯一の人間も、先の不倫報道の当事者らしい」
「本当に出場させたのか」
「王の前でそんな」
他の出場者は全員、人間族の歌手であり。
貴族や権力者がパトロンについているため、衣装や演出も豪華だ。
歓声も温かい。
対してこちらは――好奇と警戒。
今回の星魂祭は、例年よりも警備が2倍に増やされているらしい。
だがRe:Genesisのメンバーは今日落ち着いていた。
「なんか逆に楽しみになってきちゃったぁ!」
「もうどん底なんだから、これ以上落ちないし!」
その時、会場が割れんばかりの歓声が聞こえた。
前の前の組のパフォーマンスが終わったようで、Re:Genesisの順番が迫る。
「じゃあ、皆そろそろ準備しましょう」
レオナが4人に声をかける。そして円陣を組もうとしたところに
リョーカが4人に語り掛けた。
「私……センターというポジションがいただいたのが本当に嬉しかったから、
その分、前に立って頑張らなきゃって。みんなを引っ張らなきゃって」
僕は何も口を出さない。
舞台前のこの時間は彼女たちのものだから。
「なのに何もできなくて――」
ごめん、とリョーカが謝罪を続けようとしたところで――。
「違うよ」
ルルナが笑って否定した。
「私たちは皆、隣に並んでいる」ゼノヴィアが頷く。
「センターって中心のことでしょ。
それってつまり、囲まれてる場所じゃん?だから――」とレオナが4人を見渡す。
ピノが両手を広げる。
「守られてるポジション!」
4人がこくりとうなずき、リョーカがはっと息を呑む。
これまで彼女にとってセンターは
グループの矢面に立たなければいけない立場であり、攻撃の集中点だった。
だが今、4人が自然と彼女を守るように周囲に立っている。
「だから、リョーカのこと守るよ。舞台の上で何があっても」
レオナの言葉を聞いたリョーカは目に涙を浮かべるが、
メイクが落ちてしまうと思ったのか、こぼさない様に上を向いて深呼吸する。
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精神安定値:B(安定)
―――――――――――――
彼女はもう震えていない。
差別も、噂も、そう簡単には消えないだろう。
だが、Re:Genesisは、もう崩れない。
センターはひとりで抱える孤独なポジションではなく、
皆に守られる、グループの要。
Re:Genesisにとって本当のセンターが、今、生まれた。
「時間です、行きましょう」
僕の声に、全員が頷き、
彼女たちは光の差す戦場へと向かった。
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◆演目開始
Re:Genesisの順番が来て、
照明が落ちても静寂は訪れなかった。
客席は「異種族のパフォーマンスなんてどうでもいい」と言わんばかりに
席を立つもの、雑談に興じるもの、野次を飛ばすもの。
正直想定内だ。
僕が裏方に合図をすると、曲のイントロが流れる。
そして何かあったら対処できるよう、僕はそのまま急いで観客席に移動する。
「~♪」
曲は「純情未満のスターライト」。
クラシックのような美しい旋律から始まる、アイドルソングらしいアップテンポだが歌詞はエモめで感情に訴えかける曲だ。
今回は談合坂45の曲ではなく
センターのリョーカをイメージして、作曲家に作ってもらった新曲。
歌詞を書いたのはリョーカだ。彼女が自ら志願してくれた。
歌いだしのトップバッターはルルナ。
透明感のある高音が、天井へ抜ける。
サキュバス特有の甘さが艶へと昇華され、祈りのような澄んだ歌いだし。
ざわめきが、止まる。
今日の衣装はブルーと白を基調とした美しいミニドレス。繊細なレースはターンをすると綺麗に広がり、遠目から見ても美しい。
サキュバスは「妖艶・邪悪」という観客の偏見をぶち壊す。
次にゼノヴィアとレオナの見せ場だ。
彼女たちの足の長さを際立たせる、ショートパンツスタイルで観客たちの目をまず惹きつける。
キレのあるターンと無駄のないステップ。
人間族では成しえない、異種族の身体能力が生み出す動きに、観客たちの目と心は奪われ 彼女たちのダンスは芸術へと昇華される。
貴族席の一角、先ほどまで退屈そうに動いていた扇子が止まる。
曲のサビ一歩手前、レオナが足を踏み込み、高く高くジャンプして見せる。
獣人の躍動。
観客の鼓動と同調するようなリズムが観客の心を盛り上げる。
一次審査は観客が平民だったので、盛り上げることを重視にワイルドでテンポのいいダンスを披露してくれたが
今回は観客の好みに合わせ、バレエのようにしなやかに、だが芯の強さを感じさせる舞踏だ。
さながらゼノヴィアは凛と咲く百合、レオナは生命力のあるひまわりのようだった。
そのなかでピノが翼をパタパタとはためかせ中央に舞い降りる。
竜人の小さな体、くるりと回って眩しい笑顔で笑う。
跳ねるようなダンスは、花の中で踊る可愛らしい妖精のよう。
先ほどまで息をのんで見守っていた観客はその一瞬で彼女に心奪われ、空気が柔らぐ。
くすり、と笑いが起こり、緊張がほどけた。
――いいぞ、アイドルは観客を笑顔にしてこそだ!
そして――
サビが訪れる。
リョーカの登場。
スポットライトが彼女だけにあたる。
一音目。
いつも通り完璧なピッチ。
だが今日はいつも以上に、強い“意志”がそこにある。
自分の潔白を訴える押しつけがましいものでも、完璧であるためでもない。
観客に愛を届けるための声。
強さなんて、まだ持っていない。
綺麗に笑うこともごまかすこともできない。
でも私はここに立ちたい。君に見つけてほしいから――。
リョーカが書いたのはそんな歌詞だった。
そして2度目のサビ。
リョーカのソロから、5人の声が重なる。
異種族の音色が、ぶつからず綺麗なハーモニーとなった。
――なんだ、この声は。
何度も練習で聞いていた声、しかし僕まで体中の血液が熱くなるような興奮を覚えた。
今回のパフォーマンスのテーマは「本当の彼女たち」だった。
異種族は粗暴で人間族よりも劣るという偏見を持つ観客だからこそ
今回のパフォーマンスは刺さっただろう。
ラストはひとりひとりのソロパート。
僕は昨日夜なべして作った、5枚のバナータオルを順番に掲げる。
「ルルナ!」
「妖艶で邪悪」だと思っていたサキュバスは清らかに美しく、
「ゼノヴィア!」
気高く近寄りがたいダークエルフは、寂しがり屋の強がりで、
「レオナ!」
人間族とは分かり合えないと言っていた獣人は、本当は仲良くしたくて、
「ピノ!」
「怖い」と思われていた竜人は可愛らしい妖精のようだった。
「リョーカ!」
前世と同じ、ブルーのバナータオルを掲げる。
そして「罪を犯した」と疑われていた人間の少女は
誰よりも堂々と中心でこの世界が目指す「光」を歌い上げた。
偏見や噂ではなく自分自身を見てほしい、という彼女たちの想いが詰まっていた。
曲が終わり、長い長い静寂が訪れる
僕の心臓は音が聞こえそうなほど、激しく脈を打っていた。
素晴らしいパフォーマンスだったが、贔屓目だったか、という一抹の不安がかすめる。
そして。
「……すごい」
「なんだ、今の」
ようやく客席がザワつきはじめる。司会もあんぐりと口を大きく開けて進行を忘れていたようだった。
すると、最前列の青年が立ち上がり拍手を送る。
一次審査でも最初に拍手を送ってくれたあの黒髪の彼だった。
すると、その拍手はやがて波紋のように広がり、
いつの間にか全員が惜しみない拍手をメンバーたちに送っていた。
「ブラボー!」
王も、立ち上がって惜しみない賞賛を送る。
会場が拍手とどよめきで揺れていた。
舞台の上のメンバーたちは口をぽかんとあけて、この景色を眺めている。
少したってようやく実感がわいたのか
顔は割れんばかりの笑顔になり、5人で手を繋いで、もう一度お辞儀をした。
歓声が一層大きくなる。
彼女たちは顔を上げると、観客全員に手を振った。
彼女たちが客席にいる僕を見つけて、
指をさして手を振ってくれる。
「ユウマーーーー!!!!!」
僕は力いっぱい、手を振り返す。
人生で最高のファンサだった。
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◆結果発表
30組がパフォーマンスを終え、瞬く間に結果発表の時間がやってきた。
僕らは観客席に座り、祈るように両手を胸の前で組む。
審査が押しているのか、例年なら1時間ほどで結果発表が行われるところ、もう2時間は経過している。
「えーー大変長らくお待たせいたしました」
ようやく出てきた司会の声は震えていた。
「今年も例年通り、
会場の審査員での会議と、一般投票を合わせて協議いたしました。
今年は大変混戦で、誰が受賞してもおかしくない素晴らしい出来だったと言えます」
待たされた上に司会の前口上が長く、レオナはいらいらしたのか、貧乏ゆすりをしている。
わかる、僕もしたい。
「今年は歴史が変わりました」
司会は大きく深呼吸する。
「本年度、星魂祭優勝は――Re:Genesis!」
ワッという歓声とともに会場がびりびりと揺れる。
その歓声の中心は――我らが「Re:Genesis」だ。
5人はまだ信じられない、という表情で顔を見合わせている。
信じられない、という表情で唇を固く結んでいる保守派の貴族たち。
まだまだ完全に異種族が受け入れられたわけではない。
差別や偏見や噂は一朝一夕にはなくならない。
でも、この結果に異を唱える者は誰もいなかった。
舞台の上に、国王が歩み出た。
そして
「この世界には種族がある。
そして人は目に見えるもので判断をする。
だが余は今日、目に明らかな違いではなく、魂を見ることができた。見事であった」
拍手は鳴りやまない。
Re:Genesisが国王の心を動かしたのだ。
「王国は変わる時かもしれぬ」
それは世界が変わる“兆し”だった。
次は本日18:00頃に更新予定です!




