第5話 『差別と初ステージ』
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Re:Genesisの初ステージは、王都南区・穀物市場前広場。
以前リョーカが歌っていた中央広場とは違って、この広場は年季が入っているため
石畳はひび割れ、草が生い茂っている。
ステージも木箱を積んだだけの即席だ。
「……本当に、ここで?」
リョーカの声は小さい。
精神安定値は朝からCとDをいったりきたりしている。
さっそく王立星魂祭にエントリーし、Re:Genesisは無事書類審査を通過、
Re:Genesisは本日の予選を迎えた。
書類審査を突破した2000組の内、予選から本選へ進めるのは――わずか30組。
リョーカによると、異種族グループであればむしろ書類審査は通過しやすいらしい。
星魂祭は、表向きは国が主催のイベントであるため、「異種族だからと言って差別はない」というアピールだそうだ。
だが実際、予選を通過した異種族の歌手はただ一人としていない、というのが実情だ。
異種族への風当たりが強い証拠に、予選会場にあてがわれたのはこの王都の端っこにある、平民が行きかう市場の隅。
今日はここでのライブだ。
「人が集まりやすい有利な会場はやはり人間族メインにあてがわれるみたいですね。文句を言いましたが“安全上の懸念”で押し通されてしまいました。力及ばずで申し訳ないです」
安全上の懸念――。
断り文句として、反論しづらい便利な言葉だ。
つまり異種族が集まれば「安全上の懸念がある」らしい。
それがこの国の空気だ。
しかも現在、朝9時40分。
人々は忙しそうに行きかっており、とてもではないがのんびり歌を聞いてくれそうな気配はない。
この時間にあてがわれるのは場を温める「前座」的役割を意味している。
ヴァルハイト王国は多種族国家を名乗り、
表面的には全ての種族が暮らしやすい国と謳っているが
実際、ヒエラルキーのトップにいる支配層は人間。
行政、軍、芸能、報道。
どのジャンルにおいても、この国の“象徴”の座は、常に人間のもの。
人間族からすれば異種族は「働く・戦う・奉仕する」ために存在するものだ。
異種族主催のイベントには貴族も王族も興味を持たない。
だが――
ここ王都南区・穀物市場前広場は平民のための場所だ。
僕は周囲を観察する。
広場を行きかうのは商人、農民、子ども、退役兵。
そして――王都警備兵が2名。
警備兵の目は明確に“警戒”している。
異種族の目立つ行動は、治安リスクと見なされやすいのだ。
何かあればすぐに逮捕してやる、という空気だ。
加えて国家審査員が数人見学しており、
現地の盛り上がりと、彼らの評価によって本選に進めるかどうかが決まるらしい。
彼らもすぐにわかった。
スーツ姿で退屈そうに、首から下げた懐中時計をチラチラ見ている。
社会人らしく僕が挨拶に行っても
「ああ、そう」と相づちを打つだけで会話が終了した。
なるほど、異種族が予選を通過するわけない、時間の無駄だと思っているわけだ。
だが今日の観客は平民が多いので、まだ貴族に比べ異種族への差別意識は少ない。
つまり――覆せる。
「……人、集まってます」
ルルナが小声で言う。
即席のステージと言えど、「王立星魂祭予選」の名で十分注目度はあがる。民衆は皆エンタメに飢えている。30人程度の人数が広場の前に集まっていた。この時間に、しかも無名の歌手なのにありがたい。
だが“期待”ではない。“物珍しさ”だ。
リョーカの今日の精神安定値:D → Cに上がってはいるが、不安定。
「最初は物珍しさで足を止めてくれるだけでいい」
僕は不安そうな顔をしている5人囁く。
「見せ物から、見たいものに変えましょう」
5人が息を呑む。
「行きましょう」
僕の声で、彼女たちは舞台に立った。
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午前10時――開演。
最初のMCは僕が担当した。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。彼女たちは――Re:Genesis」
そして5人がステージの上に立つと会場の空気は一変した。
このざわめきは、期待ではない。
「……人間じゃないのかよ」
はっきりと聞こえた。
「おい、サキュバスだぞ」
「竜人もいる」
嘲笑に似た笑い声。
警戒の視線。
露骨な嫌悪。
リョーカの肩が震える。
精神安定値:D → E(最低値)
レオナの拳が握られる。
ゼノヴィアの目は集まった観客を、敵意をもってにらんでいた。
「音楽に、人間族も異種族も関係ありません。
あなた方は今日、歴史が変わる瞬間を目にすることでしょう。
あなた方の偏見をぶち壊します」
あえて正面から喧嘩を売ってみて興味を引く。
よし、ざわついてはいるが石を投げられるほどではない。
観客の落ち着きを確認して、僕は5人にパフォーマンス開始の合図をした。
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◆1曲目:疾走系ダンスナンバー「限界突破センセーション」
僕には残念ながら作詞や作曲のスキルはないので、
曲は談合坂45のものを使わせてもらった。
記憶していた譜面と歌詞を、金で雇った演奏家に渡して録音、
購入していたスピーカーにつなげて流す。
初めての観客には、まずは掴みが大事。
曲を聴かせるというよりかは、この空間を「楽しいもの」と雰囲気を作ることが大事だ。
この曲のエースはゼノヴィア。
アップテンポのダンスに、ダークエルフ特有の長い手足が映える。
鋭く、しなる動き。
最初は冷ややかだった退役兵の目が、わずかに変わる。
「……動きに無駄がない」
その並々ならぬ動きの熱量によって、退役兵の心も動かしたようだった。
レオナの身体能力を生かした、高い高いバク転。
地面を踏み抜くような力強さ。
子どもが歓声を上げる。
派手な動きで観客の興味を引き付ける。
ピノは計算通りの“ギャップ”を出す。
竜人=粗暴、という固定観念を裏切るために、決め顔は見るものを幸せな気持ちにさせる、眩しい笑顔。
口元から覗く八重歯のような牙がチャームポイント。
「かわいい……」
彼女の笑顔につられて、観客の若い女性が、思わず微笑む。
国家調査員も顔を上げて、パフォーマンスを見入る。
よし、先入観にヒビが入った
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◆2曲目:ミドルテンポ「優しい反射光」
談合坂45が日本レコード大賞をとったのは、SNSでバズりまくった15枚目シングルではなく、
この「やさしい反射光」だった。
老若男女受けする明るい曲調で、くちずさみたくなるようなシンプルかつ特徴的なメロディは聞けば聞くほど良さがわかるスルメソングで、リリース当時は社会現象になった。
この曲にはルルナにソロパートをお願いした。
舞台に立っている今も、ルルナの手元は震えていたが
その瞳はまっすぐと空を見上げ、覚悟を決めた凛々しい表情だ。
ルルナは緊張しいなので、
「集まった群衆は意識せず、目の前のたった一人のために歌うようにパフォーマンスしなさい」と伝えた。
そのアドバイスを受けてくれたのか、
ルルナは観客一人一人に目が合うように視線を送り、
観客に語り掛けるように歌った。
ルルナの自己肯定感:C → Bに上昇。
“拒絶されなかった”という成功体験ができた。
小さい変化かもしれないが、彼女にとって大きな一歩だ。
この曲は少し卑怯な手を使わせてもらう。
ルルナの歌は聞くものを魅了し惑わすサキュバスの能力が宿る。
だからこそ万人受けする、この曲を2曲目に選んだ。
1曲目で興味を引き、
2曲目で全員を魅了にかける。
そして満を持しての3曲目だ。
2曲目としっかり間を取り、市場に静寂が広がった。
同じポーズで止まる5人。
彼女たちから目が離せなくなる観客。
もう少しで不安になった観客がざわつき始めそうな、その絶妙なタイミングで、静寂を破ったのはリョーカの声だ。
◆3曲目:バラード「透明なサヨナラ」
センターはリョーカ。
ラストはメッセージ性の強い「聞かせる」曲。
目の前の観客だけではなく、市場全体の喧騒が、すっと引いた。
野菜を値切っていた老婆がその手を止め、パンをかじっていた少年が噛むのを忘れている。
僕自身鳥肌が立った。
心にまっすぐ届く声。
技術だけではない、彼女の声は歌詞を読みあげるだけではなく、彼女の言葉のように聞こえる。
この曲のテーマは“渇き”。
「愛されたい、認められたい、でも自分には力がない」
この曲を選んだのは、リョーカが感情を乗せて歌えるだろうという目論見ももちろんあったが、今日の観客にぴったりだと思ったからだ。
貴族とは違って力のない平民は、増税や圧政に苦しみながらも、どうしようもできない現状に不満を抱いているものが多い。
「こんな声初めて聴いた……」
そう洩らした国家審査員の声を聴いて、僕はガッツポーズした。
ラストサビ。
5人が円形フォーメーションになって歌う。
それぞれの種族差を明確にして“視覚的武器”に変える配置。
観客の視線が自然と中央へ流れる。
リョーカの瞳が大きく開き、観客を真正面から見つめる。
逃げない、立ち向かうという意志を感じさせるその力強い表情が歌詞とリンクする。
表情管理、完璧だ。
精神安定値:C → Bに上昇した。
曲が終わり、広場はシンと静まり返った。
――誰も拍手しない……素晴らしいステージだと思ったが僕の自己満足だったのか……?
僕は思わずぎゅっと目をつぶる。
すると。
パチパチパチパチ。
最前列で見ていた黒髪の青年が拍手をしてくれた。
「ブラボー!」
するとその拍手は周りを巻き込み、次第に大きな音になっていく。
「よかったぞー!!」
「星魂祭応援してるからなー!」
そんな応援も飛び交った。
彼らが拍手するのを躊躇っていたのは「偏見」ある中で生まれた自分への感情に戸惑いがあったからだろう。
異種族たちの歌に感動していいのか、どうか。
だが、青年が最初の拍手してくれたおかげで、異種族のことも賞賛していいんだという空気を作ってくれた。
僕は最初に拍手してくれた青年の勇気に、心から感謝した。
退屈そうだった国家調査員も、力強く拍手してくれている。
その目は少し感動でうるんでいるように見えた。
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舞台裏に戻ると、リョーカが崩れるように泣き出した。
「罵声、なかったです」
そっちか。
彼女にとっては、拍手よりも“罵声がなかった”ことが救いなのだ。
ゼノヴィアが腕を組む。
「だが、これで満足はできない」
「当然よ」
レオナが言う。
「はい、次は星魂祭の本選。王前でのパフォーマンスです」
優勝者は国直属アーティストになれる。
リョーカが期待と不満が入り混じった表情でに言う。
「予選の結果は、いつ出るんですか?」
「明後日には、結果が僕の元に来ることになっています」
出場条件に明文化はないものの、慣例として“人間のみ”とされてきた王立星魂祭。
さて、結果はどうなるか。




