第3話 『異種族オーディション』
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「メンタルスコア鑑定スキル」を身に着け、その人の精神状態を見ることができるようになったものの、
そもそも、俺はこの世界の精神状態の基準値を知らない。
転移前の現実世界では数値化できないものだったので、まずリョーカの「精神安定値:C」がどれほどのものか、僕は街へ出て、ひたすらすれ違いざまに鑑定を行ってみる。
市場で値切り交渉をしている商人
歌唱:E
ダンス:D
精神安定値:A
門の衛兵
歌唱:E
ダンス:E
精神安定値:B
パン屋の老婆
歌唱:かつてはB
ダンス:E
精神安定値:B
野原で遊ぶ子ども
歌唱:D
ダンス:経験なし
精神安定値:A
悠真はしばらく人々を見て回り、やがて足を止めた。
ふむ、精神安定値の平均はAからBといったところか。
つまり――あの子はやはり、一般人より低めだ。
通常でCならば、メンタルが不安定になったときはより傾くのであろう。
心は一朝一夕で変わるものではないので
それはおいおい対策を考えるとする。
次にこの世界のアーティスト市場を調査した。
「歌を仕事にしている人」がどんなところで活躍をしているか、だ。
リョーカによると歌の仕事は2種類しかなく
・町のオペラハウスで行われるコンサートやショーのオーディションを勝ち取ること。
・レストランやバーで歌わせてもらうこと。
なるほど、「音楽家」という概念しかまだ存在していない時代のレベルだ。
「だから結局歌手として売り出すには、私の実力がないとだめなんです……」と言っていた。
だが、僕の意見は逆だ。
そのレベルでしか売り出し方が確立されていないのであれば逆にやりやすい。
JPOPのグループアイドル商戦を参考にさせてもらおう。
その昔、まだソロアイドルが主流だった時代、
その人個人の個性やスキルが特に注目された。
数多のスターが生まれた一方で、「休めない」「人気が落ちたら即終了」など彼らにかかる負担は大きかった。
だがグループアイドルの場合。
ソロアイドルはその人個人を応援するかどうか、という一択だが
グループがそのメンバーの誰か一人が刺されば勝ちであり、間口が圧倒的に広いのだ。
そして個々人の人気がグループの人気に左右されづらく、休みも取りやすいというメリットもある。
さらにグループになることによって、
それぞれの関係性や成長譚などのドラマ性が生まれる機会が増え、音楽以外に売りもできるのは大きい。
この異世界の「アイドル市場」は完全にブルーオーシャン状態であることを把握した僕は
名プロデューサーたちの手法を手っ取り早くまねることにする。
そしてこの市場調査中に、僕は新人アイドルにおあつらえ向きなイベントを見つけていた。
「――というわけで、メンバーを募集します」
市場の掲示板に貼った紙は、我ながら雑だった。
【歌と踊りに自信のある者、求む。種族不問。】
「ほ、本当にこれで応募来ますか?」
「来ます。才能は、輝ける場所を常に探しているものです」
……たぶん。
だが、勝算がなかったわけではない。
歌とダンスを仕事にしたい人は多いだろう、というのは理由の一つだが
この世界――ヴァルハイト王国では、人間族が“光の民”と呼ばれ優遇されているらしい。
それ以外の種族は、そこまで露骨ではないものの、人間族からは確実に一段下に見られており
仕事選びなどには不利になってしまうらしい。
実際、市場調査した際の歌手募集の告知は、すべて「人間族に限る」と記されていた。
だからこそ「種族不問」と書いた。
差別をひっくり返すチャンスがあるのなら、彼女たちはこのチラシに興味を持ってくれるに違いない。
そして翌日。
オーディション会場(という名の倉庫)に現れたのは――
異種族4人。
人間、ゼロ。
「やっぱり人間族は来ませんね…」
リョーカが小声で言う。
「大丈夫です。むしろ燃えます」
ちなみに、ステータス画面から初期装備の持ち物を確認すると
どうやら転移前の貯金がこちらの世界でも使える親切設計らしく、
僕の口座には3000万円入っていた。
この1年間、めちゃくちゃ働いたのと、
そもそも談合坂45以外に趣味もなかった。(涼香が亡くなってからは在宅オタだったし)
衣食住も最低限あれば十分なたちだったので貯金はたまる一方だったのだ。
その金で、僕は拠点として広い倉庫と、
音楽を流せるスピーカーのような魔道具を購入した。
彼女たちを売り出すための資金としてすべてを費やす覚悟だ。
僕の前に椅子を4つ並べ、そこに座ってもらうよう促した。
「それではオーディションを始めます」
まず1人目。
身長は156cmくらいで、肩につくくらいの綺麗な赤髪が印象的だ。
黒のミニワンピースを着ており、頭には小さな角が生えている。
「ルルナです……サキュバス、です」
声が小さい。目も合わない。
しかし、なるほど、サキュバス。
たしかに童顔なものの胸は大きく、谷間が見えていて僕は目のやり場に困った。
ここで僕はスキル発動。
――《スキル》――――――――
LULUNA
歌唱:A
ダンス:B
色気:S
自己肯定感:D
―――――――――――――――
「自己肯定感が致命的だな……」
「え?」
「いや何でもない」
メンタルスコア鑑定数値平均A~Bであることを考えると、Dは低い。かなり低い。
「どうして応募を?」
「……その、サキュバスなのに……その……誰の精気も、吸ったことがなくて……」
僕の後ろで記録係をしてくれていたリョーカがむせる。
「ど、どうやって男性を魅了すればいいかわからなくって……
族長から“出来損ない”って……」
声が震えている。
なるほど。彼女の自己肯定感の低さの原因が見えた。
“求められない存在”か。
僕は即決した。
「合格」
「えっ!?」
「応援したくなるストーリー性があります」
ルルナは何を言われているかわからず、ぽかんと小さく口を開けていた。
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2人目。
すらっとした長身、170cmはあるだろうか、
座っていてもスタイルが良いのがよく分かる。
エキゾチックな褐色の肌と切れ長の目は見るものをドキドキさせる魅力がある。
「ゼノヴィア。ダークエルフだ」
発声がいいのか、声もよく通る。
スキル発動。
――《スキル》――――――――
XENOVIA
歌唱:B
ダンス:S
反骨心:S
対人信頼度:E
―――――――――――――――
「信頼度E……」
「何か言ったか?」
「いや、こういった尖った子が仲間と苦楽を共にするにつれて
丸くなっていくストーリーは大好物だ」
鋭い瞳でキリッと睨まれた。
「人間は嫌いだ、彼らを私の踊りで黙らせたい。お前らも含めてな」
開口一番それか。だが、強気な態度も良い。
「それができたら、面白いですね」
彼女の根底にある差別への怒り。
強く見せようとする、反骨精神とその裏の弱さと孤独。
「合格」
彼女は目を大きくして少しうれしそうな顔をするも、すぐに咳払いをして
「……当然だ」
と言った。
素直じゃない。
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3人目。
ふわっとした茶髪のセミロングに、
ショートパンツからはスラリとした足が覗いている。
大きな獣耳と尻尾を揺らしながら彼女は腕を組み、こちらを値踏みするような視線をおくっていた。
「レオナ。獣人よ」
瞳の底に炎が燃えているような、勝ち気な目だ。
スキル発動。
――《スキル》――――――――
LEONA
歌唱:A
ダンス:A
身体能力:S
対人不安:C
人間への承認欲求:S
―――――――――――――――
「人間への承認欲求…
強気な姿勢は認めてほしいという裏返しか……。」
「何よ?」
「いえ、あなたはどうして応募を?」
「……別に。ただ、人間の連中を見返したいだけ」
ツンとした表情で、そっぽを向く。
「見返すって具体的にイメージとかありますか?」
「えっあっその……」
こちらが質問すると、レオナはわかりやすく慌てた。
「……可愛いって、言わせたい」
少しうつむいて、
こちらに届くかどうかの、消え入るような小声でつぶやくと彼女は顔を真っ赤にしている。
「ツンデレですね!」
リョーカが嬉しそうに言う。
「ち、違う!」
レオナの尻尾は猫が怒ったときのように、ぶわっと太くなった。
「いいですね、ツンデレはいつの世にも必要です」
合格。
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最後の4人目。
鮮やかな緑色の髪をした少女。
大きな金の猫目が印象的で、背中には竜の羽がピコピコと動いていた。
「ピノ。竜人です!」
彼女ははいっと立ち上がって、明るい笑顔で元気いっぱいに挨拶してくれた。
立ってみると小柄な体躯がより一層目立った。
スキル発動。
――《スキル》――――――――
PINO
歌唱:B
ダンス:A
ポテンシャル:SS
方向性迷子:S
―――――――――――――――
「方向性迷子って何だろう…?」
僕が思わずつぶやくと、ピノは明るく答える。
「ボク、かっこいい竜になれってずっと言われてきたんですけど!」
ピノは緊張しているのか、拳を胸の前でぎゅっと握った。
「かわいいのが好きなんです!」
ピノの隣に座っていたレオナが吹き出す。
「竜人が“かわいい”は無理でしょ」
「無理じゃないですー!」
ピノは口を膨らませてた表情で、隣のレオナをポコポコと叩いた。
「おい、やめろ」とゼノヴィア。
「皆さん、オーディション中だよぉ…!」とルルナ。
倉庫は一気に騒がしくなる。
キャラクターも種族も違う。だが歌やダンススキルは本物だ。
リョーカが、そっと言う。
「……歌や踊りが好きな子がこんなにいるなんて、嬉しい」
その言葉で、場の空気が少し柔らぐ。
僕は深呼吸した。
「全員、合格です」
「「「「ええっ!?」」」」
四重奏の驚き。
「ふん!こんな異種族ばっかりでどうするつもりなのよ!」
レオナは合格の嬉しさと動揺が入り混じっている。
「異種族ばっかり? 上等です」
僕は言い切る。
「差別される側だけで、頂点を取りましょう」
「差別されたこともない人間族が、面白いことを言う」
ゼノヴィアが鼻で笑う。
「グループ名は――」
少し考え、口にする。
「Re:Genesis」
「リ・ジェネシス……再生、ですか」
リョーカが呟く。
「ああ。何度でも生まれ変われる。そんな願いを込めた」
沈黙。
やがてルルナが小さく拍手すると、それに続くように
レオナは腕を組んだまままんざらでもなさそうに頷き
ゼノヴィアはふっと笑い、
ピノはぴょんと跳ねた。
僕は5人を見渡した。
サキュバス。
ダークエルフ。
獣人。
竜人。
そして、人間の少女。
バラバラだ。
だけどアイドルグループは、個性が集まったほうが面白い。
僕は静かに宣言した。
「目標は、王立星魂祭だ」
一瞬、空気が凍った。
情報収集している時に街で見かけた新人アイドルの売り出しにおあつらえ向きのイベント。
この国の民で、知らない者はいないヴァルハイト王国最大の祭典。
約10000組もの歌手がエントリーし、パフォーマンスを競うお祭りだ。
予選を通過し、本選まで残れば、国王の御前でパフォーマンスすることができ、
さらに優勝すれば国専属のアーティストになれる。
だが歴代優勝……どころか、歴代予選通過者は、全員人間族だと聞いている。
この中で異種族のアイドルユニットが結果を残せば間違いなく目立つはずだ。
「本気か?」
ゼノヴィアが低い声で尋ねる。
「もちろん本気です」
ゼノヴィアにそう告げると
僕はリョーカのほうを振り返り、見据える。
「センターはあなたにお願いします、リョーカ」
「えっなんでですか。
顔のビジュアルも、キャラクターも、スタイルも、私は皆さんより良くないです」
「確かにこの個性の中では、人間族は劣るかもしれない。
でも、君の歌はここにいる誰より素晴らしい。
普通だと思って侮っていた子から、とんでもない歌が聞ける。
そのギャップにみんな魅了されるはずです」
リョーカは目を丸くした。そして
「……はい」
と答えた。
倉庫の小さな窓から、光が差し込む。
彼女を国一番の歌い手にして見せる――。
まだ拍手も歓声もない。
だが確かに、何かが始まった。
差別を背負った少女たちの、再生が。
そして。
推しを守れなかった男の、再生が。




