第2話 『鑑定スキルと瓜二つの少女』
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涼香に似ている、というよりも瓜二つだ。
大きなたれ目におっとりとした雰囲気。
輪郭、目元、笑った時に目が綺麗な弧を描き、片方にだけできるえくぼがあどけない。
服装はオリエンタルなへそ出し踊り子風のセットアップというたたずまいで、
涼香のサイリウムカラーと同じ水色が良く似合っている。
「涼香が参加したユニット曲『Believe in my love』の衣装に似ている」とオタ的発想が即座に思い浮かぶ。
彼女は全ての観客に頭を下げると、恥ずかしそうにコインを入れてもらった皿を回収して
その場を立ち去ろうとするので、僕は慌てて声をかける。
「……君」
少女の華奢な肩がびくりと震えた。
「ご、ごめんなさい。うるさかったですか?」
声は少し掠れていて、だんだんと小さくなり、
最後は消え入りそうな声になっていた。
そういえば、精神安定値Cと出ていたな。
不安傾向あり。自己肯定感、やや低め。
医者の目が自然に働く。
――声をかけたものの、なんというべきか。
「いや、違います。すごく上手かったから思わず」
少女は目を丸くする。
「本当、ですか!嬉しい……!」
歌の時と同じく、鈴が鳴るようなきれいな声で彼女は喜んだ。
頬に手を当てて、ぴょこんと跳ねるような仕草は僕が握手会で、新曲の感想を伝えた時と同じ反応。
それを見て思わず、
「君は……宮坂、涼香さん……?」
と聞いてしまった。
「みや、さか……?」
彼女は一転して、眉を顰め、不安そうな顔をする。
――しまった。早まった。
「ああ、し、失礼しました。知り合いに似ていたから」
僕が謝ると、彼女も頭を下げる。
「い、いえ!でも、名前はリョーカです」
記憶がないのだろうか、そう言うリョーカの目には不安はあるが動揺はなく、本当に心当たりがなさそうだった。
「リョーカさん。僕は佐伯悠真といいます。
毎日ここで歌っているんですか?」
「はい。歌が、好きだから」
即答だった。その答えに、胸が締めつけられる。
涼香もインタビューの度に言っていた。
『歌ってるときが、一番楽しいんです』
転移前の記憶が重なった。
「そうなんですね。でもこんなに上手なら、どこか大きなステージで歌えそうなのに」
僕は市場を見回した。
リョーカは噴水の縁の上をステージ代わりにして歌っていたのだが
そこのすぐそばにも露店が立ち並び、人で賑わっている代わりに、店員の呼び込みも飛び交っていて歌を聴いてもらうにはあまりいい環境ではないと言えた。
「私、人前に出るのが怖くて……」
彼女の視線が揺れた。
「注目されると、陰口や悪口を言われている気持ちになるんです」
彼女の右横に浮かぶ、精神安定値のバロメーターが、わずかに下がる。
僕は息を呑んだ。
転移前の記憶はないはずなのに、感情の“痕”だけが残っているのか。
「でも今は堂々と歌っていたじゃないですか」
「ここはちょうどいいんです。みんな私に興味がないから
人前で歌うことに慣れようと思って練習してるんです」
「慣れよう」ということは、もっと大きな舞台に立ちたいということではないか。
「……あなたは、アイドルになりたいですか?」
言ってから、自分で苦笑する。
ここはどこだ。アイドルなんて職業があるのかすら怪しい世界だ。
リョーカも首を傾げた。
「アイドル?」
「歌とダンスで、人を魅了する存在のことです」
リョーカの瞳が、わずかに輝く。
「アイドル……なれるなら、なりたいです」
その声は、震えていた。
自信はない、だがその瞳は真っすぐにこちらを見つめ、意志の強さを感じさせる。
数値は
歌唱S。
ダンスS。
精神安定値C。
才能は頂点だが、明らかに今も心は不安定なのが見て取れた。
――あの日と同じだ、彼女を現実世界で失った、あの日。
僕は拳を握った。
「僕が、君をプロデュースします」
「ぷろ……?」
「君を、国で一番の歌い手にするということです」
言い切った。
方法は後付けでいい。
僕は精神科医、かつドルヲタ。
そして、この能力はきっと彼女の役に立つ。
リョーカはしばらく黙っていた。
思わぬ誘いの怪しさと嬉しさに心を揺らしている。
「……ユウマさんは、何故初めて会った私に、そこまで」
僕は少しだけ視線を逸らす。
「昔、救えなかった子がいる」
それ以上は言わない。
リョーカはゆっくりと頷いた。
「やる、やりたいです。
私、もっと強くなりたいから」
その言葉で、決意は固まった。
この世界の「リョーカ」も転移前と同じく20歳。
先日までは飲食店で働いていたが、そこを事情があり辞めてしまってからは
毎日ここで歌いながら小銭を稼いでいるのだという。
この踊り子の衣装はその飲食店の店長から与えられたものだそうだ。
(どうりで彼女の私服の趣味より過激だと思った。)
「まずは、仲間を集めましょう」
「仲間?」
「そうです。あなたをセンターにするための、最高のチームを」
今度こそ。
あの日、奪われた君の夢を叶えるために。
CDを100万枚積むことよりも難しいかもしれない。
だが僕はこの世界で、推しの夢を叶える。センターに立たせる。
それが、僕の二度目の人生だ。
次は本日12:00〜14:00の間に更新予定です。
お楽しみに!




