第2話_魔法少女がいるなら止められない
俺は、一度死んでいる。
それも、物語みたいな最期じゃない。
ただの事故だった。
夜の交差点。
スマホで見ていたのは、魔法少女アリス第六期の制作発表ニュース。
――新シリーズ、始動。
その文字を見た瞬間、胸が高鳴った。
一期から五期まで、全部追いかけてきた。
録画も、円盤も、設定資料集も、全部持っていた。
「次は、どんなアリスが見られるんだ……」
そう思った次の瞬間。
白いライト。
ブレーキ音。
浮く身体。
それで、終わりだった。
目を開けたとき、知らない天井があった。
白くて、ぼやけていて、
天井なのかどうかも分からない。
「……あ……」
声を出そうとして、出なかった。
代わりに、泣き声が聞こえた。
「……よかった……ゆうちゃん……」
知らない女の人が、俺の手を握っていた。
知らない男の人が、何度も頭を下げていた。
(……誰だ)
(……俺は……)
考えようとした瞬間、
頭の奥に、二つの記憶が重なった。
事故に遭った、前の俺。
魔法少女アリスを愛していた、前の人生。
そして――
この世界で生まれてからの記憶。
内藤祐司。
この家の子ども。
この人たちの息子。
(……転生、したのか)
そう理解するのに、時間はかからなかった。
俺は、魔法少女アリスを最後まで見られないまま死んだ。
そして――
もう一度、生まれた。
最初の数年、俺は何も知らなかった。
この世界が、どんな世界なのか。
どこが、前の世界と違うのか。
ただの子どもとして、
泣いて、食べて、寝て、遊んでいた。
魔法なんて、なかった。
怪物も、空飛ぶ少女も、どこにもいなかった。
(転生したら魔法が使える世界が常識ではないのか…?)
俺は都合のいい妄想をする。
(……違うのか?)
(……ただの、よく似た世界なのか?)
そんな疑問を、ずっと抱えていた。
転機は、幼稚園のときだった。
名札をつけた先生が、みんなを並ばせて言った。
「じゃあ、お隣の席のお友だちを紹介しましょう」
隣の席に座っていた女の子が、立ち上がる。
「ありすがわ……ときね、です」
少し緊張した声。
その名前を聞いた瞬間、
俺の中で、何かが音を立てて崩れた。
(……は?)
(……今、なんて言った?)
(……有栖川……時寧?)
心臓が、一拍遅れて跳ねた。
(……そんなわけ、ない)
(……偶然だ)
(……名前が似てるだけだ)
そう思おうとした。
でも。
前の人生で、
何百回も聞いた名前だった。
魔法少女アリス。
本名――有栖川時寧。
(……一致してる)
(……偶然で済ませるには、無理がある)
背中に、ぞわりと寒気が走った。
(……ここは)
(……この世界は)
(……魔法少女アリスの世界、なのか……?)
目の前にいるのは、
まだ魔法も知らない、ただの女の子。
でも、未来では――
魔法少女になる。
戦う。
傷つく。
泣く。
笑う。
全部、知っている。
(……冗談じゃない)
(……物語の中に、入っちまったのかよ)
その日から、俺は知ってしまった。
この世界の正体を。
彼女の未来を。
そして――
俺だけが、それを知っているということを。
(……見守るだけで、済むのか?)
(……無理だろ)
胸の奥で、何かが、静かに熱を持ち始めていた。
魔法少女アリスの世界に転生した、
重度オタクの俺は。
まだ何も始まっていない未来を前にして、
すでに、止まれなくなっていた。
作者( ゜Д゜):挿絵は生成AIによる制作




