第1話_魔法少女の敗北は見逃せない
瓦礫と化した交差点の中央で、魔法少女アリスは膝をついていた。
白と蒼を基調とした戦装束は無残に裂け、肩口や太腿が露わになっている。装甲の継ぎ目は砕け、布地は焦げ、そこから覗く素肌には擦過傷と煤がこびりついていた。
荒い呼吸に合わせて、胸と肩が小刻みに上下する。そのたび、痛みに顔を歪めるのがはっきりと分かる。
目の前には、歪な輪郭を持つ魔法生物が蠢いていた。
粘液のような魔力を滴らせ、瓦礫を踏み砕きながら、ゆっくりと距離を詰めてくる。
――最近、魔法生物が明らかに強くなっている。
その光景を、俺は少し離れたビルの屋上から見下ろしていた。
いや、正確には“見下ろしている”というより、“覗いている”。
視界の端に、淡く揺れる魔力の輪郭が浮かぶ。
俺の魔法――遠隔視覚と感知によって、戦場の魔力の流れと、アリスの荒い息遣いまでが、はっきりと伝わってきた。
(はぁ……はぁ……アリスたん……)
思わず、喉が鳴る。
(この構図……完全に二期一話の負けイベント……)
(背景の瓦礫配置、敵のサイズ感、追い詰められ方……原作再現度、高すぎだろ……)
現実の光景なのに、脳裏にはアニメのカットが重なって見える。
瓦礫に膝をつく魔法少女。
立ち上がれず、それでも敵を睨みつける瞳。
「……っ、まだ……やれる……」
アリスが、震える腕で魔法杖を握り直す。
だが次の瞬間、魔法生物の放った衝撃波が彼女を正面から打ち抜いた。
「――っ!」
短い悲鳴。
小さな身体が宙に浮き、地面を転がる。
背中を強く打ちつけ、呼吸が詰まったように動きが止まる。
魔法杖が、彼女の手から滑り落ち、乾いた音を立ててアスファルトを転がった。
(来た……)
胸の奥が、ぞくりとする。
(このタイミングで……デバイス更新イベント……)
原作では、ここで管理局製デバイスのアップデートが完了し、戦況が一変する。
敗北直前からの、強化イベント。
魔法少女アニメの――王道だ。
魔法生物が、ゆっくりとアリスに近づく。
彼女は立ち上がろうとして、膝をついて崩れた。
「……だめ……体が……」
震える声。
血と埃にまみれたその姿は、もはや魔法少女というより、瓦礫の中に取り残されたひとりの少女だった。
その姿を見て、胸の奥が、ちくりと痛む。
(……死なない)
(原作通りなら、大丈夫…)
自分に言い聞かせるように、そう思う。
俺は、介入できる距離にいる。
魔法もある。
止めようと思えば、止められる。
――でも。
(ここは、見届けるシーンだ)
視聴者として。
オタクとして。
物語を知る者として。
魔法生物が、最後の一撃を放とうと、その身体を膨張させた瞬間。
アリスの足元で、転がっていた魔法杖が、淡く光を放った。
低い駆動音が、瓦礫の間に響く。
《――Device authentication complete.》
機械的な音声が、崩れた街に反響する。
(……きた)
俺は、無意識に息を止めていた。
(始まるぞ……)
(魔法少女アリス、二期一話の、本番が……)
作者( ゜Д゜):新作はじまります




