第9話 体育祭②
次に、ペア障害物競走である。
ペア障害物競走とは、2人1組でペアになり、障害を乗り越える。1番早くゴールした者の勝ちだ。
マリアはフィリアとペアになった。
お互いの足をフィリアが紐で結ぶ。まずは二人三脚である。
「これで大丈夫です」
フィリアは顔を上げる。
「えぇ。……分かってると思うけど。無理はさせないわよ」
「えぇ、そうですね。僕も貴方に無理はさせません」
2人は見つめ合う。そしてどちらとも無く、くすりと笑った。
「行きましょう」
「はい」
前を向いた。
「よーい、スタート!!」
ピストルが鳴る。
2人は走り出した。
周りはぎこちなく、転ける人もいた。
マリア達は、速くはない。しかし息が揃っていて、美しかった。
見ていた人は思った。
(あれ、速くはないのに、綺麗だな)
順調に、ゴールした。
紐を解き、肩を並べて進む。
フィリアは、マリアの歩幅を確かめるように、呼吸を整えた。
次に、細い平均台の上を歩く。
フィリアは虚弱なので、バランスが不安定だ。それをどうするか。
答えは、こうである。
まずはフィリアが行く。そして彼の腰を、マリアが後ろから軽く支える。
「大丈夫です、ゆっくりで」
フィリアは己がマリアの選択肢を狭めることを恐れる。だから先回りで、「大丈夫です」、と言うのだ。"貴方が選んでください"、という意味で。
そして、ゆっくり行くことをお願いする。その上でマリアが、ゆっくり行くことを選んでくれたら、安心である。
「えぇ、分かってるわ」
これに、マリアはこう返した。あくまで、己がゆっくり行くことを選ぶ、という意味で。
これに、フィリアは静かに安心した。
2人は順調に、平均台をクリアした。
次に、ネットくぐりである。
ネットは、思ったより低かった。マリアは少し躊躇う。
フィリアが前に出た。
「……この高さなら、いけます。僕の後に続いてください」
マリアはその背中を見て、安心した。
2人はネットの下を進む。
マリアはフィリアのスピードに合わせる。フィリアも、マリアが進みやすいスピードで進む。
二人三脚の紐は解けているのに、驚くほど息が揃っていた。
ネットをくぐり抜けた。
フィリアは息が上がっている。マリアはそれに気づき、次の場所まで走らず、歩くことを選んだ。
その間に、2人は体についた土を落とす。
体は土まみれで、汗で肌に髪が付いているのに、その様は優雅だった。見ている側はレッドカーペットを見ているような錯覚を起こした。
最後に、壁登りだ。高さは2.3m。1人では登れない。
「私が先に登るわ」
マリアが前に出る。
「では、僕は台を」
肩車はしない。フィリアはマリアを不安定な位置には置かないのだ。
フィリアは壁に背をつけ、片膝を立てる。手を壁に添えて、体幹を安定させる。
マリアはその脚に己の足をかけ、登る。
「ここに足を。……えぇ、大丈夫です」
大丈夫です、とは、マリアに言っているようで、己に言っていた。支えられる、揺らさない、落とさない。そう誓っているのだ。
マリアは無事壁を登った。
すぐにフィリアを引き上げようとするマリアに、フィリアは言う。
「マリア、姿勢を整えてからにしましょう」
だが、マリアは笑う。
「大丈夫、貴方の事は落とさないわ」
フィリアは目を見開く。そして、フッと息を吐いた。
「……では、お願いしましょう」
「えぇ、任せなさい」
マリアは安定した体幹で、フィリアを引き上げた。
2人は壁の向こう側へ降り、最後のフラフープに向かって走る。
合図は要らなかった。2人は着いた瞬間、息を合わせて、フラフープを潜る。息が触れる程、近くなる。
フィリアは一瞬息を詰めた。
マリアはありのままだった。
フラフープをくぐり抜け、競技は終わりだ。
「ゴール!!」
その放送に、2人は安堵する。
「やったわね」
「……えぇ」
フィリアは疲れたようだった。
マリアが手を差し出す。それに気づいたフィリアは、その手にハイタッチした。
「お疲れ様」
「えぇ、お疲れ様でした」
達成感が滲む。2人は無事、ペア障害物競走を終えた。
モモも、その終始を見ていた。
(あぁ、敵わないな……)
喧騒の中一人、涙を浮かべる。
傍から見ても、マリアとフィリアは、息ぴったりだった。
あれは一朝一夕で作れる連帯感では、信頼感ではない。2人が築いてきた絆は深いものなのだと、モモは分かってしまった。
戻ってきたマリアをつつく。
「マリアちゃん!凄く息ぴったりだったよ!」
負け惜しみだった。
マリアはモモが泣きそうな顔をする理由が分からなかったが、とりあえず、誇らしいという顔をしておいた。
「えぇ、そうでしょう?」
「フィリアくんとは、長いの?」
「えぇ、幼稚園の頃からの幼なじみよ」
「そうなんだ!通りで……」
息ぴったりな訳だ。モモは敗北の味を知った。
「……モモちゃん、貴方、悲しそうよ。何かあったの?」
マリアは流石に心配したように、モモの顔を覗き込む。
モモは一瞬ビクッとした後、無理矢理笑顔を作った。
「……ううん、大丈夫!!」
可愛い私の、矜恃だった。
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モモちゃん(T_T)私は泣きそうでした。叫びながら書いてました。




