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マリア・ファムファタールの楽園(エデン) 原案  作者: 砂之寒天
1年生

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第5話 部屋の模様替え

なんとなく凛に似合うと思うBGMは、な/る/み/やさんで、「桃/色/の/血/潮」です。

 日曜日。

 まだ桜は散り切らず、少し残っている。

 春うらら、暖かく心地良い日である。


 マリアは巻いた髪をポニーテールに縛る。

 首元が少し軽くなり、気持ちも引き締まる。


 タンブラーにドリンクを作り、蓋を閉める。


「よしっ」


 そう小さく声を出して、自分に合図を送った。


 何をするのかというと、部屋の模様替えである。


 ということで、フィリアと凛を呼んだ。2人とも作業に使っていい服を着ている。


 フィリアは頭脳派で、感覚も鋭い。力仕事ではなく、家具の組み立ての説明、家具の配置などを見てもらう役だ。家具を選ぶ時も、彼の意見は欠かせなかった。


 凛は実は筋肉があるので、力仕事を任せる。家具の移動や、シャンデリアの取り付けなどだ。


「よろしく頼むわね」


 マリアは二人の目を見て、言う。


「お任せ下さい」

「あぁ、任せろ」


 2人は当然のように頷いた。

 頼もしいことである。


「えっと、to doリストは……」


・壁紙を重ねる(簡単に剥せるもので、元の壁紙は剥がさない)

・床にフロアシートを敷く

・家具を組み立てる

・照明をシャンデリアに変える

・絵を飾る


 こんな所か。マリアは、何からすればいいか考えた。が、DIYの経験なんてないので、分かるわけもない。

 なので、AIに聞いた。


「ふむふむ、1.壁紙、2.照明、3.床、4.家具、5.絵・装飾、ね。分かったわ。皆、分かった?」

「えぇ」

「大丈夫だ」


 大丈夫なようだ。

 ということで作業に取り掛かる。


「まずは、舞台を整える所からね」


 マリアは微笑み、二人を見渡す。


「幕を上げるわよ」


 その声は冗談めいていたが、不思議と背筋が伸びた。


「えぇ、始めましょう」

「あぁ」


 こうして、日曜日の小さな開幕が告げられた。


 マリアが指示を出し、フィリアが補助、凛が作業をする。


「黒川さん、家具を倉庫まで運んでくださる?」

「分かった」


 まず、凛が家具を外に出す。


「こちらに置いてください」

「ん」


 フィリアが誘導した。


 剥せる壁紙を、凛が端から丁寧に貼っていく。

 色は、3面は微光沢のミルクベージュ。1面はダスティピーチ。

 フィリアは、シワが寄っていないか、壁紙は傾いてないかを確認する。

 マリアはどの面にどの色を置くかを指示して、その後ドリンクを飲みながら優雅に眺めていた。


 2人がせっせとDIYしているのを見て、マリアは微笑む。


 ふと、気づいたようにマリアが呟く。


「この色……私の肌が綺麗に見えるわ」


 自分の美を常に意識するその姿勢。

 その呟きを、フィリアは拾う。


「えぇ、そうでしょう。パーソナルカラーに合わせましたから」

「まさか、計算してこうしてくれたの?凄いわ……感心しちゃった」


 マリアはこれにいたく喜んだ。


「フィリアは凄いな」

「もちろんです」


 フィリアには、マリアの美を手伝うことは、当然のことである。


 壁が整うと、床に移る。

 ハニーブラウンのフロアシートだ。

 同じように、作業する。

 床と壁紙が揃うと、大分雰囲気が変わる。マリアの聖域らしい雰囲気が出てきた。


 ラグを敷く。白色の毛足の長いふわふわのものだ。ラグがあると、いっきに部屋らしくなり、オシャレになる。


「私の部屋らしくなってきたわね」


 マリアは満足そうに微笑む。


 シャンデリアを付ける。

 天井に下げるのは、凛の役目。


 点灯され、部屋にその輝きが放たれた。空気が変わり、華やかになった。キラキラ光って、可愛らしい。


「明るくなったわね。この光、美しくて罪深いわ」


 マリアは笑みを浮かべて、光を称える。


「えぇ。……貴方にぴったりだ」

「ふふ、どういうことよ。私、罪なんてないわ」


 マリアは冗談ぽく言う。しかし、真剣だ。


「……えぇ、マリア。貴方に罪はありません。罪とは、意思をもって誰かを傷つけた時に生まれるものです。貴方はただ在るだけ。愛し、選び、光を放っているだけでしょう」


 一度、シャンデリアから視線を外し、彼女を見る。


「人が堕ちるのは、貴方のせいではない。人が跪くのも、貴方の命令ではない。それを“罪”と呼ぶのは、光に耐えられない側の言い分です」


 そして、少しだけ声音を柔らげて。


「ですから安心なさい。貴方は無垢です。無垢であるがゆえに、最も多くを狂わせるだけ」


 微笑む。


「それは罪ではありません。……神が、人間に与えた才能の一つです」


 そう告げた。


 凛は隣で黙っていた。言葉を挟むと、この異様な雰囲気に飲まれてしまうと分かっていたから。


「えぇ、そうよね。ありがとう」


 マリアは、静かに、感謝を零した。納得したように、静かに。


 ……凛は家具を組み立てる。

 アイボリー、ゴールドを基調としたものだ。


 ベッド、椅子、テーブル、シェルフ、クローゼット、サイドテーブル、化粧台。

 そして、姿見に、カウチチェア。

 姿見はマリアの完成された美を映すものであり、カウチチェアは、女王の座る椅子である。


 フィリアは配置バランスを見た。

 マリアは実際に椅子に座ってみたりして、使い心地を見る。


「そうね……ここ、もう少しこっちの壁に近い方が親密で好きだわ」

「わかった」


 マリアの声に合わせて、微調整していく。


 クローゼットは、入口から遠い壁へ。私的領域は、奥へ置くのだ。

 ベッドも1番奥。アイボリーの曲線を描いたフレームのそれは、抱きしめたくなるような柔らかさが演出されている。素材はベルベットだ。


 テーブルと椅子は、中央から少し外した位置。

 円い天板はシャンパンベージュで、足は細くゴールドのものだ。その上に、ピンクのチューリップを1輪飾る。


 昔、フィリアが初めてマリアに送った花。それが、ピンクのチューリップであったのだ。その時から、マリアはピンクのチューリップを好んで飾るのである。


 その隣に、金色の林檎のモチーフ。赤色の線が少し入っているものだ。


 そして、キャンドル。

 キャンドルは、ホワイトローズとアンバーの香り。ローズは"愛されている"という錯覚を起こす。灯してしまえば、"この空間は、昼とは違う"ということが明らかになる。


 3脚の椅子は背もたれが丸く、肘掛はない。座面は淡いピンクのベルベット。

 そして、一つだけ、色が僅かに違うものがある。他のものより少し深いピンク色の椅子。これがマリアの椅子だ。窓を背景にして、1番映える位置にある。

 可愛くて上品なのに、何故だか緊張してしまう。そんな仕上がりになった。


 カウチチェアは、壁を背にして、入り口の正面から少し横にズラして、中央に向かって斜めに配置する。

 座ったまま誰が来たか分かり、自分は動かなくていい。支配者の座である。

 ピオニーピンクのベルベット素材で、脚は細身のゴールド。少し高さがあり、浮遊感がある。床にべたりとつかない所が、魔性の雰囲気を際立たせた。


 シェルフは、ソファの後ろ。フィリアが送ってくれた本と天使のモチーフを1段目に置く。

 背に並ぶそれらは、祈りの言葉のように静かで、触れれば壊れてしまいそうな均衡を保っている。


 それから、2段目にディヒューザー。ネロリとホワイトムスクの香りが空間に溶ける。

 神聖で温かくて、それでいて───────1度嗅げば、忘れられない。

 その隣には金フレームの写真立てを置く。中身は、あえて空白のままだ。マリアは誰にも所有されない、その自由さが表れている。


 3段目には、アンティーク調の小箱。開けられることはなく、過去が詰まったような重みを持つ。

 マリアの後ろに価値あるものを集めることで、祭壇のような役割を果たす。


 つまり、入口から見ると、シャンデリア、テーブルと椅子、カウチチェア、その奥に私的空間が広がる。

 自然とマリアに視線が集まるようにできている。


 最後に、絵画を壁にかける。


 絵画は、目隠した天使たちが1人の綺麗な女性を囲んでいるものだ。女の人は林檎を持っている。


 天使達の目隠しは、マリアを囲む男性達の、マリアのポリアモリーへの黙認。マリアを正しいとも間違ってるとも言わず、ただ存在を肯定する。


 林檎は原罪、誘惑、知恵、選択の果実である。渡される側が自ら選ぶ果実だ。

 彼女は誰かを堕とそうとしていない。ただ、差し出しているだけ。食べるかどうかは、相手次第。そんな現在のマリアの在り方が表されている。


 女性は、縛られてるわけでも、王冠を被っている訳でもない。力を加えられていないのに、自然と中央にいる。正にマリアそのものだ。


 実はこの絵、マリアが描いたものだ。彼女は絵を描くのが好きだ。

 絵を描く、という行為は命令でも、説得でもない。ただ「置く」だけ。見る者がどう受け取るかは委ねられる。……それは、マリアの在り方とよく似ている。


「そうね。……絵はシェルフの斜め上がいいわ。座っている私が美しく見えるもの。フィリア、どう?」

「同意します。それがいいでしょうね」


 ということで、絵画はシェルフの斜め上の壁にかけた。


 そうして、マリアの聖域は完成した。


 可愛らしいのに、どこか恐ろしく魅力的で、逃げられない。そんな部屋が。


 マリアは完成したばかりのカウチに腰を下ろす。

 フィリアと凛はその傍らに立ち、マリアを囲む。


「……疲れたわね。カフェでも行きましょうか」

「そうですね。探しましょうか」

「助かる」


 静かに待つ凛と、すぐさま調べ始めるフィリア。マリアはフィリアと凛を見つめながら待っていた。


(……愛らしい)


 その思いを胸の内に秘めながら。


 凛もフィリアも、見つめられていることに気付いていた。凛は少し緊張し、フィリアは慣れたように気にしない。


 まだこの寮には来たばかりなので、この辺りのお店についてはよく知らない。開拓しがいがあるというものである。


「歩いて3分の所に、ノエル・カフェという所があるようですよ」

「いいわね、そこにしましょう。凛もいいかしら?」

「構わない」


 ということで、3人で向かった。


 白くて可愛らしい、小さい家のようなカフェだった。木の看板に、クリームベージュの文字で、ノエル・カフェ、と書いてある。


「いらっしゃいませ」


 中に入ると、ミルクと焼き菓子、それからバニラの柔らかい香りがする。


 柔らかい光の中のような内装だ。乳白色、アイボリー、淡いシャンパンゴールドが溶け合った色味をしている。


 家具は丸みのある白いものだ。クッションは淡いグレーとペールピンク。

 ガラスシェードの柔らかい反射光で、室内は照らされている。


 窓際の席に案内される。ソファ席だ。マリアが奥に座る。その隣にフィリアが座り、マリアの正面に凛が座った。


「可愛らしいカフェね。好みだわ」


 その言葉に、凛は肩の力を抜いた。フィリアは小さく微笑む。


「それは良かったです。まさか、寮の近くにこんないいカフェがあるとは。知りませんでした」

「ほんとだな。無垢な雰囲気の可愛らしいカフェだ」


 メニューを見る。


◇ドリンク

・ホワイトノエルラテ

ミルクにバニラとホワイトチョコを溶かした、雪のようにやさしい甘さ。飲むと心が少しだけ緩む。


・ネロリティー

柑橘の花の香り。清楚で落ち着くのに、なぜか記憶に残る一杯。


・ローズミルクティー

淡いピンクのミルクティー。「愛されている気がする」と噂の、無自覚に危険な紅茶。


・アンバーココア

深いコクとほのかなスパイス。

夕方から夜にかけて人気が出る


・シャーリーテンプル・ノエル

ザクロとジンジャーエール、チェリー添え。

未成年も頼める“祝福の味”


───

◇ スイーツ


・ノエルのマカロン(2個/4個)

ホワイトバニラ/ローズ/ピスタチオ。

軽くて、罪悪感が少ない。


・白い林檎のタルト

焼き林檎とカスタード、粉砂糖で雪化粧。

フォークを入れると、少しだけ背徳的。


・天使のシフォンケーキ

とても軽い。

「食べたはずなのに、消えたみたい」と言われる。


・ミルクプリン ベリーソース添え

口どけが良すぎて、思考が一瞬止まる。



◇ 軽食


・クロワッサンサンド(ハム&チーズ/エッグ)

シンプルで、誰にでも優しい。


・スーププレート(白い野菜のポタージュ)

静かに温まる。

騒がしい日から切り離してくれる味。



そして、周りより小さく貼られたページを捲ってみると、これが書いてある。


◇ 裏メニュー


・ノエルブレンド

甘さ控えめ、香りだけが長く残るコーヒー。

「気づいたらまた来ている」と言われる。


────


「……そうね。今の気分は……ホワイトノエルラテと、マカロンかしら。ローズがいいわ。疲れたから甘いものがいい」

「えぇ。黒川さん、マリアはマカロンが好きです。覚えておくと良いでしょう」

「分かった。俺は……ネロリティーとクロワッサンサンドにしよう」

「では僕は、ローズミルクティーとシフォンケーキにします」


 店員さんに注文を伝えた。


 待ってる間。


 静かな空間だった。静謐で、雲の上のようだ。


 凛は、唾を静かに飲み込む。


「その……マリアさんは……」


 凛は言葉を区切る。マリアは静かに、視線で続きを促した。


「俺のことを……凛と、呼んではくれないだろうか」


 眉をひそめ、恥ずかしそうにしながら、横に視線をずらしながら、そう言った。


「ふふ……そうね。目を見て言ってくれたら、考えてあげるわ」


 マリアは少し意地悪に、ただ置くように言った。


「っ!!!わかった」


 凛は衝撃を受け、肩が張る。

 凛は一度目を閉じた後、開いて、マリアに真っ直ぐ向けた。

 その瞳の真摯さに、美しさにマリアは心を奪われた。素直なことだ。そして何より、愛らしい。


「俺のことを、凛と呼んで欲しい」


 はっきりと、大きすぎない声で、もう一度告げた。


「……えぇ、いいわよ」


 マリアはこれに、少し間を置いたあと、承諾した。


「……凛」


 タメを作ってから、しっとりとした声で名を呼んだ。

 その甘美な響きに、凛は脳が煮え滾りそうになる。


 そして凛は、もう一押しする。


「……俺も、マリアさんことを、マリアと呼びたい」

「ふふ、ふふ、かぁわいらしい……♡構わないわよ。好きに呼んでちょうだい」


 マリアは頬を染めて、唇の端を釣り上げた。本当に嬉しくて、可愛くて仕方ないのである。


「ありがとう。……マリア」

「ふふ、なぁに?」

「愛している」


 今度は、目を見てはっきりと告げた。


「あら、私もよ」


 さらりと返す。


「……その、フィリアとは付き合っているのか?」


 大事なことである。確認する必要があった。


「えぇ、付き合ってるわ。でもね、聞いて。私、ポリアモリーなの。複数人と同意の上で付き合う恋愛観なのだわ」


 マリアは間髪入れず説明した。ここを誤解されては困るからである。


「……なるほど。では、言わせてくれ」

「……」


 マリアは黙って凛を見つめる。凛も真っ直ぐ、マリアを見つめる。フィリアは隣でそれを見守っている。


「俺と、付き合ってください」


 そう、告白した。


「………えぇ、付き合いましょう。よろしくね、凛」

「あぁ、よろしく頼む。マリア」


 そしてここに、カップルが成立した。


 フィリアは緩やかに拍手をし、微笑む。


「おめでとうございます。この瞬間に、祝福を。黒川さん、僕も凛さん、とお呼びしても?」

「構わない。フィリア、でいいか?」

「えぇ。構いません。歓迎しますよ、この楽園に。ここは甘やかで逃げられない、蜘蛛の糸のような楽園。同じ人を愛する者同士、仲良くしましょう」

「あぁ。逃げる気は、毛頭ない。よろしく頼む」


 凛は真剣にそう言った。


「ふ、くふふ……面白い方だ。マリア、凛さんは面白い方ですね」

「えぇ、私もそう思う……♡うふふ、うふふふ」


 そこには満足そうに微笑む凛と、笑い声を上げるフィリア、そしてファムファタールがいた。


 天国のように、目映く美しい光景だった。

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女子寮って普通男子禁制だと思うんですけど、それだとマリアの部屋に男子が呼べなくて困るので、辞めました。

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……なんか、不穏になってきた……?
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