第4話 街へ遊びに行こう!②
オムライス屋さんにきた一同。
待ちはなく、すぐに入れた。
「ど・れ・に・しようかしら」
マリアは機嫌よく、メニューを開く。
「ふふ、マリアちゃん機嫌いいね〜!サイコー♫」
これにベリーは喜ぶ。マリアの機嫌が良いと、ベリーも嬉しいのだ。
「えぇ、オムライスは美味しいもの。そうね……海老のオムライスにするわ」
「では僕もそれを」
「俺はケチャップオムライスを」
「ボクは〜、チーズオムライスかな!」
「僕はドレスオムライスにしよう」
各々決まった。
注文する。
「フィリアくんっていつもマリアちゃんと同じもの頼むよね?」
ベリーはふと思った。
「えぇ、少しでもマリアと同じもので体を構成したいのです」
「ふーん……」
少しでも好きな人と同じもので体を構成したい、フィリアの恋心である。
「可愛らしいわよね?」
「うーん、ちょっと怖い?」
「あら……決裂ね」
マリアは少し冷たい笑みを浮かべた。
「決裂しちゃったか〜〜。どうしたら国交戻る?」
それに小さな不安を感じたベリーは、即座に立て直そうとする。
「うーん、フィリアの愛情を否定しないことかしら」
「おっけー!やるやる!」
ベリーはなんとなく、フィリアのマリアへの愛情を否定することに、マリアの地雷を感じた。これは回避せねばならない。ベリーは聡かった。
そして、マリアと仲直りする為ならなんだってするのがベリーである。
注文が届いた。
「いただきます」
皆で手を合わせて挨拶をする。そして、食べ始めた。
卵は触れただけでほどけ、甘い香りが一気に広がった。
「うん、海老って美味しいわ。ねぇ、フィリア?」
「えぇ、美味しいですね。また、美味しそうに頬張る貴方も小動物のようで可愛らしい」
「ふふ」
サラリと褒める。マリアも慣れている。
「フィリアは褒めるのが上手いな」
凛は感心したように言う。
「そうでしょうか。まぁ、これは僕がずっとしてきた事ですからね」
「そうか。俺も弟がいるが、君のように上手く褒めてやれないんだ」
「あら、黒川さん、弟さんがいるの?」
「あぁ。明るくて素直なやつだ。エデンを目指してるから、来年会えるかもしれん」
「そう。楽しみに待っているわ」
マリアは少し楽しそうに、ニコリとした。
「フィリア、褒めるコツはあるのか?」
「コツ……ですか。特に特別なことはしていませんよ。強いていえば……黒川さんは、小説はお読みになりますか?」
「勉強が忙しくてあまり読まないが、たまに読む」
「では、恋愛系の文学作品を読むといいですよ。女性を上手に書いていますから、褒め方も分かるかもしれません」
「ほう、一理あるな。ありがとう」
フィリアは文学作品にも造詣があるのだろう。凛はそう思った。
「……ケイネラは、自然と肯定してくれるわよね。認めてくれる感じだわ」
「そうだね。僕は人に何かを強要しないし、否定もしたくない。ありのままを認めるよ」
「ケイネラのそういうとこ、私好きよ。共鳴する所があるの」
「ありがとう。僕もマリアのこと好きだよ」
「ふふ、相思相愛ね」
「うん」
温かい空気が二人の間に流れる。
なんだか当然のように好きを交換していて、ベリーは驚いた。確かに友情間でも有り得る話だが、もうそんなに仲良くなったというのか。
ベリーは嫉妬し、ズイっと体を前のめりにして、マリアに問うた。
「ね、マリアちゃん、ボクのことは?」
「あら、私求められた時に好きというのは好まないの。ごめんなさいね」
「えーっ!!じゃあ、自然と好きって言って貰えるように頑張らなきゃだね」
さり気なく続けたが、ベリーは、内心、しくったな、と苦虫を噛む思いだった。好感度が下がりかねない発言であった。
「そういうこと。あ、でも、貴方が撮る写真は好きだわ。またLumiに上げたの見るわね」
「うん!ありがとう!もっと沢山映える写真撮るから、楽しみにしててね♫」
「えぇ、勿論」
なんとか挽回できただろうか。まだ関わり初めてばかりで、地雷がどこにあるか分からない。ベリーは苦心した。
そうしてオムライスを食べ終え、再びショッピングに戻った。
ブリオーニへ向かった。1階にある。
さっきと同じように従業員が横に並び、挨拶してくれる。ベリーはまた引いている。他の皆は澄まし顔である。
だがベリーも、まぁ慣れるしかないか、と一人肩を落とした。
「春服が欲しいのですよ。ポロシャツのような」
慣れたように、落ち着いた声音で店員に聞く。
「承知しました。ご案内します」
案内された先で見たのは、ホワイト、ベージュ、ロイヤルブルーのポロシャツ。
「ふむ。マリア、どれが似合うと思いますか?」
フィリアはマリアの方を見る。
「このロイヤルブルー、素敵だわ。貴方の寒色の瞳とよく合いそう」
マリアは即答した。
「分かりました、こちらを買います」
「お買上げありがとうございます」
サラッと買うことを決めた。自分のものに関してはあまり悩まないのかもしれない。それもあるし、マリアの選択を否定しない、というのもある。
店を出て、そっと小さい声で、マリアはフィリアに聞く。
「あれ、いくらしたの」
「……2桁万円くらいですね」
「わぁ……」
「わ〜……」
マリアは少し遠い目をした。
それが聞こえていたベリーも遠い目をした。
「なにします?ウィンドウショッピングをしますか」
「賛成〜!!」
「いいね」
ということでショッピングモールを歩き回ることにした。
ふと、近くの子供に違和感を感じる。
4歳くらいだろうか。一人で立ち尽くし、周りをキョロキョロしている。ママ……と小さく呟いているのが聞こえる。
「ねぇ、あの子……」
「えぇ、迷子かもしれませんね」
ベリーとフィリアの2人はすぐに気づき、子供の元へ行った。
「あら、迷子かしら?」
「そうみたい」
「大変だな。迷子センターに届けなければ」
後から気づいた3人もついて行く。
「ねぇ君、大丈夫?ママどこにいるか分かる?」
ベリーは子供と視線を合わせ、優しい声で問う。
「わ、わかんない……」
「そっか!じゃあ、お兄さん達と一緒にインフォメーションセンターに……あぁ、迷子の子が行くところに行こうか。 行けるかな?」
子供はコクリと頷いた。
「大丈夫ですよ。すぐに親御さん見つかりますからね」
「ボクと手を繋ごうか!また迷子になったら大変だからね☆」
ということで、迷子の男の子と一緒にインフォメーションセンターに向かった。
「歩くの速くないかな?大丈夫?」
「だいじょうぶ……」
こういう時、ベリーはよく気が回る。明るく子供に話しかけるから子供も怖がらない。
インフォメーションセンターに着いた。
丁度、親御さんが探しに来た所だった。
「あぁ、無事でよかった!!」
両親は、安心したように大声を出した。
「お兄さん達、ありがとうございます。なにかお礼させてください」
「いえ、僕達は当然のことをしたまでです。お礼は要りません」
「そうだよ〜!!ご両親がちゃんと見つかって良かった!君、またはぐれないように気をつけてね。それじゃあね!」
2人は当然のようにお礼を受け流した。
「ありがとうございます!!」
「お兄さんたち、ありがとう!またね」
子供はペカペカの笑顔でお礼を言った。
「子供の笑顔というのはいいですね」
フィリアは満足したように、微笑んだ。
「わかる〜!子供って可愛いよね!」
「あぁいう素直な子は私も好きね」
2人も共感する。
「マリアは煩いのが苦手ですからね。体の性質ですから、仕方ありません」
「えぇ。子供が嫌いな訳ではないのだけど……」
「ふーん……」
ベリーは頭の中で、"マリアはうるさいのが嫌い"とメモをした。こういう一つ一つの積み重ねが、恋愛を大きく左右するのである。
ベリーは恋愛の相手によって態度を変える程度に器用なので、相手の情報をよくインプットし、対応を変えている。もしマリアが、子供っぽい子が好きなら、目の前で泣き真似をして見せる程度はしただろう。
「……俺も妹の世話もしていたからな、子供は好きだ」
「そうなんだ。妹さん、何歳差?」
「6歳差だ」
「へぇ、結構離れてるんだ」
「そういうケイネラは、兄がいるよな?ケイネラ・シリウス。ケイネラと同じトップモデルの」
「うん。いるね」
凛は特別モデルに興味がある訳では無いが、テレビを見ていれば自然と目に入ってくるものだ。だから、教養の範疇として知っている。
ケイネラの一家はモデル一家で、全員絶世の整った美しい顔立ちをしている。
「どんな方なんだ?」
「社交的だけど……裏表が激しい。プライドが高いけど、努力は惜しまない。美しさを値踏みして、序列をつける。そんな人だよ」
「ほう、仲は……あまり良くはなさそうだな」
「悪い人ではないよ。でも、兄さんの生き方が好きじゃないんだ」
「そうか」
ケイネラは一人一人のありのままを認め、肯定するタイプだ。同時に美も賞賛する立場である。人を値踏みして序列をつける兄とは、相性が悪いらしい。
「へぇ、そんなお兄様がいるのね。私も会ってみたいわ」
「うーん……僕はあんまりマリアとは会わせたくないな」
「どうして?」
「……それは」
ケイネラは言い淀む。立ち止まった彼に、皆も立ち止まってメリカを見つめる。
少しして、息を吸う。ケイネラは顔を上げた。
「……君と、相性が良さそうだからさ。取られたら嫌なんだ」
「あらまぁ」
マリアは口に手を当てて、びっくりした。
「あらあら、可愛らしいのね。安心して、お兄様を取ったりしないわ」
マリアは有り得ない勘違いをしていた。時々天然である。
困ったように、照れたようにケイネラの二の腕を軽く叩く。
「え?違うよ、マリアが取られるのが嫌なんだ」
ケイネラは驚愕した。マリアってこんな面もあるんだ、と思ったのだ。
「わ、私?私がお兄様に?……うーん、どうかしら」
「分からないよね」
「えぇ……まぁでも、貴方の事は変わらず大切にするわよ。私は愛する人皆を大事にするもの」
「ふふ、そう。それならいいや」
ケイネラはマリアの広い愛情に寛大だった。
兄が嫌いな訳ではないのだ。嫉妬しない訳では無いが、マリアは独占するものじゃない、とケイネラは認識している。彼女の美は、愛らしさは、彼女の愛する存在の共有財産だ。
ふと、ベリーはなんでもないことのように、マリアに問う。
「マリアちゃんはさ、束縛とか苦手なの?」
あくまで重すぎないように、真剣になりすぎないように。普段と変わらない調子を意識して、問いかける。
マリアは顎に手を添えて、少し考えた。
「うーん、そうねぇ。基本苦手だけど、場合によるわね。私を舐めてかかって束縛してくるのなら一切受け付けないけど、本当に私を愛しすぎてどうにかなりそうだから束縛したいというのを、可愛らしく思わないわけではないわ。まぁでも、私は愛を我慢したくないから、束縛する人とは相性が悪いわね」
「ふぅん……そーだよね!束縛とか重いし!自由なマリアちゃんには似合わないよ」
ベリーは、心の中に僅かな違和感を抱きながら、明るくマリアを肯定した。
「えぇ、そうですよ、ベリーさん。蝶は自由に羽ばたくからこそ美しいのです。カゴに捕らわれた蝶は直ぐに元気を失い、死にますから」
それをみたフィリアは、ベリーの心情を察し、そう付け加える。
「そうだよね!!わかるわかる!」
「えぇ、その点フィリアは素晴らしいわよ。彼は私の人間関係を一切束縛しないもの。私の自由を尊重してくれる素敵な人だわ」
マリアは嬉しそうに語る。
「えぇ、僕はマリアの帰る場所ですが、彼女の外での人間関係を束縛するのは、僕の愛情ではありません。彼女は自由に良好な関係を築くべきです」
「へぇ〜……いい考えだね!」
ベリーは観念した。フィリアが現在そういう考えで、彼とマリアの相性がいいのなら、それが答えだろう。自分の嫉妬と束縛が入る隙間は無さそうだ。
「ふふ、ベリーさん。僕は貴方を歓迎しますよ。貴方はマリアを照らす光になる」
「え、ほんと〜!!嬉しいなぁ、ボク、マリアのこと楽しませられるように頑張っちゃう!!」
「あら、嬉しいわ。退屈しなさそうね」
「うん!インフルエンサーの本領、発揮しちゃうよ☆」
「きゃあ♡」
マリアは恐ろしいほど可愛らしい声を上げて喜んだ。無垢な少女と、愛らしい子猫のあげる声だった。その本性は、魔性の女である。
それが心底可愛らしくて、ベリーは目がハートになってしまった。
「今の声かわい〜!!マリアちゃんってそんな声も出るんだ!」
「あら、そう?えぇ、嬉しいとこういう声が出るわね」
「可愛らしいな」
「あら、黒川さんったら」
「マリア、今のとても可愛かったよ」
「あぁ、ケイネラまで……そうなのね!ありがとう」
そうして、ショッピングモールを歩き終えた一同は、バスで寮に帰った。
「ありがとうね、お疲れ様」
「うん!マリアちゃんも、ゆっくり休んでね〜☆」
「お疲れ様でした、マリア」
「またな」
「うん、またね」
それぞれ挨拶をして、寮へと戻る。
その明後日、月曜日。皆は鞄にキーホルダーを付けて、登校した。
クラスの女の子、出来たてのグループが、静かに噂する。視線がキーホルダーに集まる。
「あれ、Lumiに上がってたやつだよね?」
「仲良いんだね〜!羨ましい!」
「ね!凄いな〜、マリアさんって皆の人気の的だよね。憧れちゃう」
皆は好奇の視線を向ける。マリアはそれが心地悪くなかった。寧ろ、少し気分が良い。仲間と生きる万能感は、マリアの心を支えたのだった。
この万能感が、いつまで続くのか——それはまだ知らない。
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恋愛系の文学作品、読まないですね。作者はこんな状態ですが黒川の褒め方はアップグレードされるのでしょうか。フィリアを参考にするのであれば、改良されていくかもしれません。文学的な褒め方をする黒川凛……個性が出そうですね。
黒川凛から見た時のマリアの例えも、少し個性を出しています。小説に出てくるような美女、とかね。




