第27話 バレンタイン+……
2月14日。バレンタインがやってきた。
マリアの恋人達からしたら、これは愛情の確認という儀式だ。
マリアの部屋に、4人は集められた。
程よく暖房が効いている。微かに、菓子の甘い香りが漂っていた。
カウチチェアの前にマリアが立ち、その周りを4人が囲む。
マリアは、マットな紙箱に小さな窓がついた箱を手に取って、ケイネラに向く。
ケイネラは微笑んでマリアを見つめる。
マリアも静かに視線を受け止めた。
ほんの一瞬、沈黙が流れてから、マリアはプレゼントを差し出す。
「……ふふ、どうぞ」
「ありがとう」
ケイネラは頬を染めて感謝する。胸がじんわり温かい。
手に持ってプレゼントを見たケイネラが、問う。
「これは……キャラメルかな?」
「そうよ。……気にいるといいのだけれど」
マリアは一瞬だけ、視線を落とした。
「ふふ、キャラメルか……ありがとう。味わって食べるよ」
「……えぇ、そうなさって」
マリアは満足そうに微笑んだ。
次に、半透明な乳白色のラッピングを持ち、凛へ向く。
凛は耳を赤くして、しかし視線はマリアから離さない。
マリアは微笑んで、両手に持ったプレゼントを差し出した。
「どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
半透明から浮き出たシルエットは……
「……焼き菓子か?」
少し悩んでから、そう言う。
「……えぇ」
それは、マドレーヌだった。
凛は今日のために、様々なお菓子の意味を調べ、覚えた。
だから分かる。この贈り物は繊細なものだと。
「……ありがとう」
凛は噛み締めるように、再度言った。
マリアも優しく微笑んだ。安心の滲んだ顔だった。
次に、長方形の紙箱を手に取る。
フィリアに向いた。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
フィリアは喜びが隠しきれない声で感謝を告げる。
迷わない手つきで、それを受け取った。
「トリュフですか?」
「えぇ。そうよ。貴方好きでしょう?」
「えぇ、えぇ」
「ふふ」
(神よ、感謝します……)
フィリアは少しの間目を瞑った。
マリアの目尻が柔らかく少し下がった。
最後に、少しグレーがかった四角い箱を手に取る。
「……どうぞ」
マリアは意味深に笑う。
「……開けてもいい?」
「……どうぞ」
丁寧に透明なシールを剥がし、箱を開ける。
「……タルトタタン?」
であった。
「えぇ」
マリアは頷く。
「え、Lumiで見たことある。タルトタタンの始まりって……」
ベリーはそこまで言いかけて、口を噤む。今、口に出したい事ではなかったからだ。
「ふふ」
マリアはしっとりと微笑んだ。
「……へへ!ボク……頑張るね!」
ベリーは照れたように、微笑んだ。頬に春が差した。
窓の外には、冬の色があった。まだ寒さの残る日だった。
「……あぁ、そう。それから……フィリアは残ってくださる?」
「?えぇ、分かりました」
フィリアは曖昧に頷く。
「おっけー!じゃ、先に行ってるね!ありがとうマリアちゃん!」
「確かに受け取ったぞ」
「ありがとう、マリア」
3人は空気を読み、帰っていった。
静かになってから、マリアは箱を取り出す。そして、フィリアに差し出した。
「どうぞ」
「……なんですか?これは……」
いや、見たら分かるのだ。ただ、なぜ自分がそれを渡されるのか分からないのだ。
「貴方……今日、誕生日でしょう?」
「誕生日……そうでしたっけ」
「ふふ、また忘れてるのね。貴方って毎年そう」
マリアは小さく肩を竦めて笑った。
世間が愛だなんだと叫ぶ日に、フィリアは静かに誕生日を迎えていたのだ。
「リンゴのムースケーキ。一緒に食べましょう?」
マリアが首を傾ける。
フィリアは目を少し輝かせた。
「……そういえば僕、リンゴも好きでした」
惚けたような顔をするので、マリアは笑ってしまう。
「私は覚えてたわよ」
「えぇ……えぇ」
フィリアは、箱を持つ指に、そっと力を込めた。
「ありがとうございます」
フィリアは目尻を濡らして、微笑んだ。
そんな顔が見れたものだから、
(……満足ね)
マリアはそう思った。
銀のナイフを取りだして、2つに切り分ける。
お皿に盛る。
「……感謝を」
フィリアは手を合わせて、目を瞑った。
マリアも同じようにした。
「……感謝を」
喜びの混じった声で。
フィリアは目を開ける。
「さぁ……食べましょうか」
「えぇ」
2人はフォークを手に、食べ始めた。
「……程よい酸味と甘み。美味しいですね」
「えぇ」
フィリアは笑みを浮かべる。
「……覚えてる?貴方が風邪をひいた日のこと」
マリアは柔らかい声で言った。マリアの声は、少しだけ、昔に戻ったようだった。
「えぇ……覚えていますとも。小学六年生の時でしたね。マリアがリンゴを剥いてくれた」
「ふふ、そうよ」
「あの日からでした。……僕がリンゴを好きになったのは」
「……そうなの?」
「えぇ、そうですよ」
マリアは目をパチクリさせた。
フィリアは頬をリンゴ色に染める。
「貴方が本当に美味しそうにリンゴを食べるから、好きなんだと思ったけど……そう。私のお陰だったのね」
「えぇ」
マリアは胸が温かくなった。
ゆっくり、ゆっくり、食べ進める。
「……この時間が終わってしまうのが、惜しいですね」
フィリアは、確かにそう言った。
「……いいのよ。また来年も、こうして祝えばいいわ」
マリアは目を細めて、優しく言った。
「……また来年も……」
フィリアは小さく言う。
「……えぇ、祝いましょう」
マリアは祈るように、呟いた。
「……ごちそうさまでした」
2人はケーキを食べ終えた。
フォークを置く音が響く。
時間がゆっくり過ぎていく。
フィリアはこの胸の温かさに、なんと名前をつけたらいいか迷った。
逡巡して、口を開く。
「……愛、でしょうか」
「……?」
マリアは一瞬だけ瞬きをして、それから、いつものように微笑んだ。
首を傾げる。
「この胸の温かさは……」
フィリアは少し恥ずかしくなった。
「……えぇ、そうよ」
マリアは顔を綻ばせた。
「……貴方の1年が、素敵なものでありますように」
マリアは目を閉じて、祈りを捧げた。
フィリアは胸がいっぱいになる。
「……怖いものなど、ありませんよ」
(……貴方といれば)
そう思った。
窓が、砂糖を吐くように結露していた。
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密度が濃い。でもこれは……ホットチョコみたいですね。バレンタインだけに。リヒトは濃口醤油でしたが笑。
包装の意味、贈り物の意味も是非調べたりして考えてみて下さい。より楽しめると思います。




