第16話 文化祭準備
11月には、文化祭がある。
文化祭は様々な演目があるが、今回特筆すべきは、"プリンス&プリンセスグランプリだろう。
「プリンス&プリンセスグランプリって、何するんですか?」
廊下の張り出しを見ながら、フィリアが聞く。
「全学年の中から、一番美しい男子と女子を決めるんだよ〜!!その後その二人で決選投票があって、エデンで一番美しい人を決めるってワケ!!」
ベリーはLumiでそれの動画も見てきたので、よく知っている。
「なるほど。結果が見え透きますね」
「そうだな」
フィリア、凛の2人はマリアが優勝する結果を疑わない。
「どうだろ?プリンセスはマリアちゃんだと思うけど……。ケイネラくんもいるから、優勝は分からないんじゃない?」
「……そうかもしれないわね」
結果はマリアにも予想がつかなかった。己の美しさは疑っていないが、トップモデルのケイネラと比べてどうかと言われると……分からない。
「どちらにしろ、お互い頑張ろう」
「えぇ、良い戦いが出来ることを望むわ」
ケイネラとマリアは静かに拳を合わせた。
後日、参加の申し込みをした。
「ケイネラのクラスからは誰か出るの?」
「うん。ラビルナ・ギザが出る」
「ラビルナ?知らないわね」
「モデルだよ。個性的な雰囲気だから、凄く印象に残るよ。……使いづらいって言われることもあるみたい」
「へぇ」
それ以上は話さなかった。
グランプリに向けて、準備が始まる。
服飾を担当するのは、ファッションデザイン科の、4年生から6年生。7年生は卒業制作で忙しいので、入らない。
マリアは服飾担当の3人と、ファッションデザイン科の教室で会った。
「4年生、デザイン担当の米澤です。よろしくお願いします」
「5年生、裁縫を担当するよ。アドロワです」
「6年、装飾担当、ママルカ・ペリドット」
学年が上がるにつれて見た目の自由度が増していくのは、ファッションデザイン科の定めなのだろうか。
ママルカがマリアに接近し、見下ろす。
「アンタ、美しいわね。飾り甲斐がありそう」
「ふふ、ありがとう?ママルカさん」
「ママルカでイイわよ。リピートアフターミー、ママルカ?」
「ふふ、ママルカ」
「OK」
男性か女性か分からないが、蛍光黄緑の巻かれたツインテールが個性的だ。ドラァグクイーンメイクをしている。
「さっそくアイデアを出していきましょう。お2人も参加しますよね?」
「参加するよ」
「モチ」
米澤はホワイトボードの前に立つ。他3人は丸いテーブルを囲んだ。
「まずはマリアさんの意見を聞きましょう。何か着たい衣装はありますか?」
「うーん……ドレス?くらいしか分からないわ」
「分かりました。ではドレスにしましょう。皆さん構いませんね」
米澤は一々確認は取らなかった。疑問形ではなく、断定である。
「では、イメージはどうしましょうか」
「うーん……艶やかな感じがいいんじゃない?」
「下品にならない程度に色気があるのは良いですよね。私もそれがいいと思います」
そこで、ママルカがマリアを指す。
「─────蛇と薔薇。アンタ、その匂いがするわ」
「!!」
マリアは驚いた。同時に納得もした。
「えぇ……私もそう思う」
マリアはニコリと笑う。ママルカも笑った。
「じゃ、決まりね」
「えぇ、決まりですね」
キュッ、と蛇と薔薇の文字を丸で囲む。
「具体的なデザインですが……何か案はありますか?」
「私いい?」
アドロワが手を挙げる。
「胸元に蛇の皮とか、大きな鱗を使うのはどう?マリアの肌が蛇に変化してくようにするの」
「それは……いい案ね」
「あら、ワタシもそう思ってたワ」
ハハ、とママルカは笑う。
「薔薇に侵食される蛇……と言った所でしょうか」
「その表現、イイわ」
ママルカは頷く。が、マリアは少し首を傾げた。
「……私の色気に、私の捕食性は侵食されているかしら」
マリアは顎に指を添える。
「あぁ、なるほど……そう考えると、少しズレますかね」
「侵食というより、共生と言った方が正確な気がするわ」
「えぇ、それで行きましょう」
方向性は決まった。
「具体的なデザインですが……そうですね。薔薇のモチーフはは幾つか大きいものと小さめのものを組み合わせましょう。一つ目立つように大きいものを、正面から見て左側の裾に置きましょう。……あぁ、そうだ。丈はミニですか?」
「ミディかミモレでしょう。ミニも似合うだろうけど、少しガキ臭いワ。」
「はは、そうですね」
「ねぇ、ミディとミモレってなに?」
マリアはママルカの袖を軽く引く。
「ミディは膝下10cm、ミモレはふくらはぎの丈ネ」
「じゃあミディがいいわ。少し足を出したいの」
「分かりました。ではミディで」
丈が決まった。
「腰周りは締めますか?」
「もちろんヨ」
「このスタイルを活かさない手はないでしょ」
「……よし、ドレスのデザインは決まりました。後は小物ですね。靴、頭飾り、バッグです」
話しながら米澤は椅子に座り、タブレットにドレスのイラストを描き始める。
「髪に薔薇を付けるべきかしら……」
ママルカは悩む。
「付けた方が目立つんじゃないの?」
マリアが首を傾げる。
「それはそうね。マリアは付けたい?」
「折角なら派手ね」
「じゃあ付けましょう」
ということで、髪飾りは薔薇。
「小さいものを下ろした髪に沢山つける手もありますが、どうしますか」
「大きいの1つでいいわ」
「分かりました。右の頭ですか?それとも左?」
「……」
マリアは悩む。
「裾の薔薇が左がだから、右につけたらバランスがいいんじゃないかな」
アドロワがアドバイスする。
「それもそうね。右にしましょう」
「靴は?」
「ヒールが良いわ。ピンヒール」
「履けるの?」
「舐めないで頂戴。……練習すればいけるわ」
マリアは少し顔を背けた。
「ふふ、ふふ。そうだね。一緒に練習しよう」
アドロワは笑った。
「ピンヒールは薔薇色ですよね?上から下にかけて薔薇に変化していきますから」
「そうね。それがいいと思う」
「小物は……要りますか?」
「要らないでしょ。視線が散る」
「そうネ。同意するワ」
「……よし、描けました。どうですか?」
米澤がタブレットを見せる。
「あら、いいじゃない」
「美しいですね」
2人は即答した。
「……良いんじゃない?」
少し間を置いて、マリアも同意した。米澤は少しホッとし、首を傾げて胸を抑えた。
ということで、デザインが決まった。
あとはアドロワの役割だ。
「腕が鳴るよ。蛇の皮なんて扱ったことないからね」
「ふふ、頼むわよ」
マリアはアドロワの肩に手を置く。
見上げたその顔の、女王の雰囲気に、アドロワは鳥肌が立った。
「えぇ、えぇ……任せてよ」
これは、頑張らなねば。アドロワは気合いを入れた。
練習の日。マリアは初めてラビルナに出会った。
「あの子がラビルナ」
ケイネラが指さす方を見る。
一目見て──────マリアは笑った。
確かに美しい。だが大切なのはそこじゃない。
猛禽類か、肉食動物の目をしている。あの子は面白い。直感的に思った。
(綺麗な人。プラチナブロンドに褐色肌が、よく似合ってる)
マリアがローファーを鳴らしながらラビルナに近付く。ケイネラも少し後ろを着いていく。
ラビルナがこちらに気付く。
「こんにちは、マリアさん。話すのは初めてだね」
「えぇ、そうね。初めまして、ラビルナさん」
「初めまして」
2人は握手を交わした。なんだろう、2人とも緊張していないのに、そばに居るケイネラは少し緊張した。
「貴方もグランプリに出るのよね。いいライバルになりそうだわ」
「ふふ、ホントだね。いいライバル」
互いに認め合ったことが、自然と伝わった。
……ここにベリーがいたら、会話が弾んだだろうな、とケイネラは思う。しかしここにベリーはいない。
暫し沈黙が流れた。
「……あ、そろそろ始まるみたい」
「あら、そう。行きましょうか」
「……うん」
2人は並んでステージへと向かう。ケイネラはその少し後ろを歩いた。
練習は恙無く進む。
ラビルナがスポットライトに照らされて歩くのを、マリアは上手の舞台袖から見ていた。
ラビルナの髪が光を受けて、キラキラ光っている。
(……天の川みたいね)
マリアはそう思った。
マリアがステージを歩くのも、ラビルナは見ていた。
(……凄い)
言葉にはしなかったが、それは主役の輝きだった。ラビルナが未だ手に入れられない、席。
少し憧れるような、眩しいものを見るような目で、ラビルナは見てしまった。
ラビルナは目を閉じる。
(私も、頑張らないと)
決意を固めた。
ケイネラが歩くのを、2人は並んで見る。
「……やっぱりトップモデルね。馴染んでるのに、目立ってる」
「ホントだね」
ケイネラは自然にそこにいるのに、目が惹き付けられる。不思議だ。
「本番が楽しみだね」
「えぇ、本当に。……」
マリアはラビルナを見る。
「……貴方の活躍も、楽しみにしてるわ」
「っ!!」
そう言うものだから、ラビルナはなんだか負けた気分だった。
「……ハハっ。私もマリアちゃんの活躍、楽しみにしてるよ」
「!」
対等になりたくて、そう返した。
マリアは満足したように笑い、目を伏せる。
「……えぇ。勿論よ」
2人は同じ光景を見ていた。
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ちなみに服のデザインは全て自分で考えました。デザイン、得意です。化け物だと思います。ミディとかミモレとかは書く時に調べました。
ラビルナを見た時のマリアの反応、普通の人なら身体を震わせると思うんですけど、マリアだしな……と思って変えました。
ベリーって、マリアを美しいと思ってるのに、客観的な視線を忘れないイメージがありますよね。




