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うちのパーティに来ない?

ダンジョンを脱出したミア、シーナ、正人は元のいた街に戻り装備を整える武器屋という場所に足を運んでいた。店の中はアニメや漫画で見るような武器屋といった感じで、壁に立てかけられている剣や斧、そして魔法を出すために使うであろう、杖のようなものがあり、男用から女用の防具、服が武器の下にずらーっと並んでいた。

 街に入るや否や注目される3人。正人は上半身裸で下半身は部屋着のズボン…そうなれば当然、注目を浴びるのは当たり前だ。すれ違う人には軒並み変な顔をされ、様々な憶測が飛び交っていた。

「何であんな格好しているんだ?」

「男の隣にいる女の子可愛すぎじゃね?」

「もしかして3人で——」

「違います!違いますから!ほら二人とも!とりあえずこの店に入るわよ!」

 顔を真っ赤にし、恥ずかしそうにしながらシーナは正人とミアの手首をつかみ、今いる店に入っていった…という経緯だ。

 店の前での会話を思い出したのか、ミアは首を傾げながら不思議そうに口を開いた。

「もしかして3人でって…一体何だったんでしょうね?」

 正人とシーナはビクッと肩をはねさせる。正人はまさかと思い、シーナに顔を近づけて周囲には聞こえない声量で聞いた。

「(もしかしてミアってめちゃくちゃ純粋?)」

「(当たり前でしょ、学園でもそういうのは触れさせなかったし)」

「(さいですか)」

 当然、二人でこそこそ話していたらミアは何を話していたか気になる。ミアは二人が内緒話をしていたのを見て頬をぷくっと膨らませて不機嫌そうな顔を浮かべていた。正人はミアが何か勘違いをしているのではと思い、弁明しようとしたが…シーナがミアに近寄り、視線を彷徨わせながら語りだしていた。

「3人でダンジョンに入ってたその帰りって言おうとしたのよ!ね?正人」

 じっと正人を一瞬睨み、正人はすぐに「私に合わせなさい」と言ってるんだと分かり…

「そうそう、いや~あいつ強かったな!」

目をぱちぱちさせてその会話を聞いていたミアだったが、再びぷくっと頬を膨らまして怪訝な表情を浮かべていた。

(うん、怒ってるんだけど全然怖くない)

(むしろ可愛いわねこれ)

二人は怒っているはずのミアを前にして、そんなことを考えていたが…ミアの頬はますます膨れ上がり、爆発寸前みたいな口元になっていた。風船だったら破裂してしまうような…でもやっぱその表情に覇気は感じられない。子供が怒っているような表情を見て二人は申し訳ないと思いながらも可愛いと…口にしてしまう。

「もう!私が怒ってるのは二人がこしょこしょ話してるからなんだよ~?」

「あ、そっち…だったの」

「これはもう言い逃れ出来ないな」

ミアはシーナに話すような口調で話し、自分の腰に手を当てて上半身を少し倒していた。

(うん、まーじで怖くない)

先生が子供に怒るような立ち居振る舞いで声をあげるミアの姿は…本当に聖職者ならではの…シスターのようだった。

正人とシーナがごめんごめんとミアをなだめていると3人の後ろから武器屋の店主であろう人物が声をかけてきていた。

「何をお探しですか?もし決まっていましたら仰っていただければ持ってきますよ!」

正人はその店主を見て、目を見開いてしまっていた。シーナは目をぱちぱちさせながらその店主を見ている。

(えっと、顔と話してる言葉が合ってないんだが…)

その店主は誰がどう見ても大男、ムキムキの腕を見せながらタンクトップを着ており、胸辺りに武器屋のロゴマークがムキムキの胸筋によって横に伸びていた。心なしかその武器屋のロゴマークから(ち、千切れるぅ…助けてぇ)と聞こえてきそうだった。そしてその優しい声も相まって、正人とシーナは少し吹き出しそうになる…がそれを堪えて表情筋を固める。

「ダンジョンの敵に服が破れてしまって…それを探しに来てるんです」

正人が店主と話し、シーナはハッと何かを思い出したかのように続ける。

「そうなんです、ついでに私とこの子の防具も揃えたらな~と思いまして…」

シーナは頭を掻きながらミアの方を見つめ、ミアもうんうんと頷く。

店主はその会話を聞いて顎に手を当てながら目をつむって独り言のようにぶつぶつと呟く。

「なるほど…ダンジョン帰り、二人の女の子を食べてたわけじゃないと…」

「おぉぉおい!」

正人は自分でも発したことのない声をあげ、店主に近づく。店主は冗談冗談といい、頭を掻く…が、せっかくミアが忘れかけていたのにと正人とシーナは額に手を当ててため息をついていた。ミアはその二人を見て頭の上でクエスチョンマークを出しながら首を傾げる。

「とりあえず、何かご要望などありますか?」

手をパンッと叩きながら話の軌道を戻し…正人は「あ~」と視線を上にあげ、顎に手を当てながら注文をしていた。

「そうですね、あまり目立たない服…でも大丈夫ですかね?」

「全然大丈夫ですよ!服にも効果がありますが、いかがなさいましょうか?」

「…効果?」

片眉をあげて肩を竦めながら聞き返す正人、その顔を見てシーナは正人の方を見てどや顔をしながらサムズアップ。

「私もあんまわかんないから店員さんに聞いてね!」

「どや顔で言うなよ」

ジト目を向けながらツッコミを入れる正人。そのままの顔で店主の方に視線を向けて質問をする。

「えっと、どんなものがありますか?」

店主は待ってましたと言わんばかりに耳をピクリとさせ、今にもはち切れそうな胸筋を前に出してのけ反るその光景はなんともまぁ不気味なものだった。これが女性なら息を呑み、目を見開いていたが正人は別の意味で目を見開いていた。そして店主は一枚の黒い服を見せて早口でその服についている効果というものを説明していた。

「例えばこちらの服は、主の魔力に応じてそれ以下の魔獣がおびき寄せない効果があります!」

「ほ~ん、なるほど」

(俺って魔力あんのか?…まぁでも派手じゃないし、これでいいか)

あまり話が長引くのも好まない正人なため「それじゃあそれをお願いします」といい、そのセットであろう灰色のズボンを購入しようとするが——

「シーナ、俺一文無しなんだけど…」

金を持ち合わせていない正人にとってこれは気まずい状況そのものだった。金と言えばいいのか、金貨や銀貨と言えばいいのか…そういうのもわからないまま顔をそむける正人だったが、シーナはため息をつき、肩を竦めながら口を開いた。

「私達を救ってくれたし、これくらいはいいわよ」

「ほんとか!?」

「私も問題ありませんよ」

ミアは気恥ずかしそうにしながらそっぽを向き、ミアは優しい笑顔を向けながら正人にお礼、という形で服を奢ってくれた。


——————————————————————————————


店を出て、3人は途方に暮れるように街を歩いていた。

「ありがとな、服…買ってもらって」

「そんなに言わなくても大丈夫ですよ。元々そのつもりでしたから」

「ま、まぁ私達も防具が欲しかったからね…!」

二人の顔を見ながら頭を掻きお礼をいう正人だったが…その二人は防具をあの店で買わなかった。気になっていたことでもあるので正人はそのことについて二人に質問をする。

「二人はよかったのか?防具買ってなかったけど…」

怪訝な顔をする正人を見て二人は「アハハ」とごまかした様子をしていた。その二人を見て正人はダンジョンでの会話を思い出す。

『街もダンジョンも今日が初めて』

…という言葉が頭に蘇るように流れ、理解する。

「もしかしてだけど…俺の服を買ったせいで金なくなったのか?」

「そそそ、そんなわけないじゃない!」

「隠す気あんのかよ」

溜め息をつきながら言う正人だったが、その服を売って金にしようと考えていたところでミアがたじろぎながらも口を開く。

「その…私達に合う防具がなかったというのが正しいでしょうか…その、お金が無くなってしまったってのはあってるんですが…」

どういったらいいのかわからない様子で目線をあちこちに飛ばしながら話すミア。

「そんじゃ、この服売ってその金を返すわ」

あまりにも普通に提案する正人…二人は当然驚いた顔で両手を左右に振りながらそれを拒否する。

「売るって…あんたそれ以外に着るものないじゃない!」

「まぁ、そこはなんとかする」

「いやできないでしょうが」

「私達もお金を多く持ってきたというわけではありませんし、いつかはぶつかることだったので本当に気にしないでください!」

二人にそこまで強く言われてしまえば正人は何も言えない。ここで「いや、売ってくる」と言ってしまえばそれこそ礼儀に反することかと思い、売るという考えは諦めた。

かといって二人がこれから正人と同じ一文無しには変わりない。貰ったパンは全部食べてしまったし、シーが買っていたパンも二人で食べていたというのも知っている。どうしたもかと顎に手を当てて考えていると…シーナが少しもじもじとしながら一つの提案をした。

「そ…その…あんたがよかったらなんだけど、うちのパーティに来ない?」

先程までミアも申し訳なさそうにうつむいていたが、シーナの言葉を聞き、いつものパァッとした笑顔に戻りその意見に賛同していた。

「いいですね!私もそれがいいと思います!」

ミアは体を寄せ、両手を握って胸の前に出しながら「それがいい!」と言わんばかりの顔をしていた。

「…パーティ…か」

正人は考えこむようにボソッと発した。

「まぁ、これはあくまで提案だけどね…これを断れば私とミアも、あなたも飢え死にしちゃうけどそれでもいいなら断ってもいいんじゃない?」

「鬼かお前は」

「だって、悩んでるんでしょ?」

悩んでいる…と言われれば悩んでいるのかもしれないが、正人はどうするのが正解なのかわからなかった。ミアとシーナにパンも貰い、服も買ってもらった。その恩には応えなきゃいけない…いくら助けてもらったからと言ってそれでさようならをするということは正人にはできなかった。というより、そこまで屑ではない。このほかにも頭をフル回転させて思考していた。自分には何ができるのか…この世界では何もできないかもしれない。この二人の足を引っ張るだけなのかもしれない…そうやっていろいろと考えたはずなのに…

(元いた世界に早く戻らなきゃいけない)

自ずと出た答えが…これだった。早く妹に会いたい。妹に合って抱きしめたい。この思いが一番最初に来た。それはきっと答えなのだろう…それならばどうするか、答えはもう出てるじゃないか。

(わかってる、けど…俺が魔法なんて——)

「で、どっちなの?入るの?入らないの?」

そう言いながら怪訝な顔をぐっと近づけるシーナに正人は息を呑む。答えは出たはずなのに自信がなかった正人の背中を押すようにシーナは言っていた。怪訝な表情を浮かべてはいたが急かしている様子というわけではなかった。きっとわかっているんだ。正人に起きた詳細はことは知らないにしても、一文無しで部屋着で会ったという点からシーナもミアも少なからず訳ありだというのは理解していた。

(色々考えても仕方ない、覚悟決めるしかねぇな)

正人は深呼吸をして、シーナとミアの方に視線を向けながら真剣な表情で言った。

「俺に何ができるのかわかってないが…二人がよければ、お願いします」

頭を下げる正人を見てシーナはフッと柔らかな表情になり…

「そこは普通にお願いしますでいいのよ」

「これからよろしくお願いしますね!正人さん!」

ミアはいつも通り…満面な笑みを見せながら正人を歓迎した。

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