一つの招待状
風の都をでて3日が経過した現在……時刻は夜、それぞれの構築魔法で簡単な宿を作り休息をとっていた。
正人は怪訝な顔でユーノに話しかける。
「そういや、海底の都って言ってたけど…一体どんな街なんだ?」
「私も名前をきいた事しかないのよね」
「本当にあるのか…ってことですか?」
「疑ってるわけじゃありませんよ?ただ……」
やはり、シーナもミアも少し疑問に思っている所はあるらしい。無理は無い。
(実際、海底の都なんて想像もできないよな)
ユーノが言うには炎の都…と言った自然の名前の都はあると言っていた。当然そうなれば少し特殊な都があったって不思議じゃない。
だが…海底の都というのは少し……いやかなりぶっ飛んでいる気がする。シーナとミアは少し不安げな顔をして正人はいつも通りの無表情…という訳ではなく少し眉をひそめている。
ユーノは三人の様子を見て軽く溜息を吐いて腕を組んで口を開く。
「どこから話しましょうか……」
そこから海底の都についての説明がされて───
「要するに、海底の都は誰でも行けるって訳じゃないんだな?」
「はい。海底の都は非常に珍しく、他者との馴れ合いはしないんですよ」
「じゃあなんで私たちはそこに向かうの?」
「誰でも行けるわけじゃないのなら私たちでも難しいんじゃ…」
シーナとミアはユーノからの説明を聞いて先程より不安そうな顔になるが、ユーノはサムズアップしながら答えた。
「僕ですから!」
「……あ、うん。」
「なんかもう…なんでもありですね」
「いや〜それほどでも!」
「褒めてないわよ!」
「褒めてないです!」
シーナとミアは素早いツッコミを入れる。うん。この光景にも慣れてきたな。
少し話すと、こうだ。
さきの記述の通り海底の都の住民は他者との繋がり、馴れ合いはあまりしない。
海底の都は選ばれし者しかいけない。
そこで、一つの迷宮の攻略が必要。
ユーノは他にも言っていたが難しい話だったのでそこは端折らせていただく。
では何故、正人たちがそんな海底の都に行くかと言うと……
◇
風の都を出ていく少し前…
「ユーノ、お前次の行く街は決まってるのか?」
ネクスの王座継承が終わり、玉座で話をしていた時だった。
「そうですね…ここから一番近いのは海底の都ですが、行くのは難しいでしょうね。なので森の都にでも行ってみようかと思います。」
「そうか。そういや、正人…お前はなんかやらないといけない事があるんだろ?」
「…そうだな。Sランクの冒険者に会って聞きたいことがあるな」
正人がそう答えると、ネクスは懐からひとつの紙を取り出し…それを見せる。
「それって…海底の都への招待状!?」
「どうしてネクスさんがそれを…」
シーナとミアは目を見開いて驚いていたが、それは正人もユーノも同じだった。
そしてネクスは紙をユーノに渡し、頭を掻きながら言った。
「まぁ……簡単に言うが、正人がうちの街のダンジョンを全制覇しただろ?そんで青炎の魔術師と言われている」
(恥ずかしいからやめてくれ……頼むから)
「それを聞いた海底の都の奴らが遊び半分で送った招待状って訳だ……よく見てみろ」
ネクスはそう言いながら渡した紙を指さす。それをまじまじと見て、ようやっと理解した。
「本当ですね……海底の都に続く海底迷宮への招待状……」
「俺にはこれくらいしか渡せなくて悪いな。」
ネクスは申し訳なさそうに視線を逸らすが…そんな悪い話でもないそうだ。
「いえ!むしろ助かります。ありがとうございますネクスさん!」
「…そうか?ならいいんだが……」
「なんでそんなに嬉しそうにしてるんだよユーノ」
正人は首を傾げながら質問をすると、ユーノはキラキラと目を輝かせながら答えた。
「この海底の都……行けたら僕たちにとってすごく都合がいいんですよ」
「…というと?」
「まずひとつ、海底の都にSランク冒険者の宿があるとの噂を聞いたことがあります。そして二つ目は両親がお世話になってるって言う挨拶ができます。」
ユーノの話しにその場にいる全員が納得し、頷いた。
「確かに、俺もユーノも海底の都に行く理由はあるわけだ」
正人がそういったところで…ネクスは少し申し訳なさそうに、たじたじしだす。
「どうしたんですか?そんなに気持ち悪い動きして」
「気持ち悪いって言うなよ!いや〜もし、お前らが海底迷宮をクリアして都に着いたらそこん所の王様によろしく伝えてやってくれねぇかと思って…」
「確か……もうそろそろ世界各国の王が集まって会議する的なことがありましたね」
「……そうなんだよ。頼まれてくれるか?」
両手を合わせてお願いするネクス。当然断る理由もない。
「分かりましたよ。もし着いたら……伝えておきます。」
「助かる!ありがとう!」
◇
ということがありまして、正人たちは海底の都に向かっているのであります。
先程のシーナとミアは、海底の都に行けるのは正人とユーノだけだと思ってたらしいが、海底迷宮さえクリアしてしまえば誰でも行けるとの事。
「その海底迷宮ってさ、ダンジョンと何が違うの?」
シーナはいつものようにきょとんとした顔で質問を投げかける。
「まぁ簡単に言えば人工的に作られたか、自然に発生しているものか、の違いだな」
正人は顎に手を当てて答えてユーノは頷きながら……
「そうです。迷宮は人工的に作られたもので、ダンジョンとは違い敵の強さ、1階1階の難しさが段違いなんですよ」
「聞いたことがあります……確か、迷宮はダンジョンと違い、代表戦というものがなく、訪れる人全員が迷宮内に入れるとか…」
ミアは思い出したかのように説明をした。
どうやら、本当のことらしくユーノは頷きさらに付け足した。
「ええ……そして今回の海底迷宮は招待状を受けたパーティしか入れないらしいんです。」
いつもより深刻な顔をして答えるユーノに、正人はすぐに理解した。
(この感じ……代表戦がないってのも考慮して考えられるのは──)
「ちょっと待ってよ。もしかして……招待を受けたパーティとも戦うことになるの!?」
シーナは目を見開き声を大きくして身体を仰け反っていた。
「そうでしょうね……海底の都に行けるのは迷宮をクリアして、尚且つその場にいるパーティを全員倒すことが条件かと……」
ユーノの発言を聞いてシーナは額に手を当てて溜息を吐き、ミアは口から魂が抜けたように体をふらつかせていた。
(まぁ、当然の反応か……)
今までダンジョン内で戦ってきたのはモンスターと言われるものだ。そこに今回はプラスで人とも戦わないといけない。招待状を受けたパーティともなると強さも当然今までの比じゃないはずだ。
海底の都というのはそれほどレアな街で都に行けなかったとしても迷宮に入れるだけでも名誉だと聞く。
「そこで……青炎の魔術……ゲフンゲフン」
「おい、お前今わざと言ったよな?」
「なんの事ですか?」
「……まぁいいや、んで?俺がなんだよ」
ユーノは軽く咳払いをしてから話し出す。
「正人さん。あなたの強さは風の都に来た時より異常なほど強くなっています。」
「……お、おう」
グイッと体を近づけながら言うユーノに対して、正人は眉をひそめる。
「そこで、あなたには……取っておきの魔術を教えようと思うんですが…どうでしょうか?」
この誘いに対して、正人は即答。
「頼む」
「早!」
「正人さんらしいですね…」
「そう来なくちゃ!」
強くなるためなら何だってする。それはずっと決めていたことだ。
それに、前回防魔法室に行かなかったのが相当効いてるらしい。断ったらいけない気がした。
「それで、どんな魔術なんだ?」
「影を操る魔術ですね」
「影魔術……本来なら一体や二体程度しか出せずあまり戦力にならない魔術よね」
雑魚敵などに使われたりする魔術らしい。だなユーノの方に視線を向けると「ムフフ」という何かを企んでいる笑みを浮かべていた。
「そうです。ですが、正人さんなら……この魔術も化けると思うんですよね」
自信ありげに言うユーノを見てミアも頷きながら言う。
「確かに……正人さんなら……」
「ちなみに根拠は?」
「「ないです」」
ニコッと笑いながら答えるミアとユーノにジト目を向ける正人。だが興味はあった。
「まぁいいや、その影魔術というものを一度見せてくれ」
正人は軽くため息を吐きながら言って、ユーノはその場で詠唱を始めた。
「『影を操るものよ。我の影となり皆の影となれ』」
ユーノがそう詠唱すると一つの黒い影がもやもやとしながら出現した。
「夜だから見にくいな……」
「そこは許してください!」
これぐらいの魔術ならユーノは詠唱をせずとも発動できたはず…とそこまで考えてユーノの優しさに気づく。
そして正人はユーノの優しさに気づきながらも平然と…
「『影よ』」
ボウッという音とともにひとつの影が出てきた。
「……詠唱をすぐに端折ったんですね。」
「……すまん」
「でもなんか、二人の影色が違くない?」
シーナは正人の影とユーノの影を見比べて首を傾げる。
確かに、見ればユーノの影は完全な黒に対し、正人は青黒い影だ。
「正人さんの魔力量なら、限界でも100体以上は出せるでしょうね。慣れたらですが…」
「マジか、そんなに……」
「影の魔術は確か使用者の強さに比例するので、正人さん専用の兵士が作れたりするかもですね!」
「そうなんですよ!そうすれば、海底迷宮も多少は楽になると思ったんです!」
盛り上がっているユーノとミア。正人はその様子を見ながら頭を搔く。
「あのな、そんな簡単にいく訳ないだろ?それに、炎魔術しかしらばらく使わないし…」
「それですよ!」
正人は頭を掻きながら答えると、ユーノはビシッと指をさしながら言った。
「正人さんの炎魔術、荒い所さえ直してしまえばほぼ完璧と言っていいんですよ。この影魔術に正人さんの炎魔術を使用すれば強力な影が出来ると思うんです!」
「……なるほど」
「一回やって見たら?」
「そうだな」
先程出した影に魔力を込めて炎魔術を送り込む。すると、再度ボウッという音を立てながら……
「出来たけど、影じゃん」
青い炎が影を囲うようにモヤを立てていた。
「いや、あんたとんでもないわね」
「そんなにポンポンできるものじゃないんですけどね」
「……すごいですね」
全員が正人の異常さに驚きつつも、正人だからかと勝手に解釈していた。
(確かにこれが出来たらすげぇ戦力になるんだろうけど……)
「一旦これはなしだな」
「えー!どうしてですか!」
「結構いいと思ったけど…」
「私もそう思います」
「まぁまぁ、もっといい方法を見つけたんだよ」
正人は軽く微笑しながら答えるのであった。
ここまで3話投稿をご覧くださりありがとうございました。10月3日から今日に至るまで3話投稿をしていましたが、明日からはペースを落としてゆっくり書いていきます。




