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魔法ランクAの集団

あれから数日が経ち、すっかりこの街にも慣れた正人たち。

「そういえば明日だっけか…ネクスのパーティーって」

正人は部屋で独り言つ。ここ数日していたことはこれといって何もしていない。

魔術を少し鍛錬したり、街に出かけたり、魔術を鍛錬したり……うん、主に魔術の鍛錬しかしていなかった。

シーナとミアはメイド見習いを頑張って(?)おり、ユーノはネクスとリョウに呼ばれてハック国王の元で軽い仕事をしていた。

「……俺何してんだろ」

座っている椅子の背もたれにもたれかかりながら天井を見てそういった。

人間世界に戻るためにパーティを組んでいるのに、人助けなんかして……いや、これが無駄になるわけが無い。分かっているはずなのに、なんか虚しさを感じてしまう。

でもそれは、今自分がほかの人たちとは違って『何もしていないから』というのも分かっていた。

「待てよ?なら普通にこの街にあるダンジョンに行けばよくねーか?」

ふと、そう思った。確かにそうだ。魔術の鍛錬もしてきたんだし一人でダンジョンに行っても大丈夫だろうと。

「そうと決まれば、行かないとな」

正人はそう口にして緑色のローブを羽織り、部屋を出る……

「……ッ!?」

「なにしてんの」

「え、えっと、これは……その」

「シーちゃんが早くノックしないから!」

「これって私のせいなのぉ?」

部屋の扉を開けるとシーナとミアが紅茶とお菓子を持って立っていた。

(なるほどな…まぁこいつららしいっちゃらしいか)

思えばここ数日間メイド見習いとして頑張っている二人は正人にメイドらしいことをしていない。それに気づいてせめて飲み物とお菓子を用意して持っていこうという話になったのだろう。それを正人が壊してしまったわけだ。

(え?俺のせいなの?)

心の中でそうつぶやくのとほぼ同時に、正人の服装を見た二人が首を傾げて尋ねてきていた。

「どこか行くのですか?」

「また魔術の鍛錬?緑色のローブも来てるし街に出かけるの?」

「同時に喋るなよ……街っつーか、ダンジョンに行ってくる」

「ダンジョンに?」

「それまたどうして?」

傾げていた首が深くなる二人。正人はため息混じりに答えた。

「みんなは何かやってるのに俺だけ何もやってないのはどうにも落ち着かないからな」

「魔術の鍛錬してるじゃない」

「それも兼ねて行くんだよ」

「なるほど」

そこで二人はようやく納得したみたい。

「ここの街の人は優しいので大丈夫だとは思いますが……くれぐれも気をつけてくださいね?」

「わかってるよ。二人も、メイド見習い頑張れよ。」

正人はそういいながらミアが持っていたお盆からお菓子を手に取り食べて手を振りながら去っていった。

「あ、紅茶も飲みなさいよー!」

「帰ったら貰うよ」

シーナとミアは、正人の後ろ姿を見ながら……

「一人で大丈夫かな」

「正人さんですからね……大抵の事は大丈夫でしょう」

「……そうだといいけど」

それでも、ちょっぴり…心配したりもします。



街に出てダンジョンに向かう正人……

「おー!兄ちゃんじゃねぇか!今日も何か買ってくか?」

「今日は遠慮しておくよ。また買いに行く」

「そうか!」

「正人さん!面白い話があってね!」

「今度聞かせてもらうよ」

街は今日も賑やかで優しい人たちで溢れかえっている。

(数日買い物をして、話をするだけでこんなにも仲良くなるもんなんだな)

周りを見ながらそう思うが、多分一番は……

「ネクス様が次期国王になれたのはあなた達のおかげって聞きました!本当にありがとうございます!」

俺たちのおかげ……か。別にあいつらからは公表をすると言われていたが、こうも俺たちの名前が風の都に轟くとは思わなかった。

(やっぱり断るべきだったかな俺たちの名前を出すのは……)

もちろん、俺らの名前が売れるのは有難い。でもそうなれば当然……よからぬ事を考えたりわ思ったりする奴らも現れる。この世界なら尚のことだ。

実際、大したことはしていない。ユーノを助けただけなんだ。

そう、助けただけ。国民の反応を見ると、俺達がハックを説得したみたいな感じになってるのだ。噂が広まるって多分こういうことを言うんだろうな。公表した王宮はちゃんとした報告をしてる……はずだし。

そうこう考えているうちにダンジョンにつく。これが少し面白いことに、ダンジョンを使って商売している人もいる。前々から気になっていたのでそこに足を運び、早速店主に尋ねる正人。

「すみません、ダンジョンに行きたいんですけど……」

「お!あんたは確か流星の魔術団の人か!どんなダンジョン行きたいんだい?」

(……流星の魔術団)

「えっと……Aランクのダンジョンって今空いてますか?」

「空いてるけど、一人で行くのかい?」

「もしかして、人数が必要ですか?」

「あーいや、そういう訳じゃないんだが……」

正人はすぐに理解した。Aランクのダンジョンは基本的に一人で行くものじゃないらしい。だがAランクじゃないと手応えが分からない正人は引くことは出来なかった。

「お願いできますか?」

「ああ……いいけど……」

店主が応じると、周りにいたパーティらしき面々、風の都の人達はヒソヒソと話し始めていた。その様子を見ながら何かダメなことでもあったかなと思った矢先……

「おい、お前一人でいくならそのダンジョン俺らに譲れよ」

後ろからそう声が聞こえて、正人は振り返る。道をあけられてこちらに歩いてくるのは正人と同じくらいの年齢か。ピンク色の髪をし、紫色の目をしているリーダーらしき人が集団をつれていた。

「すまねぇな兄ちゃんたち……そういうのはできねぇんだ」

店主が申し訳なさそうにそう言うと、リーダーらしき人に話しかける部下?のような奴がいた。

「こいつは……次期国王の手助けをしたって言う、確か名前は……」

「流星の魔術団っつったか……」

(やっぱ……こうなるよなぁ)

正人は軽〜く視線を逸らしながら考えていた事が現実になり胃が重たくなる感覚を覚えた。

すると、その事を聞いたリーダーらしき人物がニヤニヤと笑みを浮かべながら言った。

「お前がこの国の有名人か……」

「まぁ、俺ってよりユーノだと思うけど」

「……ユーノだと?」

ユーノの名前を聞いた途端、こいつの眉がピクリとひくついたのがわかった……が、今はそんなこと気にしている暇は無い。

「ダンジョンのルール……それを聞いたら分かるか?」

「……代表戦か」

「それで俺が勝てばそのダンジョンは譲ってもらう。」

こいつはリーダーだったらしい。見たところ6人ぐらいいるだろうか。しかもそいつらに強さのばらつきはなく全員軒並み強い。

「別に、他のAランクのダンジョン行くから渡すけど」

「有名人ともあろうものがしっぽ巻いて逃げんのか?そんなだっぜぇ有名人は見たくねぇな」

「……」

ちょっと……いや、かなりピキっとしてしまった。クソどうでもいい事なんだが、もしここで引けば正人だけの問題じゃない。流星の魔術団全員が腰抜け集団として名前が知られるかもしれないと思い正人は笑ってない笑みを浮かべながら答えた。

「いいぜ、やってやるよ」

「そう来なくっちゃな」

ピンク髪のリーダーはそう言って、店主にフィールドを用意してもらった。

周りには透明な壁があり、街中の全員が観戦可能な公開処刑とも言えるフィールド。格闘ゲームにありそうなステージだなと思いつつも、正人は他のメンバーにはバレませんようにと願う。

「俺の名前はルナだ。」

「俺は正人……」

「そうか、いい名前だ。Aランク集団のリーダーが、流星の魔術団に勝負を挑む!」

(名前だっさ!でも実力は本物だろうな)

そう思っているうちにも代表選はスタートし、勢いよくこちらに走ってくるルナ。

正人は身構えながらも相手がどういう魔術を使用してくるのか見ようと──。

ルナは次の瞬間拳を振りかざし、正人はそれを避けるのだが……拳に纏わりついている風のようなものに吸いよせられ次の拳は避けれず紙一重で防ぐ。

(っぶねぇ……ネクスの攻撃を受けてなかったら防げなかったぞ)

「ふ~ん、ぎりぎり防ぐか……やるな」

纏っていた拳の風は体全体に纏われ、台風のような……いやもっと強い、サイクロンのような音と威力を放っていた。

「本気で行くぞ」

そういった直後……

「……ッ!?」

一瞬の隙に背後へと回り込むルナ。正人はその一瞬の行動を察知して振り返り、右手を向けながら青い炎を光線のように発動する。

……が、それは軽々と風にのまれ、青い炎とサイクロンが混ざりカオス的な状況になっていた。

(もっと、もっと威力を上げろ)

周りの人間がその中を見れなくなるほどに炎とサイクロンが包む。それは当の本人たちも同じだった。

先に動いたのはルナ。サイクロンの威力を極限まで上げ、蹴りを入れたが……そこに正人の姿は無かった。

「……なっ!?」

正人の姿は無かったのに、正人の魔力を感じるという謎の現象を目の当たりにし、考える時間が一瞬遅れる。

「ここ数日間、鍛錬してよかったな」

「……後ろ、だと?」

今度は正人がルナの後ろをとる形になり……正人は右手を向け詠唱し、青くどデカい魔法陣に青黒い魔力がバチバチと火花をあげながら……

「『燃えろ』」

混ざりあっていた風と青い炎から……一気に燃え盛る青い炎へと変わり、周りの人間には一目瞭然だった。

ルナは正人の攻撃を最大限防御にふりきったのだが、イカれた威力にアホみたいにかけ離れた魔力を目の当たりにして驚きながら地面に倒れ込む。

「普通の一般魔法を魔術に変えるとか……バグってんだろ」

そう……正人が使っていたのは一般炎魔法。それを威力と魔力でゴリ押して火力をあげるだけというおかしなものだった。

無論、それしか知らないという訳では無いし、他の炎魔術も鍛錬している途中だ。

「……どうする?まだやるか?」

正人は倒れ込んだルナの元へと近づきながら聞いた。

「無理に決まってんだろ。ダンジョンは好きにしろ」

ルナがそういったところで、フィールドは解除されAランク集団の面々はルナの所へと急いで向かった。

「兄ちゃん……あんた、一体何者だ?」

店主は目を見開きながらダンジョンに向かう正人に尋ねる。正人は少しだけ振り返りながら……

「流星の魔術団……久遠 正人だ」

そう言って、ダンジョン中に入り、周りにいた民衆は雄叫びをあげるように正人の名前を呼んだ。

この後正人という名前は……風の都全体が知ることになる。

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