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誤解と再会

地下牢の階段を上がり、扉を開ける正人たち。そこには誰もいなく、ユーノが不思議そうに首を傾げながら言った。

「王宮でこの時間に兵士がいないって…変じゃないですか?」

「ネクスの所にいるんだろ」

正人は普通に答えて、ユーノも察する。そして一人一緒に階段を上がっていた兵士が声を上げる。

「前に会った時より随分お強くなられたんですね。ユーノ様」

「?……あ~、両親とここに来た時の話ですか?」

肩を竦めながら言うユーノに兵士は嬉しそうに答えていた。

「そうです!ネクス様を尊敬していると仰り、謙虚さと誠実さは我々兵士も驚きました!」

「……そうですか」

ユーノは頬を引くつかせて若干の笑みを浮かべる。それを正人が不思議そうに見ていた。

(社交辞令ではあったけどわほんとの事でもあったからいざそう言われると恥ずかしい)

ユーノは心の中で呟く。

玉座の部屋に向かい、倒れている二人の兵士が目に入る。一緒に来ていた兵士が慌てふためきながら近づく。

「おい!大丈夫か!しっかりしろお前ら!」

「……あ……」

幸い傷一つついておらず、気絶しているように見えたが…兵士が起きた途端、血の気の引いた顔になり…声を震わせながら…

「最強の…護衛……が、玉座の中に……」

「ネクス様が……」

自分の体を触りながら恐怖心いっぱいでそういうので、ユーノは問うた。

「何かあったんですか?」

ユーノの言葉に二人の兵士は眉をひそめて答えようとするが…不思議そうな顔になる。

「あれ?俺…斬られたはず…」

「俺も…どうして、治ってるんだ?」

まさか、正人やユーノが治したのか!?という顔を向けてきたので一緒に来ていた兵士がそれを否定する。

「俺たちは今来たから何もしてないぞ」

「じゃあ…なんで…」

正人はもうこの瞬間には分かっていた。

やったのは最強の護衛…そしてその正体はリョウだということ。

(こうなることはわかってたろ…)

分かってたが、それを止められなかった悔しさが今になって込み上げてきて思わず拳を握ってしまう。

きっと、この戦いが終わり…次に扉を開けた時にはネクスか最強の護衛のどちらかだろう。

「ユーノ、中の様子はどうなってる?」

正人が怪訝な顔で言ってユーノもハッとした表情になりすぐに魔術を使用して中の様子を確認した。

「……っ!?」

中の様子を見た直後、ユーノは目を見開く。

「どうした!?」

「ネクスさんと焦げ茶の髪色の人が戦ってます……それに、ネクスさんが凄く押されていて、右手が、ない……です。」

「「「……っ!?」」」

三人の兵士はその報告に驚き、正人はすぐユーノがやっていた魔術を『真似て』中の様子を確認した。

(……勝てよ、絶対)

「正人さんも出来るなら僕にやらせる必要なかったじゃないですか!」

「いや、今初めてできた」

「そですか」

ジト目を向けて軽く溜息を吐くユーノ。

(そういえばこの人はそういう人だった)

兵士たちもそのありえない発言に驚きつつも…

「どうしますか?助けに行きますか?」

「いや、このままでいい」

正人は中の様子を確認しながら口にする。

「まさか見捨て──」

「お前らの上司を信じろ」

正人の言葉に肩を竦めて、目の色がすぐに変わる。

主人を信じるのは従者の務め。ここで信じなければいつ信じるというのだ。兵士三人は立ち上がり、背筋をビシッとさせながら扉をじっと見つめる。

「僕は助けるよ」

「ダメだ」

敬語でなくなったユーノの言葉に内心驚きながらも肩に手を置く正人。

「僕は全員に死んで欲しくない」

「それは俺も同じだ。本当に殺そうとしてるなら俺も止めに入る。だから今は抑えろユーノ」

真摯に告げる正人の目を見て、中の様子を確認するユーノ。そして視線を逸らしながら軽く頷く。

(僕が知らない間に正人さんとネクスさんの間に何かあったんだろうな)

明らかにネクスを擁護しているように見える。ユーノからしたら両親と面識のあるハック国王にも死んで欲しくない。でも正人はそれを見越して話しているのだとわかっていた。

もし、ここでネクスだけを擁護しているのだとしたら…それを押し切って玉座の扉を開けていただろう。



時間にしたら多分5分も満たない時間だった。正人もユーノも魔術の使用をせず…扉が開くのを待っていた。

そして……ガチャっと扉の開く音が聞こえて、全員がその扉を凝視する。

中から出てきたのは…オレンジ髪、オールバックが崩れているネクスの姿だった。

「「「ネクス様!!」」」

すぐ三人が駆け寄り、ネクスの安否に安堵する。微笑して応じてネクスはゆっくりと正人に近づく。

「…勝ったぞ」

「みたいだな」

正人も軽く微笑して、後ろから二人の影が見える。その影は……

「まさか、こんな結末になるとは思わなかったな」

リョウは頭を掻きながら玉座の部屋から出てきて…その後ろからずんぐりむっくりのつるっぱげで鼻の下にくるんとした髭をしている男…ハックの姿が出てきて、三人の兵士が驚く。

「どういうことですか?ネクス様…」

「あ?どうもこうもねぇよ…俺は元々話し合いが目的だっただけだ。それがうまく噛み合っただけだ」

少しだけ、気恥しそうに言うネクス。それを見てユーノと正人は互いに目を合わせて微笑した。

「…ユーノ」

ネクスは正人の隣にいるユーノに視線を逸らしながら話しかける。

「?」

「その…久しぶり、だな」

「お久しぶりですね。元気そうでなによりです」

「そっちこそ…その、なんだ……ごめ──」

「ごめんなさいネクスさん。学園にいた頃…あまり話せず……自分の魔力の特性を制御するのに必死でなるべくひととかかわるのはさけてきたんです」

「お……おう、そうか」

「ですが今は見ての通りかなり抑えられているので、お話ができます。次期国王になるんですか?」

「そう……だな、と言ってもすぐじゃねぇけど」

「そうですか。困ったことがあればいつでも僕を……僕たちを頼って下さいね」

「ありがとう」

かつて嫌いだった人間と再会し……その誤解が解けた。今はこれっぽっちも嫌いという感情はない。正人に感謝しないといけない。

「お前にも、すごい助けられたな。ありがとう」

「何が?」

「お前は分からなくてもいいんだよ」

きっと伝えても理解はして貰えないだろうから。父親と仲直り?をして、嫌いだったやつとも誤解が解けて話すことが出来た。最強の護衛の謎も分かり、次期国王の座を貰うことが出来た。これは、あの時ユーノの屋敷に来てくれたシーナとミア、そして話を聞いてくれた正人がいたからこそ、出来たことだ。

正人は肩を竦めて不思議そうにネクスを見ていたが……後ろからハックの姿が見えて少し身構える。

どうやら用があるのは正人ではなくユーノらしい。ハックはユーノの顔をまじまじと見つめながら……

「申し訳なかった。」

「大丈夫ですよ。僕はなんとも思ってませんので」

「……!?」

ハックも、正人以外の人間は驚いていた。殺されてもおかしくない状況だった。それなのにも関わらず、ユーノは恨むどころか会えて嬉しいという感情すらも感じとれる。優しい笑みを浮かべたままユーノは答える。

「僕を本当に殺すつもりなら、落下位置に律儀に藁を置く事なんてしませんよ。なので謝ることないですよ。両親とこれからも仲良くしてください」

「……仲良く……まぁ、そうだな」

視線を逸らしながらバツが悪そうにも捉えれる言い方でハックは答える。

そして……正人は申し訳なさそうにしているリョウに言った。

「俺も同じですよ。リョウさん」

「……同じ?」

「はい。仲良く……は難しいかもしれないですけど、支えてあげてください。二人を……」

妻と子供を殺されているのに何を言っているんだと少し考えてしまう正人。だがリョウは二人の家族愛というものを見て、憎しみが消えた訳では無いが正人の言う通り支えようと思った。

「そのつもりだ。ネクスには一本取られちまったしな。」

「いいじゃないですか。この風の都で最強の護衛と最強の次期国王……それを聞いた国民はまた一段と盛り上がります」

「……そうだな」

リョウは「ッハ」と笑いながら言った。

「俺たちは一旦屋敷に戻るけど、ネクスはどうする?」

正人は再度ネクスに視線を戻して話を切り出した。

「リョウと父さんには色々と話を聞かないといけないからな……先帰っててくれ。明日のどこかにでも顔を出すよ」

「そうか」

「待ってますよ。ネクスさん」

「……ああ」

頬をポリポリと掻きながらネクスは答えて、正人とユーノは屋敷に向かおうと振り返った。そしてハックが大きめの声で……

「敬礼!」

正人もユーノもその言葉に振り返らなかった。だけど、兵士の来ていたサーコートの擦れる音が何十にも重なり、正人とユーノに向けて敬礼をしたのがわかった。

「ユーノ!」

何かを思い出したかのように、ネクスはユーノの名前を呼ぶ。歩んでいた足がピタッと止まり……ネクスは聞いた。

「お前らの……パーティ名をまだ聞いてないと思って……」

ゆっくりと……ユーノは振り返り、マントを翻しながら答えた。

「流星の魔術団……」

「ダサッ」

「ダサいな……」

「子供のつけそうな名前だ」

思わずネクス、リョウ、ハックはそう答え、兵士たちは笑うのを堪えていた。正人は振り返っていないので顔を見ることは出来ないが……耳が赤くなっているのがわかり、ネクスはさらに笑っていた。

(帰りてぇ……)

正人は心の中出そうつぶやき、ユーノはみんなの反応を気にすることなく再度前を向き、足を進めていた。

歩いていく二人の後ろ姿を見て……ネクスは言った。

「まーでも、確かに流星みたいなやつらだったな」

「……そうだな」

リョウも納得するように言い、ハックは何も言わなかった。



王宮を出て、二人しかいないのを確認した正人はユーノに向けて一言……

「お前さ、自分であんなこと言ってて恥ずかしくねぇのか?」

「え?恥ずかしいですけど……」

きょとんとした顔で言うユーノに正人は額に手を当てて軽く溜息。

「ま、でもお前が無事で何よりだ」

「改めて、助けて下さりありがとうございました。」

地下牢での言葉を思い出し……ユーノは再度感謝の気持ちを伝える。

「感謝なんてしなくていいよ。んな事より、早く屋敷帰ってシーナとミアに会いに行こうぜ」

「そうですね!」

そう言って、屋敷に向かう正人とユーノ。

頭の中で地下牢に置きっぱなしにした一人の兵士を思い出し……

(あの人……結局どうするんだろ)

心の中で呟く正人であった。

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