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最強の護衛

作戦会議が終了し、部屋に戻って魔術と魔法の違いを確認していた時…

「魔術って色々とできるんだな」

正人が独り言を吐いた所で…扉のノックオンが聞こえた。

「どうぞ」

扉の方を見て入るように促す。ガチャっと言う音と共にその姿が見えて正人は怪訝な顔になる。

「…お前か、どうした」

そこに立っていたのはネクスだったのだ。先程まで会話をして、解散をしたはず…それに、ネクスの表情は結構深刻そうな顔をしていた。

「ちょっと、話したいことがあってな」

視線を逸らし、口ごもりながらも…ネクスは続けた。

「最強の護衛…俺はあった事ないし、兵士たちの間では伝説になってる事なんだけどよ…心当たりがあるんだ」

その言葉に正人は目を見開くが、何も言わずにネクスの話を最後まで聞こうとしていた。

「その正体が俺は…リョウなんじゃないかと思ってな。」

なんとなくそう言われるんじゃないかと思っていた。初めてギルドで会った時も、正人はすぐに「強いな」と感じていたし、案の定ネクスの師匠的なポジションだ。納得のできる事なのだが問題は…

「仮にそれが本当だとして、何で俺たちに協力するんだろうな」

「それなんだよ。しかもあの感じじゃクソ親父に何も言ってないんだ。」

(ってなると…最強の護衛は本当にハックがピンチの時にしか現れないってことか)

それに…ハックはリョウの妻と子供を殺している。

「リョウは俺たちに協力をしている。ハックに恨みを持っている。これは紛れもない事実だ。それなのに何故バックの下についているのか…」

「何か弱みを握られている…?」

「……しかないだろうな」

そうじゃないと説明がつかない。普通なら妻と子供を殺されてバックの下から離れないのはおかしい。だがまだそうと決まったわけじゃない。ここまで話しているのは二人の勝手な解釈で妄想なわけで…リョウが最強の護衛かはまだ分からない。

…その場になってみないと。



「……ッ!!??」

右の手首が地面に落ち、血が飛び散る。

結果…あの時話したことは全て、本当だったらしい。

「何故魔力の特性を使わない」

リョウは睨みつけながらネクスに問う。

「……」

痛すぎて、それどころじゃない。何か言わないといけないのに…声が出ない。

「ハッハッハ…そうだ。お前は俺の命令に従うしかないのだリョウ。」

後ろから聞こえるハックの声を気に留めることも出来ない。ネクスの魔力の特性…それは…『超回復』今までのネクスなら、手首を切られれば魔力の特性を利用して切ったそばから再生させる。だが…今回は使っていない。リョウはそれに疑問に思っていた。

ハックは不敵な笑みを浮かべてリョウを見ながら口にする。

「お前は俺がピンチの時は絶対に助ける…それが、お前と俺の契約。妻と子供を思うのなら…の話だがな?」

その言葉で、一瞬リョウの目がひくつく。ハックの言葉を聞かないようにしてネクスに向かって走り出す。

(クソ親父の言葉で、分かったことがある)

リョウは俺たちの作戦を話していなかった。それは故に裏切っていないという証拠。だが…俺はリョウと戦わないといけない。

いや違う…最強の護衛と…戦わないといけないんだ。

一瞬で迫り来るリョウ、振りかざされている剣。ネクスは左手で剣を抜きリョウの剣を防ぎ、すぐに右手首を生成させて右手に持ち替えようとした所で…リョウは右足で軽く蹴り飛ばして距離ができるとそのまま体を回転させて左足でネクスの剣を蹴った。

「……ッ!?」

右手に持ちかえることが出来なかったネクスは左手で剣を握りながら地面を擦り飛ばされる。

(どんな身体能力してんだよ…おかしいだろ)

ネクスは飛ばされながらもリョウの強さを再確認…だがリョウはそんなのお構い無しにネクスの態勢を整える時間を与えずすぐ接近してきていた。

互いの剣が衝突する。その瞬間ネクスの頬や服、様々な箇所に切り傷が出来てしまう。

(剣の周りに斬撃が常に飛び回ってるってことか…このまま剣同士がぶつかり続けてたら俺の体が持たねぇ…!)

かと言って右手で剣に触れないと魔術の発動はできない。

そう…ネクスの最大の弱点。それは魔術が右手でしか発動できないこと。その補いとしてネクスは剣術を覚えたのだが、右手で剣に触れ魔術と使うということに変更してから左はほとんど使ってこなかった。

「どしたぁ!?お前をこんな貧弱に育てた覚えは無いぞ!?」

「…くっ…」

剣が剣を弾き、リョウの体は傷一つ付いていないのに対し、ネクスはボロボロ。

(…どうするか…)



いつかの出来事だった。

『ネクス、相手の予想できない動きをしろ。相手の動きを利用して戦うんだ。』

『何言ってんの』

『真剣だが!?』



前はなんて言ってるか分かんなかったけど今ならなんとなく…それがわかる気がする。

(相手の動きを利用する…)

リョウはネクスが右手を使おうとした時にそれを阻止する動きに回る。それを利用して左の剣で斬り込む!

リョウはスピードを弛めることなくネクスに走り、剣を振りかざす。そのタイミングで右手を使い動きを誘発させる。

(かかった!)

リョウはその動きに反応して一点集中してきている。右手に持ちかえるのをやめて、魔力の特性を利用して右手が切られたそばから再生。

「…っ!?」

ネクスの策略がリョウにも理解することが出来、ニヤリと笑みを浮かべながら防御態勢に切り替える。

左手で振りかざした剣はリョウの体にあたることはなかったが、距離をとることに成功した。

「いい動きだネクス」

「そりゃ…どうも!」

かつての師匠からの褒め言葉、それに少しだけ嬉しさを感じつつ…ネクスは構えをとって右手で剣を触れた。

瞬間、斬撃がリョウに襲いかかる。ユーノの屋敷で使った何倍もの斬撃。リョウは剣の周りにまとっている斬撃を飛ばすように剣をその場で振り、飛んでくる斬撃を相殺。

再度互いが走り出す。

(もうこの右手は絶対に離さない)

無数の斬撃を飛ばしながらネクスはリョウに向かって走り出し、リョウはそれを弾きながらネクスに向かって走り…接近する。

(成長したじゃねぇか)

弟子の成長を目の当たりにして思わず笑みがこぼれてしまう。

そして……互いの剣が勢いよく、ぶつかり合う。

金属音が玉座に響き渡り、それを観戦している兵士、バッグも目を見開いてその戦いを見ていた。

あの伝説と言われた男…最強の護衛とここまで渡り合えているという事実。誰もが勝てないと思っていたからこそ…ネクスの躍進に驚き、勝利を願っていた。

互いの剣がぶつかり合いながら、互いの斬撃が攻撃し合う。リョウが力を入れたのに反応してネクスは力を入れるのと同時に風を飛ばした。

「……!?」

本当に、一瞬だった。

隙ともいえない、少しの揺らぎだった。

リョウは力を入れて斬撃の数を増やそうとしていた。だがネクスは斬撃を飛ばすどころかそれに加えて風を飛ばしてきていたんだ。

一瞬だけ…リョウの体がよろける。

ネクスはその一瞬の揺らぎを逃すことなく、踏み込んで斬りかかった。

瞬きをする間に2連の攻撃をし…リョウの両膝は地面をつく。

「…ガフッ」

血が地面に吐血する。ネクスは勝利を確信して剣を鞘に収めた。

「嘘だろ!?どうしてお前がこんな雑魚に負けるんだ!リョウ!!」

悲鳴をあげるように言うハック…周りの兵士もみな、驚いていた。

リョウはふらつきながら立ち上がり、微笑しながら言った。

「こんな雑魚?んなわけねぇだろうが…こいつは今、風の都で1番強い人間になった」

「……リョウ…」

ネクスはそこで…理解した。

「俺はな…お前が憎かった。憎くて憎くて仕方がなかった。だが俺はお前の護衛をやめなかった。どうしてか分かるか?」

「…ッ…」

その笑みは、ハックにも伝わった。

「ネクスが俺を討ち取り『新しい風の都』作り出すためだ」

「あんた…この瞬間をずっと狙って…」

「ずっとでは無いさ…お前と再開してお前の意志を聞いて、こうすると俺が決めたんだ。」

「こんな…こんな事あってたまるか!!!!」

ハックは受け入れられないという勢いで兵士に指示を出した。

「お前ら何をぼーっとしている!この2人をさっさと殺せ!!!」

その言葉で動く兵士は…誰一人としていなかった。

「終わりだな…父さん」

「……!?」

ネクスはハックにゆっくりと近づきながら言った。

「…くるな」

「もう一度言うが俺はあんたを尊敬してたよ。でも、そのやり方はここで終わりだ。」

「…くるな!」

ピタッと止まり、ハックはネクスを見上げる。その表情は、殺意でも、悪意でも、憎悪でもない。少しだけ、笑っているようにも見える顔をしていた。ハックはそれが心底いやで…

「その顔がムカつくんだよ…なんでお前は俺とは違うんだ!」

このやり方しか知らない。知らないから…息子を遠ざけるように振舞ってきた。それが気持ち悪くて仕方がなかった。でもネクスは次期国王を諦めないどころか、ここまで行動を起こした。

「父さん、俺は父さんと喧嘩したい訳じゃないんだ。ただ話がしたくて来ただけなんだよ。」

周りの兵士を見渡しながら言って、バックを見る。

「俺は国王になりたい。でも、俺に足りないところは当然あると思う。全部任せろとは言えない。父さんの力も借りたいんだ。」

「…!?」

思いもよらない言葉に一瞬思考が停止してしまう。

それはハックだけではなく、周りにいた兵士も同じだった。

「何を…言って…」

「この世の中は綺麗事じゃ上手くいかないのは知ってる。でも父さんはずっと闇の中で生きてきた。俺はその闇を緩和させる。といっても、全部取り除けることは出来ないと思うけど…」

そう…この世の中は闇もあるんだ。でも、闇だけで生きていかなくてもいいように、ネクスは父親を少しだけ庇うようにして言った。

「どうして…俺を殺さないんだ。」

怖いものを見るような目で…怯えながらネクスに問いた。ネクスは真摯に告げる。

「父親だから。」

ネクスだって、最初は父親を殺そうとした。

こんなクソ親父、生かす価値もないと思ってた。

だけど父親は父親だ。父親をここで殺してしまえばネクスは一人になってしまう。

そしてそれを…ハックも気づき、顔を背ける。

「…やっぱ、甘いなお前は」

ハックは独り言のようにそう言い…

「いいだろう。お前に次期国王の座を与える。」

「ありがとうございます。この国の顔になってみせます。」

二人の会話を聞いて…見て。リョウもハックを殺すのを辞める。

(こんなの見せられちまったら…できねぇよ)

妻と子供を殺され、弟子に負けて…ハックを殺して自分も死のうとしていた。でもその家族愛を見せられてしまえば出来ない。

(いいなぁ……家族)

リョウは、二人を見て…そう思った。

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