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親子喧嘩

最初に王宮内に向かったネクス。予め伝えてあった兵士何人かがこの日の夜番担当。正人に協力している二人…ネクスの父親であるハックの護衛に付いているのが三人。そしてネクスの直属護衛である二人の兵士。合計七名の兵士…少ないと思うがこの人数が一番手っ取り早くことを片付けることが出来る人数。もちろんもっと人を増やすことは出来た。だが、逆に人数が多いとやりにくいと考えた三人は少数で動くことを決めたのだ。

「とはいえ、正人についてる兵士一人は…難ありだが…まぁなんとかなるだろ」

そう言いながら頭を掻き、直属護衛の二人と合流する。

「ハックは玉座にいるか?」

「はい。ネクス様の指示通り、殿下の護衛と入れ替わり傍にいます。」

「そうか…あいつの事だ。俺が向かうということも理解しているはず。」

「我々は貴方が国王になることを望んでいます。信じていますよネクス様。」

「…ああ、ありがとう。」

一人の兵士が想いを伝え、ネクスはその思いに答えるように頷き、感謝を伝える。

(次期国王になるか…殺されるかの二択…か)

コツコツと歩きながら玉座に向かう。あのクズには…最強の護衛と言われるあいつだけの直属兵がいる。ネクスも聞いたことがあるだけで見た事はない。

今回、その最強の護衛と言われるやつと戦えるかもしれない。その楽しみも少しだけあった。

そいつを倒せばネクスはこの風の都のヒューロン家で1番強いということが証明出来るからだ。

だが…妙だ。

「明らかに人が少ないな。」

「…ですね」

「何かあったのでしょうか?」

二人の兵士もわかっていない様子。普段必ず兵士がいる場所にその姿はない。急に…人がいなくなったかのような感覚。

そして玉座に近づけば近づく程…変な胸騒ぎが強くなる。そこで…理解した。

「やっぱ…この程度じゃすぐ気づくか」

だがこれは想定内…いや、狙い通りと言うべきか。

変なことをして問題を起こすより、こうする方がいいとネクスは判断した。何故なら父親であるハックと話すには…もっとも有効的な手段だったからだ。

しかし、この感じでは父親は話すつもりは無いらしい。

「お前ら…もう着いてこなくていい。」

「…っ!?」

「しかし──」

ネクスはそう言いながら立ち止まり、護衛二人を見て…告げた。

「この先はきっと、戦いになる。幸いにもここは王宮だから風の都の住人にバレることは無い。」

護衛二人は…ネクスが何を言っているのかを理解した。理解してなお…顔を背き、肩をすくめることしか出来なかった。何故なら──

「もし、俺がこの玉座の扉から出てこなかったら…」

そこまで言いかけたところで、ネクスはその先の言葉を言うか辞めかけていた。

(俺だって…今までクズをしてきたんだ、こんなの虫が良すぎるよな)

…そう思っていた矢先。

「ネクス様…我々は貴方の学生時代を知りません。ですが貴方と同じ学園に通っていたものから聞いたことがあります。」

「?」

急にそんなことを言い出すのでネクスは思わず首を傾げてしまう。

「『尊敬できるお方だった』…と。」

「そしてそれを言っていたのが…ユーノ様だったのです。」

「…っ!?」

どうして…今になってそれを言ったのだろう。

愚問だ。

それは、俺が原因だ。

俺はユーノが嫌いだったからだ。

でも…こいつらは最期になるかもしれないから伝えたんだ。

やっぱ…俺もクズなんじゃねぇか。



ユーノは始まりの街からあまり外街や外国には行かない。行くとしても親の都合で少し顔を出す程度…。

以前、ユーノはこの風の都に来ている。

その時、ネクスはリョウと一緒に出張に出かけているとの事だったので当然知る由もない。

王宮に案内されたユーノの家族。両親はハック国王と面談。ユーノは挨拶だけして待合室に案内されていた。

「(ユーノ様だ…お前話しかけろよ)」

「(なんでだよ!めちゃくちゃ怖いって聞くぞ?)」

兵士たちはあの有名なアタギ・カイのご子息を前にしてたじろいでいた。

「ネクスさんは…いらっしゃらないのですね。」

兵士の顔を見ずに、ユーノは言った。顔を見れば魔力の特性が発動してしまうから。

そして続けて言った。

「あの方ともう一度お話がしたかった…学園ではとても、尊敬できる人だったので…」

「「「!?」」」

そこにいた兵士たちは皆、驚いていた。



真摯に告げる護衛を見るネクス。そして軽く微笑して言った。

「そんじゃ、行ってくるわ」

敢えて触れない。今ユーノに触れてしまえば、変な癇癪を起こしてしまうと思ったから…。

だが兵士たちはその軽い微笑を見て…理解していた。

きっと、この人はもう…ユーノのことは嫌いじゃないのだと。

そしてネクス自身も…

(ちゃんと帰ってきて、あいつと話してぇな)

そう心で呟いて玉座の扉を開け、その中へと入っていった。

「待ってます。ネクス様…」

ネクスを見送ったすぐ…一人の兵士が音もなく、血を流して倒れていた。

「…っ!?」

体が仰け反り、警戒した時にはもう…遅かった。

「安心しろよ。殺しはしてねぇから」

耳元でそう囁かれ…横目でその姿を確認する兵士…

「…あなたは──」

すぐさま右手で兵士の顔を覆い、魔術で催眠をかけて眠らせる。眠った兵士をゆっくりと寝転がせ、横で血を流して倒れている兵士の傷を癒し、催眠をかけて再度眠らせる。



玉座の扉を開き、ネクスはその光景に驚いた。

ズラーっと兵士が並び、一つの道ができていた。その先には玉座に座っている父の姿…ハック・ヒューロンがそこにはいた。

(兵士がいなかった理由はこれか)

軽い舌打ちをしたタイミングで、玉座に座り頬杖を置いているハックが口を開く。

「お前には失望したぞ…ネクス。わしはあいつらを殺せと…命じたよな?」

「お父様──」

「口答えをするなぁ!」

鬼の形相で怒号を浴びせるように言うハック。息子の裏切りにご乱心だ。そしてクズのハックが次にとる行動はネクスも分かっていた。

「責任…取るよなぁ?」

「……」

拳を強く握り、父親を睨みつけるネクス。

「なんだよ。その顔は…それが父親に向ける顔か?」

「その態度が息子に向ける態度かよクソ親父が」

「…っ!?クソ…おや…じ?」

今までネクスは父親にいい顔をして接していた。その変わりように目を見開き、腰を抜かしそうになっていた。

ネクスがそんな言動をすれば当然…

剣を持ち、兵士が二名ネクスの前に立ちはだかる。その兵士は…ネクスが協力を仰いだ兵士たちだった。

「こんな早く対応されるってことはお前らが言ったんだな?」

「…だったらどうする」

「別に、どうもしねーよ」

「「…!?」」

兵士はネクスの言葉に驚きもしつつ…恐怖していた。何故なら、ネクスはその兵士たちを見ていなかったからだ。依然として…父親をじっと見つめるネクス。

「…どけ」

ネクスがそう言って一歩足を運ぶ。どくつもりは無かったのだろうが、兵士たちはその言葉に思わず身を引いてしまった。

「何をしている!お前ら…こいつを殺せ!逆らうやつは皆殺しだ!」

ハックは大声で言うが…並んでいた兵士は、ネクスの放つ魔力に身動きが取れなくなってしまっていた。

本能が言っている。動けば一瞬で殺される…と。

ゆっくり…ゆっくりと父親の座っている玉座に足を運びながらネクスは口を開く。

「俺はあんたと話したいんだ」

「お前と話すことなど何も…」

遂にハックもネクスの顔を見てビビる。だが…それを意に介さず続けて話すネクス。

「俺は、あんたを尊敬してたよ…心から。常に風の都の為に動き、この国を良くしてきた。街の雰囲気がそれを物語ってる。」

「……何が言いたいんだ」

奥歯をギシギシと噛みながら、睨みつけるハック。

「なんで俺が次期国王になったらダメなんだ?弱いから?ユーノに勝てなかったから?」

「……」

「違うだろ?俺にあんたみたいな政治力が無かったからだろ?」

ネクスのその言葉に、ハックは顔を背けるように俯いた。ハックの学園での活躍は聞いていた。人脈が広く人望もあつい。それは国のトップになることでは重要なことだ。

でも…

「俺が人に甘いってのを…父さんは知ってたから次期国王の座を取り消したんだろ?」

そう。こいつは甘いのだ。誰に対しても。だからこそハックはユーノに勝てたらという条件を出した。

自分で甘いなんて言うのはおかしな話だが、ネクス自身もそれは分かっていた。そこが…自分の弱点なんだと。

ハックは俯いたまま…語り出した。

「そうだ。わしはずっとこの国のために捧げてきた。だがお前は甘いからこのままではダメだと思ったんだ。」

ダメなんだよ。このままじゃ…。

「だからわしは!お前が強くなるようにユーノを超えるように指示を出した!そして今、そのチャンスがあったのにも関わらず、お前はわしを裏切った!」

俯きながら話していたハックが顔を上げてネクスを睨みつける。

「どうしてだ!どうして…」

…殺意も、憎悪も…悪意すらも感じない…至って普通の…息子の姿がハックの目に映る。

それが…ハックのしゃくにさわり、息子から逃げるように…

「裏切ったのには変わりない!お前はここで処刑されるんだ!!!」

実の息子に告げて、玉座の扉が開いた。

コツ…コツ…と、足音をゆっくり立てながら迫り来るその姿を見て安堵するハックと驚愕する兵士。ネクスは後ろを振り向かなかった

「…来たか!!」

嬉しそうな声を上げるハック。ネクスは見ずにわかった。

今、後ろには最強の護衛が来ているのだと。

そして…

「最強の護衛は…あんただったか」

「…の割には驚いた様子も、こっちを振り向く気も無いんだな?」

フッという音を鳴らしながら、微笑する最強の護衛。

ネクスはそのまま振り向かず…問うた。

「俺は今から…あんたと戦わないと行けないのか?」

「どうなら、そのようだぜ?」

軽く溜息を吐き、振り返る。そしてその姿はやはり…ネクスに剣を教え、ユーノ奪還作戦に参加していたリョウの姿があった。

焦げ茶の髪をし、腰に剣を備え立っている姿が…

「リョウ!!お前が今こうして生きている意味を忘れるな!!妻と子供を思うのであればな!!」

後ろから胸糞悪い声を聴き逃し、互いに構えを取るネクスとリョウ。

「…お前がどれぐらい強くなったのか見てやるよ」

「……」

出来れば…戦いたくない。出来るのであれば…二人で父親に反抗してこの王宮から追い出したい。

でも…それは出来ない。

ネクスも分かっていた。リョウもこうなることは分かっていた。

この戦いできっと…どちらかが死に、それが風の都の国民に知られることもなく普通の日常が訪れるのだろう。

剣を抜くリョウ…ネクスは構えをとったまま、右手で剣に添えようとしたその直後──

「……っ!?」

次の瞬間には…ネクスの右手は地面へと落ちていた。

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