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ユーノ奪還作戦

時刻は23時過ぎ…夜の王宮前に集まるリョウ、正人、ネクスの3人。

「よし、兵士が見回りに出掛けたな。俺が他の兵士を惹きつけるからリョウは見回りの兵士が帰ってきたら相手を頼む。正人は昼間に伝えたルートで協力兵と合流した後、ユーノを救出に向かってくれ」

端的に、昼間話した作戦を振り返るように話すネクス。リョウと正人は頷き、合図とともにネクスは王宮の中に入っていった。

(なんか…ちょっと楽しいかもなこれ)

始まる前に、正人はらしくないことを考えていた。修学旅行で女子の部屋に行く時のあのドキドキ感…勿論正人はそんなことしたことも無いし、友達もいなかったので想像するしかないのだが…こんな感じなんだろうなと考える。

無論…この状況でそんなことを考えるのは正人くらいだろう。いつも通りの無表情に近い表情でそんなことを考えながら、兵士と王宮の中に入っていくネクスを見て、一瞬こちらを振り向き瞬き2回。それがGOのサイン。それを確認した正人は素早く地下牢に続く道へ走っていく。

走る瞬間、リョウと目を合わせ…互いが頷く。

(それじゃ、また後で)

(おう…気ぃつけろよ)

心の声が聞こえる訳では無いが、互いに何を言っているのか理解はできた。

正人の背中が見えなくなったところで、リョウは王宮の階段を上った。

頭を掻きながら…やれやれと言わんばかりに。そして軽くため息を吐いて…

「さて…始めますか」

額に手を当て前髪をかきあげ、腰に剣を添えてそう呟いた。



王宮の中に入り、地下牢に続く階段が目に入り…そこにはネクスが話していた兵士たちの姿が目に入る。

その兵士も正人の姿を確認したのか警戒を解き、すぐに地下牢に続く階段の扉を開けた。

「…こちらです」

開けられた扉にさっと入り、1人の兵士が正人に同行、もう1人の兵士はその扉の前で待機という形をとる。

そして階段を降りながら1人の兵士が正人に話しかけた。

「ネクス様から話は聞いております。時期国王になるため力を貸していただけると…」

「慕われてんだな…ネクスは」

「えぇ、この王宮の兵士の中でネクス様が時期国王になることを望んでいないものはいないでしょう。」

「そうか…そいつは結構」

螺旋階段上になっているのでグルグルと回りながら降りる正人たち。

「ネクスの親父…ハック国王は今どこだ」

「殿下は玉座に居るはずです」

「ネクスの作戦通りってわけだ」

そこまで確認して、正人は疑いもなく尋ねていた。

「ハック国王には何をされたんだ?」

その兵士は頬をひくつかせていたが、正人は階段をおりているのでその表情は見えない。

一瞬の沈黙に正人は少し疑問するが、そのすぐに言葉が返ってくる。

「殿下には…家族を人質にとられています。俺だけじゃない。他の兵士も妻や子供、親や兄弟を人質にとられ、その中には殺されたやつもいます。」

「…そうか」

込み上げてくる怒りを抑えて、正人はその言葉だけを返した。

やはり、クズだった。

でもどうして、そのクズがずっと国王でいられるのだろうとも思った。

兵士たちの人質…逆らったら殺されるのだろう。でもそれだけじゃどうにも説明がつかない。

もっと他にあるはずなんだ…。

そう考えているうちに階段が終わり、ユーノが囚われている牢屋へと向かう。

「ユーノは無事か?」

「はい。誰も指一本触れていません。」

その言葉に安堵しつつ…ユーノの牢屋に着いた正人と1人の兵士。

「…正人さん!?」

「良かったユーノ…無事で…」

「正人さんも捕まったんですか!?」

「いや違ぇよ」

目を見開いて驚きながらアホなことを言うユーノに正人はジト目でツッコんでから簡潔に伝えた。

「シーナとミアは無事だ。俺はハック国王の息子と協力してお前を助けに来た」

「ネクスさんが!?」

シーナとミアの安否を聞きホッとしたのと同時に、正人の口から聞くはずもないであろうと思っていた名前が飛んできてユーノは再度目を見開いた。

「ネクスが王宮にいる兵士を使ってくれてるんだ」

「…なるほど、そういう事ですか。」

ユーノは顎に手を当てて納得する。ネクスは学園時代で少し話したことがある程度…という認識のユーノは思い出すように頷く。

(確かにネクスさんの人脈なら理解はできますが…こんな簡単にことが進んでいるのもおかしな話だ)

正人が来てくれたのはたしかに嬉しい。来てくれるとは思っていたけどまさかこんな早く来るとは思っていなかったから。ネクスだけの協力があっても不可能だと分かっていた。

「正人さん…ネクスさん以外に協力者はいるんですか?」

「まぁいるけど…ってんなことより、今鍵を開けるから待ってろ」

差し出された鍵を受け取り、牢屋の鍵を開けようとしている正人。

ユーノは考えるようにしていたのでその様子を見ていなかった。そのせいなのか…

ドスッという音が聞こえてその方向に視線を送る。

「正人さん…!!」

見れば正人が兵士の攻撃を右手で受止め、片膝が地面に着いていた。

「てめっ…なんで…」

兵士は剣を振りかざし、右手は魔力で覆っているので切り傷は一つも付いていない。だが、肝心の魔術や魔法といったものが出せなかった。

「…っ!?」

正人はすぐにそれに気づき、兵士の方を見るとにやりと笑みを浮かべていた。

「俺の剣は触れれば魔術の発動が出来なくなる…俺はずっと、ネクス様に仕えていた兵士だがそれはハック殿下に命令されていたから…」

「…っち」

そういう事か。先程の一瞬の沈黙も理解ができ、剣を右手で力強く握りながら問うた。

「ハックに人質を取られてるんじゃないのか?ネクスが国王になればそれも開放されるんだぞ?」

「分かってるさ…そんなことは!」

奥歯のかみ締める音と剣を強く握る音が響き渡る中、兵士は続けて口を開く。

「ネクス様が時期国王になるのは誰もが望んでる!それは俺もだ!」

「…だったら──」

「でも!確かにクズだけど、ここまで風の都が平和なのはハック殿下のお陰でもあるんだ!」

「「…っ!?」」

正人も…ユーノも、その言葉に目を見開く。

「魔術もろくに使えない国王だが、いつも風の都を思って行動していた。やり方は汚くとも…だからここまで平和でいられた!今失ったらダメなんだ…」

言っていることは…きっと正しいのだろう。不満がある人間は沢山いるけれど、確かにこの街は平和だなと感じていた。

街に出かければ明るい人達が話しかけてくれる。それもきっと、ハック国王のおかげなんだろう。やり方を知っている人間だけが…不満を持っている。

「上に立つって言うのは…そういう事なんじゃないのか?平和の裏にはいつも闇がある。ハック殿下はそれを全部自分で受け止めていた。」

「…っ」

何も…言い返せなかった。その通りだと…思ったから。

闇は絶えない。そんなものわかっている。でも、約束したんだ。今目の前には助けたい仲間がいて、それに手を貸してくれる仲間もいる。

「お前の言っていることは正しいよ」

「…正人さん?」

「でも、ネクスはその闇を知りながらも…時期国王になりたいと言っている。それは偏に…一番にこの国のことを思っているってことなんじゃないのか?」

「…!?」

正人は知っている。泣き崩れるように言っているネクスの姿を。クソ親父だと言いながらも、この国を今まで支えていたことに関しての敬意を。この闇を知ってなお、時期国王になりたいと言っている。子供の戯言ではない。

正人の言葉にハッとしたのか…剣に入っていた力が抜けているのを感じた。

「今きっとネクスとハックが話している頃だろうよ。その結果でお前の今後を決めればいい。」

「……」

ガチャンッとユーノの牢屋の鍵が開いたところで…慌ただしく降りてくる1人の兵士がいた。

「…正人様!」

「?」

「よかった…ご無事だったんですね」

その兵士は先程扉の前に立っていたもう1人の兵士。どうしてここに来ているのか疑問に思う正人。

「どうして…ここに…」

「頑なに牢屋には俺がついて行くと言っていたもので…少し気になって後をつけてみたんです。兵士として有るまじき行為ですが…」

自分のとっている行動に反省をしながら言う兵士に正人は頭を振った。

「いや、そんなことはない。ネクスを大切に思っているってのが伝わった。」

見ただけで分かる。正義感が強く、言ったことを守る人間なんだと。この兵士は戸惑いを正人やユーノに見せていたから…命令を裏切ってまで従者の協力者を心配する気持ちと、従者に対しての忠誠心。どちらも読み取れる行動だった。

だからこそ、正人はその言葉を伝えたのだ。

鍵を開けた牢屋からユーノを出す。

「改めて、助けてくれてありがとうございます。正人さん」

「礼はこの王宮を出てからにしてくれ…正直大変なのはここからなんだからな」

「…ですね」

そう…先程も言ったが今こうしている間にも上ではネクスとその父親が話をしている。当然上手くいかないだろう。戦いになるということも全員覚悟している。

それをユーノも理解し、頷いていた。

「上には兵士はいません。外で巡回している兵士以外は皆、帰っています。」

「そうか…さすがネクスだな」

だがその父親がそれに気づいていないわけが無い。

「油断はするなよ。さっきも言ったがここからが正念場だ」

「はい」

そう言ってユーノと正人は降りてきた兵士と共に階段を上がろうとして…

「すまなかった!時期国王になって欲しいのは俺も同じだ。でも──」

「言ったろ。お前は正しい。この戦いの結末の後、じっくり考えればいい。」

正人はそう言い残してコツコツと階段を駆け上がった。

1人残された兵士…両膝を地面に着けて、ポツリと…地下牢の廊下に取り残されていた。



王宮の中に繋がる外階段にて。焦げ茶の髪色をし、腰に剣を添えている一人の男。

外回りから帰ってきた兵士がその姿を見て驚愕する。

「…どうして、あなたが──」

瞬きをする間に2連の攻撃をし、兵士はドサッと地面に倒れ込む。

シューッという音と共に、剣に着いた血痕を振り払い…その男はコツコツという音を鳴らしながら王宮の中に入る。

その男の名前は…リョウ・ミスク・ヒューロン

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