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悲惨な屋敷と叫ぶ思い

それは…唐突の出来事だった。

シーナとミアが見習いメイドになって2時間ほどが経過した時の事だった。

ネクス・ヒューロンの部屋にて…

「その、つかぬ事を伺いますが…ユーノ…坊っちゃまとは一体どういう関係なんでしょうか…」

眉をピクピクとひくつかせて尋ねるシーナ。ミアはその恐ろしい光景に目を瞑りながら心の中でつぶやく。

(なんで今そんなこと聞くの!わかるけど!気持ちはわかるけど!)

シーナの発言に座っていたネクスは眉を引くつかせる。ユーノの話になると顔色が変わり、豹変するネクスに興味半分、この際ユーノとはどういう人物なのか知れるという探り半分で聞いていた。女好きの影響なのか…今はただ怒る気分じゃないのか、軽く溜息を吐いて視線を逸らしながら話し始めるネクス。

「あいつは、通っていた魔法学園で優秀だった。」

「確か…首席で卒業したのですよね?」

「ん?…あぁ、そうだ」

シーナの発言に首を傾げるが、そのまま続けて語る。

「ずっと…ずっとあいつは1位だった。俺はあいつの背中を追いかける日々だった。時には諦めようとしたんだ」

当時のネクスには友達もいて、ユーノに続き優秀と言われていた。一人でいるユーノとは違う部分で勝っているから…それでいいだろうと思っていた。

でも…

「ある時父親が言ったんだ…ユーノを追い抜かさなければお前は次期国王の座から降ろす…ってね」

そこからが地獄の日々だった。

「何をどうやってもあいつに勝てない。魔術面でも技術面でも…あいつは1人でどんどん強くなっていくのに俺は…何も出来なくて…」

「父親が…嫌いなの?」

シーナはメイドの所作を忘れて、ポツリと呟くように言った。

「あぁ…嫌いだ。大嫌いだ。でも…それ以上に俺はユーノが嫌いだ」

父親のことが嫌いというのをユーノに押し付けるように言うネクス。声を震わせながら言っていたその姿にシーナは続けて口を開く。

「ユーノと、友達になりたかったんじゃないの?」

「…っ!?」

歯を食いしばりながら目を見開くネクス。核心をつかれたのに対して驚いていたのだろう。そして…

「友達…かは分からないが、俺はあいつのことを尊敬していた。だがいつの日か話しかけた時、あいつは俺を拒絶した。侮蔑の目を向けるように…魔力の特性を活かして…」

体に纏っていた魔力が風のように渦を巻き、壁にかけられていた壁画は落ち、机の上に置いたあった花瓶やツボがヒビを割っていた。

シーナもミアも気づいていた。ネクスという人間は…国王のように屑ではないのだと。ユーノのことは確かに嫌いかもしれないけど、それは誤解なのだと…シーナは説明をしたかったがどうすればいいのか分からなかった。

優秀すぎるが故にその力を恐れた父親…それを越えなければ次期国王につけないネクス。このドロドロなものを断ち切るのは今のシーナとミアには無理だった。

(正人なら…この時どうするの…なんて声を…)

「ネクス様…どうしたいのですか?」

シーナが考えていると横からミアの声が聞こえてきていた。真摯に聞くミアの顔を見てシーナは目を見開く。

「どうしたい…か、国王にもなれない俺に…どうするもクソもねぇよ」

「本当はこの屋敷のことも、どうでもいいのでしょう?」

「……すごいな。お前らは」

俯き、弱々しい声で放つネクス。

確かに…どうでもよかった。

父親の言うことを全て無視してやりたい。でも…この屋敷にユーノの仲間が来ていることを知らされた時…。



「ネクス、この街にユーノとその仲間が来ているらしい。そいつらを殺せば、次期国王の座を与えよう」

「本当ですか!?」

「ああ…ユーノはこちらで対処しよう」

父は玉座に座りながらニヤリとした笑みを浮かべて言っていた。



悪魔の囁きとも言えることを言われこの屋敷に出向いてみれば…俺は何をやっているのだろう。

見習いメイドに…なんて無様な姿を見せているのだろうか。

仮に、ユーノの仲間が来ていたとして…勝てると思えなかった。

唯一…勝っていた取り柄があいつにも出来、何も勝てるものが無くなった俺は…どうすればいい。

そう考えているうちに、部屋の扉が開き…

「ネクス様…失礼します。ユーノ様のお仲間がこちらへ向かってきています。」

「…来たか!」

(正人…!)

(正人さん!)

ミアとシーナが内心…喜んだ所でネクスはその空気を逃さなかった。

「空気が変わったな……てめぇら、知ってんのか」

「…いえ、そんなことは…」

次の瞬間…シーナはガシッと首元を掴まれていた。足が宙に浮きバタバタともがく。

「考えてみたら…色々とおかしな点があったよな。てめぇら、ユーノの仲間だな?」

「…っ」

このままシラを切るのは無理だ。でも…この少しの時間でネクスという人物は分かった。

屋敷の人間には日々の八つ当たりとして使っていること。

父親、ユーノがとにかく嫌いで恨み、憎んでいること。

だからこそ…

「そう…よ、私たちは…ユーノの仲間。でも、あなた達に危害を加える気なんて…」

そこまで言ったところで掴んでいた首元から手を離し、横腹に蹴りを入れてシーナを飛ばしていた。

「すまないが…お前らを殺せば次期国王になれるんだ。もし…それが無かったらお前達に耳を貸していたかもな。」

(くそ…ダメだった…)

やはり…手を回していたかと…シーナは視界が薄れていく中自分の安直さに後悔した。

そしてネクスは腰に着けている剣に手を添え告げる。

「俺の魔術は剣に触れれば発動される…一歩でも動いてみろ…お前たちの四肢は無くなるぞ」

「…っ」

当然、その忠告が他の部屋にいるメイドや執事に届いているはずもない。玄関にいた人間から通路にいた人間…全員が斬られゾクゾクと倒れていく。

執事長であるロイは一歩…前に出た直後。

斬られはしなかったものの部屋の奥へと飛ばされる。ネクスはその光景を見ながら、ゆっくりと座り込んでいるミアとシーナの元へ近づく。

「感謝はしている…だがすまない。」

「ヒッ──」

剣を上にあげ、振りかざそうとするネクスを見て、ミアは目を瞑る。祈るように…こっちに向かっていると言っていた正人が来るのを願うように…

そして…バンっと扉が開く。

「シーナ!ミア!」

聞き馴染みのある声…その声に安堵すると共に、シーナが声を上げる。

「来ちゃダメ正人!」

正人が1歩進もうとした所でその足がピタリと止まり…つま先のギリギリのところで斬撃が床を傷つけていた。

ネクスは正人のことを見るや否や女の話をしだし、正人は呆れながらも聞いた。

「何が目的だよ」

「目的?この屋敷の抹殺」

その言葉は父親に言われていたものとは違う…でも、次期国王がかかったネクスにとって…この屋敷はもうどうでもよかった。本心というやつだ。

ネクスが瞬きをし、次に目を開けた瞬間には…正人が目の前へと来ていた。

(なんだこいつ…早すぎる)

手を剣に置く暇さえない。正人の拳が振りかざされ、ネクスは左腕でそれを受け止める。それと同時に右手で剣を触れて斬撃を飛ばした。

「『守れ』」

小さく詠唱された魔法…飛んできた斬撃が弾かれネクスは鞘から剣を抜く。正人はそれに反応して後ろに飛んで態勢を整える。

「俺の魔術に反応するとはやるなお前…」

(このオールバック野郎まじでつええ…見切り発車で走り出したけど一歩間違えれば即死だな)

正人は至って冷静に分析をして、構えをとる。

「魔術を最小限に使う系か?」

「わりぃが、俺はお前と話すつもりは無い」

「ッハ…そりゃそうだな」

正人は自分とネクスの足元にどデカい魔法陣を展開し、右手を少しあげてヒョイッと手首を動かす。その直後炎の円がネクスたちを囲う。青く燃え上がった炎…周りの状況が見えないと分かったネクス。正人は左手でみあとシーナに合図を送った。

「この中からは出れないと思えよ」

「いいぜ、付き合ってやる」

剣を抜いたネクスが勢いよく正人の元へと接近…右手を前に出して横切るように炎のカーテンを発動させる正人。

「『燃えろ!』」

進行を阻む青い炎のカーテン。だがそんなのを意に介さずネクスは炎のカーテンをぶった斬る。

(まじかよ)

目を見開きながらも次の魔法を発動しようとする正人だったが…剣を振りかざしてくるネクスの反応速度は異常だった。

「俺はなぁ…剣を魔力を込めるだけで魔術が使えるんだよ!」

振りかざされた剣を避け、その斬撃が後ろの炎をも真っ二つにする。

「…!?」

そこでネクスは気づいた。周りに誰もいないことに。

正人はその一瞬の動揺を逃さず走り出し、右手に溜めていた魔力を青い炎に変換させ腹部に直撃させる。

「…アバ…ッガ」

みぞに入った攻撃…魔力で守っていてもそれが貫通するほどの炎をくらい、部屋の奥へと飛ばされてしまう。

正人は飛ばされた方へと視線を送りながら、周りに展開していた炎を焼却させる。

ネクスは立ち上がろうとするが上手く立てない。ゆっくりと近づいてくる正人に恐怖したのか尻もちをつきながら件を振りかざす。

1発1発避けることはせず、で体を覆う魔力だけで弾く…。

「てめぇ、いったい何もんだ…」

「ユーノの友達、ミアとシーナの友達…そして、仲間だ。流星の魔術団」

下から見上げ…映る正人の顔はネクスからしたら恐怖そのものだった。

「流星の…魔術団…」

「そうだ…お前は俺の大切なものに傷をつけた」

右手を前に出し、先程同様青い炎の弾を作りだす正人。

「す…すまなかった…もう…何も望まねぇから…」

「……」

声を震わせながら、命乞いをするネクス。正人からしたらどうでもいい。仲間が危険な目に合わされているのだから当然だ。この時の正人は…誰にも止められない勢いがあった。

最大限溜めた青い炎…当たれば死ぬかもしれないそれをみてネクスは気絶寸前のところまで追いやられる…と、その時だった。

「正人!やめて!」

後ろからシーナの声が聞こえて、正人は溜めていた青い炎を解く。

「…シーナ?」

その横にはミアも立っており、何かを訴えかけるようにしていた。

「正人さん…怪我人はいますが大丈夫です。一度辞めてください。」

「…ミア」

その言葉を聞き、警戒はしながらも魔法を解いていた。

そして、尻もちを着いているネクスにシーナとミアは近づいて…

「あなたは…どうしたいの!?」

「…っ!?」

正人もネクスも目を見開く。互いに意味は違うがその2人の行動に驚いたのは本当だった。

そして…ネクスは下を向きながら言う…

「俺は…次期国王に…なりたい!」

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