作戦会議とメイド…?
シーナは正人の部屋の前に着き、モジモジとしていた。
「なにしてんのシーちゃん」
「いや、なんか恥ずかしくない?」
「何が?」
「あ…えっと…」
ミアからしたら意味がわからない。ただパーティメンバーの部屋にきてどうするかという話をしようとしていただけだ。それなのに何故、シーナは部屋の前でモジモジしているのか分からなかった。
見かねたミアは少しため息を吐きながらコンコンと部屋の扉を叩く。
『はい』
扉の奥から聞こえる正人の声…
「ミアです…えっと、今お時間よろしいでしょうか?」
『どうぞ』
正人の返事を聞きミアはちらりとシーナの方を向く。シーナは顔を近づけながら小さな声で話した。
「(あんたねぇ!もう少し警戒心強めに行きなさいよ!)」
「(なんで?普通じゃん)」
「(正人だったからよかったけど罠にはめられてたらどうするのよ!)」
「(!?)」
そこでミアはハッとした。確かにそうだ。いくらユーノの屋敷とはいえ始めてきた場所に変わりはない。始まりの街の屋敷にいたメイドや執事はいない。罠の可能性だって全然有り得る。シーナはずっとそれを警戒していたのだ。ミアはそれがわかり少し反省しながら扉を開ける。
「失礼します」
「邪魔するわ」
「おう」
扉を開けて椅子に座っている正人と目が合う二人。正人の顔はいつもの表情より少しだけ…悲しげな顔をしていた。
「えっと、大丈夫ですか?」
「ん?あぁ…ちょっとな」
正人はそう言いながら顔を背ける。気持ちは分かる。パーティメンバー…友人が誘拐され、ミアとシーナは形だけだがメイド見習いをすることになった。それなのに正人は未だ何をするのか聞かされていない。
執事が言うには時期じゃないのだとか。そういうこともあり正人は何をするのか悩んでいた。
「あんたの部屋に来たのは他でもない…ユーノを助けるための作戦会議をしに来たの」
「作戦会議?…お前らはメイドじゃん」
「そうだけど、私達も動ける範囲で動くから」
眉をひそめ肩をすくめる正人…その様子を怪訝な顔で見ているシーナ。
ガッ正人の両肩を掴んで目を見る。
「前に言ったわよね…俺は俺のできることをやるって」
「あぁ…言ったけど」
何を今更その言葉を掘り起こすんだと思いながら言葉を返す。シーナは今にも泣きそうな顔をしながら正人に言った。
「あんたがユーノを助けなくて誰が助けるのよ…」
至極当然の意見だ。実際正人もそれで悩んでいたのだから。だが相手は王族だ。王宮に侵入するとなれば大犯罪者になってしまう。そしてこれからの冒険でそういうマイナスなことはできないと考えていた。
「ユーノは絶対に助ける…助けたいが、方法が…」
今の正人には…ないと確信していた。
「あんたのその力があって…なんでそんな弱腰なのよ!」
「…っ!?」
正人はシーナの目を見て告げる。
「お前が今提案しようとしているのは無謀だ。俺達が王を殺した大犯罪者になるってことなんだぞ」
「でも…それしかユーノをすぐ助ける方法がないじゃない。」
シーナもわかっているんだ。だから涙を浮かべて懇願するように…するしかなかった。
「…あの!」
数秒の沈黙が続いた後、それを見ていたミアが声を上げた。
「この屋敷を仕切っているのはヒューロン王家の息子がしていると執事は言っていました。もしかしたら…それを利用すればユーノさんを助けられるかもしれません。」
「なるほど…人質交換みたいな感じか…」
「はい。この屋敷の人達はネクス・ヒューロンに勝てないとわかって下につく判断をしました。正人さんなら…」
ミアは自分の震える手をギュッと握りながら正人をじっと見つめた。
「正人…お願い…」
(それしかなさそうならそうするのだが…)
そう考えたところで、正人は頷く。
「わかった…だがどうするか。相手は王家の人間だ。どう足掻いても俺らが不利になるぞ」
「何でよ。ボコボコにすればいいじゃない」
「そうもいかねぇよ」
顎に手を当てながら考え込む正人にシーナは怪訝な顔を向けてミアは首を傾げる。
「もし、俺たちが風の都の王子をボコったりでもして大犯罪者になったとしよう…他の街にいった時なんて言われる?」
「…それは…じゃあどうするのよ」
「俺達はまだこの街のことを知らない。ここの国王がどう思われているのか情報収集するのが先だ。」
「ですが私たちは…」
「ああ、分かってる。だからやるのは俺一人だ。もし、この街の国王が嫌われていたら強行突破しよう。そうでなければ協力者を探す。」
「わかったわ…」
作戦会議と言えるのだろうか。ミアとシーナは何も出来ずこの屋敷にいて貰い、正人が街へ調査する。それでもこれしか方法は思いつかなかった。
「この屋敷のことは…頼んだぞ」
「ええ!任せなさい!」
「正人さんも頑張ってください!」
「…ああ!」
シーナもミアも納得し、正人は10分後に街へと出掛けた。
部屋に戻ってきたシーナとミアはホッとしたのか、自分たちは何も出来なかったからなのか…哀しげな顔をして話していた。
「結局…正人に頼りっきりになっちゃったね」
「でもこれでいいと思うよ。正人さんも吹っ切れたような感じがしてたし」
「…そうね」
シーナが返事をしたところで扉のノック音が聞こえて2人はすかさず警戒心を高める。
「はい」
シーナが声をあげると1人のメイドがドアの向こうで声を上げた。
『シーナ様、ミア様…よろしいでしょうか。』
「「?」」
二人は首を傾げながら互いを見る。ドアの向こう側にいるメイドは何やら急いでいる様子だったからだ。まだ約束の時間には…と思いながらも扉を開ける。
「どうしましたか?」
「実は…予定よりもネクス様が来てしまったので、そのこちらのメイドに着替えて貰っても…」
その嫌な予感は的中した。二人は目を見開きながらも正人との約束を思い出して意を決してそのメイドを手に取る。
「…分かりました」
「本当に申し訳ございません…私は外でお待ちしております。」
扉を閉め部屋の中できょとんとしている2人。
目を点にしながら持っているメイド服と部屋にある鏡を交互に見る。
「これ…に着替えるのよね?」
「…う、うん…」
恥ずかしさが勝っているせいで頬が少し赤くなりながらもメイド服に着替え始める二人。
来ていた服を脱ぎ、下着姿になったところで畳んであったメイド服を広げる。
メイド服はこの屋敷のものなので想像はできる。白いふりふりが付いているスカート…それと同じようなカチューシャ。白いソックスは太ももの半分までしか隠れずスカートの下から少しだけ綺麗な肌色がチラリと見える。
それを知っているからこそ恥ずかしい。
(覚悟を決めるしか…)
そう決心して用意されているメイド服を着る二人。当然恥ずかしさはあるのだが意外と似合っているのか着る前の変な感情はなくなっていた。
「めっちゃ可愛いじゃんミア」
「シーちゃんもすごく可愛い!」
褒めながらも部屋を出て待っているメイドと合流する。
「それでは行きましょうか」
◇
玄関が開き…ネクス・ヒューロンが屋敷に姿を現す。
周りにいたメイドと執事が慌てて並びそれに出向く。
「お勤めご苦労様ですネクス様。今日は随分と早いのですね。」
「お父様から2時間早く行くように言われていたのだが…気になってもっと早く来ることにした」
その言葉を聞いておどおどする執事とメイド。通路の向こう側から執事長のロイが姿を現して挨拶をした。
「お帰りなさいませ…ネクス様」
「うむ…それで?1人メイドが見当たらないようだが…」
並んでいる執事とメイドを見渡しながら不思議そうに言うネクス。人数把握…とも言えるのだが1番は偶数に分かれているメイドと執事の列に人一人分の間があったからだ。
当然、それを見れば疑問に思うだろう。
すかざずロイがフォローに回る。
「実は…新しいメイドを迎えていまして…もう少し来るかと」
ギロっと睨みつけるネクス。現在の主人とも言えるネクスに確認を取らずにか…という視線を向ける。数秒の沈黙が続き、場の空気が完全に凍りついた所でネクスは口を開いた。
「前に言っていたメイドが欲しいというのを覚えていたのか!」
馬鹿だった。というより…大の女好きだ。前々からロイには新しいわかい女性のメイドを迎え入れろと言っていた。今回ロイはそれを利用したと言う形だ。
ネクスの容姿は親のハックとは違いスラッとした体型に髪はオレンジ色のオールバック。そしてツリ目という見た目に関してはどちらかと言えばかっこいい部類に入る容姿だ。王族というのもありその権力をふんだんに使い、この屋敷を乗っ取り大の女好きを発揮していた。現代の言葉を表すなら屑だけど沼にハマってしまう男そのものだった。
玄関から繋がっている通路からメイドと見習いメイドが姿を現す。
「遅れてしまい申し訳ございません。ネクス様、こちらが本日から見習いメイドをすることになりましたシーナとミアです。」
「お初にお目にかかりますネクス様。シーナ・アングレアです。本日からよろしくお願いします。」
「同じくミニ・フラストレアスです。よろしくお願いします。」
なんとも完璧な佇まい…そしてメイド姿なのだろうか。これを見れなかった正人が可愛そうで仕方がない。というのは置いておいて…案の定、ネクスも鼻の下を伸ばしなんともご満悦のご様子。
「いいじゃねーかロイ…こういう子を求めてたんだこういう子を!」
そそっと近寄り肩に手を回すネクス。シーナは一瞬だけ殺意をだすが通路で話していたメイドとの会話を思い出してすぐに平常心を保とうとする。
「どうだ?見習いではなく俺の専属メイドにならないか?」
困っているシーナとミアにロイは助け舟をだす。
「ネクス様…本日はどういったご要件でしょうか?」
ロイが尋ねると「そうだった」と言いながら頭を掻き、メイドと執事を見て言い放った。
「今日、お前らの主人であるユーノとそのパーティがこの街に来た。ユーノは現在王宮の地下…その仲間たちはこの屋敷をめざしているとの事だ。」
「…左様でございますか。」
「ああ…もし、訪ねてきたら俺が出る。そんでぶっ殺してやる」
先程鼻の下を伸ばしていた表情とは打って代わり、なにか恨みを持っているようにも見えるその表情にメイドと執事はゾッとする。それはシーナもミアも同様に…。
(ユーノ…一体この人に何したのよ!相当怒ってるじゃない)
(この人もすごく強い…ユーノさんと何があったんだろう)
シーナもミアも、背筋をゾッとさせながら幸いにも街に出かけている正人に懇願するように心の中で…
((早く帰ってきてぇぇえ))
と、涙混じりに言うのであった。




