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重力を扱う魔族 vs

「おい、てめぇはなにもんだ?」

褐色の肌…白髪の髪、そして目の色は紫色と魔族と言われて納得のできる容姿をしていたルディック。男は正人を睨みつけながら言った。

正人はこいつもユーノと同じで何かを感じたのだろうか。さっきのユーノとの攻防を見るにルディックという男は相当の手練だ。ここは変に誤魔化すより今わかっていることを話すのが得策か。

「俺は冒険者だ…最近魔法を覚えたばかりなんだ」

肩を竦めながらいう正人にルディックは眉を引くつかせる。

「最近覚えただぁ?」

「……っ」

その発言と同時に発せられる異常な空気…おぞましいさっきが入り交じった紫色の魔力を正人に飛ばした。

「ちょっとルディック、やめなさ──」

「リュイエット、ちょっと黙れ」

エルフ族であるリュイエットがルディックに近づき声をかけた瞬間…先程まで暖かかった雰囲気、空気が一気に壊れ、明らかな殺気を正人に向けていた。天使族のキューライは何かを察したのかリュイエットの肩に手を置いて軽く頭を左右に振り、リュイエットは怪訝な顔をしながらもキューライに従った。

「ちょっとあんた──」

「シーちゃん、ダメ」

シーナは足がすくみながらもルディックに対抗しようとした所でミアに止められ、その前にいたユーノが右手を軽く広げて「何も話すな」という合図を送っている。

(今のルディックの魔力飛ばし…おそらくは正人の何らかを魔力の特性で感じたんだ…)

ユーノもこの空気を見ただけで分かる。怒らせてはいけない分類だ。相当な腕を持つユーノでさえ、足がすくみ、肩が震える。その凄まじく、おぞましい魔力を前に何も出来なかった。

「俺ァ…魔力の特性を『二つ』持ってんだよ」

「……っ!?」

(二つって…まじかよ。そりゃ強ぇわけだ)

だが正人は表情を表に出さず、ルディックの言葉をただ聞いていた。

「一つは俺に忠誠を誓わせる特性…そしてもう一つが、危機察知能力という特性だ」

「なんともご立派な特性だな…すげぇじゃねぇか」

忠誠心…おそらくはこの天使族とエルフ族も忠誠心を誓わせたのだろうか…だがリュイエットとの関係を見るにそういう訳では無いかと勝手に解釈する正人。

(問題は…危機察知能力特性……か)

この危機察知能力はどういうものなのかによってだいぶ話が変わってくる。一つは自分に対しての攻撃を察知出来るもの。もう一つは自分に害のあるものあるいは害のある人間に対して危険信号を送るものだ。

(おそらくは後者だな……)

「俺の危機察知がお前にビンビン反応してんだよなぁ…今までにないくらい。こいつは危険だって」

正人の予想は的中したらしい。だが正人はそれに怯むことなく…

「だったら何だ」

「このダンジョンのルールとして、代表戦があるのを知ってるな?」

「……ああ」

「俺と戦え」

睨みつける訳でもなく、先程みたいに怒っている様子ではない…ただ淡々と、正人の顔を見て告げるルディックを見て正人も思わず息を呑んだ。

(代表戦があるのを知ってるのになんでパーティ証でこのダンジョンを独り占めしなかったんだ?)

ユーノはそう考えながらもルディックに告げる。

「すみませんが…このパーティのリーダーは僕です。」

その声にルディックは振り返り…

「代表戦は指名できる、そうだよな?」

「…くっ……いいでしょう」

「ちょっとユーノ!」

「…ユーノさん……」

シーナとミアはユーノの発言を聞き目を見開き驚いてしまう。あのユーノがここまで魔法での戦いや言葉で一方的なのを見たのは初めてだった。そしてユーノはシーナ達の方を見て優しい表情で話した。

「正人さんならきっと大丈夫です…あの人を信じましょう」

「分かったわ……」

「……はい」

二人は小さく頷き…正人の方を見る。

(信じてるから…正人)

(お願いします。正人さん)

ユーノは正人ではなくルディックの方に視線を向けて肩をすくめる。

(一体…何が目的なんだ)

心の中で呟いたその時…

「はぁ…結局はこうなるのか」

「…仕方ないですよキューライさん」

肩を上下にしながら言う天使族のキューライ。エルフ族のリュイエットは宥めるように言う。

(なんだ今の言い方…まるでこうなる事が決まってたみたいに──)

「リーダーからの許可も得たんだ…戦ってくれるよな?」

その言葉に目を瞑り、正人は一拍置いて…

「ああ…いいだろう。お望み通り戦ってやる」

ルディックはニヤリと笑みを浮かべて宣言するように声を上げた。

「このパーティ『復刻者』のリーダールディック…お前に代表戦を挑む!」

正人は首を傾げながらもダンジョンの部屋の真ん中に足を運ぶ。互いが数秒見つめたところでルディックが先にしかけた。

(もしかしたらこいつが──)

ルディックは心の中で呟きながら接近する。ギュンっと体を近づけて拳を振りかざすルディック。正人はすかさず右手を前に出し防御魔法を発動させる。

「『守れ!』」

ガキィィインという音を響かせながら相手の拳を守る。だがその次の瞬間その防御魔法は壊れ、ルディックは懐に侵入して正人を蹴り飛ばした。

「……っ!?」

足の裏が地面を擦り飛ばされる正人だったがルディックは意に介さず飛ばしたのと同時に走り出し正人が態勢を整える時間を与えさせなかった。

(こいつ…マジでやべぇ……防御魔法の破壊、今の蹴りをくらってわかった)

ルディックは自分の体に魔法を施しているんだ。

「どうしたぁ!そんなもんか!」

「…くっ」

挑発するように接近され、正人は左手を体の後ろに隠しながら右手を前に出す。

「『炎よ』」

ボウッと言う音を出しながら炎の色が赤色から青色へと変化する。その凄まじい魔法を前にしてルディックは笑みを浮かべていた。

(…間違いねぇ!)

ルディックの頬に汗が1滴伝い…地面にそれが落ちた瞬間にその青い炎はルディックを捉えていた。

(構築魔法を思い出せ…デカくなくていい。威力は最大を保ったまま…)

向けていた右手からその青い炎は勢いよくルディックの方へと飛ぶ。

「…ボンッ!」

ルディックは危険を察知しすかさず同等の魔法を詠唱するのだが──。

ルディックの爆破魔法が青い炎に触れた直後、それを意に介さず正人の魔法は貫通してルディックを襲っていた。

(…この大きさでこの威力かよ……)

だがしかし次の瞬間には青い炎は跡形をなく消えていた。正人はその瞬間を目の当たりにしていた。

ルディックに直撃する直前、こいつは右手を前に出し詠唱をしずに魔法を出していたのだ。

しかもそれは…

「重力魔法か…」

「正解…といっても魔法なんてちゃちなもんじゃねえがな。魔術とでも言っておこうか」

前に出していた右手を握りニヤリと笑みを浮かべるルディック。正人はこの段階から気づいていた。

(化け物が…)

そしてルディックも同様に。

(俺が重力を使うはめになるとは思わなかったな…こいつはマジでやべぇ)

図らずも二人の思考は重なり、再び態勢を整える。

詠唱なしに発動される術がある以上、下手に攻撃はできない。かといって攻めないという手も無いため今度は正人から仕掛ける。

「『雷鳴よ』」

ハリバリという音をたててルディックの頭上から降り注ぐ雷。ルディックは上を見ることなく指をパチンと鳴らしてそれを消滅させる。

「『水よ』」

正人は臆することなく次々と魔法を繰り出していく。ルディックの背後から濁流を流すが今度は指を鳴らすことなく濁流を消していた。

「…ハッ」

ルディックは声を上げて地面をコンコンと蹴る。そして瞬きをする暇なく…正人の目の前に接近していた。

(はや…過ぎるだろうが!)

左手を広げて予め詠唱で生成していた風を飛ばして正人の体が横に流され、ルディックの攻撃を避ける。

当然ルディックもそれに反応してニヤリと笑いながら着いてくる。

「どうした?お前の力はそんなもんじゃねえだろ?」

そう言いながら拳を振りかざし正人は避ける。避けながら詠唱をして反撃を試みるがルディックの周りには重力が蔓延り全て消滅してしまう。

(さーて、こっからどうすっかな)

正人は今自分の出来るものは出し尽くしてしまったためここからはアドリブ力が試される。

(こんなん、プロゲーマー時代にクソほどやったろ)

それと同じだ。地形を理解し相手を理解する。正人は今の攻防で大方の地形把握、相手がどういう魔術者なのかを理解した。様々な魔法を繰り出していたのもそれが理由。

(こいつの本領はまだまだ…なんだったらここからって感じか)

ルディックもそれに何となく気づいていた。いわゆる強者の勘…と言うやつだ。緊張感が先程とは段違いだ。

「『風よ』」

正人は重力魔術を体に纏わせているルディックの見様見真似で風を纏わせる。それが成功し、ユーノから言われていた課題の薄い魔力から、今まで通りの青黒い魔力を纏い、その風の威力が上昇する。

「やっぱり隠してやがったか…!」

「…行くぞ」

「……来い!」

風を纏っているおかげか…意識的に魔力を薄くしていたからなのか…正人のスピードは凄まじかった。

空を斬り走った箇所から風が時差で靡く。その速さをみてルディックは頬をひくつかせながらも重力魔術で対抗していた。

その様子を見ていたパーティメンバー、そしてキューライとリュイエットも先程とは打って変わっている正人を見て驚愕していた。

「……あんなに強いの…」

「…信じられません」

キューライトリュイエットは目を見開きながら、正人をまじまじと見て言っていた。

「成長しすぎよ…」

「…ですね」

ミアもシーナも…正人の成長速度に驚いていた。それはユーノも同様で。

(魔力の制御ができるようになった今、正人さんはさっきまでその薄い魔力で戦っていた。今、膨張する魔力が一気に放出し、今までの正人さんに戻った…)

そう…ユーノはこの課題を通して何となくわかっていた。本来魔力というのは産まれた時から決まっているものだが、正人は例外で今尚底知れない魔力が膨張していたのだ。

その事については当然…ルディックも戦闘をしながら理解していた。

(こいつが…こいつこそが……)

迫り来る正人を見て…ルディックはニヤリと笑いながら重力魔術を最大限放出し正人の動きを止める。

「おもしれぇなぁ!もっと楽しもうぜ!」

地面に片膝がつき、ルディックを見上げる正人。ルディックは親指を立て、人差し指を正人の額に向けて…

「…バンッ──」

直後…互いの体が対極の壁に勢いよく激突し、このダンジョンの部屋に二人が壁にぶつかった音だけが、響き渡っていた。

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