構築魔法と二人の課題
「ねぇ、あんた魔法で飛べるでしょ?何とかしなさいよ」
「無茶言うな」
「もう少しで休憩にしましょうか」
「そうですね…そろそろシーちゃんが壊れちゃいますし」
シーナはぷいっと顔を逸らして正人たちは苦笑する。街を出てから役数時間が経過した。景色は一向に変わらず草原、森林…そして歩いている一本道。全員手ぶらという訳ではなくしっかりと荷物を持ってるのでそれりに疲れる。ここにいる全員、シーナの気持ちが分かるのだ。
(でも確かに、空飛べたら楽だよな)
この街を出る前…もっというなら屋敷でユーノと防魔法室で戦闘した時…正人は飛行した。だがあれはどちらかと言えば浮いたというより体を押し出して宙へ舞ったという方が正しいだろう。一瞬シーなの言った通り飛ぼうかと思ったが威力の制限もままならない今、下手に魔法を出すのは避けたかった。
(敵がいたらだすけど…いなかったらな…)
しかし、使えて便利なのには変わりない。フリースペースで物が運ばれた時は魔法だったし、日常生活でもよく使うとシーナとミアは言っていた。
「(なぁユーノ、魔力を抑えるための練習方法とかない?)」
ユーノに耳打ちで話しかけ、ユーノは指を唇に当て考える動作をしながら答えた。
「(構築魔法を出来るといいですよ)」
「(構築魔法?)」
「(休憩した時にでも話しますよ…)」
歯切れの悪い返答をされて正人は少し首を傾げていたが、前を向き直して理解した。
「何コソコソ話してんのよ!」
「あ〜いや…なんでも」
「なんでもないことないでしょ!!」
顎をツンとあげ、眉をひそめてシーナは言った。きっと、疲れが溜まっていてイライラしているのだろう。正人はシーナの向けられている視線を逸らしながら口にする。
「普通に膨大な魔力を抑える方法を聞いてただけだよ」
「…そ」
シーナがそう答えると隣にいるミアに視線を向ける。
「どうしたの?シーちゃん」
「ううん、なんでもない」
小首を傾げるミアから視線を逸らすようにして前を向く。不思議そうにしながらも歩いているミアを右目の端で捉えていたシーナ。
(私も強くなりたい)
左の手のひらを軽く握り、右手は脱力させたまま歩き進める。
しばらく歩き、全員の足が悲鳴をあげかけていた所で休むことにした。
「あ〜づがれだぁ…」
「お疲れ様シーちゃん、はいこれお水」
「ありがとうミア」
「正人さんとユーノさんも…どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう」
一気飲みするようにがぶがぶと飲み一息つく。
ユーノが魔法で作ってくれた木でできたテーブルと椅子…正人は休息を取りながら心の中で独り言つ。
(魔法って便利)
まじで便利。極めたらなんでも出来るじゃん。なんだよこの世界…と心の中で思っていたのだが正人の目的は違う。妹に会うために…人間界に戻るために、今こうして足を進めているのだ。
(真希もこの世界に──)
ダメだ。1番考えてはいけないことだ。そんなこと…無理に決まっているし正人も分かっている。
今の話を無かったことにしようと軽く顔を左右に振る。
「えっと…構築魔法の話でしたか」
「あーそうだな。頼む、教えてくれ」
ユーノは隣に座っている正人だけでなく、正面に座っているミアとシーナにも視線を向けて話した。ユーノは気づいていた…正人だけではなく、この人も魔法を知りたいということに…。
手を机の上でモジモジするシーナを見て正人も理解した。
(シーナのことだ。ことで変に口を出したりするのはよくないよな)
隣に座っているミアがシーナの手を握ったのを見て思った。
「(ほら、頑張って)」
「…う、うん」
ミアの声がけにシーナは口をパクパクさせて視線をあちこちに飛ばしながら…
「え、えっと…ユーノ。よかったら…その、私にも…魔法を教えて…くれない?」
口ごもりながらなんとか頑張って言ったシーナに全員が優しい笑みを浮かべる。もちろんシーナはそんなのに気づいていない。
(親目線って多分こんな感じなんだろうな)
アホみたいな感想を抱く正人。ユーノの笑みは優しくなり、答える。
「もちろんですよ」
「ほんと?やったやった!」
教えてもらえるという感情が全面に出た笑顔。そして無邪気に喜んでいるシーナを見てミアも微笑んでいた。
「改めて話しますが構築魔法とは何かを作り出す魔法なのですが、大きすぎる魔力を抑えるのにすごく最適なんです。」
コクコクと頷く教え子2人。親1名。
「今回シーナさんと正人さんにはそれぞれ違う課題を与えます。」
「違う課題?」
「はい。シーナさんは魔法の詠唱を完璧に覚えて、自分の好きな物を構築してください」
「…好きな物ってなんでもいいの?」
「ええ、食べ物から動物…魔法で作れる範囲ならなんでも」
「分かったわ!」
グッと手のひらを握りながら頷く。ユーノはやる気に満ちたシーナを見てからスっと正人の方に視線を向ける。
「正人さんは小さなボールを作って下さい」
「…そんなんでいいのか?」
「はい。それではお二人共、出来たら僕に教えてください」
「はーい!」
シーナは早速椅子から立ち上がり、横で構築魔法の詠唱を始めた。
「『構築される全てのものよ…生命の源に命を与えん』」
唱え終えたすぐ、シュゥウという音と白い煙が少しあがり…白い子猫のようなものが構築されていた。
「出来た!」
「おー!凄いねシーちゃん」
「よく出来ましたね。完璧です」
「これくらいなら私にだって余裕よ!」
腰に手を当てて鼻を鳴らす。シーナが頭が良く、魔法の才能があるのを正人もユーノも知っている。
「ちと簡単すぎたんじゃないか?」
正人がユーノに問う。ユーノはシーナの方をみて言った。
「知っていますよ。ですが最初は…出来るという『自信』を付けるのが先です。」
「自信…か」
「ええ…構築魔法は知っていてもあまり使わない人もいます。なのでしっかりと体に覚えさせるんです。」
(ユーノ、まじで教えるの上手いんだな。その人に合わせた練習方法…理由もちゃんとしてる)
正人は感心をして、自分の発言に反省した。
「ねね!次は私何したらいい?」
身を乗り出しながらウキウキで聞いてくるシーナにユーノは少したじろぎ、体をのけ反りながら次の課題を話す。
「そうですね…ではこの白い子猫をもっと立体感のあるものにしましょうか」
「立体感のあるもの?」
「はい…今これは形だけです。ここから毛並みや目、耳、口…これをゆっくり順番にやって行きましょう」
「…わかったわ!」
シーナは少し考えながら頷いて早速取り掛かる。その様子を見て正人も椅子に座りながら手を机の上に出す。
(小さなボール…小さなボール…)
「『ボール』」
唱え終えた直後…
「デカすぎた…」
ユーノから指示されたものは小さなボール。多分野球ボールぐらいの大きさを予想していたのだろう。この世界に野球があるか知らんけど。
だが…正人が今出したボールは机全体が埋まり、全員が立たないといけなくなる程の大きさのボールだった。
「すごく、大っきいですね…」
「いや、逆にすごいでしょこれ!?」
「そういう事です。正人さん…頑張りましょう」
「…はい」
(小さいのをイメージしたのに…)
心の中で泣き言をいいながらポツポツと始める正人。
ユーノは顎に手を当てて思考していた。
(正人さんのこのボール…というか球体、小さくするのを意識していたというのを考えると末恐ろしいですね)
正人の才能に驚かされてばかりだ。しかしそれはユーノだけじゃなく…
「うぅ…出来ない!」
「落ち着いてシーちゃん…ゆっくりでいいんだからね」
「分かってるわよ」
ツンっと顎を立ててもう一度詠唱を始めるシーナ。
(正人…英称の簡略も出来て魔力量も多い。私と比べて才能が違う)
私も負けない…絶対に負けないという思いでシーナは子猫を構築するが…やはりこの課題は上手くできなかった。
30分ほどが経過した所でユーノは2人に呼び掛けてこの課題は中止することになった。
「1度ここを出発しましょうか…まだ先は長いですよ」
「そうね…行きましょうか」
「分かりました」
ミアとシーナは頷くが…正人は少し考え込むように顎に手を当てていた。
「どうかしましたか?」
「ん?あぁいや…ちょっとな」
いくら作っても大きくなってしまうボール。始めた時よりは小さくなっているがどうしても上手くいかない。でも正人はそれとは別に少し気になることがあった。
「構築魔法ってあんま使わない人がいるって言ってたけど、なんでだ?」
「それはあまり実用性がないからですかね…上のランクの人達でも使う人と使わない人で別れています」
ユーノは正人の質問に淡々と答えていた。
「じゃあ構築魔法を極めたら…魔法陣を作り出すことも出来るのか?」
「?…ええ、もちろん」
「なんでわざわざ構築魔法で魔法陣を作るのよ」
「どういうことでしょうか…正人さん」
全員頭の上にクエスチョンマークが出ていた。正人はそれを意に介さず語った。
「例えばだけど、炎魔法を出すと相手に思わせて氷魔法出してきたら驚くよな?」
「当たり前じゃない」
「そういう事だよ…構築魔法を極めたらそういう騙しができるってことだ」
「なるほど…確かに面白そうですね!」
正人の言葉にユーノは目をキラキラさせながら答えた。魔法陣を構築魔法で作ることは難しくない。でも正人は『極めたら』と言っていた。その極めたらと言うのはおそらく『敵にバレない』レベルのことだろう。当然だ…極めなかったら構築魔法で作った魔法陣だとバレてしまうからな。
(上級ランクでも使う人と使わない人で多分かなりの差があるよな)
構築魔法は言わば『魔法そのもの』こうなったらいいな…ああなったらいいなの一番最初の魔法だ。
…と、そこまで考えたところで正人は切り替えて身支度を済ませた。
「すまん…もう出発だったな」
「はい。それでは行きましょうか」
次こそはここから出発することが出来た。シーナは手のひらサイズの子猫を作ってさっきユーノから与えられた課題を進めながら歩き、正人は同様手のひらサイズのボールを出そうと思っては…失敗の繰り返し。
クソデカバカボールはどうなっているかと言うと、放っておくと数秒で消えるらしいので大丈夫らしい。
こうして…2人の魔法上達への道がまた1歩…進み始めた。




