さぁ、この街を出よう!
ダンジョンを出た4人は小腹が空いたため、ユーノの屋敷を出る前に貰った弁当を食べることになった。
「…ブラックホールとかはもう入ってないよな?」
「…何?」
「あ、いや…なんでも」
フンッと鼻を鳴らしながらそっぽを向くシーナ。まさとは眉をひそめながらユーノが出した弁当箱を再度見る。
「大丈夫ですよ…アキにはもう確認済みです」
「あんた言ってること失礼だからね?」
「……すみません」
「ま、いいけど!別に私料理ができない訳じゃないのよ?ただあれは失敗しただけで……」
自分で話を掘り下げていくシーナなのだが…その事を思い出したのか過ごし肩を縮めて申し訳なさそうにしていた。
「シーちゃんはこう見えても料理できるんですよ?」
「得意料理は?」
「スープ系全般ですね」
ミアが学園時代のことを思い出し嬉しそうに話すのを見て正人はシーナが料理できないわけではないと理解した…のだが──。
「……おい」
「何よ」
「シーナが昨日作ったのスープ系じゃなかったよな?」
「……できると思ったんだもん」
正人はジト目を向けて咎めるように言った。シーナは怪訝な顔をしながら声を上げた。
「仕方ないじゃない!昨日のメニューに私の得意なスープがなかったんだから!」
「まぁないというか…もう出来てましたもんね」
腰に手を当てて顎を上げながら言うシーナに対して正人はさっきよりも深いジト目になった。ユーノはその言葉にフォローを入れるような形でこの話は半ば強制的に終了した。
「それじゃ、食べましょうか!」
「私とシーちゃん…このダンジョンで何もしてませんが本当にいいのでしょうか…」
「何もしてなくないじゃない…ダンジョン中私たちの魔力を持続的に回復してくれる魔法出してたし」
「気づいてたんですか?」
シーナがきょとんとした顔で言い、ミアは目を見開く。
「当たり前じゃない」
「ああ…気づいてたよ」
「すごく助かりました!ありがとうございます!」
「そ…そうですか、それなら良かったです。」
頬を少し赤らめながら視線を逸らすミア。
ミア自身、何も声をかけてなく少しでも力になれたらなという善意で持続回復魔法を使用していた。ダンジョン中何も言われなかったから気づいていないと思っていたのだろう。実際は気づいていたけどあまりに自然の事だったから皆忘れてた…というのが正しいのだ。
「「「「いただきます」」」」
4人が手を合わせて広げられた弁当にそれぞれ手を伸ばす。正人は一番近くにあった唐揚げらしきものに手を伸ばそうとして…
(なんだ?これ…絶対鶏肉ではないよな?)
一瞬手が止まってしまう。躊躇してしまったのをユーノに見られて微笑しながら語った。
「それはドラゴンの肉を油で揚げたものですね。非常にジューシーで美味しいですよ?」
「…ドラゴンの、肉…」
息を呑むように唾を飲みこむ正人。
ここの世界の料理は比較的人間世界の料理と近いのだが…使われている食材がこの世界のモンスター達で出来ているものなので躊躇うのも無理はない。そして何より…ドラゴンと聞いてしまえば自ずと先程戦った上半身がドラゴンの敵を思い出してしまうわけで。
「確かにまぁ…あんたの言いたいことはわかるわよ」
シーナも少し肩を竦めながら言った。
箸でとったドラゴンの肉の唐揚げを数秒見つめ、思い切って口に運ぶ。
「…っ!?」
その直後、衣がサクッと崩れ肉汁が口の中で広がり先程まで躊躇していたのが嘘みたいな顔になる正人。
「すっげぇうめぇな…しかも出来たてみたいに温かい」
「私もそれ思った!ご飯全部ホカホカだよ!」
「ええ、どれも非常に美味しいです。ありがとうございますユーノさん。」
全員からの思わぬお礼にユーノは少し目を見開いてしまった。そして照れ隠しをするように頭を掻きながら言った。
「温かいのは魔法のお陰ですね…ご飯も好評で良かったです」
嬉しそうに話すユーノを見てなんだかこちら側まで恥ずかしさが込み上げてくるのが分かりそれを誤魔化すように正人は箸を進める。
(にしてもマジでうめぇな…唐揚げじゃんこれ)
絶賛しながら次々に食べ進める正人…ユーノは何かを思い出したかのようにミアに尋ねていた。
「それにしても、ミアさんの回復魔法練度が凄いですね。」
「ほんとですか?」
「ええ…ここまで的確な回復ができる人はそうそういません。」
「…ありがとうございます。」
髪先を少し弄りながら頬を赤くするミア。シーナはそれに続いて誇らしげな顔で言う。
「そりゃあ…うちのミアを舐めないでよね!回復専門でランク付けあったら絶対Sなんだから!」
「ちょ、ちょっと…シーちゃん恥ずかしいよ」
ミアではなくシーナがドヤ顔でいい、ミアが恥ずかしがるという意味のわからない構図になっているのだが、ユーノはそれに頷いていた。
「ですね…このランクシステムだとサポートの人はあまり優遇されませんもんね」
「そうなのよね〜私たち前線で戦えてるのもそのサポートありきなのに…」
両手を肩の位置まで上げながら顔を左右に振るシーナ。そこで正人もフリースペースでの会話を思い出した。
(シーナがBでミアがCってのは…そういう事なのか)
この会話を聞くに魔法ランクが決められるのは『どれだけ強いか』が基準に作られている。いくら回復魔法が優れていようが、サポートがうまかろうがそれは魔法ランクに反映されない。なーんか闇のありそうな魔法ランクシステムを知ってしまい、正人は思わず眉を引くつかせる。
(まじで可哀想じゃん)
そう思考したの同時にミアは自分の分を食べおてたのか箸を置き、目を瞑りながら口を開いていた。
「確かに私は回復魔法しか出来ませんし、そのせいでランクも最低の位置にいますし、私自身そこまでランクに固執はしてないのですが…皆さんの足を引っ張らないように頑張りたいと思っています。」
真摯な顔で告げるミアを見て三人は微笑しながら答える。
「足を引っ張るなんてまず有り得ないから変に考えるのはやめなさいよ。私だって思ってるんだから」
「お前もだよシーナ。」
「…え?」
シーナもミアも、自分が足を引っ張っていると思っていたのを正人もユーノも知り、それをしっかりと否定した。
「僕たちは仲間でパーティです。誰が上だとか下だとか、そういうのはありませんよ」
「…でも」
「大丈夫だ…お前みたいなキャラはパーティに必要だから」
「どういうフォローの仕方よ!」
シーナが正人に強くツッコミを入れ、その場の空気は笑いに包まれた。
(そっか…足手まといじゃないんだ)
正人とユーノの強さに自分の自信を失い…申し訳ないなと思っていたところでの仲間から掛けられた言葉。今のシーナにとってはそれが物凄く救われた。
(絶対に正人にも、ユーノにも負けないんだから!)
と…そう心に誓う。
◇
全員がそれぞれ食べ終え、弁当の中身が空っぽになりそれぞれコップの中に残っている水を飲んだ。
「は〜美味しかった!」
「ご馳走様でした…」
「ほんとに美味かった。ユーノありがとな」
「いえ、大丈夫ですよ。ですがここからは自分たちで調達するか、お店に行くしかありませんよ」
ユーノは空になった弁当箱を片付けながら言った。シーナは笑みを浮かべながら今後についての話をしていた。
「ってことは!この街から出るってことよね?」
「そうなるね」
「ここから1番近い街はどこなんだ?」
正人がそう聞くとユーノは視線を空に彷徨わせながら「ん〜」と考えるようにして…
「そうですね〜…数日間歩けば『風の都』という街に着きます。道中でダンジョンもあったはずなのでそこに行きながら向かうのはどうでしょう」
「賛成!」
「私も大丈夫です」
「俺もそれで大丈夫だ」
ユーノの提案に全員頷き、身支度を済ませて街を出るため足を運ぶ。
(長い道のりになりそうだけど…近道しようとすればするほど良くないしな)
一刻も早く現実世界に戻らないと行けないのだが…帰れる方法がまだ分かりきってはいないこの段階で無理に急かすというのも出来ない。それを重々わかっている正人。
(真希…もう少し待っててくれ)
そう心の中で呟いて覚悟を決めた。
しばらく歩くと街の出口に到着し、前を歩いていたユーノは振り返り告げるように言った。
「皆さん…ここから先は僕にもほとんど未知数です。準備はいいですか?」
「…ええ、大丈夫よ」
「……私も」
「…ああ」
ユーノ含めてこの場にいる全員、未知数と言葉を聞いて息を呑む。全員の了承を得たところでユーノは再び前を向き『始まりの街』の出口扉に手をかけ…力を入れるとその扉は開いた。
その扉は全員が利用する訳では無い…冒険へと旅立つ人しか触れない扉。その扉を触ればもう後戻りは出来ない。次ここの街に戻ってくる時は『死んだ時か』『全ての度が終わったら』…あるいは冒険をリタイアする時だけだ。全員それがわかってるからこそ、緊張していた。
ユーノが扉を開けば辺り一面に広がる緑色の草原。そしてそのすぐ横には森林があり…いかにも最初の街を出て冒険をするような景色が拡がっていた。
「うわ〜私たちの冒険が始まるんだ…!」
「楽しみだねシーちゃん!」
「ええ、この時をどれだけ待ち望んだことか…」
二人で掲げた夢…『立派な魔法使い』その第一幕がようやくスタートした。そして今、正人とユーノもその度に加わっている。シーナからしたらこれからの旅が楽しみで楽しみでしょうがなかった。
(これからどんな旅が待ち望んでるか…)
正人もこの先の旅路に思いを馳せる。
全員がそれぞれの目標に向かって歩みを始め、冒険が始まった。
「風の都につけば他の街は何日もかけずに行けるので、最初の辛抱ですね」
「まぁやっぱ最初の街ってのもあってそういう作りになってるんかな」
「多分そうじゃない?私とミアもここの街来るのに結構時間かかったし」
「そうですね。その時も数日掛けてきたので歩くのには問題ありませんよ」
ユーノは前を歩きながら元気づけるように語り、全員は余裕そうに笑みを浮かべていた。
これから一体どんな物語が繰り広げられるのか…どんな強敵と会うのか…それはまだ誰も分からない。




