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何、それ…最強すぎる…

得体の知れないドラゴンのような敵が三体…地面を揺らしながら接近してきている。正人はシーナとミアを後ろに庇うようにして走り出し、その後をついて行くようにユーノも勢いをつけて走り出す。

脳裏によぎるダンジョン…そしてフリースペースでの出来事。ダンジョンではシーナとミアに助けてもらい、正人は何も出来なかった。フリースペースでもそう…仲間が危険な状態に晒されてそれを見ることしか出来なくて…それが嫌で嫌でしょうがなくて…そんな自分が惨めで殺したくなってしまう。

「もう…仲間を危険にさせねぇ!」

今まで感情を顕にしなかった正人が…シーナもミア、今の正人は怒りに満ちていると理解していた。

「正人…」

走り出した正人の背中をみながらぽつりと言葉をこぼすシーナ。胸の前でぎゅっと手を握る。その手は少し…震えていた。

ガバッと右手を前に出し、正人は迫り来る三体の敵めがけて魔法を詠唱する──…のと同時に一体の敵が口から炎を吐き出した。

「『風よ!』」

正人は敵のブレスに瞬時に反応し構えていた右手を振り払うようにして魔法を詠唱…勢いよく風邪が吹き炎はすぐに消え、右側にいた敵がよろける。

「ユーノ!」

「はい!分かってます!」

正人が呼び掛けるのと同時にユーノはギュンっとよろけた敵に接近し、手を空に構えて刀身が白く光り、手元が銀色の剣を取り出してそれを握ると…敵の顕になっている腹部目掛けて一瞬で2回切りつける。

十字のような切り傷を敵の腹につけた直後…ユーノは魔法を詠唱する。

「『爆ぜろ』」

爆発音がダンジョン内に響き、その土煙を払うように剣を振るう。だが敵は地面に倒れるどころか…ドラゴンの様な上半身から漆黒の蛇のような色と形をした上半身へと変わっていた。

「…どうなってるんですかこれ…」

ユーノは思わずそう口にして目を見開く。ユーノが発動した爆破魔法は体内から爆発させるもの…敵に傷をつけてそこからえぐるように繰り出すものなのだが…ドラゴンだった上半身から蛇に変わってしまっている。

(先日正人さんが戦ったドラゴンのようなものとはまた別のものなのか?)

例えばマトリョシカのように…次々と倒してもまたそこから出てくる敵というのも考えることは出来る。しかしそれと同時にとある可能性がユーノの頭に駆け巡る。

(もしかしたら…こいつらの体が保てないほどの魔法をぶつけたら再生…姿を変えることは出来ないかも)

漆黒の蛇をまじまじと見ながら思考するユーノ。その間約1秒にも満たない頭の回転が結論を出していた。

蛇の形をした敵は体を伸ばしながらユーノに攻撃をする。

振りかざされた蛇の攻撃をジャンプして避け、右手をその頭にかざして詠唱を始める。

「『全てにまつわる魔法の神よ…今こそ我に力を!』」

ユーノが唱えた直後…紫色の魔法陣が展開され、蛇の上半身が塵となり消える。残った人間のような下半身からみるみる再生を始める敵…ユーノは再度剣を取り出し素早く斬る。そこから再生することはなくなり、ユーノの方は制圧完了。

「後は…正人さんの方ですけど…」



「ユーノ!」

「はい!分かってます!」

正人の呼び掛けにユーノはよろけた敵に走り出す。その姿を確認して正人は残り2体の敵をどう処理するのかを考えていた。

(一気に殺すのは簡単だが後ろにいるシーナやミアが巻き込まれるかもしれない…それにさっきから俺の来ている服に反応していないってことはこれはダンジョンのモンスターではないな)

ミアとシーナに買ってもらった服の特性…本人の強さに応じて魔獣が近寄らないというなんとも便利な服。正人は一度この敵を倒している…それを考えると普通に考えてこの服に反応して近寄らないというのが普通だ。それなのにこの敵らは正人に突進し、炎を吐き出して爪をむき出しにして振りかざしてくる。

…と、なれば最終的に出てくる答えは自ずと…

「誰かの魔法によって作られたものなのか?」

この結論に至る。シーナは商人からここのダンジョンは1番難易度が低いと言っていた…らしい。仮にそれが本当だとして『誰かが魔法であの敵を出していた』となると…街のざわつきからしても納得のいく部分はある。

「まぁとりあえず…てめぇらは殺す」

明確な殺意を持って…爪を立てて切りかかってくるドラゴンのような敵に手をかざさず魔法を唱える正人。

「『凍れ』」

バキバキという音を立てながら一瞬にして凍る一体の敵…それを無視してもう一体の敵は勢いよく正人に接近する。

正人は接近してくる敵をギロッと睨みつけるように視線を向けて魔法を唱え始めていた。

「『燃えろ』」

正人がそう言った直後…青い炎がボウっと言う音を立てて敵が燃え始める。そしてそのまま正人は燃えながら暴れ回っている敵目掛けて走り腹部に拳を思い切りぶつけた。殴られた敵は凍っている敵めがけて吹っ飛び貫通し、凍っていた敵は粉々になり…その後ろの壁に激突する最後の敵。

悲痛な叫びをしながら正人を睨むドラゴンのような敵。赤かった鱗が真っ黒に焦げ、息が上がっているようにも見える。正人はその敵にゆっくりと近づき、いつも通りの顔…無表情のような顔を浮かべながら敵に問う。

「お前たちは一体何者なんだ?」

「…」

「モンスターなのか?それとも誰かが召喚したものなのか?」

「…」

当然、その敵は何も喋らない。正人もそれは分かっている。だがもしかしたらこの会話をどこかで聞いているかもしれない。一縷の希望にかけるような…されどそんなのどうでもいいかと正人は独り言をいいながら首をポキポキと鳴らす。

その異様な正人の気配を感じ取ったのか敵は雄叫びを上げながら正人に向かって接近。それを見るまでもなく見ながら正人はとどめを刺すために魔法を詠唱していた。

「『雷撃よ』」

ドゴォンという音が数回にも渡って鳴り響く。頭上、背中、腹部…と。

バタンとドラゴンのような敵は倒れ、三体の敵は正人とユーノによって葬られた。

昨日までとはまるで別人な正人をみてシーナとミアは目を見開く。

「正人さん…魔法のレベルが高すぎる…」

「何、それ…最強すぎるじゃない…」

二人はユーノと正人なら倒してくれると願い、信じていた。だがここまで圧倒し…ましてや正人に関しては魔法も何も知らないと言っていたのにたった一日で難なく使いこなすその姿を見て、尊敬半分有り得ないと引く半分の感情が入り交じっていた。

ユーノは正人の方へと歩き声をかける。

「大丈夫ですか?正人さん」

「あ、ああ…そっちも平気か?」

「ええ…ですがこれは一体…」

顎に手を当てて状況の整理を始めるユーノをみて正人はシーナとミアの方を見て言った。

「ひとまず2人のところに行こう…またなにかあるかもしれない」

「そうですね」

ユーノも顔を上げて頷いてシーナとミアの方に合流をする。

「お疲れ様ですユーノさん、正人さん…」

「ありがとうございますミアさん」

「お、おぅ…」

ミアは少し怖がった様子で声をかけてきていたので正人は頬を掻く。

「そういや昨日飯のことでいっぱいで魔法の話しなかったもんな──」

「ほんとよ!なによあの魔法!ユーノは強いって知ってたけどあんたのあれは何!?」

話を遮るように正人の方に身を乗り出しながら眉間に皺を寄せるシーナ。正人は体をのけ反りながら肩をすくめる。

「俺も詳しいことはわかんねぇんだよ」

その言葉を聞きムッとしながらユーノの方に視線を向けるシーナ。

「そうですね…僕もあまり分かってないんですよ。魔法の威力も初心者が出していいものではないので…」

視線を逸らしながら自分もなにがなんだかわからないんですというユーノに怪訝な顔をするシーナだったのだが…

(ユーノが強いってことはもちろん知ってたけど…私が正人に教えてあげたかったんだけどなぁ…)

急にぷくぅっと頬を膨らませて顔を背けるシーナに正人は思わず首を傾げる。

「なんで急に顔背けたんだよ」

「別に?」

シーナは正人が磨けば強くなるっていうのは知っていた。シーナが教えることで魔法が使えるようになり「私が育てました」とでもいいたかったのだろう…しかし昨日はまさかユーノに出会い、まさか屋敷まで案内されるものだからなにか手伝わないとという思いが強くなり忘れてしまっていた。なのでこの正人の急成長っぷりを目の当たりにして少しだけ、本当に少しだけ怒っていた。

ミアはそんな乙女心を壊すように手を頬にあてながら首を傾げて話し出していた。

「ユーノさんが戦っていた敵…途中で変形しているように見えたのですが…」

「そうなんですよ。変形させる力を与えさせずに倒すのが勝利条件だったのでしょうね」

「あんたら二人が化け物だっていうのは分かったわ」

ユーノが普通に話す勝利条件を聞き、シーナは額に手を当ててため息混じりに言っていた。

「どうしたんですか?正人さん」

顎に手を当てて何か考えてる正人にユーノは尋ねた。

「あぁいや…こんなしょうもないことをする奴らは誰なんだろうなって思って…」

「しょうもない奴ら?」

ユーノはここのダンジョンに向かう途中に言っていた。

『ここの街はものすごーい強いひとも来るので、お遊び半分で放り投げた可能性もありますよね』

『なんだそれ…やってる事やべぇじゃん』

『そうですね。ここは始まりの街でもあり…終わりの街でもあるので。』

正人はこの会話を思い出していた。もし仮にこれがイタズラだとしたら相当な悪趣味でしょうもない奴らだ。たがしかし二人はそんなことでは無いだろうと分かっていた。

分かっていたからこそ、どうしてこんなことをするのか…何を目的にしているのかが分からなかった。

(もしかして俺の──)

「ちょっと待って…なにあれ…」

シーナは身体を震わせながら正人とユーノの後ろにいる『何か』に指を指す。ミアもそれを視認し、顔色が一気に変わる。

(有り得ない!僕の探知能力に引っかからなかった!?)

ユーノはいつ奇襲されても対応できるように探知能力を張り巡らせている。しかしその『何か』はその探知能力に反応しなかった。正人もユーノも…振り返らずとも理解する。

((こいつがあの敵の招待だな))

ユーノの魔法の特性…殺意剥き出しがギュンギュン反応するのがこの場にいる仲間たちにも伝わる。

シーナの震えてる指を見て正人は目を瞑り…体を捻って目を開く。それと同時にユーノもこちらに向かっている『何か』に視線を向けた。

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