お手並み拝見といこうか…
パーティ申請も終わり、晴れてこの4人は正式に仲間になった。そして予定通り、4人は昨日1階層の敵を倒したダンジョンへと向かっていた。
「ふふ〜ん!いざこうしてパーティってなるとテンション上がるよね!」
シーナは先程貰ったパーティの証を両手で持ち空に掲げながら口にする。なんとも嬉しそうに話すシーナを見て他の3人も笑みを浮かべていた。
「そうだね…でもシーちゃん少しはしゃぎすぎなんじゃ…」
「こんなのテンション上がるでしょ!魔法の平均ランクもBになったんだし!」
「まぁそうだけど…」
ミアはものすごくキラキラな目をしているシーナを見て諦めたのか肩をすくめるだけで笑みを向けていた。
正人が2人のパーティ証を見た時は平均魔法ランクはCと書かれていた。ミアがCでシーナがB。そして今回…平均魔法ランクはBになった訳だが。まさとは少し納得がいってなかった。
「ミアがC、シーナがB、ユーノがAなのはまぁ理解できるんだけどさ…」
正人は少し怪訝な顔でユーノを見る。きょとんとしているユーノを見て正人は続けた。
「なんで俺が魔法ランクなしってなってる訳?」
「それはしょうがないですよ…正人さんは所在が分からないので僕の家の親戚というていで話を進めましたから。そこは我慢してください」
苦笑しながらユーノは謝罪し、正人は特に何も言えなかったのでそのまま頷く。
「でも…ありがとな。本当に何から何までしてもらって」
正人は視線を逸らし、気恥しそうにしながら感謝を伝える。
「いいですよ。これが僕の夢でもありましたので…」
「…そうか」
正人達からしてみればごく普通の日常。でもそれはユーノにとっては特別で、夢でもあった。誰かと肩を並べて歩き、ダンジョンへと向かうその光景はどう言葉に表せればいいのか分からないくらい嬉しいもので…ユーノからしたらくるものがあった。
シーナは持っていたパーティ証をポケットへしまうと、視線だけ後ろにいる正人とユーノに向けて尋ねるように口を開いていた。
「そういえばさ、ダンジョンって私たち以外にも来るわけじゃん?もしほかのパーティの人達と被った時ってどうするの?」
「それは私を気になっていました。ダンジョンに行ったのは昨日が初めてでしたし、人もいませんでしたからね。」
その2人の言葉を聞いて正人も気になる素振りを見せていた。ダンジョンはそこそこ広かったので様々なパーティが居てもおかしくは無い。お互いに見つけた宝や情報はそれぞれのパーティが保有するのか、はたまた早いもの順で先に来たパーティしか入れないのか。3人は少し首を傾げながらユーノを見る。その様子を見ていたユーノは少し肩を竦め、一拍おいてから口を開いた。
「ダンジョンはいくつもあるので基本被ることはないんですけど、仮に被った場合…そのパーティの代表と戦って勝った方がそのダンジョンに入れるっていう仕組みになってます。」
「代表同士で戦うってこと?」
「そういうことになりますね…話し合いで決めてもいいんですけど、基本はそのパーティで一番強い人が戦います。」
「ふ〜ん…それってなんでもありなの?」
「殺し以外はなんでもありですよ。」
シーナは正人が聞きたかったことを全て聞いてくれて話がスムーズにすんだ。正人は顎に手を当てて思考を始める。
(となれば…このパーティの代表はユーノだから基本俺が戦うことは無い…)
と言っても…ユーノも言っていた通り基本的には被ることがないのであまり考えるのも野暮かと思うのだが。ミアは少し眉をひそめて言った。
「ですが私たちが向かうダンジョン…街でも少し騒ぎになったんですよね?その…もしかしたら…」
シーナはその言葉を聞いて人差し指を唇に当てて「ん〜」と声を鳴らす。
「あ、そっか…確認しに来るパーティがいっぱい来るってことか!」
シーナがそう声をあげるとミアは頷き、ユーノも正人も少し顔が強ばってしまう。
「そうですね。ですが大丈夫ですよ…基本そういう代表戦は僕が戦いますので。」
「ユーノが戦ってくれるのなら安心ね!見たことないけどあなた超強いってわかるから!」
シーナは腰に手を当ててふんっと自慢げに話す。ミアも正人もなんでお前が言うんだと一瞬思考するが…
「任せてください!」
ユーノは胸に手を当てて高々と言うのでミアも正人も呆れ半分白け半分の目を向ける。
そうしてしばらく歩いていると昨日きたダンジョンに着く。案の定…そこには結構な数のパーティが来ていた。
「すげぇ数だな…見ただけで10人は余裕で超えてるか…」
「そうね。どうする?」
パーティの人数に制限はないが、正人たちが視界に捉えているのは間違いなく代表同士が戦おうとしていた所だった。となれば2パーティ以上はこの場にいることになる。
シーナは少し戸惑いながらもどうするかと考えるが、ユーノが真剣な表情になり、それに気づいた正人は声を掛ける。
「どうした?ユーノ」
「3人はここで待っていてください。」
ユーノはそういうや否や、前で睨み合っている代表者の方へと足を運ぶ。
「何をする気かしら?」
「私もさっぱりです」
ミアとシーナは目を点にして首を傾げる。正人はもう何となく気づいていた。
周りにいる人間を押し退けて代表者2人の元へ近寄るユーノ。睨み合っていた代表者の一人がそれに気づいたのかユーノを睨みつけるように声を上げる。
「なんだてめぇ…わりぃが今から代表戦をするんだ。邪魔しねぇでもらいたい」
腰に少し長めの剣を備え、それに手をかざしながらいうオレンジ髪の青年。その前にいるのは杖のようなものを持ち、魔女のような帽子をかぶった紫髪の女性。
「すまないがこの代表戦が終わった後に話を聞こう。」
そう言って再度…互いを睨み魔法を出そうとしていた。ユーノは意に介さず、2人の空気をぶち壊すかのように話しかけた。
「僕もその代表戦に参加していいですか?」
「「…っ!?」」
その言葉を聞き代表者2人、そして周りの人間も目を見開いて驚いていた。腰に剣を備えていた男は「ハッハッハ」と笑いながらユーノの鼻に自分の鼻がつく距離まで近づく。
「いい度胸だなてめぇ…代表戦の意味知ってんのか?」
オレンジ色のツンツンとした髪がユーノの青髪に突き刺さる。ユーノは当然、その代表戦のルールを知らないわけが無い。
「知っていますよ。僕もこのダンジョンに入りたいので、手っ取り早く…2対1というのはどうですか?」
正人たちに話すようないつも通り優しい笑顔で提案するユーノ。その態度が癪に障ったのかオレンジ髪の青年は剣を取りだし剣先を向ける。紫髪の女性もユーノの元へゆっくりと近づき、杖を向けた。
その2人の高圧的な態度…魔力を向けられてユーノはにやりと目が笑っていない笑みを浮かべる。
「…っ!?」
「なに…!?この感じ…!」
瞬間…威圧していた2人は何かを察したのか1歩あとずさる。その正体は正人たちしか知らない。ユーノの魔法の特性であゆ殺意剥き出し。普段マイナスにしか働かないそれはこういう時には有効的だ。それを思う存分に使い、アドバンテージを高める。
(ひとまずはこれでOK…後はこの勝負に勝てばもっとOK)
その笑みは深くなり、2人は一瞬冷や汗をかくがその次の瞬間にはいつも通りの優しいユーノに戻っていた。
「どうですか?2人がよろしければですが…」
「いいぜ、やってやる。俺の流儀は売られた喧嘩は全買いだからな。」
「いいわよ。あなたを倒したら真っ先にあんたを倒すから」
「ああ、受けて立つぜ!」
そうしてユーノの提案は受け入れられ、2対1の代表戦が始まろうとしていた。
「大丈夫かしら…ユーノ」
「心配ですね…」
「まぁ大丈夫だろ」
少し遠目で見ていた正人たち3人はユーノの融資を見届けるため見やすい場所へと近づく。
(見ただけであの代表2人も相当な腕だと思うが大丈夫か?)
内心、正人はユーノに心配の目を向けていた。ヘラヘラしているユーノしか見た事がないので仕方の無いことなのだが…どうしても心配してしまう。
(ま、あいつは弱くないけどさ)
そんなことを心の中で呟いていると代表戦は始まっていた。
「まずは…お手並み拝見かな」
正人は切り替えて腕を組んでその戦いを凝視する。
オレンジ髪の青年は剣を取りだして勢いよくユーノに接近する。その後ろで杖を構えて魔法を出そうとする紫髪の女性。
振りかざされた剣を避けてオレンジ髪の背中と杖を持っている軌道を被せる。
「…!?」
(うまいわね…私が攻撃が出来ないように避けながら起動を被せてきた…)
「うらぁ!」
オレンジ髪は避けられた剣をそのまま横に振り、炎の魔法をだす。
「うぉっと…危ない」
飛んできた炎の斬撃をジャンプして避けてざっと構えをとる。
(剣をよけても油断はできないね)
その直後、息付く暇もなく魔法がオレンジ髪の後ろから飛んできて、その間を縫うように剣を持ちながら攻撃を仕掛ける2人。
(さすが代表…パーティメンバーじゃなくてもすぐに対応してくるねぇ)
1粒の汗が頬を伝い、見ている人たちも緊張感が伝わってくる。その緊迫した状況の中、ユーノはどう戦うのか…。
ユーノは右手を前に出して振りかざされた剣を魔法陣で守る。ガキィィインと高い音がなりオレンジ髪の青年はそのまま魔法陣を剣で破壊する。
「いない!?」
割るのに必死で前を見ていなかったのか…先程までいたはずのユーノは目の前にいなかった。左右に視線を彷徨わせて確認するが…姿は見えない。
「上ですよ!」
そう律儀に言われ、オレンジ髪の視線は上をむく。そこにもユーノの姿はなかったが、代わりに先程と同様の魔法陣が上から降ってきていた。
「…ぶっねぇ…」
剣を振り回して頭上で魔法陣をガードするが、そのせいで紫髪が出していた魔法が破壊されてしまう。
「ちょっと!なんでそんなに剣を振り回すの──」
「はい…まずは1人目〜」
ストンっと紫髪の魔法使いは両膝を地面に着けて気を失う。周りのパーティ達は何が起こったのか理解が追いつかない様子だった。
「は!?何が起きたの?リーダーがやられて…」
「マジかよ…」
その間コンマ数秒の出来事でシーナとミアも何がどうなったのか分からない様子で目を見開いていた。
「ちょっと!何が起きたの!?」
「何も見えませんでした!」
正人は顎に手を当ててユーノの一連の動きを見ていた。
(魔法を使わずに基礎能力だけで圧倒してる…さすがだな)
そう…この中で正人だけが、そのユーノの動きを追えていたのだ。魔法…というか魔力を纏ったのは今の紫髪の魔法使いを気絶するだけの1回だけ…他は基礎スペックだけで対応していたのだ。
頭上からの魔法陣も破壊し、誰かが倒れる音がした方向に視線を向けるのと同時に…その背後にユーノが一瞬で回り込む。
「てめっ…どっから──」
「『フリーズ』」
ユーノの右手はオレンジ髪の背中に触れ…足から下半身にかけて凍らせれていた。
「ほら?どうしました?このままじゃ全身凍ってしまいますよ?」
「くっ…てめぇ…なにもんだ…」
そう問われたユーノは目を影を浮かべてにやりと口角を上げながら答える。
「僕はただの…パーティ代表ですよ」
そう告げられ氷の魔法が胸まで到達した時…オレンジ髪の青年の口から「参った」と言われ…代表戦は終了した。