ようこそ!うちのパーティへ!
「服!服着替えてください!」
ユーノはミアとシーナのバスローブに耐えきれなくなり、頬を赤らめ視線を逸らしながら指を指す。
「えー、このバスローブすごくモコモコで気持ちいいのに…」
シーナは口を尖らせてムゥっとさせる。正人もユーノの恥ずかしさにようやく気づいたのか、それを気遣うようにミアに言った。
「ミア、この後外出るかもしれないから…念の為着替えること出来るか?」
「そうですね…分かりました」
ミアは正人の言葉に頷き席を立つ。
「シーちゃん、着替えに行くよ」
「は〜い」
不満そうにしながら立ち上がるシーナ。2人は1度この部屋を出て着替えに向かった。扉が閉まる音が聞こえ、ユーノは恐る恐る目を開ける。
「2人なら行ったぞ」
「よ…よかった…」
「そんなに恥ずかしいのか?」
「恥ずかしいですよ!逆に正人さんは恥ずかしくないんですか!」
ユーノは正人にキリッと視線を向けながら言う。正人は考えるように視線を天井に向けて答える。
「別に見えてないからいいんじゃね?」
「そういう問題じゃなぁぁい!」
ユーノは頭を抱えて唸るように声を上げる。正人は首を傾げるだけだったが、ふと…自分の女慣れしすぎている事に疑問を抱く。
(別に慣れてる訳じゃないし恥ずかしくない訳じゃないけど…相手がそういう気ないんだったら普通なんじゃないのか?)
正人も当然・妹以外に女の子と遊んだこともなければ会話を交わした回数も少ない。だが正人の人生の生き方は『自分ができるかできないか』という選択だった為、さほど気にすることもなかった。
好意があるかないか…これもそこに当てはまるのだ。少し前の正人ならミアのそのバスローブを見て少しだけ…本当に少しだけたじろいでいたかもしれないが。妹は妹、ミアはミアとして区別するようにしたので正人はそういう考えにも至らなかったのだ。
(つっても…ミア1人だけだったら多少ユーノと同じ反応になったかもな)
と考え頭をポリポリと掻く。
しばらく時間が経ち、閉まっていた扉がガチャっと開く。部屋に入ってきたのは服を着替え直したシーナとミア…そしてメイド長であるアキの姿だった。
「お、服も綺麗になったんだな」
正人はシーナとミアのピカピカになっている服を見て言う。
「でしょー!アキさんが魔法で綺麗にしてくれたのよ!」
「凄く助かりました!」
腰に手を当ててツンっと顎をあげるシーナに正人は思わず「なんでお前が誇らしげにしてんだよ」と言いそうになるが、聞いた事のない名前が耳に入ったことで正人は首を傾げていた。
「…アキさん?」
正人のその言葉に反応したのか、メイド長であるアキはスタタっとユーノの隣…正人の前に足を運び礼儀正しいお辞儀をしながら自己紹介をする。
「申し遅れました。私この屋敷のメイド長をしております。アキ・キーュヲと申します。」
凛々しい姿に圧倒され、正人も座っていた腰を上げてビシッと背筋を伸ばす。
「久遠正人です。ユーノさんとはこれから旅をする仲間になります!ふつつかものですが何卒よろしくお願いします。」
きっと…仲間、という言葉に反応したのだろう。メイド長のアキは肩を少しだけぴくりとさせながらもお辞儀をしていた。
そして、ミアやシーナも…浴場で話していた心配はなくなり、微笑する。ユーノも正人の言葉を聞いてアキと正人のことをじっと見つめていた。
(何よ…心配して損したじゃない)
(正人さんの口から聞けるなて驚きました)
…と言いたそうな視線をお辞儀しながらも感じ、シーナとミアの方は見ずにユーノの方へと視線を向けた。
「改めて、よろしくな。ユーノ」
正人はユーノに手を差し伸べてそう言った。そしてユーノも肩を竦めながらその手を握り。
「はい!よろしくお願いします!」
「うちのパーティへようこそ!」
「これからよろしくお願いしますね!」
正人に続いてミアとシーナも歓迎する声を上げた。その部屋の中にいたアキは涙を浮かべて鼻をスンっと啜る。
(ユーノ様…よかったです。)
ハンカチを手に取り目頭を抑える。そしてそれはアキだけではなかった。いつでもなにかあった時のために部屋の外でスタンバっているメイドや執事たちも…アキ同様、涙ぐんでいた。
◇
「そういや、もうパーティ申請ってしなくていいよな?宿も飯も手に入っちゃったし」
「あ〜そだね〜。でもダンジョンに行くしこの街も出るだろうからあるに越したことは無いけど…」
指を顎にあてながら言うシーナに少し申し訳なさそうにする正人。部屋の中ですっかりリラックス状態になっている4人は雑談をしていた。
シーナと正人の会話にユーノは反応する。
「それなら大丈夫ですよ。街を出てもいくつか屋敷はあるので、そこで休息すれば問題ないと思います」
「「便利すぎだろ!」」
ツッコむように正人とシーナは言った。ユーノは肩を竦めながらも視線を窓に向けて語る。
「ちゃんとしたパーティを組んだことがなかったので…楽しみです」
どこか悲しそうにも見えるその発言に3人は少し戸惑いを見せる。ミアは優しい笑顔をユーノに向けて言った。
「実は私達も今日が初めてなんです。なので一緒ですね!」
ミアは思っていることをただ伝えただけなのかもしれない。でもその言葉はユーノの心に強く突き刺さっていた。
(初めて…なんだ…)
先程まで悲しそうにしていた表情が一気に柔らかくなり、頭を書きながら気恥しそうに話し出す。
「皆さんの期待に添えられるよう…精一杯頑張らせていただきます。」
その言葉に全員が微笑み、その空気は確かに…ここに来た時よりもすごく暖かくなっているのを感じたユーノだった。
そこからもまた暫く時間が経過し…外もすっかり暗くなっていた。ユーノの屋敷が宿…という形になったがずっと居るとやはり申し訳なくなってしまう。正人は窓を眺めながら少し気まずいという感情を出さないようにしていると…閉まっていた扉がガチャっと開き、メイド長が入ってきた。
「ユーノ様…そろそろご夕飯の準備をしますがよろしいでしょうか?」
「ああ、ありがとうアキ。お願いするよ。」
「かしこまりました」
一礼して開いていた扉を閉める。そしてミアとシーナはもうそんな時間になってたのかと窓を眺めていた。
「ていうか、本当にご飯もまで頂いちゃっていいの?」
シーナは素朴な質問をユーノに投げる。ミアも同じことを思っていたのか視線をユーノに向けていた。
「当たり前じゃないですか…仲間なんですから」
きょとんとした顔をしながら至極当然の理由を返すユーノ。シーナは肩を竦めながら言う。
「有難いんだけど…その、してもらってばかりはなんというか…」
視線をさ迷わせてモジモジしながら答えるシーナにミアは続く。
「その!もし宜しければ、夕飯のお手伝いとかって…させては貰えないでしょうか?」
意外な発言に正人もユーノも目を見開いてしまう。その純粋な眼差しで見られたりしたら断れるはずもなく…
「そ、それじゃあお願いしてもらおうかな?」
「ほんと?」
「ありがとうございます!」
シーナとミアはハイタッチをして喜びを露わにする。正人もその2人の様子を見て笑みを浮かべていた。
(ま、仮にダンジョンの近くに屋敷がなくて野宿するってなったりしたら料理できてる人がいた方がいいしな)
…とそこまで考え、正人もせっかくならとユーノに提案をする。
「二人がご飯作ってくれるなら、俺に魔法を教えてくれないか?時間も少しあるみたいだし…」
頬を掻きながら言う正人をみてユーノは笑顔を向けながら承諾する。
「いいですよ!では、防魔法室へ案内します」
ユーノはそう言いながら扉を開けて、外で待機している執事に声を掛ける。
「ミアさんとシーナさんをキッチンの所に案内してやってくれ。ご飯ができたら防魔法室まで来てくれるとありがたい。」
「かしこまりました」
ユーノに一礼をしてミアとシーナを案内する執事。
「それじゃあまた後でね〜!」
「ご飯楽しみにしていてください!」
「おう!わかった!また後でな〜」
「…では」
各々やることが決まり、その部屋を後にした。