極めれば最強じゃん…
「早速本題なんですけど…あなた、何者なんですか?」
ユーノは真摯な顔で告げる。その言葉は言われるんだろうなと薄々感じていた正人は至極真っ当な…嘘偽りなく、こちらも真摯な顔で言った。
「すまん俺にもわからん」
「…はい?」
凍っていた空気が一気にはてなで埋まった感覚に襲われるユーノ。真剣な顔をしていたので何か話してくれるのだろうと思っていたのかもしれない。でもそれは否。正人自身なにもわかっていないしなんだったら正人から聞きたいみたいな…きょとんとした顔で自分の顔を指さしながら続ける。
「俺、そんなに変か?」
「めっちゃ変です」
「めっちゃ?」
「…ええ」
腕を組んで眉をひそめながら答えるユーノを見て少し肩をひそめる正人。
(正人さん…本当に自分で何もわかっていないのか?だとしたら順番に整理するように質問した方がよさそうか)
ユーノはそうしないと自分でもわからなくなりそうだったので、組んでいた腕を解き両ひざに頬杖をおきものすごく真剣な表情で正人を見つめる。
「…なんだよ」
ユーノの顔に影がかかったみたいな表情を見て思わず息を呑んでしまう。
「何個か質問してもいいですか」
「…ああ、答えれる質問だったらありがたいな」
頭を掻きながらいう正人にユーノは一拍置いて続けた。
「拘束魔法はどうやって解きましたか?」
一つずつ…あったことを確かめるかのように始まった取り調べのような質問時間。正人は顎に手を置き空に視線を彷徨わせながら答える。
「魔力?みたいなやつ?…あの、青黒い靄みたいなやつを出したら急に解けた…かな?」
…と正人は解釈しているが、その答えがわかると思い少しだけ期待を寄せながらユーノの次の言葉に耳を傾けたが…
「わかりました…それじゃああの近接戦闘は何ですか?魔法も出さずに蹴りだけであんなに飛ぶ人初めて見ましたよ」
「…あ~」
「どうしました?」
「いや、なんでもない」
(答えは教えてくれないのね)
肩を竦めながら正人は明後日の方向を見る…が、ユーノのその質問は確かに正人も知りたかった。正人は人間界にいたときは空手や柔道、そういうものは一切習ったことない。ましてや友達と喧嘩をしたことなんて一度もないのだ。その男が何故…あんな蹴りを大男に入れれたのか…気になるところではあった。
(まぁでも実際、できないとは思ってなかったからなぁ)
それが、答えなのだ。基本正人はやろうと思えばできてしまう人間だったので魔法ではなくフィジカルなら…あの時はできる気がした。
天井を見つめながら考えるように思考させる正人…ユーノはその様子を見て「説明できないのかよ」と心の中でぼやきながら正人が答えるのをじっと見つめていた。
答えがまとまったのか正人は視線をユーノに向けて話し出す。
「ん~、正直分からんって言ったらそれまでだったんだけど…あの時は仲間を助けるために動いたから体が勝手に…ってやつか?」
「…わかりました」
正人の答えに納得していないのかユーノは額に手を当ててため息をつく。正人は逆の立場だったら同じことをする自覚があったので特にそれには反応しなかった。
「それでは最後に…大男の爆破魔法を防いだ時…あれはどうやってやりましたか?」
その時のユーノの顔は今までのどの質問よりも真剣な顔をしていた。正人はその視線に少し肩を竦めて、自分の服を眺める。あの時はこの服の特性だと結論付けてミアもシーナも納得していた。
(もしかして…何か違うのか?)
正人が服を眺めるとユーノもそれにつられて正人の着ている服に目を向ける…そしてユーノの頬はひきつっていたのが分かり、刺激しないように話そうと決心した。
「服の特性で、自分の魔力の量に応じて魔獣やその他の敵をおびき寄せない服…って店主は言っていたけど、実際の所は魔法も防いでくれるらしい…」
らしい…という言葉に反応したのか、ユーノはまた難しそうな顔をして正人をじっと見つめていた。
(いったいどんな反応なんだそれは…)
視線を逸らして俺はもうこれ以上知らないぞという意思表示を見せる。
そして数秒の沈黙が続いたのち、ユーノは軽く咳払いをし…先程の正人の言葉を真っ向から否定した。
「いや、違いますね」
「…違い、ます?どういうことだ?」
数秒の沈黙があったため、話をまとめているのかと思っていた正人…でも実際返ってきた言葉は否定の言葉で少し正人は目を見開き驚いていた。ユーノは今の意見では言葉が足りないと察したのか、付け加えるように口を開く。
「確かに、あなたの服にはそういう特性が施されています。ですがあくまでそれは魔獣やその他の敵をおびき寄せないといった特性です。」
正人もそこまで言われて納得をしたのか、ハッと思い出したかのようにユーノに視線を向け…
「もしかして、魔法を無効化したのって他の理由なのか?」
「…と、僕は思っているんですけど…さっきあなたの事をまじまじと見た時特に何も感じなかったんですよね」
ユーノは両手を上にあげてお手上げですといった表情を見せていた。正人は内心そんなこともできるのかよ便利すぎるだろ魔法…と心の中で強く思いながらもそれを押し殺す。
「正人さん、先程出していた青黒い魔力出せますか?」
首を傾げながら聞いてくるユーノに正人は魔力を出そうとする…が—
「無理だわ。手っ取り早く魔力を出す方法とかってあるのか?」
目が点になりながらももう考えるのを諦めたのか正人の質問に頭を抱えながらも答えるユーノ。
「まぁいいです…えっと、ゆっくりと目を閉じて自分の胸に集中するんです」
ユーノの言われた通りにする…確かに胸付近が少しだけ熱くなってきているのがわかる。
「そのまま目を閉じて…胸の真ん中付近に集まってきているのを感じたら少しだけ全身に力を込めてみてください。」
「…」
(すげぇなこれ…血液の流れがはっきりと分かる…段々と体が熱くなると同時に何でもできそうな感覚だ)
きっと…それこそが魔力の本質なのだろう。一点に集中しているのが体で感じ、全身に力を籠める正人。
「…っ!?」
正人の体を覆うように出てきた青黒い魔力。ユーノはその魔力を目の当たりにして目を見開いていた。
正人は自分の両手を眺めるようにその魔力を見ていた。
「これが…魔力」
大男と戦っていた時は意識もしていなかったが、その魔力を見てどこか寒気がするのは感じた正人。
「なんか…自分の魔力じゃねぇみたいだ」
正人自身、ここの世界の住人じゃないのでその考えはきっと的外れ…ではないのだろう。しかしユーノやミア、そしてシーナはこの魔力は完全に正人のものだと認識しているのでユーノは首を傾げながら問う。
「そこから魔法は出せないのですか?」
ユーノのその言葉に視線を彷徨わせながら正人は答える。
「あ~、それが出来ないんだよな。大男と戦ってた時も魔法は出せなかったし…」
「確かに出していませんでしたよね」
ユーノも思い出すかのように空に視線を彷徨わせながら口にする。正人はミアとシーナがいないうちに聞いておこうと思い…満を持してユーノに質問をしていた。
「俺さ、魔法の出し方が分からないんだけど…よかったら教えてくれないか?」
頭を掻きながら気恥ずかしそうに聞く正人を見てユーノは微笑しながら答える。
「いいですよ。僕が教えれる範囲であれば教えてあげます…何か上から目線ですね。すみません」
「いや、いいんだ。俺本当にこの世界の事も分からないから…誰かに教えてもらいたかったんだよね」
もうこの時にはユーノに対しての警戒心は完全になくなり、正人は仲間だという認識をしていた。
(まぁミアもシーナも歓迎しているっぽいし二人がいいならそれでいいか)
実際、二人がいいならそれでいいと考えていたがずっと警戒しているのも気疲れしてしまうのでもうこの段階で警戒心がなくなったのはだいぶ嬉しい所ではある。正人の言葉にずっと首を傾げたり頭を抱えたりしていたユーノだったが諦めがついたのか今は疑問も持たずに話をしていた。
そして…ユーノは改めて正人に問う。
「僕を…仲間に入れてくれますか?」
少し気まずそうに聞くユーノ…正人は少しだけ笑みを浮かべて頷いていた。
「もう仲間だよ」
「…っ!?」
その正人の言葉を聞いて自然と涙があふれていた。今までずっと魔法の特性のせいで仲間に入れてもらえず、一人で戦ってきたユーノ。今…初めて仲間だといってくれた正人に対し、ユーノはこれ以上ない嬉しさが込み上げてきていた。正人はそんな様子のユーノを何も聞こうとはしずに…ずっと見ているだけだった。
(まぁ、色々と大変だったんだろうな。ユーノも)
ユーノは涙を拭いながら謝罪をする。
「ごめんなさい。少し嬉しくて…」
「大丈夫だよ。それに感謝するのは俺達の方だ」
「…え?」
正人はそう口にし、周りを見渡しながら語る。
「宿も、金も…何もなかった俺達がこうして何もかもやってくれているわけだし…だから、本当にありがとう」
いつもの無表情とは違う…優しい笑みを浮かべながらいう正人の顔を見て、今まで感じていた孤独感というのがなくなっていくのを感じていた。
(あぁ…これが、仲間…)
ユーノは自分の胸に手を当てて目を瞑る。まだダンジョンも…何もしていない段階だけど、今…確かに仲間と認識されていて、その空間の居心地がよくて仕方がなかった。
しばらくの沈黙が続き、ユーノは深呼吸をする。
「ありがとうございます。本当に嬉しいです」
「もういいって…」
頬を少し赤くしながら答える正人にユーノは微笑を浮かべていた。
そして、ユーノは咳払いをして話を戻す。
「それで、教えるのはいつがいいとかいう希望はありますか?」
「そうだな…次のダンジョンに行くときにでも教えてくれよ。大体見たらいけると思うから」
正人の何気ない言葉を聞いてユーノは若干引いていた。
「もう本当にわからない!」
嘆くように吐露するユーノに正人は首を傾げる。正人もユーノが弱いとは一つも思っていなかったが、ユーノは逆に正人が強すぎるという認識だ。
(この人極めたら最強になるんじゃないの?魔法も知らないであの異常な魔力を纏えるのはおかしい)
…と、そんなことを心の中でつぶやいていると部屋ん扉が開き、シーナとミアのバスローブ姿が目に入る。
「ただいま~!いや~めちゃくちゃ気持ちよかったよ!ありがとねユーノ!」
「すごくさっぱりしました。ありがとうございます。」
シーナは笑顔で部屋に入り正人の隣に座る。その横にミアも座りなんとも礼儀が正しいミアの姿に感心してしまう正人。…が、しかし…ユーノの返事はなく正人は正面に視線を向けると…
「い、いや…さっぱりしたのならよかったです!」
頬を赤くしながら視線を逸らすユーノ…確かに二人の姿は風呂上りでバスローブ一枚。そりゃあ年頃の男の子からしたら刺激が強いものだ。正人もユーノも大して年齢は変わらない。何だったら逆に正人がおかしいまである。
正人もミアもシーナも何で頬を赤くしているのだろうと首を傾げていた。
「どうしたの?」
シーナは怪訝な顔を正人に向ける。指をさしながら聞いてくるシーナに正人は肩を上にあげて「さぁ?」と口にするだけ。
ユーノはその会話が聞こえていたので視線をこちらに向けずに逸らしながら…頬をさらに赤くしていった。
「正人さんはその…なんとも思わないんですか!?」
「うん…別に…」
「ほんっとこの人よくわかんない!」
頭を抱え、天井に向かって叫ぶように言うユーノであった。