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君は一体何者なんだい?

「おい、てめぇ何うちの仲間に手ぇ出してんだ」

「あぁ!?んだよてめ―—」

大男は声をあげながら声の主の方へと振り返る。次に男の視界に映ったのは声のした主ではなく…右足だった。咄嗟に魔法で覆って身を守るがその威力は殺せず、勢いよくフリースペースの奥の壁に飛ばされる。

めり込んだ壁のしたの倒れこむ大男。じゃらじゃらと砂利が大男の体に降り注ぐ。

ミアとシーナは自分が飛ばした大男にゆっくりと近づく正人を見て、魔法が使えると確信する。今…正人の体の周りには青黒い、魔力と呼ばれるものを纏っていたからだ。魔力というものは人のうちにあるものを具現化させた…いわゆる生命気というものに近い。シーナはオレンジ色の魔力を纏い、ミアは赤い魔力を纏うことが出来ている。ではなぜ…ミアもシーナも困惑しているのか…それは…

「正人さんの魔力…黒色なのは初めて見ました」

「えぇ…しかも真っ黒ではなく黒に少し暗い青が縁どられているのなんて…」

正人の後ろ姿を見ながら言う二人だったが…シーナは「やはり」といった感じで起き上がりながら顎に手を当てる。

(最初に会った時の違和感はこれだったのかしら?)

最初に会った違和感…路地裏で会った時はこの男は間違いなく強いと分かっていた。だからダンジョンに無理やり誘ってその力を見ようとしたけど、結果魔法の出し方はわからないと嘆き…出したのはとどめを刺した時だけ。そして今…明確に正人が自ら出している魔力というものをシーナはわかっていた。いくら考えても分からないものは分からないので諦めてシーナは再度…視線を正人に向けていた。

ザッという音を立てて倒れこんでいる大男の前で立ち止まる正人。

「おーい、いつまで寝てんだ。やられてるふりしても無駄だぞ」

正人は怒っているわけでもなく、悲しい顔をしているのではなく…淡々とプロゲーマーをしていた時みたいに冷静に、無表情で話しかけていた。その正人の言葉に男はピクリと肩を動かし、正人が蹴った右頬を抑えながら顔をあげる。

「…っ!?てめぇ、魔法が使えないはずじゃ…」

大男はまさか自分を飛ばした人物が正人だとは思っていなかったらしく、目を見開き驚いていた。正人は一瞬だけ視線を逸らしながら言った。

「あ~…俺もそう思ってたんだけど、なんか使えるみたい」

「…は?」

正人の他人事のような発言に目を点にさせて、情けない声を出していた。

「お、お前…拘束はどうやって解いたんだよ!?」

慌てながらも立ち上がり、大男は右手を背中に隠すようにしながら声をあげる。

「どうやって解いたって…これ?」

正人は自身の出ている青黒い魔力に指をさしながら言う。それでも大男は信じきれなかったのか「あり得ねぇ」といった顔で眉をひそめる。

「ちなみにだが…あんま変な動きしない方がいいぞ?後ろで魔法出そうとしてるのバレバレだし」

「…っ!?」

正人は大男が隠していた手をじっと見つめて語るが、大男は一瞬驚くだけで正人の言うことを聞こうとはしなかった。次の大男の行動がなんとなくわかった正人は溜息をつきながら頭を掻く。

「何余裕な顔してんだァ!?てめぇはもう死ぬんだよ!」

次の瞬間、大男は勢いよく走り出し…正人の顔の前に右手を出して黒い不気味の魔方陣を出して爆破魔法を発動していた。

バンッ…と正人の顔の周りに黒い煙が上がり…その場で見ていた人たちが頬をひくつかせながら驚く。

「…正人さん!」

ミアはその様子に耐えきれなくなったのか、正人の元へと向かおうとするが…シーナは右手を横に出してミアの進行を止めた。

「シー…ちゃん?」

涙を浮かべながらシーナを見るミアに、シーナはニイッと笑みを浮かべながら告げる。

「正人なら大丈夫よ…よく見てみなさい」

「…え?……っ!?」

大男は笑いながら語る。

「俺の事を吹っ飛ばしたぐらいで何言い気になってんだよ!Aランクの俺がこんな雑魚に負ける訳ねぇだろうが!」

大男はガハハと笑いながら勝利宣言する。それを見ていた下っ端たちもその大男に駆け寄ろうとした——が。

「どうした?魔法を俺にあててくれるんじゃねぇのか?」

大笑いをあげていた大男の笑みがひくつき…視線を正人の方へとゆっくり向ける。ちょうど黒い煙は晴れ、正人の顔が見える瞬間だった。大男はさすがに傷の一つや二つはついてると思うだろうと思っていたのだが…

「な…なんで無傷なんだよ…」

大男の声に反応し…フリースペースにいた人たち全員が目を見開く。正人はその視線を感じながらも意に介さず右手で男の顔面を掴む。

「なんでだろうな…あ、俺より弱いからなんじゃない?」

煽るように…嘲笑うかのように笑みを浮かべる正人。大男はその顔を確認できていなかったが自分が煽られている事には気づいていたので右手を前に出し魔法をポンポンと繰り出す。しかし正人には一ダメージも入っていない。

「おい」

「…ッヒ……」

威圧的な声が耳に入り、繰り出していた魔法を止める。その図はもうお父さんに怒られている子供…みたいな感じで、先程まで高圧的な態度を取っていた大男も小さく見えるほどにビビり散らかしていた。

そして正人は掴んでいた顔を地面に倒し、馬乗り状態になる。地面がめり込むほど強い力で頭部を地面にたたきつけられ、気絶寸前の大男…。正人はそんな様子を気にも留めることなく口を開く。

「お前…うちの仲間に手出したよな?」

「ヒッ…ず…ずびば——」

「しーっ、まだ喋ってるだろうが」

右手で大男の両頬を掴み、左手の人差し指で自分の口の当てて話す正人。もうどっちが悪役かわからない。それでも周りの人間からしたら大男が完全な悪だったのでその光景をまじまじと眺める。

「お前、本当はAランクじゃねぇだろ」

「…っ!?」

核心を突かれたのか、眉をひくつかせる大男。正人からしたらもう…それだけで十分だった。

「自分を強く見せるために弱い奴を仲間にし、自分より強い奴にはへこへこと頭を下げる…典型的なくそ野郎だな」

実際、大男が魔法をポンポンと出して抵抗していた時…最初に会った時の殺気を感じていなかった。そして極め付きは自分の魔法が通用しないと分かった瞬間怖気つくその様子。だが、この大男でも馬鹿というわけじゃない。正人を魔法で拘束しミアを下っ端に任せて自分でシーナの動きを封じ込めていた。Bランクのシーナが魔法を出せなかったとなるとAランクというものは信用できるのだが、どうも腑に落ちない。大男達が正人たちの会話を聞いていたとなると…

「お前ら、誰かに命令されて俺達を襲ったのか?」

「……」

目を瞑り、何も抵抗をしなくなった大男を見て、正人は溜息をつく。確証はなかったし…ダメもとで聞いたつもりだったがどうやら正人の予想は的中したらしい。正人は大男の体が震えているのが分かり…顔を近づける。

「一体誰に——」

瞬間…倒れこんでいる大男の下に魔方陣が出現し正人は思わず体をどける。その大男は正人を睨みつけながら…

「…さっさと殺せや、バカが」

…と言い残すように言い、大男はその魔方陣へと消えていった。

正人は下っ端がいたであろう場所に視線を向けるが…当然、そこに下っ端の姿はなかった。そして小首をかしげながらジト目を向ける正人。

「あいつらの逃げ足速すぎだろ」

肩を竦め…あたりを見渡すがそこにミアとシーナの姿はなく——

「ぐへぁ!?」

背中に衝撃が走り正人は尻もちをつく。衝撃が走った方に視線を向けるとそこには涙をうるうると浮かべているミアとシーナ。正人は「へ?」という情けない声を出しながら二人をなだめるように話す。

「わ、わかった!一回落ち着け!な?」

「だって、だって…怖かったんだもーん!」

「正人さん…本当にありがとうございます」

頭を掻きながら困惑する正人だったが、その様子を見ていた周りの人たちは賞賛を送るように拍手をし始める。

「すげぇなお前!めっちゃ強かった!」

「正直お前も悪役かと思っちゃったよ!」

「かっけぇ!まじでかっけぇ!」

正人は苦笑いを浮かべてその賞賛を素直に受け取るが…それと同時に正人も自分の胸に手を当てて安堵する。

(あっぶねぇ…魔法は出せなかったけどなんかいけたぁぁぁあああ!)

そう…この男、魔法を出していない。一度も。だって仕方ないじゃないか、詠唱なんてわかるはずがないんだもん。でも魔力の出し方は分かった。それを身に纏い威嚇するようにするのが今正人にできる最大限の事だったのだ。

泣きじゃくっていたシーナは首を傾げながら正人に聞いた。

「ねぇ…なんであんたに魔法効かなかったの?」

鼻をすすり、きょとんとした表情で聞いてくるシーナを見て、正人は視線を空に彷徨わせながら自分の着ている服をさす。ミアもシーナも、「服?」と言って傾げていた首をもっと角度をつけて傾げていたが…店で店主が言っていたことをミアは思い出し…

「もしかして…魔獣だけじゃなくて魔法も効かないようになってた…って事ですか?」

「かもな…少なくとも俺はそう考えてる」

頬を書きながらいまだ確証は持てないがという顔をしながら語る正人を見て、シーナは眉にしわを寄せながらいった。

「あんたねぇ…もしそれで直撃したらどうしてたのよ」

「まぁそれはそうだけど…って、一回二人ともどいてくれない?」

そろそろ周りからの視線がいたいという言葉は言わずに、二人をどかせる。

「あーごめんごめん!」

「すみません…つい…」

「ついってなんだよついって」

どんどん冷たくなる周りの目線を感じ…正人は頭を掻きながら微苦笑を浮かべる。

(ど…どうしようこの空気…仲間を助けたはずなのにやけに視線が痛いような…とくに男からの…)

心の中で誰か助けてくれとありもしないことを語っていると…こちらに話しかけながらコツコツと歩いてくる男の声が聞こえてきていた。

「君、ほんと強かったね…一体何者なんだい?」

「…っ!?」

一瞬、殺気のようなものを感じたが…声のした方へと正人が振り返ると、ニコッと笑みを浮かべて手を差し伸べている青髪の青年が視界に入る。

(さっきの敵意は気のせいか?)

と考えて差し出されている手を握る。

「…どうも…」

ミアもシーナも少し警戒してその青髪の青年を見ていたが…何かを察したのか青年はふにゃふにゃした顔をしながら話し出していた。

「僕の魔法の特性で最初にあった人達には絶対に敵意むき出しになってしまうんですよ~!あ、もう解いたので安心してください!」

「 「どんな特性だよ」 」

シーナと正人は思わず突っ込んでしまう。そしてその次の瞬間…ふにゃふにゃしていた顔が次は真摯の顔になり…

「僕も仲間に入れてくださいお願いします!」

握手していた手を一瞬で解き、気が付けば地面に頭をつけて土下座をする青年。そして三人は状況を理解できず目が点になる。

「仲…え?仲間?…はぁ!?」

シーナは怪訝な顔をして土下座しながら懇願している青年を見ては、正人とミアの方を何度も交互に見ていた。

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