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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第四部

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第87話

「レゼルヴ様、ソフィア様他非戦闘員の避難、完了いたしました」

「ご苦労様」


屋敷の外の開けた場所で長杖を持ち、竜人ドラゴニュートの群れが休息しているだろう北西の小山を見据えるレゼルヴに、駆け寄ってきたシューレが報告する。手には弓を構えていて、どうやらレゼルヴと共に戦うつもりらしい。


「シューレ。君もソフィアたちの護衛に回ってくれ。ここは私一人で十分だ」

「いえ」


レゼルヴの指示に、シューレはキッパリと首を横に振る。


「護衛はマッシュや冒険者共に任せてあります。それよりレゼルヴ様を一人で戦わせたなどと知れたら、後でシュヴェルト様に申し開きができません。お供させていただきます」

「……そう」


正直なところ自分一人の方が戦いやすくはあるのだが、そう言われてはそれ以上何も言えない。


しかしシューレはレゼルヴの沈黙を別の意味に解釈したらしく、些か自信なさげに付け加えた。


「その……レゼルヴ様にとってはマッシュの方が信頼がおけるやもしれませんが、そこはご容赦下さい。彼はシュヴェルト様──いえ、オルデン男爵家にとって必要な人材です」

「──プッ。誰もそんなことは言ってないけど」


珍しくしおらしい態度をとるシューレに、レゼルヴは苦笑を漏らす。


別にシューレとマッシュを比べてどうこうなんて考えもしなかった。


「というか、男爵家うちにとって必要な人材っていうなら君もそうでしょ。兄上の片腕なんだから」


シューレは自他ともに認めるシュヴェルトの側近であり片腕だ。幼い頃からシュヴェルトと共に山野をかけ、槍を振るい、よくシュヴェルトを補佐してきた。いずれ彼が父にとってのアハスのような存在になるのだろうと、誰もが考えている。


しかしそう言われてもシューレの表情は晴れない。


「……買い被りですよ。この大事な時に、共に戦うこともできない片腕など笑い話にもならない」


シューレは速度を優先したシュヴェルトに置いて行かれた。これがもし父とアハスの関係性であれば、アハスは父と共に戦場を駆けることができていただろう。だがシューレは年齢の割に優秀な戦士ではあっても、父やシュヴェルト、アハスのような人外の武力はない。


「それはむしろ兄上たちの方がおかしいのさ。理不尽な連中を基準にものを考えるべきじゃないよ。それに側近の役割は何も戦うことだけじゃない。君は政務や後方支援でしっかり兄上を助けてるだろう?」

「……そうかもしれません。ですがそれは私でなくとも出来ることです。むしろそうした分野ではマッシュの方が得難い人材でしょう」

「…………」


淡々と愚痴をこぼすシューレの姿に、レゼルヴは初めて彼がそんな劣等感を抱えていたことを知った。


レゼルヴは幼い頃にシューレに悪戯をされたイメージが先行して彼のことを敬遠していたが、誰もが時間と共に変わっていく。また今度時間をとって、彼とじっくり話をしてみたいと思った。だが今は優先すべきことがある。


「──レゼ様!!」


集落の端の櫓から丘を見張っていたメルが息を切らせて駆け寄ってきた。


「来ました!! あの速度だと接敵まで二分もありません!」

「!」


月明かりを影に、三〇を超える蛮族が宙を舞い、見る見る間にその姿が大きくなっていく。そして群れの先頭をいく影の何体かには、竜人の中でも貴種とされる証──立派な角が生えていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なるほどなるほど、そうきたか~」


その光景を遠く離れた帝国の自室で遠見の水晶に浮かべて観察しながら『屍姫』エインは楽しそうにひとりごちた。


「ルーカスさんのことだから、素直にこっちの言うことに従わないだろうとは思ってましたけど、なるほどねぇ~」


呟いて、エインは口元に手を当て水晶の中のレゼルヴの姿を見る。


「確かに兵士の大半は砦から動けず、本拠を落とすだけならこれで十分──そう判断した気持ちは分からなくもありません。けれどここにはあの坊やがいます。この戦力だけで本拠を落とせるかというと──」


十分にも思えるが、何しろ手の内が読めない相手だ。隠し玉の可能性を踏まえれば、些か厳しいかもしれない。


「……ふむ。私の指示を無視したのはあっちだし、仮に失敗したとしても文句を言われる筋合いはないんですが……うん。後から『何で敵の情報を隠してたんだ』なんて因縁を付けられたら溜まったもんじゃありませんし、状況次第では少しお手伝いしてあげましょうか」


果たしてその必要があるのか否か──エインはそれを見極めるべく、冷たい視線を水晶球の中のレゼルヴに向けた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「なっ! 角持ちが複数……!?」


空を舞う敵の姿にシューレが目を見開き絶望的な声を漏らす。


上位蛮族である竜人は最下級の雑兵でも並の戦士一〇人分、そしてその貴種である角持ちは一番下の男爵級でも更に五倍の戦闘力を有している。それが複数ともなれば、仮にシュヴェルトがここにいたとしても迎撃できるかどうか。


「レゼルヴ様、やはり無茶です!! ここは私が食い止めますから、貴方はシュヴェルト様と合流して──!」




──さて、どうしたものかな。


シューレが絶望した敵戦力を前に、しかしレゼルヴは全く動じていなかった。


複数の角持ちが協調していたことに驚きはしたが、それは今気にすべきことではないし、問題でもない。


──どこまで手札を切るべきか……


彼が問題にしていたのは勝ち方だ。切り札を切れば、目の前の敵を撃退することは難しくない。ただそれをすると、敵に三の矢以降があった場合の対処に支障がでてくるかもしれない。


では切り札を伏せたまま敵を倒せるかというと──出来なくはないが、手間も時間もかかるし、周囲に被害が出る可能性がある。


──仕方ない。いっちょ派手にやってやろうか。


決断し、レゼルヴは意識を外へ──己の工房へと伸ばす。


それと同時、山中に伸びた作りかけの歪な道路が、淡い光を帯びた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「…………は?」


同時刻、その光景を遠く離れた帝国から見つめていたエインが、千年を超える彼女の長い人生の中でも記憶にない、間の抜けた声を漏らした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


魔術師にとって己の知を守る工房は他に類を見ない鉄壁の要塞だ。


工房内で魔術師は実力を超えた魔術を行使できるに留まらず、様々な不可能を可能とする。


レゼルヴの切り札とは、その工房の疑似的な拡張だった。


砂利など道路の建築資材に、こっそり自分の血や薬品などを混ぜ込むことで陣を構築し、戦場となるオルデン領の山々そのものを己の工房の一部とする。


歪な陣なので感知や繊細な呪文行使には向かず、また強度も低く何度使用に耐えられるかも分からない。


だが一方で大規模な陣により出力は担保されており、また歪で不完全であるが故に、実際に発動するまで外部からその正体を察知することはほぼ不可能となっていた。


図らずもそれはアンデッド軍団を送り込んできたエインと同じコンセプト。不完全故に見抜くことは困難であり、圧倒的な質量で全てを蹂躙する。


ただしレゼルヴのコレはエインを超えて──




「『告げる──』」


その一言で夜が明けた──いや、夜空に突然、太陽のごとき輝きが生まれた。


『────!?』


突然の出来事に空を舞い近づいてきていた竜人の群れが──いや、オルデン領にいた全ての者たちが動きを止めて天を仰ぐ。


そして竜人たちは理解はできずともそれが自分たちにとって危険なものだと感じとり、慌ててその空域から離脱しようとした──が、まるで彼らの身体は重力に囚われてしまったかのように少しずつその太陽に引かれて空に吸い込まれていく。そして──


「『宙の果てに在りしもの 祖は始まりの一 祖は慈悲と怒りを知る者 終末の時 ここに我ら いと尊き天上の裁きを乞ひ願う──【太陽爆発サン・バースト】』」


──カッ!!!


太陽は弾け、通常のその呪文に十倍する威力の破壊が空を満たす。


そして空が再び夜の落ち着きを取り戻した時、竜人たちの痕跡は塵一つとして残されていなかった。


「…………こんなことが出来るなら、貴方がアンデッド退治をした方が速かったのでは?」


傍らでその理外の光景を見せつけられたシューレが、呆気にとられた表情でそんな言葉を絞り出す。


それにレゼルヴは苦笑し、歪な魔術行使の反動でダメージを負い垂れてきた鼻血を隠すように拭いながら、何てことの無い風を装い言った。


「味方諸共戦場ごと薙ぎ払うしかない状況ならそうしたよ」

「………は、はは」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「……いやいやいや。流石にそれは駄目でしょ。そういう反則インチキはさぁ」


怒りと苛立ちを滲ませ『屍姫』エインは──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「避難させる必要もありませんでしたね。どうしましょう? 一旦、ソフィア様たちを屋敷に戻しますか?」

「……いや、まだ敵の攻勢がこれで終わりとは限らない。しばらくこの状態のまま待機だ」


シューレは流石にあの大戦力の後でさらに三の矢が送り込まれてくる可能性は低いのでは、と思ったが、先ほどの大魔術の衝撃もあり素直にレゼルヴの言うことに従う。


そして見張りは他の者に任せ、レゼルヴには一旦詰め所に戻ってもらおうとした──その時。


「──レゼ様! 上!!」


メルの焦った様子の叫びにレゼルヴたちは反射的に空を仰ぎ、一瞬遅れてそれに気づく。


『!?』


直後、流星が夜空を切り裂き、レゼルヴたち目掛けて降り注いだ。

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