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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第四部

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第82話

「…………?」


最初にその異変に気付いたのは、猟場の手入れを終えて山から下りてきた地元の狩人だった。


夕暮れで深まる影の中に動くものを見つけて足を止める。


獣、あるいは蛮族か──そうした警戒は直ぐに弛んだ。目を細めて見ると、動いているのは地面だ。モコリ、モコリと地面が少しずつ浮き上がって──


──モグラ、か……?


それにしては少し大きいように思う。狩人が興味を引かれて近づき地面を覗き込む、と──


──ボコッ!


「ひ、ひいっ!?」


骨の手が、地面を突き破って現れた。




同様の異変は夜の訪れにあわせて密やかにオルデン領の各地で起きていた。


スケルトン、ゴーストを中心とした不死の怪物(アンデッド)の出現。


それは一〇や二〇どころの騒ぎではない。領内全体で少なくとも数百単位で大量発生していた。


しかしオルデン領の住民はこの大規模な異常事態に気付くのが遅れてしまう。


理由はいくつかあった。


まずアンデッドの発生場所が広域に分散していて、しかもその多くが山間部の人目に付きにくい場所であったこと。


人々が日中の仕事を終えて丁度気が緩む時間帯であったこと。


そしてアンデッドの発生そのものは自然に起こりうることであり、見かけたとしても余程数が多くなければ取り立てて騒ぐほどでもないということ。




「おい、スケルトンが出たって!?」

「こっちだこっち! 手伝ってくれ!」


砦で見張りに立っていた兵士が、ヒューマンより一回り以上大きな骨格のスケルトンを槍で殴りながら、味方に応援を呼ぶ。


──ベキッ!!


スケルトンは筋肉を失い魔力でその身を動かしているため、生前よりも動きが鈍重になるという特徴がある。その為、相対していた兵士は槍の穂先で苦も無くスケルトンの肩の骨を砕くが──


「げ」

「馬鹿! 一々動き止めんな! スケルトンはとっくに死んでんだ! 骨の一、二本砕いたぐらいじゃ止まりゃしねぇぞ!」


鈍重な分、彼らはとにかくしぶとい。既に死んでいるので急所らしい急所が存在せず、物理攻撃で倒そうと思えば構造的に行動困難となるまで徹底的に骨を砕く必要があった。


「それと無理に殴って倒そうとすんな! あたりどころが悪けりゃ先に槍の方が駄目になるぞ!」

「ならどうすりゃいいんだよ!?」

「こういう時は僧侶せんもんかに頼むんだよ! 確か今は中にグラウビヒのオッサンがいただろ! コイツは俺が止めといてやっから呼んで来い!!」

「お、おう……!」


その指示に従い、若い兵士がドワーフの神官戦士を呼びに砦の中に駆けていく。


その背を見送り、残った兵士は槍を構えて改めてスケルトンに向き直った。


骨格を見るに、このスケルトンの素体ベースはオークだ。恐らく過去の襲撃の際に倒して近くに埋めていた死体が、何らかの切っ掛けでアンデッド化してしまったのだろう、と予想する。よくあることとまでは言わないが、戦地では普通に起こり得ることだ。


完全に肉体のないゴーストなら厄介だが、スケルトンなら最悪自分たちだけでも対処はできる。


それに今はレゼルヴの手配で、三つある砦には僧侶クレリック技能を持った者が最低一人は常駐していた。その為アンデッドの発生は兵士たちにとって日常的な蛮族や魔物の襲撃と大差なく、夜が深まりアンデッドの活動が本格化するまで、彼らはそれが異常事態だと認識できなかったのだ。




そしてその反応は、駐留部隊だけでなくレゼルヴ旗下の斥候部隊も同様だった。


彼らは一、二体のアンデッドを発見してもそれを異常とは認識できず、人里からも離れているし後で発見報告を上げればいいと判断してしまう。


またレゼルヴの【警戒アラート】の魔道具もこのアンデッドには反応しなかった。広域に張った警戒網で全ての脅威を網羅しようとするとキリがないし、レゼルヴとしても手が回らない。山中には蛮族だけでなく、大型の獣や魔物も普通にうろついている。だからこそレゼルヴは魔道具の感知対象を蛮族種に限定し、帝国ばんぞくの侵攻を感知することに特化させていた。そして魔道具は死んで骨となった存在を警戒すべき対象とは認識しない。


──結局、オルデン領の者たちが真にそれを異常と理解した時には、盤面はもはや挽回不可能な状態に陥っていた。




「う、うあぁぁっ! な、何だこの数……!?」

「領民の避難はどうなっている!?」

「それどころじゃねぇ! 助け、誰か若様に助けを──!」

「いやそれより御屋形様に──ぐわっ!?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「それではルーカスさん、お待たせしました~」


万全の戦仕度と整えた約五〇の竜人ドラゴニュート──いや、ドレイクの精兵たちの前で『屍姫』エインは楽しそうにクルクル回りながら笑う。


その道化のような振る舞いに、竜人氏族の長『紅翼天』ルーカスは腕組みをしたまま静かに口を開いた。


「……確かに、待たされた。だが貴様のことだ。遅すぎはせぬのだろうし、それに見合った成果を期待してよいのだろう?」


エインはルーカスが何時になく落ち着いている、と感じた。戦を前に高揚しても良さそうなものだが、彼は逆に冷静になるタイプなのかもしれない。


──悪くない。


思っていたより期待できそうだ、とエインは内心ほくそえみつつ、ルーカスの問いに頷いた。


「勿論、バッチリですよ」

「では改めて貴様の計画と現状について説明してもらおうか」


ルーカスは既にエインから計画について説明を受けていたが、背後の部下たちに聞かせるため敢えてそう言った。


──う~ん、後ろの彼らも想定以上ですねぇ。若造と舐められてるのかと思いきや、意外と人望はあったのかな。


エインは竜人の精兵たちをそう評価する。


数にすればたった五〇だが、そもそも竜人はオークやゴブリンあたりの並の蛮族とは一線を画す上位蛮族。そして目の前にいる彼らは、その竜人の中でもこの作戦のために選び抜かれた最精鋭たちだ。


角を持たない一般階級の竜人でさえその佇まいは並の兵士とは別格で、しかも今回は角持ち──貴族階級の竜人が四人もつき従っている。野心と独立志向の強い竜人の貴族はいくら上位者相手でもそう易々と従うものではなく、このことからもルーカスの人望と彼らの本気度がうかがい知れた。


──うん、悪くない。今回の結果次第だけど、こりゃ本気で肩入れするのもありかもしれませんね~。


内心の計算をおくびにも出さず、エインは【幻術イリュージョン】の魔術で足元に立体映像を映し出し、オルデン領の地形を再現した。


「これは敵地──オルデン領のマップです。今まで彼らと何度も矛先を交えてきた皆さんならご存じとは思いますが、オルデン領は私たち帝国南部に領地を接する山岳地帯で、北側の山々を緩衝地帯とし、その南側の麓に本拠地が存在しています」


エインの説明は今更ではあったが、珍しい魔術により立体映像に竜人たちは興味深そうにそれを覗き込む。


「敵の防衛戦略はシンプルで、こちらが大軍を動かしにくい山の中に三つの砦を設置し、そこで私たちを食い止めようというものです。地形で有利をとった敵を相手取って砦を落とすのは極めて困難な作業ですし、敵の防衛網をすり抜けて直接麓の村に攻め込んでも砦の兵士に背後をとられて挟み撃ちにされてしまいます。ホント、単純な策ではあるんですけど、だからこそ策で裏をかくことが難しい厄介な土地です。ウチの担当者も何も考えず力攻めを繰り返してきた結果、過去の侵攻作戦は悉く失敗に終わってきました。──ああ、最近は敵が更に索敵網を強化したみたいで、余計厄介なことになってきてますねぇ」


エインはそこで言葉を区切って、竜人たちの顔を見まわす。この辺りの事情は当然に把握している、といった表情だ。


「皆さんたちであれば敵の防衛網を飛び越えて直接麓の村を狙うことは可能でしょうが、敵も精兵揃いです。例え皆さんであっても長距離の飛行で疲弊した状態で落とすのは困難でしょう。仮に戦力的に可能であったとしても、短時間で完了させなければ直ぐに砦から駆け付けた敵に挟まれて終わり。嫌がらせ程度にしかならない上、想定される皆さんの被害も馬鹿になりません」


──実際、二年前にゴルディーニさんはその嫌がらせを『黒王』さんに命じられて、一兵の帰還も叶わず全滅しているわけですから、敵もその辺りは何か対策をとってるんでしょうしね~。


竜人の同胞を失ったその一件は彼らにとっては言わずもがなであろうと、エインは敢えて言及しなかった。


だが口にはせずとも伝わるものはあったのだろう。ルーカスが僅かに眉を顰めて本題を促す。


「……難攻不落の土地であることは言われずとも分かっている。早く策を言え」

「慌てないで下さいよ」


エインはそれでも勿体ぶり、自分の成果を誇るように続けた。


「この二年間、私はルーカスさんに今回の件でお声掛けしてからずっと、オツムの弱い方々を誘導して敢えてこの地に力攻めを繰り返させてきました──『黒王がオルデン領を落としたがっている。この地を落とすことに成功した氏族は新政権で重職につけるだろう。今なら兵站も優先して手配してもらえるぞ』──そんな噂を流してね」


そこでエインは言葉を区切り、口元をニヤリと吊り上げる。


「彼らが食べた兵糧には私のお薬が大量に混ぜてありました。それは、摂取した者は死後も魂が器から解放されることなく、いつでもどこでも私の忠実な人形アンデッドとして動き出すというものです」

『…………』


竜人たちの表情に嫌悪の色が浮かぶが、声には出さない。


彼らも自分たちに手段を選んでいられる余裕がないことはよく理解している。何よりこの女──かつて小国を死の国へと変えた最悪の死霊使い(ネクロマンサー)『屍姫』と手を組むと決めた時点で、この程度のことは当然に覚悟していた。


そんな彼らの態度にエインは笑みをさらに濃くして続けた。


「そして、つい一時間ほど前から各地で私のかわいい人形たち(アンデッド)が目覚め、活動を始めています。その数六百四十八。彼らの大部分は山中に在り、今頃は生気を求めて砦を襲撃していることでしょう」


エインは敢えてアンデッドたちを起こすだけで詳細な命令を与えておらず、そのことが余計オルデン軍がこの異常に気付くことを遅らせていた。


「ここまで言えばお分かりですね? 夜の山中で人形アンデッドの軍勢に取り囲まれた兵士たちはもはや身動きが取れません。彼らの方針を考えれば麓に残った兵士は少数の筈。皆さんであれば落とすのは容易いでしょう」


そこで改めてエインは言葉を区切り、戦意を漲らせるルーカスの目を真っ直ぐに見据えて告げた。


「後は敵の動きとルーカスさんのお気持ち次第です。勢いのまま黒王さんと対陣するオルデン男爵の後背を突くもよし、慌てて領地に戻ってきたところを迎え撃つも良し──おっと、まだ今日の作戦が成功したわけでもないのに、これは少し気が早かったかもしれませんねぇ」

「……挑発のつもりか? 貴様に言われるまでもない」



程なくして、ルーカスの号令と戦士たちの雄叫びがその場に響き渡り、竜人の戦士たちが一斉に飛び立った。

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