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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第四部

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第79話

「それじゃあソフィアさん。迷惑をかけることになるけれど──」

「とんでもございません。むしろこちらの都合でベルタ様を振り回すことになってしまい申し訳なく思っております」


訪問したヴァイスベルク辺境伯の屋敷で、男爵夫人ベルタが義娘となる予定のソフィアへ頭を下げようとし、それを慌ててソフィアが制止する。


この日二人は兼ねてから話のあった通り、互いの領地を離れて所在を交換する。建前はともかく、それが実質的な人質の相互供与であることは彼女たち本人が一番よく理解していた。


二人が微妙に距離のあるやり取りを交わしていると、同行者が焦れたように口を挟む。


「ねぇ~、父様どこ~? ここにいるんじゃないの~?」

「これ!」


我慢が限界に達したのは、オルデン家の三男ライゼ。


「……だって母様、父様に会いに行くって言ってたのに、全然父様いないじゃん。折角久しぶりに稽古つけてもらおうと思ったのに、つまんないよ」

「馬鹿ライゼ。父様はまだお仕事の途中だって聞いてなかったの? いつお仕事が終わるかは分からないし、終わったってライゼの稽古に付き合う暇なんてある訳ないじゃない」

「はぁ~!? そんなのアデルには分かんないだろ!!」

「分かります~! ライゼと違ってちゃんと話を聞いてたから分かるんです~!!」


そこに双子の妹で長女のアデルが口を挟み、二人はムキになって睨み合う。


「これ! 人前でみっともない真似をするんじゃありません!」

「だって、アデルが意地悪言った!!」

「違います~! ライゼが馬鹿なだけです~!」

「二人ともいい加減になさい!!」


ベルタがまなじりを吊り上げて叱責するが、一度火が付いた双子の喧嘩は止まらない。


「クスクス……」


その様子を見たソフィアが楽しそうに笑みをこぼす。


「仲の良いご兄妹ですね」

「その……お恥ずかしい」


皮肉を言われたと思ったのかベルタは顔を赤らめるが、ソフィアはかぶりを横に振ってそうではないと否定する。


「とんでもない。仲が良くて本当に羨ましいと思ってるんですよ? それに、ヤンチャというなら私もこの子たちぐらいの時は酷かったですから」

「…………」


本気なのかフォローなのか判断がつかず目を瞬かせるベルタに、ソフィアは笑顔で続けた。


「どうぞこの離れは自分のお屋敷だと思って遠慮なくお過ごしください。多少騒がしくしたところで本邸に音は届きませんし、何よりそれで文句を言うような慮外者は当家にはおりません。皆さんの為にお菓子なども用意していますから、ゆっくりと──」

「お菓子!?」

「本当っ!?」

「──っと。ええ。本当よ」

『わ~い!』


言い争いをしていた双子はあっさり機嫌を直し、控えていたメイドに連れられてお菓子の用意された隣の部屋へと移動する。


その背中を見送りながら、改めてベルタは深々とソフィアに頭を下げた。


「……ソフィアさん。シュヴェルトのこと、よろしくお願いします」

「お任せください」




そしてそのやり取りを、レゼルヴは少し離れた場所で黒子のように黙って見守っていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「どこか寄るとこある?」

「大丈夫。挨拶や段取りは昨日までに全部済ませたから」


ベルタと双子が辺境伯家に滞在する段取りを済ませ、レゼルヴとソフィアは転移陣のあるオルデン男爵家が借り上げた宿舎へと移動していた。


二人の手にはソフィアがこれからオルデン領に滞在するための荷物が提げられていたが、ケース三つ分程度と貴族令嬢の荷物としてはかなり控え目な物量だ。いやそもそも──


「……本当に使用人とか連れてかないでいいの?」

「いいって。そんな我儘言ってそっちの負担増やすつもりはないわ」


今回の一件は事実上、嫁入りの前倒しのようなものだ。結婚が予定されている半年後に戦況が落ち着いていなければ、儀礼的なものは先送りして入籍を済ませることが決まっている。


荷物もそうだし、今後異郷で暮らしていくことを考えれば信頼のおける使用人の一人や二人連れていくことぐらい我儘でも何でもないと思うのだが、ソフィアはそれを不要と言い切った。


「人を連れて行くと、どうしてもそことばかり話すようになっちゃうだろうし、私もそっちに馴染む努力をしないとね」

「ふ~ん……ま、ウチみたいな未開地についてきてくれって言ったら、大抵の使用人は嫌な顔するだろうからその方がいいかもね」

「…………」


──ゲシ!


「っ!」

「……こっちが気を遣ったんだから、そういうこと言わない」

「すんません」


蹴られた背中をさすりつつ、レゼルヴは前を行くソフィアの後を遅れまいとついて行った。


そうして追いついたところで、ふとあることに気づいて再び口を開く。


「……ねぇ。使用人で思い出したんだけど──」

「まだ言うか?」

「じゃなくて、ブリギットさんは?」


ブリギットとは密偵として高度な技術を持つソフィアの専属使用人で、かつてレゼルヴも色々と世話になった女性だ。


ソフィアとは仲が良かったので、てっきり一緒にオルデン領についてくるものだと思っていたが、どうやらそうではないようだ。


「ブリギットはこっちに残るわ。本人はついてくるつもりだったみたいだけど、能力的に中々お父様が手放してくれなくてね」

「……それもそうか」


もしこっちに来てくれたなら色々と仕事をお願いしたいと思っていたのだが、そう上手くは行かないらしい。


ソフィアはレゼルヴの顔を下から覗き込むようにして、悪戯っぽく笑う。


「何? ブリギットが来てくれたら嬉しいな~、とか思ってた?」

「……そういう気持ちが全くなかったと言えば嘘になるだろうね。ま、君という才女を迎えられる喜びの前では誤差のようなものさ」

「ホホホ、当然ね」


わざとらしいおべっかに機嫌よく乗っかり、ソフィアはふと真面目な表情になって続けた。


「……ここだけの話、私もブリギットだけは連れていくつもりだったんだけど、今回の件はこっちもバタバタしててその辺の調整が間に合わなかったのよ」

「? 今回の一件は辺境伯家そっちが言い出したことだろう?」


父オルデン男爵を辺境伯領に留め置くために辺境伯家が打ち出した方策、それに伴う調整も間に合わないとはどういうことだろう?


よほど戦況が切羽詰まっているというならともなく、街や辺境伯家の様子を見る限りそんなこともなさそうだが……


ソフィアはレゼルヴの疑問に、前を向いて歩きながら何でもない風を装って答えた。


「実は今回の一件って、そもそも誰が言い出したのかもよく分かってないのよね。そのよく分からない話に一部の家臣が反応して先走っちゃって、お父様も話がほとんどまとまった後に事情を知らされて激怒してたわ──『我が盟友、レイターの献身を疑い、人質を取る様な真似をするとは何事か』ってね。ただお父様のところに話が届いた時には家臣団や奥様はすっかりその気で、お父様一人反対しても止められる状態じゃなくて揉めに揉めて……おかげで当事者の筈の私の話なんてすっかり後回しよ」

「ほ~ん」


レゼルヴは辺境伯家がかつて内部で色々と揉めていたことを思い出し、その場では曖昧に相槌を打つにとどめて話題を変える。


「ま、こっちにはリーナさんもいるから寂しい思いだけはしなくて済むと思うよ。彼女も君に会えるのを楽しみにしてた」


リーナとはブリギットより前にソフィアの専属使用人を務めていた女性で、今はある事情から家族と共にオルデン領に移住している。


「──あ! そう言えば、リーナ去年結婚したのよね?」

「結婚どころかもう二歳の息子がいるよ」

「えぇ!? それ計算っていうか順番おかしくない?」

「おかしいというか、出来た後で相手が判明したというか──」


二人は仲の良い友人として、楽しそうに喋りながら並んで歩く。


そのやり取りの空々しさに、ソフィアだけが気づいていた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ええいっ! 一体いつまで待たせるつもりだ!! このままでは『黒王』に先を越されてしまうではないかっ!!」


──ガシャンッ!!


密談のため屋敷を訪れた『屍姫』エインに、竜人氏族の長『紅翼天』ルーカスは酒が並々と入ったグラスを投げつけ激怒した。


床に落ちたグラスが割れ、飛び散った酒がエインの足を濡らすが彼女は気にした素振りも見せずニコヤカに嗤う。


「まぁまぁ、落ち着いて下さいな。『黒王』さんが本気で動くのはまだまだ先の話です。心配しなくても大丈夫ですって」

「何故そんなことが言い切れるっ!」


いい加減なことを言うな、と吐き捨てるルーカスに、エインは笑みを深く濃いものへと変えた。


「──私が、この程度の戦況を見誤るとでも?」

「────」


その笑顔の裏から滲む圧に気圧され、思わずルーカスが息を呑む。


「……そうは言っていないが、理由の説明もなく二年以上も待たされたのでは──」

「『黒王』さんは今、敢えて凡戦を繰り返すことで敵の弛緩を誘っています。とは言え敵も歴戦のツワモノ。そう簡単に油断して隙を見せることはありません。その上で『黒王』さんは焦ることなく、あらゆる手段を使ってじっくりプレッシャーをかけ勝機を作り出すつもりのようですから、実際に戦況が動くのはまだまだ先の話ですよ」


分かりましたか?──と子供に言い聞かせるように説明され、ルーカスは不機嫌そうに押し黙る。


「…………」


──あ~、拗ねちゃったか。子供の相手は面倒くさいなぁ~。


エインは苦笑して笑顔の圧を緩め、ルーカスを宥めすかすように続けた。


「敵は曲がりなりにも一〇〇年以上帝国の攻勢を凌ぎ続けてきた連中です。『黒王』さんであってもそう簡単に倒せるような相手ではありませんし、我々も万全の準備を整え、あらゆるものを利用しなければ目的を達することはできません。別に私も意地悪でルーカスさんを待たせているわけじゃないんですよ?」

「……分かっている!」


拗ねたような態度は変わらないが一先ず聞く耳は残っているようだ。


エインはそれで十分と、ニコヤカな表情でルーカスに言い聞かせた。


「間もなく内外の仕掛けは整います。そうなれば後はスピード勝負。ルーカスさんがご自慢の翼でどれだけ速く敵の本拠を落とし、その後背をつけるかの勝負です。それまでもう少しだけ、力を蓄えておいて下さいな」

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― 新着の感想 ―
双子ちゃん達 母親より外部に接触させて貰えないだろうね 次兄の名声に触れさせたくないだろう もし双子ちゃんのどちらが魔法に目覚めたら・・・・・・・
 うーんこれ内間使われてる?  単なる辺境伯家内の企みというよりエインの策っぽいねえ。  つまり人質が自ら帝国の手の者のそばに来てくれたわけか。  ヤバくない?
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