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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第四部

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第76話

「──悪い、マッシュ。頼んでた避難訓練は取りやめ。道路工事も当初の予定通り続行だ」


自分たちの執務室に戻ってくるなり、レゼルヴは開口一番部下に謝罪した。


唐突な言葉に、しかし言われたマッシュはさして驚きもせず、落ち着いた様子で事情を確認する。


「まだ手を付けていなかったので私の方は問題ありませんが、一応理由を伺っても?」


どうやらこの出来た部下は自分の提案が却下される可能性を考慮して様子見していたらしい。絶妙な信頼感の無さに苦笑を堪えつつ、レゼルヴはその問いに答えた。


「ざっくり言うと、方針を見直すには今回の発見報告だけじゃ根拠が薄いってさ。父上が不在の今、下手に領民の不安を煽りたくないってことらしい」

「……なるほど。シューレあたりがシュヴェルト様の権威に瑕がつくのを嫌いましたか」


レゼルヴが敢えて暈した行間を正確に読み取るマッシュ。


「ですが、それが理由なら道路工事の方は中断しても構わないのでは?」

「あ~……そこはアレだよ。半年後には兄上の結婚が控えてるだろう?」

「……ああ」


マッシュは色々と察した様子で、それ以上何も言わずかぶりを横に振って溜め息を吐いた。


そこに徹夜明けのハイテンションで報告書を書き上げたメルが口を挟む。


「ねぇ、レゼ様~。若様とその取り巻きが出来過ぎたお嫁さんにプレッシャー感じて焦ってる話はどうでもいいんですけど、こっちの罠の予算は~?」

「そっちは通してきたから大丈夫だよ。まぁ、シューレは『そんな余力があるなら遅れてる工事を進めた方がいい』ってブツブツ言ってたけど、そこは兄上が押さえてくれた」

「それはそれは」


メルは自分で聞いておきながらどちらでも良さそうな態度で肩をすくめ、レゼルヴの机に報告書を置く。


「それにしても、何で駐留部隊の連中はああも危機感が薄いんでしょうね? 私だったら、根拠が薄かろうが怪しい気配があったら全部潰しておかないと不安で仕方ないですけど」


油断できるほどの腕もないでしょうに、と冷ややかにメルは付け加えた。


半ば独り言のようなもので本人も答えが欲しかった訳ではあるまいが、それを聞いたマッシュが「確かに」と顔を上げて反応したので、レゼルヴは自分なりの見解を口にする。


「そこは多分、父上たちがいた副作用みたいなものだろうね」

「副作用? 御屋形様たちが強いから、自分たちも同じことができるんだって勘違いしちゃった、みたいな?」

「……その勘違いは流石に無理があるよ。じゃなくて、元々このオルデン領は物凄く危うい領地なんだ。一五〇年間蛮族の侵攻を防いできたって言ってもそれはホントにギリギリで、落ちなかったのはハッキリ言って運が良かっただけさ。だけど父上が当主についてからは、何だかんだ住民にはほとんど被害なく敵の侵攻を撃退できてるだろう? そのせいで皆、オルデン領の防衛がどれぐらいギリギリのバランスで成り立っているのかをすっかり忘れてるんじゃないかな」


逆にレゼルヴたちは斥候部隊として常に俯瞰して戦況を見ているため、今の防衛体制がどれだけ危うい均衡の上に成り立っているかを理解していた。彼らはもし自分たちが蛮族の軍勢を見過ごし、味方が十分な備えもないまま敵との戦いに突入してしまえば、どれほどの被害が出てしまうか危ぶみながら日々を過ごしている。


「つまり今の連中は御屋形様たちに護られて平和ボケしている、と。──一回痛い目に遭わせて目を覚まさせた方がいいんじゃないですか?」


メルの意見にレゼルヴは内心では同意しつつも、敢えて肩を竦めて苦笑する。


「逆に戦争ボケで熱にあてられてるのかもしれないよ。どちらにせよ、そうやって危機感や恐怖が麻痺してるから戦えてる兵士ってのは実のところ多い。下手に正気に戻すのがいいとは限らないんじゃないかな? 特に新兵が多い今のウチの状態なら猶更ね」

「……そう聞くと、多少正気を失った味方と、正気のまま殺し合いができる味方、頼れるのがこの二択しかないってんだから何とも残念な職場ですねぇ~」


メルの諧謔に二人は肩を竦めて苦笑。マッシュが常識人めいた発言で場をしめた。


「何にせよ、御屋形様たちには一刻も早く戦に勝って帰って来ていただきたいものです。状況が落ち着かないことには狂気は加速する一方ですからな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


レゼルヴたちがそんな話をしていた頃、丁度オルデン男爵レイターは領地から連れてきた精兵と辺境伯から預けられた一軍を率いて、ダークトロルの将軍『黒王』の軍勢と対陣していた。


視線の先では方陣を組んで正面から突撃してきたオークの重装兵を、味方が弓や投石で勢いを挫き食い止めようとしている。


だが硬い鎧と厚い皮膚に護られたオーク兵を遠距離からの攻撃だけで仕留めることは難しい。徐々に距離を詰めてくるオーク兵に対し、オルデン男爵は騎兵に命じて側面から攻撃を仕掛けた。


二方向から攻撃を受け陣形が乱れ足が止まるオーク兵。しかし直後にこちらの動きを読んでいたかのようにゴブリンとボガードの混成部隊がこちらの騎兵の更に側面を急襲してきた。


騎兵部隊はそれを見て被害が大きくなる前に素早く戦場を離脱。その隙にオーク兵たちは態勢を立て直し、混成部隊も弓による迎撃を警戒して深追いはしてこなかった。


一連の攻防はほぼ互角で、互いに被害は軽微。


オルデン男爵の軍が『黒王』の軍で実際に相対して以降、先ほどのような小競り合いはあれ、両軍の本格的な衝突がないまま、既に三か月以上の時が経過していた。




「アハス。敵の狙いをどう見る?」

「どうもこうもねぇ。挑発だろ」

「ボーゲンは?」

「敵は余程我らを叩き潰したいものと見えますな」


オルデン男爵はその様子を後方から確認し、傍に控える腹心アハスと、辺境伯の軍を率いて合流した騎士ボーゲンに問いかける。二人の答えは明瞭で、オルデン男爵の予想と同じものだった。


彼はオーク兵たちの奥で自分たちと同じように戦況を俯瞰するダークトロルの精兵に視線をやり、どうしたものかと頭をかく。


そもそも今回の敵の侵攻は兵法の常道に反するものであった。


ヴァイスベルク辺境伯領に侵攻した蛮族軍は、その大兵力を敢えて七つに分けて分散し、戦場を分けて侵攻してきている。


通常であればこのような兵力の分散は自軍の各個撃破を招く愚策でしかないが、蛮族の軍が一つでも後方に抜けてしまえば領民たちに多大な被害が出かねない。辺境伯側も領民を護るためにそれに応じて広く戦力を分散せざるを得なくなっていた。


そんな中、分散した敵を食い荒らす役割を期待されていたのがオルデン男爵率いる一軍だ。アハスもボーゲンも若き日の男爵と共に轡を並べ『黒王』と戦った戦友であり、オルデン男爵に匹敵する勇士。精鋭を一軍に集結させ、それを以って分散した敵軍を各個撃破する──ヴァイスベルク辺境伯の狙いはそうしたものだったが、その狙いを阻む戦力が目の前にあった。


相対するは『黒王』とその直下のダークトロルの精兵。彼らもまた分散したヴァイスベルク軍を各個撃破し得る蛮族側の最強戦力であり、これを自由にすれば瞬く間にヴァイスベルク軍はズタズタにされ、最悪の場合は一気に領都まで攻め込まれてしまうだろう。必然、オルデン男爵率いる一軍が『黒王』の直属軍を相手取ることとなる。


これで互いに精兵同士ぶつかり合い、この戦の趨勢を決する──そういうことなら話は単純だったのだが、両軍ともに動きは鈍く、様子見のような散漫な攻防が続いていた──何故か?


「……やっぱり奴さん、あの時のことを警戒してるのかなぁ?」

「そりゃそうだろ」

「むしろ警戒しない理由がありません」


オルデン男爵のボヤキに、アハスとボーゲンが何を今更と呆れる。


言うまでもなく『奴さん』とは『黒王』のことで、『あの時』とは彼ら三人が『黒王』と戦った二十数年前の戦場を指していた。


オルデン男爵が若かりし頃ヴァイスベルク軍の兵士として戦場を駆け、侵攻してきた『黒王』の左目を奪ってその軍勢を撃退し、『神槍』レイターと呼ばれるようになったというのは王国では誰もが知る有名な英雄譚。


そのこと自体には何一つ嘘はないし、その偉業は称えられるべきでものであるのだが、彼はよく吟遊詩人の英雄譚で謳われているように、決して一騎打ちで『黒王』を撃退した訳ではない。


そもそも当時のレイターは男爵位を継ぐ予定すらなかった一兵士で、敵の将軍と一騎打ちができるような存在ではなかった。アハスやボーゲン、他多くの戦友たちと協力して『黒王』を罠にかけ、数で囲んで袋叩きにし、偶々一番腕が立ったレイターが『黒王』の左目を奪い、退ける最後の一押しをしたというだけのこと。


自分たちで言うのもなんだが、とても酷い戦い(卑怯なやり口)だった。


今なら『黒王』相手でも一対一で十分に戦える自信はあるが、オルデン男爵の見る限り彼我の実力はほぼ互角。


アハスかボーゲンの援護を得て二対一に持ち込めば勝てるだろうが、『黒王』の側近は見るからに精鋭揃いで簡単にそれを許してくれそうにない。故に彼らは今回もいかに『黒王』を罠にかけるかということを考えていたが、敵もそれを理解して踏み込んでこようとはせず小競り合いが続いていた。


敵にとってもこんな睨み合いは不経済でしかないのだから、一旦引いて体勢を立て直してくれればいいのに、しかし『黒王』はそうしようとしない。


その狙いは誰の目にも明らか──オルデン男爵だ。王国側の最高戦力であると同時に、『黒王』の戦績に瑕をつけた因縁の存在。


『黒王』は彼との決着をつけるためにこの戦場に現れ、一人の武人として小細工なしで決着を付けようと誘っているのだ。


「…………」

「駄目だぜ、大将」

「我慢してください」

「……分かっている!」


武人としてのプライドを刺激され、今にも飛び出していきそうなオルデン男爵を二人して宥める。


誘いに乗ったら負けるとは考えていないが、絶対に勝てると言えるほど甘い相手ではない。そして彼らの敗北はそのままヴァイスベルク全軍の敗北に繋がりかねない。故に彼らは武人としての誇りを封じて自重せざるを得なかった。


「長期戦になれば兵站と継戦能力の面で我々が有利です。食料もそうですが、多少の負傷であればこちらはすぐに戦場復帰が可能ですからな」

「ソフィア嬢の功績か……」


レゼルヴやソフィアたちが広めた件の医療プロジェクトの意義は軍事面においても大きい。教会勢力との連携強化、治療ノウハウの向上により低位の僧侶でも重症治療が可能となったことを受け、軍の生存率は飛躍的に向上していた。


加えてプロジェクトによって稼いだ財力によって兵站も充足しており、長期戦になればこちらが有利とのボーゲンの言は正しい。


「だがそのことは敵もそろそろ理解している筈だ。にも関わらず、焦る様子も見せずダラダラ時間稼ぎに付き合っているということは、他にも狙いがあるのではないか?」

『…………』


オルデン男爵の言葉に、アハスとボーゲンが微かに顔を顰める。


目の前の軍勢そのものが自分たちを足止めする囮、陽動である可能性は、彼らも考えてはいた。だがその可能性はあっても、自分たちはここを離れるわけには行かない。そうすれば一気に戦況が崩れ、『黒王』直下の軍勢がこちらの軍を食い荒らしてしまうだろう。


「御屋形様もその可能性は考慮し、領内の警戒を密にしたと聞いております」

「……それで防げるかな?」

「『黒王』の主力はここにいる連中で全ての筈です。閣下を討つために他の者の手を借りるとは考えにくいですから、余程のイレギュラーがない限り領内に残った警備部隊でも十二分に対処は可能でしょう」

「……うむ」


ボーゲンの分析と判断は正しいと思う。だがオルデン男爵は目の前の敵の動きに何とも言えない気持ちの悪さを感じ、まとわりつく不安を拭い去ることができなかった。

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― 新着の感想 ―
 またフラグをたてるw  そりゃ向こうだって長期戦の備えくらいするでしょう。  戦力を前線に薄く広げ彼我における最大の戦力をぶつけ合えば戦場は停滞する。  そして少数精鋭で後方を撹乱すれば裏崩れする。…
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