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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第三部

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第70話

兄シュヴェルトとソフィアの婚約発表はレゼルヴにとっても全く寝耳に水の出来事だった。


シュヴェルトとは言うまでもなく身内。


ソフィアとも既に一〇年近い付き合いで、学院の同窓であり生徒でありビジネスパートナー。決して男女の仲というわけではなかったが、互いに最も長く青春を共に過ごした友人であったことは間違いない。


しかしそんな二人の婚約を、レゼルヴは他の家臣団と同じ場で両親から突然に知らされた。




「いや~、若様も十八だし、家臣の間でもお相手をどうするんだって話は前からありましたけど、まさか辺境伯の娘さんとは驚きでしたねぇ。ソフィア様って、前にヴァイスベルクへ行ったときにお会いした金髪の綺麗な人でしょう?」

「…………」


発表の後、自分たちの執務室に戻り雑談するレゼルヴ、メル、マッシュの三人。


「……レゼ様?」

「あ、ああ」


メルに心配そうに顔を覗き込まれ、そこでようやくレゼルヴは自分が話しかけられていたことに気づいて、ぎこちなく表情を笑みの形に変えた。


「ぼうっとしてましたけど、大丈夫ですか?」

「……うん。問題ない。いや、まさかあの二人が婚約なんて、ホントに何も聞かされてなかったから驚いて……」

「あ~。確かに、まさかの組み合わせでしたものねぇ~」


レゼルヴの反応に、分かる分かるとしたり顔で頷くメル。


そんな二人の態度に首を傾げたのは、元々領外の職人の生まれで貴族社会──特にオルデン男爵家の事情に詳しくないマッシュだった。


「……よく分からないんだが、そんな驚くような組み合わせか? 確かに男爵家と辺境伯家となると家格はあちらの方が遥かに上だが、こちらは次期当主で、あちらは側室が産んだ四女なんだろう? 最近の両家の協力関係を考えれば、特別つり合いがとれないともおかしな話とも思わないが……」

「ふふん。まぁ、うちの微妙な立ち位置を理解してないと、その辺りの感覚は分からないかもしれませんね~」


オルデン男爵家で内政を担当する以上、マッシュもその辺りの事情は把握しておいた方がいい。


メルはレゼルヴに説明する気がなさそうなのを見て取ると、人差し指をピンと立てマッシュに対し解説を始めた。


「そもそもオルデン男爵家が貴族社会でどんな風に思われてるかは知ってます?」

「どんな風に?」


問われて、マッシュは自分がオルデン家に仕える以前に聞いていた評判を思い出す。


「……『王国の盾』、『神槍』レイター率いる王国最強の精兵。とにかく、少数精鋭を地で行く武闘派集団、ってとこだろう」

「それは平民からの評価ですね。貴族社会での評価は良くて『力しか取り柄の無い未開地の野蛮人』ですよ」

「良くて、なのか?」


その評価が間違いとは思わないが、流石にもう少し言いようがあるだろうとマッシュは首を傾げる。それにメルは悪戯っぽく笑って続けた。


「良くて、です。悪く言えば『蛮族バルバロス擬き』『いつ王国に牙を向いてもおかしくない狂犬』──ま、表立ってそう口にする度胸のある人間はいないでしょうけど、とかく王都の連中はオルデン家の力が自分たちに向けられることを潜在的に恐れてるんですよ」

「どうして? 私が知る限り、御屋形様たちが王家に反抗的な態度をとったことなど一度もない筈だぞ?」

「態度や実際どう思ってるかはともかく、誰だって自分たちを殺せる武器を持った人間が近くにいたら心穏やかではいられないでしょう? まして自分たちがその相手を粗略に扱っているという自覚があればなおさらです」


そう説明されて、マッシュは「ああ……」と納得の声を漏らす。


客観的に見て王国におけるオルデン家の扱いは決して良いものではない。いやむしろ、蛮族との最前線に形ばかりの爵位と貧しい領地を与えられ、碌な見返りもないまま過酷な戦いを押し付けられているのだから、ハッキリ劣悪と表現すべきだろう。


その立場を強いている中央の貴族たちが『オルデン家に恨まれている』と考え、叛逆を警戒するのはごく自然なことだ──実際にそう思っているのは下級貴族が中心で、大貴族の多くはオルデン家の献身を当然のものとして享受していたりするが、それはメルも把握していないことなので脇に置いておく。


「言いたいことは分かった。中央の貴族共にとってオルデン家の武力がどこと結びつくのが一番脅威かと言えば、それは間違いなく辺境伯家だ。ただでさえ今は両家の軍事的な協力関係が強まり警戒されている。そんな状況で、まさかこんな中央を刺激しかねない婚約が結ばれるとは思わなかった──そういうことだな?」

「ですね。というか貴族の当主絡みの婚姻には王家の許可が必要なんで、よく許可が下りたなぁ、って」

「ああ、それもあったな」


ようやくマッシュはメルたちの驚きに理解が追いつき、小さく何度か頷く。


「辺境伯家からしたら蛮族の侵攻が激化している今、オルデン家との連携強化は急務。逆にオルデン家にとってもこの婚姻は、辺境伯家からの支援が期待できる上に、若様の立場の強化にも繋がりますから願ってもない話です。だからこそ、中央の役人どもが妨害してこない筈がないんですけど──」

「多分、お爺様だ」


首をひねるメルに、レゼルヴが呟く。


「お爺様って……奥様の実家の?」

「ああ。半年前、ライゼとアデルを連れてヴァイスベルクに出張したことを覚えてるかい?」

「勿論。エルツ子爵の用事に前エルツ子爵夫妻が孫に会いたいって我儘言って相乗りしてきたやつでしょ。確か、ソフィア様にお目にかかったのもその時ですよね?」


軍事的な連携を強めるヴァイスベルク辺境伯家とオルデン男爵家を詰問する中央の使者として母方の伯父であるエルツ子爵がヴァイスベルクを訪れ、そこに娘と孫に会いたいと我儘を言った祖父母が同行してきたあの一件。


あの時レゼルヴは単に老い先短い老人が我儘を言っているのだと思っていたが、それは間違いだったのかもしれない。


「多分あの時、ウチの両親と辺境伯からお爺様に内々に今回の結婚について打診があったんだと思うよ。この手の話は事前に中央での根回しが不可欠だからね」

『?』


レゼルヴの発言に、メルとマッシュは訝しげな表情で顔を見合わせる。


「根回しが必要だっていうのは分かりますけど、何でわざわざ隠居したお爺様に? エルツ子爵がいるんだから、そっちにお願いすればいいじゃないですか」


現エルツ子爵は形式的にはヴァイスベルク辺境伯家とオルデン男爵家の接近を警戒する役人側の人間だが、実際は縁戚関係もあってオルデン男爵家にとても協力的だ。何故わざわざ隠居した人間を巻き込む必要があるのかと首を傾げるメルに、レゼルヴはかぶりを横に振った。


「形式的ではあれ伯父上──現エルツ子爵は中央の代表としてウチと辺境伯の接近を牽制する立場にあるんだ。あまり表立ってウチの為に動くのは誰にとっても好ましいことじゃあない」


その理屈は分かる。だがしかし。


「お爺様が動くのはいいんですか?」

「あまり良くはないけど、年寄りが孫可愛さに勝手なことをしたと言えば責任を押し付けることはできる。あるいはあの時の様子だと、伯父上は今回の一件を知らされていなかったのかもしれないね」


メルはあの時エルツ子爵が、前エルツ子爵夫妻の言動に困惑していたことを思い出し、そうかもしれないと頷く。


「ふんふん。でも仮にその通りだとして、よくお爺様は根回しを成功させましたよね? 多少の付け届けでウチを警戒してる役人どもが首を縦に振るとは思えませんけど……」


辺境伯寄りの立場をとれば仕事がしにくくなるのはエルツ子爵だけの話ではない。いったいどんなお土産を使って役人共への根回しを成功させたのだろうとメルは首を傾げた。


「……これは私の推測だけど、元々中央の役人や要人の中には、辺境伯に取り入ろうと考えて機会を窺ってた人間が一定数いたんじゃないかな」

「? それはまたどうして。中央から見ればヴァイスベルク辺境伯も『野蛮人の親玉』でしょう?」

「つい最近まではそうだった。でも、今はそうとばかりは言えない」

「今は?」


メルは少し考え、すぐにレゼルヴの言わんとすることに思い至った。


「──ああ、例の医療プロジェクト。あれのお陰でヴァイスベルクはかつてない好景気だって聞きますし、そのおこぼれに与りたい貴族がいるってことですか?」

「多分ね。金銭的な利権は勿論だけど、健康に不安を抱えてる人間ならその意味でも辺境伯とは仲良くしておきたいんじゃないかな。そういう連中にとってみれば今回の話は願ってもない好機だった筈だよ。もし周囲から何か言われても、老い先短い年寄りにどうしてもと頼みこまれて断れなかったとでも言えば惚けられないこともないしね」


メルとマッシュはレゼルヴの推測に『ありそうな話だ』と納得する。


「辻褄はあいますね。そう考えればエルツ子爵家はどちらに転んでも損がないよう上手く立ち回っているし、ヴァイスベルク辺境伯はこの婚約を利用してウチだけじゃなく中央との関係改善も図れるわけですか……うん、実に無駄がない。ここ最近、御屋形様と奥様がレゼ様の動きにやけに寛容だったのも、この話が決まってたからでしょうね」


辺境伯の娘を妻に迎える以上、シュヴェルトの後継者としての地位はもはやレゼルヴが何をしようと揺らぐことはない。


レゼルヴに斥候部隊の指揮権を与えたり冒険者ギルドの設立を認めたのは、そうした話がかなり早くからまとまっていた証拠だろう。いや、あるいは──


「────」

「あれ? レゼ様、どこかお出かけですか?」


おもむろに席を立ちあがり執務室を出て行こうとするレゼルヴに、メルが無邪気な表情で問いかける。


「今後の方針について考えをまとめたいから、少し一人で散歩してくるよ」

「はいは~い。気を付けてくださいね」


手を振るメルにレゼルヴはそれ以上何も言わず部屋を後にした。


『…………』


残された二人の間に微妙な沈黙が流れる。


マッシュはしばしレゼルヴが出て行った扉をジッと見つめていたが、やがて口を開き、


「……なぁ、レゼルヴ様ってひょっとして──?」

「やめましょう」


メルは先ほどまでとは打って変わって感情の見えない表情と声音で、短く同僚の言葉を遮った。

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― 新着の感想 ―
 まあレゼルヴもお年頃だからな⋯⋯。  そういうこともあるか。    なんて騙されないぞきっと彼もなんらかの裏を読んでいる。
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