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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第三部

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第69話

「やぁブッチ。景気はどうだい?」

「これがよく見えるなら眼球をくり抜いて硝子球に変えた方がいいね。やっぱり領主様方にもっと頑張ってもらわないと」

「領主様は民間の力に期待すると仰せだヨ」


オルデン領唯一の宿屋を訪れたレゼルヴは、カウンターに座るノームの青年ブッチと挨拶代わりの軽口を交わす。


宿には酒場が併設されていたが、まだ午前中ということもあって人気はまばら。ブッチは不機嫌そうな言葉とは裏腹に優雅に本を読みながら、暇な時間を楽しんでいるように見えた。


「早速で悪いんだけど仕事だ」


レゼルヴは挨拶もそこそこにカウンターに羊皮紙の束を置く。ブッチはそれを手に取りパラパラと目を通し──


「……条件、渋くない?」

「仕方ないだろ。予算はもっと渋いんだよ」


レゼルヴの弁解にブッチは知ったこっちゃないとかぶりを横に振る。


「それはそっちの事情で僕らには関係ない。山間部での作業となるとこっちも相応にリスクがあるんだ。最低でも五割は乗せてもらわないと話にならないよ」

「いやいや、それはいくら何でもボリ過ぎでしょ? せいぜい二割──」

「五割だ。魔物の襲撃リスクを考えれば駆け出しに任せるわけにはいかない。これでも大分譲歩してるんだよ?」

「それは分かってるけど、もう少しウチの事情も汲んで欲しいな。ウチの兵士たちも何人か護衛を兼ねて同行させるから、ね?」

「……四割」

「二割五分! 食事もつける! 朝と昼で二食分だ!」

「……あの化石みたいな黒パンを、かい? あれウチの連中から評判悪いんだけど──ま、いいや。三割」


レゼルヴはブッチの表情を窺い、ここらが落としどころかとその場で依頼書の金額を三割増しで書き直し、予め準備していた訂正印を押した。


ブッチはそれを受け取り嘆息を一つ。


「……仕事を請け負う立場だった時は何でこんな面倒なやり取りを思ってたのに、まさか自分がこんなことをするハメになるとは思わなかったよ」

「いやいや、中々堂に入ってきたと思うよ」

「皮肉かい?」

「お互い様だろう?」


そう言って、レゼルヴはビジネスパートナーとなったブッチの半眼に肩を竦めてみせた。




レゼルヴが竜人ドラゴニュートの奇襲部隊を撃退してから半年、オルデン領に帰郷してから約一年が経過し、彼は十六歳となっていた。


彼が帰郷して以降、【転移陣テレポーテーションサークル】を活用した都市間行路の運行開始、蛮族の進攻が激化するヴァイスベルク辺境伯との間で結ばれた傭兵契約など様々な変化が起きていたオルデン領だが、この半年間で更に二つの目立った変化があった。


一つ目は蛮族の進攻の早期発見を目的とした櫓の増設と、それを活用する斥候部隊の運用開始。


これは以前レゼルヴたちが提案し否決された──正確には財政不安を理由に見送りとされた前線基地の再編計画の一部。櫓の増設だけであれば比較的低予算で実現できるため、計画からこの部分だけは切り分けて先行実施されていた。父オルデン男爵も他領への派兵が増え自領の守りが手薄になることに不安を抱いており、何らか対策をうっておきたいという思いがあったのだろう。


ちなみに斥候部隊の取りまとめは人員の関係でレゼルヴが行っているが、彼らの大半は正規兵ではない。


二つ目は冒険者ギルド──いや、より簡易な冒険者酒場の運用開始だ。


以前にも少し触れたが、オルデン領では冒険者という制度が根付いていない。これは元々、冒険者というものが力を持て余したならず者たちに仕事を斡旋したことに端を発するものであり、その仕事内容はほとんどが荒事絡みであるため。蛮族との戦いの最前線にあり人口に対する兵士の比率が一〇%を超えるオルデン領では、冒険者のような半端な戦力に頼る必要がなかったのだ。


だが他領への派兵が増え自領の守りが手薄になるとあっては話は別。兵士は簡単に育成できるものではないし、人口の少ないオルデン領では兵士を増員すること自体が至難の業だ。また一度増やせば、今後平穏になった時その兵士をどう養っていくかという問題もある。


そこでレゼルヴが提案したのが冒険者の誘致だった。


取りまとめは冒険者として実績のあるタロンたちのパーティーに一任し、オルデン家としては彼らの一定の支援をした上で仕事を外部委託する形。


冒険者たちを積極的に戦わせるつもりはなく、前述した斥候部隊や領内の普請への参加を主な依頼内容としている。


あまり大した金額は払えないので腕の良い冒険者は来てくれないが、駆け出しや食べていくのも精一杯といった連中にとっては十分過ぎる条件。特に若手にとっては働きながら兵士の訓練に参加し、比較的安全に経験を積むことができるため一石二鳥の内容だ。


一方、軍にとっては手の行き届かない部分を委託できるだけでなく、冒険者の中から適性のある者を軍にスカウトするチャンスでもあるため、互いにメリットは大きかった。




「自由と野心を旨とする冒険者が軍の下請けなんて皮肉なものだけどね」


冒険者酒場で仲間たちと共にまとめ役を担っているブッチは、レゼルヴと依頼スケジュールに関する調整を終えた後、そうぼやいて天井を仰ぐ。


言わんとすることを理解し、レゼルヴは心外だと言いたげに肩を竦めた。


「別に彼らをこの土地に縛り付けるつもりはないよ。ここで経験を積んで力を蓄えたら自由にどこにでも飛び立てばいい。ここはその為の準備の場さ」

「ハハッ。一度飼い慣らされた獣が、いったいどれぐらい野生に戻れるかな?」

「さぁ? それもまた彼らの自由だよ」


冒険者の大半は食うに困ったならず者たちだ。勿論、彼らの中にも自由を求めて地位を捨てたり、冒険譚に憧れて冒険者になった者はいるが、心から冒険者でありたいと望む者はごく一部だろう。


裕福とは言えないまでも安定した生活、あるいは軍への仕官など別の生き方が示されれば、一般的な感性を持っている者ほどそちらに流されていく筈だ。


そもそも冒険者制度がならず者たちに仕事を与え、治安の改善と人的資源の活用を目的として始まったものである以上、これが冒険者本来の在り方だと言えなくもない。


「あと、これも」


レゼルヴが追加で差し出した書類にブッチが目を落とす──そこには『冒険者ギルド設立許可証』と大きく書かれ、右下にはオルデン男爵と王都ギルド本部の連名で署名がされていた。


「……はぁ。これで僕らも正式に国に首輪をつけられた訳か」

「まぁまぁ。これで補助金の申請もできるようになったし、別に一生続けなきゃいけないわけじゃないんだからそんな重く考えないでよ──あ、勿論辞める時はちゃんとした後任の選定を宜しくね」

「…………」


ブッチは『こんな田舎ギルドのギルド長をやりたがる人間なんてそう簡単に見つかるわけがないだろ』との言葉を飲み込み、許可証を指でつまみ上げた。


実際、文句を言える立場ではないことは理解している。仲間の結婚、出産を経て今後の身の振り方を迷っていたブッチたちに、レゼルヴは新たにオルデン領に設置する冒険者酒場──たった今冒険者ギルドに格上げされた──のまとめ役にならないかと誘ってきた。ただそれはブッチたちにその気があるならば、といった程度の軽い誘いで、レゼルヴにとっては必須というわけでもなかった。あくまで選んだのはブッチたち自身だ。


それで自分たちが助かったのは事実だし、設置にあたってレゼルヴにはかなり労を払ってもらった。冒険者酒場の整備費用や運営が軌道に乗るまでの運転資金、実際に冒険者を集めるための広告宣伝費の負担など金銭的な支援だけでも相当な額が動いている。レゼルヴ本人は二年以内に投資は回収できると語っていたが、このご時世に上を説得して資金を動かすのは簡単なことではなかっただろう。


「……まあいいさ。それより今更かもしれないけど、よく君のご両親は許可を下ろしてくれたね? 正直、非認可の冒険者酒場ならともかく正式にギルドとして許可を受けるのはだいぶ先の話になるんじゃないかと思ってたよ」


ブッチが言っているのは、この冒険者関連の事業の責任者がレゼルヴであるという点だ。


古くからの馴染みであるブッチは、オルデン男爵夫妻がレゼルヴにあまり目立った功績を立てさせたがらないことを知っていた。


冒険者事業そのものは上手く行けばオルデン家にメリットが大きく、逆に始める前は上手く行かない可能性もあった訳だから、レゼルヴに責任者を任せて話を進めたこと自体には何の不自然もない。だがそれをギルドに昇格させるとなると話は別で、男爵がレゼルヴの功績を公式に認めたことになってしまう。


ギルドへの昇格は補助金や信用力の向上などメリットが多いとはいえ、ブッチは実際にそうなるのは男爵家が代替わりした後だと考えていた。


「それは私も少し驚いてる。まぁ兄上も順調に功績を積んでいるから、多少私が功績を挙げても影響はないと思ったんじゃないかな? スペアとは言えあまり評判が悪いのも問題だろうしね」


あり得る話だがそれだけだろうか、とブッチは首を傾げた。


するとレゼルヴは苦笑して付け加える。


「……後は、以前に私のあげた提案が却下されててね。両親にはそのことで罪悪感みたいなものもあるんじゃないかと想像してる。こっちが要求したわけでもないのに、冒険者や地元の狩人を使うなら斥候部隊はお前が指揮しろって言われたからね」

「なるほど」


提案云々はセンシティブな部分だろうと踏み込まず、ブッチは短く頷くに留めた。


──しかし、本当にそれだけだろうか? レゼ本人に自覚は薄いが、領外からみれば兄より彼の方が圧倒的に評価は高い。男爵夫妻からすれば、何をしでかすか分からない次男坊にわざわざ功績を立てさせる機会を与える必要があるとは思えないけど……


「……ブッチ? どうかした?」


いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。顔を覗き込んできたレゼルヴにブッチは苦笑を返す。


「──いや、何でもない。何にせよ、お互い目立ってもいいことはない。粛々と役割を果たしていくとしよう」

「全くだね」


ブッチは、レゼルヴにとっての幸せとは早くオルデン男爵が代替わりし、スペアとしての役割を終えて自由になることだと考えていた。


男爵夫妻が今更後継者をシュヴェルトからレゼルヴに挿げ替える筈がない。


となれば、昨今の態度の変化はシュヴェルトの後継者としての地位を決定づける何かがあった、ということなのだろう。


それはレゼルヴにとっても望ましいことの筈だ、とブッチはそれ以上この問題について考えるのをやめた。




そのやり取りがあった丁度一週間後。


オルデン男爵家の嫡男シュヴェルトと、ヴァイスベルク辺境伯の四女ソフィアの婚約が発表された。

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― 新着の感想 ―
 領外からはきちんと評価されているのか。  まあ兄が政務やら表の社交やらを実行していれば、動き回って根回し下拵えはレゼルヴがやるだろうから実務担当者からその上へ、という流れで評価評判が広まるのはいかに…
レゼルヴとソフィアじゃないのか…
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