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全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第三部

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第67話

──どういうつもりだ……?


竜伯爵ドレイク・カウント『輝ける翼』のゴルディーニは、視線の先で蠅のように飛び回る不可解な敵の動きに困惑を隠せなかった。




今回、ゴルディーニが貴重な竜人ドラゴニュートの空戦部隊を率いてオルデン領方面へと進行した目的は、遅々として進まない人類圏への侵攻作戦において最大の障害となり得るオルデン軍に対し楔を打ち込むことにあった。


元々オルデン領は侵攻における要衝ではあったが、精兵に守護されている上に大軍を動かしづらいこともあり、過去の侵攻は悉く失敗に終わっている。特にここ数年は送り出した部隊が全滅することも多く、オルデン領への侵攻は非効率と戦略の見直しを迫られていた。


現在は大軍を動かし戦線全体に広く圧力をかけているところだが、やはり気になるのはオルデン軍の動きだ。もしあの精兵たちに自由に戦場を荒らされてしまえば、こちらも戦線を広げて戦力を分散させている以上、想定される被害は馬鹿にならない。


そこで立案された作戦が、竜人の空戦部隊によるオルデン領への奇襲。これは『こちらはいつでもお前たちの領地に攻め込めるのだ』とアピールすることで、オルデン軍の動きを掣肘する狙いがあった。


無論、いくら空戦能力があるとは言え、オルデン軍とまともにぶつかれば彼らもタダではすまない。その為、作戦は奇襲による一撃離脱。本格的な戦闘を行うつもりはなかった。


ゴルディーニ個人としてはたかだが人間相手に姑息な手に出なければならないことに忸怩たる思いはあったが、貴重な戦力をすり潰すわけにはいかないとの上の説得に渋々従った形だ。




話を元に戻すが、そんなゴルディーニにとって、レゼルヴ・オルデンと名乗った敵魔術師の行動は極めて不可解なものだった。


先ほどから飛行呪文を駆使して逃げ回ってはいるが、速度でも機動力でも空中ではゴルディーニが圧倒している。その為、距離を取られても数秒とかからず追いつきはするのだが──


「くっ!」


先ほどから捉えたと思い攻撃する度に、短距離転移呪文で回避され、距離を取られてしまう。


一般的な呪文使用回数の限界を無視して転移を繰り返していることから、恐らくは敵はこの転移術に特化した魔術師なのだろう。相当な手練れだ。


だがそれだけに、ゴルディーニをして敵の動きは理解しがたいものだった。


一番理解できないのは、敵がゴルディーニ相手に空戦を挑んできた点。これが飛行能力のない蛮族相手ならまだしも、空は竜人の独壇場だ。結局敵の回避は短距離転移呪文頼り。飛行呪文を維持しながらでは碌な呪文は使えないし、他呪文行使は維持失敗による墜落というリスクを伴う。このままゴルディーニが攻撃を繰り返していれば、遠からず敵は集中力が尽きて自滅することになるだろう。


つまり敵魔術師が飛行呪文を使用することには何のメリットもなく、まだしも地上で戦った方が勝ち目がある筈なのだ──が、敵はそうしようとしない。何故か?


繰り返すが敵は相当な手練れだ。蛮族の中にもこれだけの魔術の使い手はそうはおらず、実戦経験も豊富であることが見て取れる。初手で距離を取ったことから視て、彼我の実力差も理解できている筈だ。


そしてこれだけの腕があれば、ゴルディーニに発見された後でも逃げ出すことは不可能ではなかった。


愚かでもなく、蛮勇でもなく、臆病者でもない敵が、敢えて己に不利な戦場でゴルディーニに決闘を挑んだ──何のために?


──確実に何か狙いがある。罠、伏兵……あるいは空中で交戦することで味方にこちらの位置を知らせようとしている……?


ゴルディーニがチラと地上に視線を向けると、かなり上空まで飛翔してしまったせいで部下たちの姿は点のようにしか見えなかった。仮に地上で部下たちに何か異変が起きたとしても、ここからでは気づくのが遅れるか、気づけないかもしれない。


──敵の狙いはそれか?


もっとも厄介なゴルディーニを部下たちから引き離し、何らかの隠し玉を使って部下たちを殲滅する。もしそれをされてしまえば、ゴルディーニがこの決闘に勝利し敵を八つ裂きにしたところで、この奇襲作戦は失敗だ。


──だがどうする? 確証はないが決闘を放棄してでも地上に戻るべきか……いや、そうするとこのレベルの魔術師相手に大呪文を使用する隙を与えることになる。奴が本気で放った攻撃呪文に、我はともかく部下たちが耐えられるかは怪しい。


反撃や罠、逃亡を許しこちらの存在が敵に知られるリスクなど、様々な可能性がゴルディーニの脳を過ぎる──と。


──ボッ


「!?」


敵魔術師の姿が視界から消えた。夜の暗がりで気づくのが遅れたが、いつの間にか雲のある高さまで上昇してきてしまったようだ。敵魔術師が厚い積雲の中に飛び込み姿を見失ってしまう。


──ちっ。どうする……?


ゴルディーニは高く立ち昇る雲を前に、追うべきか戻るべきかの判断を迫られた。




一方その頃、辛うじてゴルディーニの攻撃から逃れたレゼルヴはそのまま全速力で雲の中を上昇、雲の上に出ると同時に飛空呪文を一旦解除した。


彼の身体は慣性の法則に従いほんの数秒上昇を続けるが、ほどなくして重力に囚われ自由落下を始める。レゼルヴは落下の恐怖を卓越した精神制御により意識の外へと追いやり、己を内界に埋没させて雲の中で呪文を詠唱した。


「『偉大なる天の血を引く巫女 慈雨の女神 天と地を繋ぐ尊き祈りをここに──』」


唱えるは天候を操作する第八階位呪文。レゼルヴは魔術師として、まだこの大呪文を使えるだけの技量を有していない。


彼は子供の頃から星を降らせる大魔術師になりたいとの目標を持ち、それを実現するアプローチの一つとしてかつて天候系呪文に手を出したことがある。しかし天空と天上とでは魔術としての方向性が全くの別物で結局星を降らせることは叶わず、しかも本来の天候操作呪文とは程遠い半端な呪文を習得することしかできなかった。


更にこの呪文は本来一〇分以上の儀式を要し、ゆっくりと天候を変化させるもの。こんな戦闘中に使用したところで碌な効果を発揮するものではなかった──が。


「『【天候制御コントロール・ウェザー】』」


それは天候を操ることはできずとも、既にある雲──水源を、雨粒に変えて降らせるには十分なものだった。




──雨……マズい!?


ポツポツと肌を打ち徐々に強さを増していく雨粒に、ゴルディーニはオルデン軍に気づかれる可能性さえ無視して反射的に叫んでいた。


『上がってこい!!』


竜種のブレスを応用した大音声。一応、竜人族独自の言語を使用しているため人間どもに意味は伝わらない筈だ。


ゴルディーニには、この雨が具体的に何を意図したものかは分からない。


だが、敵が雲の中に消えた直後に降り出したこの雨が敵と無関係である筈がない。必ず何か意図がある筈だと考えた。


雷など天空の大エネルギーを操り直接的にこちらを攻撃するほどの技量があの魔術師にあるとは思えない。で、あれば次に考えられるのは雨による間接的な罠の可能性だ。水攻めか、土砂か。それがどんなものであれ、ゴルディーニは地上にいることは危険だと判断し、部下たちに上空まで上がってくるよう指示した。


ゴルディーニが敵が消えた雲を監視しつつその場に留まっていると、飛翔し少しずつ大きくなる無事な部下たちの姿が確認できた。知らぬ間に伏兵に始末されてはいなかったことに一先ず胸をなでおろす。


──さて、次はこの雲をどうするか……


自分も突入して奇襲されるのは上手くない。部下たちに取り囲ませて出てくるのを待つか、あるいは消耗覚悟で切り札を使い吹き飛ばすべきか。


ゴルディーニの思考が後者に傾きつつあったそのタイミングで、厚い雲を突き破って何かが落ちてきた。




──位置は概ねよし。細かい部分は地表直前で調整するとして……行くか。


再び飛行呪文を使用し雲の中で待機していたレゼルヴは、狙い通り地上にいた竜人たちがこちらに近づいてくるのを魔力探知で感じとり、覚悟を決める。


これ以上隠れていれば、苛立った敵が大技で隠れた雲ごとレゼルヴを吹き飛ばそうとするかもしれない。


レゼルヴは再び飛行呪文を解除し、新たな呪文詠唱を始めた。ただし今度は先ほどとは違って落下速度を緩めようとはせず、彼の身体は直ぐに重力に捕まり急加速しながら落下していく。


「『虚空の檻 原初の一 天冥抱く白き世界はここに在り──【反魔結界アンティ・マジックフィールド】』」




人体が自由落下する場合、姿勢などにもよるがその落下速度は秒速五〇メートルを軽く超える。時速にして一八〇キロメートル超。


視界の悪い夜の曇り空から突然そんな速度で落下してきた物体に即応することはほとんど不可能だ。それが自分に向かってきたならまだしも、ただ近くを通り過ぎたのであれば猶更。


──ゴォ!!


「!?」


自分を無視して高速で落下していった人影に、ゴルディーニは身体を強張らせ見送ることしかできなかった。


──飛行呪文の維持に失敗して落下した? いや、自由落下を利用して我から逃れるつもりか!?


翼をはためかせ、落下していく人影を追おうとしたゴルディーニだったが──


──!? 翼が制御できん!? これは、一体──




竜人ドラゴニュートは翼持つ飛行種族ではあるが、彼らは鳥のようにその翼の力だけで空を飛んでいるわけではない。


当たり前の話ではあるが、人型種族である彼らの肉体は鳥のように空を飛ぶようにはできておらず、その巨体を空に浮かべるには彼らの翼は小さすぎた。


そんな竜人が空を自在に舞うことができる理由は、身も蓋もない話ではあるが魔法である。


『飛行』という概念を宿した翼による、天然物の──最も原始的な魔法の一つ。彼らの物理法則を無視した速度や機動は全て魔力の賜物だ。


それは裏を返せば、魔力を喪失したり、魔力が正常に働かなくなれば彼らは飛行能力を失うということで──




『!!?』


ゴルディーニの指示に従い上昇していた竜人の部下たちのすぐ近くを黒い落下物が通り過ぎると同時、ゴルディーニと同様、彼らの翼は飛行能力を喪失する。


第六階位呪文【反魔結界アンティ・マジックフィールド】──術者の一定範囲内に侵入したあらゆる魔術と魔力の働きを無効化する結界呪文。それがレゼルヴが使用した呪文の正体だ。


自由落下するレゼルヴの結界に一瞬でも囚われた竜人たちは、魔力と共にその飛行能力を奪われてしまった。


一瞬のことではあったが、竜人のような生来の魔法種族にとって魔力とは即ち血液のようなもの。一度喪失した魔力を再び正常に働かせるのは一流の魔術師であっても数秒はかかる。しかもそれが突然、遥か上空で失われたとあっては冷静に対処できよう筈もない。


竜人たちは生来の力を奪われた混乱の中、為す術なく地面へと墜落していった。




──ぐぬ、お……っ!


「【降下制御フォーリングコントロール】!!」


当然、レゼルヴ自身もあの高さから地面に叩きつけられれば生き延びる術はない。


竜人たちの群れの横を通り過ぎると同時に【反魔結界アンティ・マジックフィールド】を解除。落下速度を軽減する呪文を使用する。


だがこの【降下制御フォーリングコントロール】の呪文も制御可能な速度には限界がある。発動した時点で地上までの距離はもう一〇〇メートルもない。この短い距離では落下の慣性を完全に殺すことは不可能だ。


このまま地面に着地すれば身体の形は残るかもしれないが、やはり即死は免れない──


──届くか……!?


次の瞬間、嫌な音を立てて暗闇に液体が飛び散った。

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