表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全力で次男を遂行する!!  作者: 廃くじら
第三部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/111

第65話

──バンッ!!


「レゼルヴ様!!」


レゼルヴの執務室にマッシュが勢いよくドアを開けて飛び込んできた。


しかし部屋の主人は見当たらず、マッシュはソファーに寝転がりキョトンとした表情でこちらを見ている少女に問いかける。


「メル! お前、レゼルヴ様と一緒にヴァイスベルクに出張に行っていた筈だろう? レゼルヴ様はどこに!?」

「レゼ様なら用事があって出かけてますけど……どうしたんです? そんなに慌てて」


のんびりした時間を邪魔されメルが顔を顰めるが、マッシュはそんな彼女の反応を無視して苛立った様子で頭を掻いた。


「こんな夜更けに!? クソッ……いつ帰ってくるかは分かるか!?」

「さぁ……」


メルは面倒くさそうに身体を起こしてソファーに座りなおすと、呆れた態度を隠そうともせず溜め息を吐いてマッシュを問い質す。


「というか『こんな夜更けに』はこっちのセリフですって。その用事、明日じゃ駄目なんですか? レゼ様もあたしも子供の世話でくったくたなんですけど~」

「そんなことを言ってる場合──」


言いかけてマッシュは言葉を飲み込んだ。


頭に血が上って思わずここに駆け込んできたが、冷静になって見ればこれは別に一刻を争う話でも何でもない。明日仕事で顔を合わせた時についでに報告すれば済む話なのだ。しかし──


「……っ」


感情を持て余し奥歯を噛みしめるマッシュに、メルは再度溜め息を吐く。


「とりあえず、何があったかだけでも聞かせてくれません? それが分からないことには、あたしもどう動けばいいのか判断しようがないんで」

「……ああ。実は──」


マッシュは彼女の言うことはもっともだと思い、前線の砦でシュヴェルトから聞かされた話を説明した。


前線基地の整備計画について、男爵夫人からシュヴェルトに検討するよう指示が出ていたこと。しかもそれは単なる改修や建て替えの検討ではなく、自分たちが提出し否決された『砦を一か所に集約し山間部に道を整備する』という計画をベースにたたき台を作れというものだったこと。たたき台なら既に自分たちが提出し、たった三か月前に否決されたばかりだというのに、だ。


どうやらシュヴェルトはその辺りの事情を全く聞かされておらず、砦の再編自体が男爵夫妻の頭の中から出てきた案だと思っているらしい。


しかも男爵夫人は後方事務に不慣れなシュヴェルトの補佐役として、よりにもよってマッシュを推薦していた。


レゼルヴの下で、共にその設備再編計画を策定したマッシュを、だ。


自分たちの提案は財政不安なんて理由で否決しておいて、その舌の根も乾かない内に否決した提案と同じ内容を別の人間に指示するなど馬鹿にしているにもほどがある──いやもう意味が分からなかった。


「……若様の前では適当に言葉を濁して誤魔化したが、このことは早急に御屋形様と奥様に問い質さねばなるまい。まずはレゼルヴ様にご報告をと思ったのだが……」


シュヴェルトの前で事情をぶちまけてやりたい気持ちはあったが、男爵夫妻の意図が不明なまま衝動的に行動すれば好ましくない結果をもたらすだろうことはマッシュにも理解できた。だからその場は堪えた。


マッシュはその屈辱と不満をメルにも共感して欲しかったのだ、が──


「──なんだ、そんなことか」

「!?」


しかし期待に反してメルの反応は素っ気なく、驚きさえしなかった。


「そんなことって──」

「ああいや、流石に三か月っていうのは予想外だったかな。せめて一年ぐらいは間を空けるもんだと思ってたけど──」


彼女が何を言っているのか理解できず、呆気にとられるマッシュ。


メルはそんな同僚に冷ややかな視線を向け、コテンと首を傾げた。


「それで、貴方は一体何を驚いてるんです? 否決された計画が改めて再検討されることになったってだけの話でしょう?」

「だけ……?」


まるで自分の方がおかしなことを言っているような不安に襲われながら、マッシュは言葉を紡ぐ。


「だ、だから……一度否決した計画を、まだあれから三か月も経っていないのに──」

「そこは事情が変わったんじゃないですか? この三か月で長期の資金繰りに目途が立ったとか、いい契約や支援の話があったとか──ああ、もっと単純に気が変わった、っていうのもあるかもしれませんね~」

「っ! だ、だとしても! 最初に提案したのは私たちなんだ!! 再検討を指示するならまずこちらに話を通すのが筋だろう!?」

「ん~……そこは前線の責任者の目線を取り入れたかったとか? 事務方が作った計画は、往々にして現場目線が欠けてることがありますから」

「……百歩譲ってお前が言うような理由があったとして、だ! どうして私たちが計画を立てたことを若様に伏せる必要がある!?」

「予断を持たせたくなかったとか? もしあたしらが計画のたたき台を作ったと知ったら、若様がレゼ様の意見に引きずられる可能性が高そうですしね~」

「…………っ」


思い浮かんだ今回の話の不審点を、言った端からメルに否定されてマッシュは言葉に詰まる。


確かにそう言われてしまえば否定することは難しいが、本当にそういうことなのだろうか?


──いや違う! そうじゃない。そういう話じゃあないんだ!


そんな大局的な話がしたいわけではない。マッシュが怒り、屈辱を抱いていたのはもっと個人的で単純な──


「──なんてね。まぁ、どう理屈をこねたところで、奥様たちが成果と功績を若様に付け替えようとしてるのは明らかです。それを『おかしい』っていうなら、その通りなんでしょう」


そうだ。マッシュが不満を抱いていたのはまさにそこだった。


現状、自分たちの働きと成果に対して男爵夫妻が正しく報いてくれているとは言い難い。十分な働きができていないというなら仕方ないと諦めもつく。だが働きは認めるがその成果と功績を他人に付け替えるというのはどう考えても道理に合わないではないか。馬鹿にしている。


それを不満に思い抗議するのは当然のことで──


「──だけど、貴方が不満に思う必要はないでしょう?」

「……え?」


マッシュは今度こそ、何を言われたのか全く理解できなかった。


そんな彼の反応に、メルは心底呆れた様子で眉尻を下げて溜め息を吐く。


「だから、貴方は若様の補佐役として設備再編計画に関わることができるんです。計画から外されたわけでもないし、それが終われば働きに対してキチンと報いてももらえる。何を不満に思うことがあるんです?」

「え? あ……」


そういう、ことなのか? 男爵夫人がシュヴェルトに自分の名前を出して推薦したというのは、そういう意図あってのことだったのか?


「若様の前で我慢したのは良かったですね。もし何も考えず若様に事情をぶちまけていたら、奥様辺りに『若様を任せるには頼りない』と判断されていたかもしれません」


踏み絵だったということか? 単純な思慮分別の話だけではなく、シュヴェルトを一番に考えられるかどうかの──


「──待て。ならお前は? いや、レゼルヴ様はどうなる?」


思わず口をついて出たその問いかけに、メルの表情は『何故お前がそんなことを気にするのか』と言いたげに不思議そうにしていた。


いや、マッシュ自身も同感だった。どうして自分が彼らのことを気にかける必要があるのか。


だが、そんな思考とは裏腹に彼の口は止まらなかった。


「……確かにお前の言う通りなら私には何も問題はない。計画は前に進み、私も働きに対して報いてもらえる。──だがお前らはどうなる? 特にレゼルヴ様はこの計画の立案者だ。あの方は、その働きに対して正当な評価を受けることができるのか?」

「──そんなわけないじゃないですか」


初めてメルの言葉に感情が宿る。


馬鹿なことを聞くなと彼女は不快感も露わに吐き捨てた。


「レゼ様は次男で、若様のスペアです。若様が健在である以上、必要以上に功績を立てることは望まれていない。つまりそういうことです」

「そんな……そんな馬鹿な理由であの方の功績が握りつぶされたというのか? 実の親に?」


マッシュは信じられないと声を震わせる。


レゼルヴの部下になって半年、彼が想像以上に有能であることは理解していた。あの若さで稀有な高位の導師であり、多くの人脈を持ち、文官としては非の打ち所がないほど優秀。オルデン家中での評価はともかく、有能な戦士であり指揮官に過ぎないシュヴェルトより客観的な評価はよほど高いのかもしれない、とも。


円滑な長子継承の為にレゼルヴに功績を挙げさせたくないという男爵夫妻の理屈は分からなくもない。だがこれではレゼルヴがあまりに──


「……言っておきますけど、レゼ様に同情しようってんなら、的外れも甚だしいですよ。レゼ様は最初から全部承知の上ですから」

「?」


そう言ったメルの視線は酷く冷めていて、声音はどこか呆れているように聞こえた。


「どうしてあの提案の後、レゼ様があっさり引き下がったんだと思います? あの方の人脈を使えば、こんな小さな領地の設備資金を引っ張ってくるぐらいわけないのに」

「それは……」


それはマッシュも不思議に思っていた。資金調達についてはマッシュでさえ幾らか思うところがあったのだ。レゼルヴに腹案が無かった筈がない。


「そもそもオルデン家の今後数十年を話し合うあの会議の場に、次期当主である若様がいなかったのはどうしてだと思います?」

「! まさか──!?」


あの日、シュヴェルトは前線基地に駐留中で会議には参加できなかった。


だがシュヴェルトの立場を考えれば会議には参加してもらうべきだったし、男爵夫妻とシュヴェルトのスケジュールが合う日はいくらでもあった。


レゼルヴがそのことに気づかなかったとは思わない。そしてシュヴェルトに悪感情を抱き会議から排斥したなんて可能性はもっとあり得ない。


ということはつまり──


「最初から、こうなることを見越して……?」


──シュヴェルトに対し、円滑に自分の功績を付け替えることができるように。


マッシュの震える声に、メルは肯定も否定もせず肩を竦めた。


「流石に、絶対にこうなると確信してたわけじゃあないと思いますよ。ただ、どちらに転んでもいいように手配していたってところじゃないですかね」


意味が分からない。


「何でそんなことを……」

「そういう人なんですよ」


メルの声には呆れと、そして隠し切れない信愛が滲んでいた。


「自分はスペアだ、兄上を立てるんだって、そればっか。その気になれば次期当主の座を乗っ取ることも、外でもっといい立場に就くことだってできるのに、自分にはその義務があるって聞かないの」

「…………」

「どうせ今回の件も、計画が前に進んで、しかも若様の役に立ったならそれでいいとか考えてるんですよ──ああいや。ついでに御屋形様と奥様が多少なりとも罪悪感を持ってるだろうことを利用して、他の細々した計画や要求を通してやろうとか考えてそうだなぁ。あの人、頑固な上に性格悪いから」

「……何だそりゃ」


マッシュの口から、彼自身驚くほど感情のこもらない平坦な声が出た。


目を丸くしてこちらを見るメルの反応を無視して、彼は続ける。


「あの方──レゼルヴ様は今どこに?」


何故そんなことを言ったのか、何をしたいのか、自分でも分からない。けれど──

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ