付き合って初めてのクラス替え発表
「あぁ〜もうドキドキするね。ねえ、準備出来ている?」
「いや、そこまで緊張することか?」
「するに決まっているじゃないの。だって今日から新学期……つまりクラス替えだよ。2人が離れてしまうかもしれない最大の危機じゃないの!!」
「そりゃ俺だって離れたくはないけど、最大の危機ではないだろう」
「最大の危機なの!!」
今大声で叫んでいる少女は、今日で高校2年生になる詩乃。彼女は隣にいる同じ学校で同じ年の颯真に対して悲しい表情を浮かべていた。その様子に彼は呆れながらも、背中をポンポンと叩きながらゆっくりと慰める。
2人は去年の10月ぐらいから正式に付き合ったので、カップルとしては半年ほどとまだ日は浅い。そのためか、2人の熱は一切冷めることはなく、いつも仲良く過ごしていた。そんなあまりにも仲の良すぎる2人を、周りの人達からは、この町の公式カップルもといバカップルとして認知されているのだ。
「でも4クラスしかないから、同じになる確率は4分の1だろう。当たる時は当たるし、当たらない時は当たらないというレベルだと思うけどな」
「でもいつも誰と同じクラスになりたいかって聞かれるじゃない。それをどうにか考慮してくれないかな?」
「確かに考慮はしてくれるだろうけど、どっちかと言うとあれは一緒になりたくない子の方が重視されるだろうから、難しいんじゃないか。それに詩乃は、社交的だから考慮する対象からは外れそうっていうか……」
「じゃあコミュ症の方が良かったの?」
「いやそういうことじゃないだろう。詩乃の積極的に声を掛けられるのは良いところだ。詩乃が声を掛けてくれてなければ、俺達は付き合っていなかっただろうし」
「本当に? そう言ってくれて嬉しい!!」
彼は彼女の社交的な部分は長所だと思っているし、本当にその性格のおかげで今があるのだからとても感謝はしていた。しかし、その性格が故に、他の男子達でもすぐに打ち明けてしまうところを見て、男子をつい羨み少しだけ嫉妬してしまうのは秘密である。彼女から悪意に取られたくないのだ。
彼がそんなことを思っているとはつゆ知らず、彼女はさっきの不安は何処に行ったのかと思うほど無邪気な笑顔を浮かべていた。
「まあ詩乃、もう今更ドタバタしたところで結果は変わらないんだ。同じであることを祈るのみさ」
「そうだね。先生には颯真と一緒にして欲しいと頼んだし大丈夫だよね。あと、由紀ちゃんと久美ちゃんと景子ちゃんと鈴葉ちゃんと奈々ちゃんも一緒になりたいって頼んだけど聞いてくれるかな?」
「いや多すぎだろう!! どう足掻いても全員は無理だと思うぞ」
「やっぱ無理か〜。でも2人ぐらいは一緒が良いな。そう言えば颯真は誰と一緒が良いって言ったの?」
「え、俺? 別に誰とも言っていないけど」
「それどういうこと? 私はどうなのよ!! 酷い」
「そりゃ詩乃と一緒になりたいけど、女子の名前を挙げるの気まずくないか? それに付き合っているとクラスが離れやすいって聞くしな」
「え、そうなの……」
彼女は言った方が良いと思っていたことが、逆効果かもしれないと思い、しょぼーんとして少し悲しそうな顔を浮かべてしまう。そんな表情をさせたいわけではなかった彼は、彼女の肩を抱き寄せて慌てて取り繕った。
「詩乃……言えなかったことは悪かった。許して欲しい」
「別に怒ってないよ……悲しかっただけ。こっちこそ、要らないことを言っちゃったかもしれないし……ごめんね」
「じゃあこれで和解ってことで良いな」
「うん」
「なあ、俺も詩乃と離れるかもしれないと思うと悲しいよ。ホームルームが始まるまでの時間とか、休み時間の間に話せる時間が短くなるし。それに授業中の懸命に受けている詩乃を見れなくなるのも寂しいしな……ってもう2年から文理で別れるんだったな」
「そりゃそうだけど……もうこら、授業中は授業に集中しないといけないでしょ」
「数学以外はちゃんと受けているよ」
「もうこの数学オタクめ。もう高校の内容は全て分かるからってそんなことして……私は苦戦しているのに〜」
「いや、それなら俺は現代文とか古文とかはかなり苦戦しているぞ。詩乃は得意じゃないか」
彼女は完全な文学少女で、彼は完全な数学マニアと、好きと得意なベクトルがまるで違う。そのため、浪漫を追い求める彼女と現実的に物事を見る彼では、時々考えがぶつかり合うこともしばしば。しかし、そんな違う2人だからこそ、ここまで惹かれ合い、お互いに尊重し合えるのだ。だからこそここまで仲が良いのだと推測される。
「あ、そろそろ学校に着くね。そろそろタイムリミットか。颯真とは文系と理系で別れて授業があまり同じ時間じゃなくなるけれど、やっぱりクラスは同じが良いな」
「そうだな……俺も同じだ。今回は詩乃がいつも言う言霊を信じることにしよう」
「うん」
こうして2人はあっという間に校門まで着き、運命のクラス替えを待ち受けることになったのだった。
「颯真ーー、由紀ちゃんと景子ちゃんと鈴葉ちゃんは同じクラスだったよ。そして颯真と同じクラスになれて本当に嬉しい!!」
「俺も嬉しいよ。また1年同じクラスでよろしくな、詩乃」
「ええよろしく、颯真」
――結果は見事に同じクラス。2人の祈りが通じたのか、そうではないのかは今は置いておいて、2人はとても無邪気に喜んでいる。
そんなとびきりの笑顔を見せる2人に、クラスの子達は、ニヤニヤとしている人もいれば羨ましそうに見ている人もいるものの、みんなが微笑ましく見守っているのだ。
そして、窓辺から差し込む太陽も微笑ましく見守っているようである。