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ノックオン・シューター

ガンマンリョーコの東方異聞録

作者: 一飼 安美

 西暦も三千年を超えるといちいち数えようという人が少ない。年末にお誕生会をする以外は特に何もしないのだから今何歳かなんてあまり気にせずみんな酒を飲む。過去に何回か戦火が上がって世界が燃え尽きた後は誰も彼も生活に必死なので世知辛いばかりの世の中で、教会なんか行っても腹は膨れないと文化文明の類がごっそり変わった。そんな中で、数少ない過去の面影を残す島がある。ジパーン!黄金の国とも呼ばれた東方の異世界は、「そこまで取れない」と当時からみんな謙遜していたと聞くが本当にないらしく、当たり前だろ!と怒られた人の逸話が「君子 海の果てに欲見て あぼーん」という故事になっている。まあ世界が回線で繋がっていたという千年以上前の御伽話の時代と違って現地に行ってみないとわからないことがほとんどで、そんなときには雇われ者が足を伸ばす。私もその一人。過去に帝国と恐れられた某国の依頼を受けて、このジパーン!にやってきた。私を見つめる島国の人の目は億千万の胸騒ぎ、エキゾチックなこの国にはいないタイプなのだろう。クロスオーバーする何かが古いという言い分は、もう千年以上立っているのだからどんな表現も何もかも古いと言う理論武装で跳ね返すとしよう。


 私みたいなスタイルグンバツのスーパーセクシー美女というのは現代では世界を見渡してもほとんどいないらしく、大体は権力者に囲われて後宮入り、人によっては王様を転がして好き放題するという人もいるがそんな後宮を作れる皇帝は世界に四人かそこいらなので「そんな場所もあるらしい」くらいしかみんなわかっていない。現代では生活環境が逼迫していることもありスタイルがいいとか整った人自体が珍しく、美女というのは男性の権力者にとってものすごい価値を持つ。リョーコさんはそういうところに行かないんですか?なんて聞いてくる失礼なヤツも多い。男になびいて調子に乗るのが楽しそうと思ったことはなく、自分の好きなことができないなら生きてる意味なんてない!と言い放つと酒場の連中がおおーっ!と声を上げた。リョーコさんにとって、人生とは!と聞いてきたヤツがいたので、大きな胸をさらに張って高々と叫んだ。


「お金ーっ!!」


 山ほどの現生に輝く金塊に太古の財宝、大判小判がざっくざく!とジパーン!に見た夢を語っているうちに周りが冷めていた。あぼーん。途中までウケていたと思ったのに!とコメディの大会の一回戦落ちみたいなことを酒場の娘に愚痴る。私はとっても素敵だと思います、と言ってくれたユリちゃんは幼いけどかわいらしい子だ。きっと美人になるわよ、そしたらみんなの注目の的ね。ユリちゃんは恥ずかしそうに「どうやったらそうなれるんですか?」と聞いてきた。生活環境がなくて誰も彼もスタイルが崩れがちだから美容に気を使えるのなんてそれこそ権力者の後押しがいるはずなのに、ジパーンまで来るガンマンがスタイル抜群のグラマラス美女だというのは羨ましいの一言らしい。食べ物がいいんだとかいいところに住んでるんだとか、みんな好きに想像しているらしいけど、私に言わせればそれでなんとかなると思うのが夢想。セクシー美女の秘訣、それは!


「素直に生きること!」


 食べることも飲むことも我慢せず寝たいだけ寝て起きたいときに起きて、西にお金があると聞けば拾いに行き東に儲けがあると聞けば地の果てまで走り、例え火の中水の中草の中森の中、あの子のスカートの中も駆け回っていれば心身ともに健康に溢れて……ユリちゃんが引いているので自分で話をやめた。あぼーん。私はそこそこにへこんでジパーンの大衆酒場「立ち飲み酒房 ネリマク」を後にした。


 やれやれ、人の価値のわからない連中は嫌ね、大体どこに行ってもわからない人だから男もできない。仲介人のブーキーさんから現地で合流するようにと聞いていた男を探す。ジパーンの守護神である「ボサツゾー」の前で待ち合わせ、と聞いていたからボサツゾーを探すと、そんなもん掃いて捨てるほどあると言われて冷や汗をかいた。何せ世界全体が半ば滅亡しているので最近になって誰かが作ったという石ころが山ほどあり、どのボサツゾーかと聞かれると詳しくないからわからない。とりあえず一番有名なのを教えてもらうと、カマクラにあるでっけえのじゃないかという話だった。泣きそうになりながら行ってみると、いつもの相棒がいた。ごめんごめん、遅れちゃって!と少しばかり遅刻したのを謝ると、「二日経ってもウシクに来ないからこっちじゃないかと思った」と一日かけて移動してきたらしい。じゃあ二人とも、今来たってことで!相棒は深いため息をついた。お互いに替えが効かないんだし、気にしない気にしない!「こっちはそうでもない」と言われないうちに話を進めた。


 相棒のコーイチ……フルネームはカグラコーイチというらしいがあまり気に入っていないので呼ぶと怒る。笛のことだと聞いたので「尺八とかも興味あるかな?」とウィットに富んだジョークを言ったらドン引きしたというファーストコンタクトなのでお堅いヤツというのが決まっている。ジパーンの仕事の前に、手を合わせてくれと言われてやっと私の魅力に気がついたか!と思ったら「そういうところですよ」とでっけえボサツゾーに向かって合わせることになった。こういう信心深いというか、クソ真面目なのが祟って女もいない。こいつのご先祖はこの辺りで大工をやっていて、五寸釘を打ち間違って手のひらに刺したアホと語り継がれている。よく職人ができたものだ。もちろん周りの人もそう思ったらしく、職を変えざるをえなかったらしい。今はユーラシア大陸をあっちへこっちへとふらつく調査員。多目的調査員という便利屋は専門を持たない代わりになんでもそこそこにできないといけないので逆に珍しい。だからいつも居合わせるわけだけど、今回は一緒に仕事をすることになっていた。


 ジパーン!という国は些かややこしい国で、いまだに商用電源の周波数が統一されていないとか、閉鎖と解放を繰り返した歴史のために文化文明がごっちゃごちゃ。おかげで全体に滅びかけのこのご時世でも、耐えれるところは耐えれるくらいに多様化していた。でも辛いのは事実だから、あちらこちらで怪しい儲け話や新興宗教が出始めて、余計に混沌としている。何より珍しいのは、この国は暗号通信の先進国、世界最先端を行く密度と情報量を誇る。私の依頼元がヨダレを垂らして羨ましがるほどの意思疎通が可能で、暗号化の秘訣があるらしいが誰も語らない。なんでも、ジパーン!の人ならわかる人がザラにいるらしいのだが、だいぶ前に一族が大陸に渡った私やコーイチではそこまでピンと来ない。誰か知っている人を探して、コツを聞いてきてほしいとのことだった。


 まずはこの国で実際に暗号通信を行っている人を、誰か見つけないと話が始まらない。この国に行けば、どうなるだろう。この国へ行け、行けばわかるさ!と思っていたら何もわからない。暗号であるからにはこっそり渡しているのだろう、マイクロチップとかメモリーに入れて……と考えていると、「んなわけないでしょう」とコーイチに言われた。そんなものに入れてこっそり渡していたらここに入れたから盗んで考えてくれと言っているようなもの、暗号の強度が大幅に落ちる。そんなんで通信していたらすぐに郵政を押さえられて暗号先進国なんて呼ばれるわけない。回線を使っても同じこと、見ようと思えば管理者権限で盗み見れてしまう……。じゃあどうやってるのよ、と問い詰めるとわからないらしい。似たような理解度しか持たない私たちは、誰か教えてくれそうな人の心当たりを探すことになった。そして私がこの国で頼れる相手は、他にいるはずがなく。


 立ち飲み酒房ネリマクに戻ってきた私は、「彼氏がいたんですね!」と以外そうなユリちゃんに何か言い返す前に「違いますよ」と否定したコーイチに若干の不満を抱きながら、ジパーンの人が内緒話をする方法、と極めて婉曲的な質問をした。コーイチが冷ややかな目で見ているが何か手落ちがあっただろうか。ユリちゃんは、見当もつかないといった感じで、でも真剣に考えてくれた。真剣に考えている間、店の棚にあった人形に目が行っていた。何の人形だろう、と思っていたら、大好きなおじさんと最後に会った時のもので、お別れを言えなかったという。ウリンガという人形は、ユリちゃんにとって悲しい思い出らしい。また会えるといいね、なんてロマンチストぶって言うコーイチに、ユリちゃんは何も答えなかった。もう、会わない方がいいんじゃないか……そう呟いたユリちゃんに、コーイチはそれ以上答えを求めず、お酒を一杯だけ頼んだ。私も私も!と同じものを頼む。いやあ昼飲みは最高だー!素直に生きるのが一番という美の秘訣をユリちゃんに見せつけると、今回はなぜかちょっとウケた。奥が深いなあ、わからないものだ。


 コーイチは私みたいな美女に興味を持たないのにフェミニストだから、ユリちゃんを気にして話を逸らし、街を案内してほしいと言っていた。ちょうど一旦店を閉める昼過ぎの時間帯、次の開店は夕方。コーイチとユリちゃんがどっか行った間、私は店で飲んだくれていた。後で払うから、もう一杯……と棚に目を走らせて、人形が気になった。変なの。どう見たって悪者だな。ユリちゃんがいないのをいいことに言いたい放題言って人形を手に取った。……重い。妙にずっしり来る重さはソフトビニールのそれではない。まさか!と焦ったときには黒スーツの男たちに出口を押さえられていた。この国に私が入ったこと自体は秘密でもなんでもなく、何のために来て何をしているかが問題だった。ここに盗聴器があったなら……この国は暗号通信の先進国。それと同時に、最もマークが強い場所でもある。でもまさか、こんなところに……うってつけの人形だった、とどっかのスパイが自慢げに言っていた。


 妙に機械的で中を入れ替えてもわからず、大事なものとなれば廃棄されない。これを置いてあるということは、この酒場の娘は内通者も同じ、と勝手なことを言うものだ。あの子はあんたらの仲間じゃない、頭悪いんじゃないの?と言ってやってもわかるような奴らであるはずがなく、悪い頭は鉛玉で砕かれるものだ、と銃を向けてきた。でも、所詮は飢えた男たち。美しい女が珍しく劣情を持て余している程度のヤツら。頭を砕かれない方法がある、と私に持ちかけてきた。要するにあれだ、私が全力でチョメチョメする女になれば助けてやるって?話が早いじゃないか、とスケベ野郎が持ちかけてきた。言えば助けてやる。「私をあげます」と。残念だけど、必要ないわ。一番後ろにいた男が、コーイチとユリちゃんに材木で思いっきりどつかれて悲鳴を上げた。驚いた一瞬が命取り、前にいたヤツは私が思いっきり股間を蹴り付けて銃を奪い、もう一人のドタマをぶん殴った。瞬く間に三人伸されて、返り討ち。「名乗るほどのものじゃないと言っていたと言っといて」とユリちゃんに男たちを任せてそそくさと立ち去った。警察とか信用できないのは知っているから、今回は尻尾を巻いて逃げるしかないよねーと思っていたら、酒場の外で酔っ払いのおっさんが話しかけてきた。いやあ鮮やかだなあ、まるでヒーローだ!ムッとして言い返そうとしたら、それとも、怪獣かな?と聞かれて背筋が凍った。イキチというおっさんは、お嬢ちゃんに特別に教えてあげよう、と顔が真っ赤のまま言っていた。暗号解読の、大ヒントだ、と言われては聞き捨てならない。黙って聞いていたら、ただの酔っ払いの与太話。暗号の符号化は、印象で行われるという。


 なんだか、悪者っぽいなあ。そう思ったらそれは悪者だ。なんか、あいつに似ているなあ。そう思ったらそいつのことだ。あいつがあいつで、そいつがそいつで……繋いでいけば勝手に浮かび上がる。イキチのおっさんは、そうそう!なんて一緒に笑っているイデというおっさんとの会話に戻り、結局なんのことかはわからなかった。あーあ、無駄足。そう思っていたら、コーイチが私に聞いた。何もされませんでしたか?……何?気になるの?と聞き返すと、ユリちゃんの話を聞いた後なので男女の話が気になっただけだという。なんだそれはー!と依頼元の国で習った必殺の立ち関節にコーイチを捉えた。これがグレイプバインストレッチ、別名オクトパスホールド!思いっきり締め上げたのにあまりダメージがなく、コーイチは「あんなところやこんなところが当たっていた」と真っ赤っかになっていた。それ相応の戦果に気をよくして、私は仕事を諦めて依頼元に怒られることになった。

勢いで書いたからめちゃくちゃだ。

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