第3話
「やれやれ、せっかちだね」
女はぼやきながらどこかへ歩いていく。
数秒後、戻ってきた彼女は小さな紙の束を持っていた。
サイズからして名刺だろうか。
女は涼しい顔で言う。
「善意で集った人間が異能力犯罪に立ち向かっていることをご存知かな」
「ええ、自警団ですよね」
「私はその自警団の技術者だ」
女が「よろしく」と言って名刺の一枚を渡してくる。
白地に城島という文字だけが記された簡素な名刺だった。
私は拘束されているので受け取れず、それに気付いた女――城島は名刺を束に戻す。
「君は非合法な組織に改造されて非合法なサイボーグになった。感想を聞かせてほしいな」
「……何が目的ですか」
「超法規的な手段で異能力者をぶちのめす。そのために君を利用させてもらいたいんだ」
物騒な表現に私は警戒心を強める。
城島は世間話のように語っているが、彼女が本気なのは目を見れば分かる。
どうやら私はとんでもない組織に捕まってしまったらしい。
そして生殺与奪の権利も握られている。
事実上、逆らうことは不可能な状態だった。
しかし自警団の行動理念は悪と断じることができない。
大前提として違法ではあるが、異能力犯罪の撲滅を目指しているからだ。
考えとしては理解できる。
それでも難色を示してしまうのは、私が警察官だからだろう。
(だけど私には何も残されていない。同じ境遇の人間を減らすことが責務じゃないか)
守るべき家族はもういない。
ならば状況を逆手に取り、警察官の時には届かなかった領域に踏み込むべきではないか。
自分の手を汚す覚悟を決めるのだ。
たとえ違法だとしても、妻や娘のような犠牲者を減らせるのなら……。
私は暫し葛藤する。
堂々巡りの思考の果てに脳裏を過ぎったのは、亡き妻と娘の笑顔だった。
私は城島に懇願する。
「自警団に参加させてください。お願いします」
「良い判断だ。ではさっそく初仕事に出てもらおう。標的は君の家族を殺した強盗グループだ」
城島の言葉を耳にした瞬間、私は拘束ベルトを破壊しながら立ち上がった。
視界を埋める警告メッセージを無視してベッドから下りると、大股で部屋の出口へと向かう。
「おいおい、職務に忠実なのは感心するが急ぎすぎだ」
「家族の仇を放ってはいられません」
私は施錠された扉を蹴り破り、無我夢中で走り出した。