本当の自分
奇形を題材にしたホラー風味ショートショート
幼い頃はコンプレックスだったのに、大人になるにつれ無くてはならない自分の魅力になっていった。
「よく見てくださいね」
そういって素足に履いたパンプスを脱ぎ、足の指を開いてみせる。
「すげぇ~! マジかよ! うそ~」
今まで何度も経験してきたリアクション。
素直に驚く人から、若干ひいてる人まで多種多様。
いろんな人に見て感じてもらいたい。恥ずかしいとか醜く感じることなんてない、私の魅力をおしげなく披露する。
新入社員歓迎会で、少しでも先輩社員や上司の記憶に残ろうと同期はいろいろな隠し芸を考えてきていた。
でも私はそんなことをする必要はない。
ただパンプスを脱いで、右足をみせるだけでいい。
皆が私に興味をもって忘れない。
しばらくは話の種にも困らない。
「ねぇ動かしてみせてよ」
そうリクエストされて得意気に右足に生えた六本目の指を器用に動かす。
私の億さない堂々とした態度を見て、若干引いていた人たちの顔も穏やかになる。
隠そうとするから変な目で見られるのなら、ファッションの一部のように自分にしかない魅力だと思わせてしまえば勝ちだ。
もちろんここまで覚悟を決めるにはそれなりの道筋があった。
小学生の頃はプールの時間が嫌だったし、からかわれて自分自身の足に刃をあてたこともある。
いまだに初めての店で靴を脱ぐのには勇気がいるし、人の多い温泉にはあまりいかない。
でもそれが自分にしかない特徴だと思えてからは強くなった。
『お父さんお母さん、なぜ私の右足には六本の指があるのですか?』
――で始まる高校の時に書いた作文は、小さい頃の自分の苦悩や人と異なる特徴への戸惑いを書いている。
話のメインは私が親に「なんでまだ骨の柔らかな時に切断してくれなかったの?」と問いかける部分だ。
親は私に「ある国では六本の指を持つ子を神と与えたりもするらしい。コンプレックスを武器に変えられるような強い子に育ってほしい」と答え、感動を生んでいる。
実際はというと、両親は「せめて足の指くらいならと」と意味不明な答えをしてはぐらかしたのだが。
それから私は自信を持ち、隠さず自らネタにし笑いとばすことで、誰も可哀想とも不審な目で見ないのだった。
社会にでて初めてできた彼氏も同様に理解してくれた。
彼となら今まで苦手で避けていたプールも温泉も靴の試着も堂々としていられた。
ある日彼とシャワーを浴びていると、彼がしつように首の付け根や足の付け根や脇を撫でてきた。
くすぐったいからやめてよと笑うと彼は真剣だった。
何なのかときくと、至る所に特に付け根に小さな傷があるのだという。
「昔事故か病気で大きな手術をしたことはある?」ときくが、思いあたる節がない。
確かに小さい頃は病弱で病院に寝泊まりすることが多く共働きの両親なのに幼稚園には通えず祖母が見ていてくれたというし、自分の一番古い記憶は小学一年生と遅い。
でもそれからは病気や事故はしていないはずだ。
彼はしばらくじっくり見ていたが、私がグズルとそれっきり一緒にシャワーは入らないばかりが、プールにも連れていってくれなくなった。
この歳にして新たなコンプレックスが増えてしまった。
私はまた乗り越えていくために親に疑問に思ったことをぶつけた。
「私の身体にある小さな傷はなんなの?」
「私は小学生に上がる前はなんの病気にかかっていたの?」と。
両親は最初口を告ぐんでいたが、私はたたみかけた。
「六本の指を持つ足のことも乗り越えた私だから、何だって受け入れられるよ」と。
すると黙っていた母がそっといった。
『多かったのは足の指だけじゃないの』
そっと差し出された写真には、2つの頭と2つの両腕両足をもつ奇形児が、薄気味悪く笑っていた。