7:スパイスチキンカレー
「よーしお前ら!今日はスパイスカレーを作るぞ!」
「これ使える?」
「あ?なんだそのキモい種……。とりあえず磨り潰して適当にスパイスにするか。少なくともスパツリの大群のボスなんだからいいスパイスになるだろ」
リシャルは鍋に油を入れるとそこにスパイスを入れていく。炒める事で香りが立つのだ。この匂いはクミンだな、この香りはカルダモンだなと料理中に香りで分析。固まるようにスパイスを炒めて行き種系のスパイスを一旦取り出しお次に肉を入れる。
「『大蒜鶏』のお肉貰った!」「昨日の奴より美味しいの食べたい!」
「焦るなよ……。おっ皮付いてるの良いね。こういうカレーは皮だけパリッパリに焼いてオーブンで焼いてだな……」
スパイスを炒めている鍋から一旦スパイスを取り出すと、フライパンに皮目を下にしてチキンを投入。皮から油が沢山出てくるので皮をパリッパリにする為に適宜油を鍋に入れながらカリカリになるまでひたすら焼き続ける。もちろん焦がす訳にはいかない。
「皮は取るって奴が多いんだが俺はパリパリ皮のチキンカレーが大好き!それも後乗せの奴な!」
「おぉ」
「おーい充電出来たぞって家がスパイス臭い!」
皮を焼く事約十分、一度鳥をフライパンから取り出しオーブンで中まで火を通していく。皮目パリパリ肉しっとりが一番美味しいと思っているリシャル。
「そしてこの鍋に『ブラッディレッド』と『オラオラリエ』、更に『朝日生姜』を刻んだ奴を加える!んで……砕いたスパイスも投入!」
その後は焦げないようにしつつ材料が煮えるのを待つ。そしてブレンダーを使い先ほど中に入れた具材全てをごっりごりに砕いていく。そりゃもう具材の原型が無くなる程に。
「大丈夫なの?芋とかニンジンとかいれないの?」
「ん?あぁ俺はスパイスカレー作る時はな……なるべく具材を少なくして辛さと香りを最大限引き出す!って決めてるんだ。まぁ個人的に好きなんで『ホウレインソウ』は入れるけど」
もはやペースト状になったそれに水を加えじわじわと引き延ばしていく。ちょうどいい辛さになったところでホウレインソウを切りながらそれぞれに質問していく。具材がゴロゴロ入っているカレーならともかく今回はトッピングを上に乗せる奴なので今出来る物を提示し好きな物を選ばせていく。
「ところでお前ら何乗せる?俺はチーズとホウレインソウ。後チキン!」
「僕はチキンと……カツ?とチーズで」
「ボクは甘口の奴に野菜たっぷり!」「ボクも!」
「じゃ俺はチキンだけで良いぞ。ところで……村の皆が集まって来たんだが」
「おぉっ!?しょうがねぇもっと作るか!じゃ先に食っててくれ!悪い!」
皿に米とカレールーを盛り、その上にそれぞれ好きなトッピングを載せていく。流石に忙しい様子なので先に食べて手伝ってあげようと考えた四人。
「じゃ……いただきます」
まずはカレールーから。少し啜っただけでピリッとした辛味と奥深い香り、そして後から来る野菜や肉などの旨味。今度はコメと共に食べる。
「辛い。でも美味しい」
「甘口旨いね!」「そうだね!」
「お゛っ゛すっげぇ辛いぞ!辛目って言ったの俺だけど!」
先ほどのカレーと米の甘味。口の中で二つが混ざり程よい辛味へと変化していく。サックサクの豚カツもカレーと共に合わせて食べるとこれまた旨い。肉の油の後味を爽やかな後味が消してくれる。貪種のように良いトコ取りな食べ物である。
「野菜美味しい!」「『ミドナス』とか『ルビコーン』とか色々入ってる!」
「チキンの旨味がすげぇ……。ただ焼くだけでこんな旨くなるのかチキンって」
一皿分なんかもう五分でペロリである。食い終わったので手伝いにでも行こうと思ったアズマらだが、この程度を一人で捌けないようでは料理人には成れないとリシャルが言うので見守る事にした。
アズマは普通におかわりを頼みに行った。
「五辛って奴で。トッピングは野菜とチーズで」
「お?相当辛いから気を付けろよ?」
「ん」
まさかの二杯目突入。今度は野菜とチーズをのせたカレーである。五辛は現在作っている中で一番辛い物。ルーだけ一旦舐めてみると旨味と同時に脳を貫くような辛さが襲い掛かる。最大の辛さと言うだけある。
「……ッ!ッ!」
チビチビと水を飲みだすアズマだが、ここでリシャルからラッシーと言う甘い飲み物を渡される。村の全員にカレーを配り終えたのかリシャルが最後の一杯を持って来て隣に座り出す。
「調理終わり!ほらよ甘い飲み物だ多少マシになるはずだ」
「ん……。美味しい」
「個人的に俺は一番辛いのが好きだけどな?無理そうなら上からチーズ追加でかけるのもアリだが」
「……全部食べる」
「残すなよ?」
「残さない」
野菜とチーズがあってなお、食べれば食べる程汗がダラダラ垂れ流し状態になり吐く息が辛くなって行く。だがそれでもスプーンを動かす手は止まらない。辛くて辛いが旨いのだ。
「大丈夫か?」
「……」(プルプル)
「牛乳持って来るわ」
が、残すところあと十口程度と言うところで遂に辛さの限界が来た様子である。完全にスプーンを握る手が止まり、いつものジト目無表情は変わらないが若干目が死んでいる。
「お前辛いの駄目っぽいな……」
「ん……」(プルプル)
やや涙目になっているアズマを横にリシャルは、五辛のルーに皮つきパリパリチキンを載せた物を牛乳を煽りながらガツガツと食べていく。カレーは飲み物とは良く言った物だが本当に飲み物みたいに食べている。
「やっぱカレーは辛いのが好きだな俺は!ま、その辺は完全に好みだからどうこう言う気はないが……。大丈夫か?」
「後……一口……」
リシャルより前に食べ始めたアズマだが今だ完食出来ていない。激辛食べてるとよくある事である。それはそうと何とか完食。その後氷を舌に乗せながら辛味を逃がそうとしていた。
「……」(ゲッソリ)
「あぁすげぇゲッソリしてら……。大丈夫か?ホントに」
何とか完食したアズマの姿はさながらビビってる時の梟のようだ。滅茶苦茶ゲッソリしている感じである。
「充電はし終えたぞ─って大丈夫なのか?なんか凄い疲れているようだが……」
「ん?あぁ多分大丈夫だろ」
まぁ色々あったが武器の充電も完了し無事村を出てマーロへ向かう準備は出来た。だがその前に渡したい物があると筒状の物を三つリョクバは手渡してくる。
「コレは充電器だ。正直それを二人のどっちかが充電する事は無理臭いんで、誰でも魔法さえ使えれば充電できるようにしてみたんだ」
「……魔法って何?」
「まぁ一応俺も使えるから大丈夫だ。─貰っていいのか?」
「君たちが来なかったら僕らの村は壊滅だったからね……。そんな感じさ!貰ってくれ!」
そんな訳で村の英知を結集した魔法充電器を手に入れ、荷物をまとめたところで二人はマーロへと歩みを始める。既にマーロ近くの道では料理大会に向けて何人もの料理人がやって来ている様子であった。
「いるなぁ……。人」
「ところでマーロの料理大会ってどういうのなの?」
「まぁ俺も詳しい訳じゃねぇよ?親父に出るの禁止されてたし……。毎年変わるからぶっちゃけ分からん。ま、多分大丈夫だろ!」
ワハハと高笑いするリョクバ。その後適当に宿に泊まり大会に参加する手はずを整える。まぁ何とかなるやろとか思っていたらほぼ最後に来た事が判明し冷や汗を流す。
「では明日の午後にお越しください」
「あっぶねぇギリギリじゃん……」
「もう少し遅かったらダメ?」
「だな……。まぁなんにせよ出るからよ大会!見に来てくれよな」
「ん」
そして大会に使う調理器具を一つ一つ丁寧に整備したところで翌朝。大会本日と言う訳でマーロの中心にあるコロッセオには沢山の客が集まっていた。アズマもその一人。
「料理大会って何やるんだろ」
楽しみでウキウキしているアズマをよそに、大会が始まったのであった。
ホウレインソウ:捕獲ランクE-の野菜。雨が降っている時のみ成長すると言う面倒くさい葉っぱ。でも滅茶苦茶甘い。
大蒜鶏:ニンニクの味がする鶏……ではなく、鳥みたいなニンニク。捕獲ランクE。
ブラッディレッド:トウガラシ。バカ辛いので普通に使う時は種を取るのが一般的。捕獲ランクD-
オラオラリエ:タマネギ。葉っぱの部分が何故かヤンキーみたいな形をしている。捕獲ランクE-
朝日生姜:日の出までにしか収穫できない結構レアな生姜。朝日を吸って育ったからか爽やかな味がする。ジンジャーエールが旨い。捕獲ランクC。
ミドナス:ナス。めっちゃ黒いナス。捕獲ランクE-
ルビコーン:赤い実のコーン。コレの赤さを競う大会があり、そこで優勝する事はとても名誉な事らしい。捕獲ランクE-~C+