3:シャバリェのハンバーグ~ミートドラゴンのビーフシチューを添えて~
シャバリェが落ちたと言う報告を聞き、一目散に街の男達はそこへ向け走り出す。そこにいたのは首を切られたシャバリェとその他大量のミートドラゴン、そしてその肉を切って一人もしゃもしゃと食べているアズマであった。
「ん。狩ったよ」
「ま、マジかよ……!」
そう言ってアズマはリシャルにシャバリェの頭部を投げ渡す。別にいらないのだがこのドラゴンには散々苦しめられてきたので腹いせに剥製にして見世物にすると街の奴らが言い出したのでそいつらに引き渡した。とりあえずミートドラゴンなどの解体も終わっていないのでこの場は街の皆に任せ二人は店に帰る。
「─そ、それでホントに大丈夫なんだな?!」
「大丈夫。そんなに強くなかった」
「それはそれでちょっと思う所あるなぁ……」
そんな事を言いつつも、解体したシャバリェの肉の味を聞くリシャル。
「で、味は?」
「ちょっと肉感が強い。焼いて食べるだけだと臭いがキツイ。ミートドラゴンも同じ感じだけどこっちは筋が多いし臭いも更にキツイよ」
「成程ね。じゃあ……こいつを料理するか!」
一人料理モードに入ったリシャル。クラヌが出て来たので止めるのかと一瞬思ったがこちらもまた料理しようと調理器具を持って来ていた様子。これなら大丈夫だな!とアズマは一人フラフラと飯が出来上がるまで散歩を始めた。
「こいつがシャバリェ……。何とも奇妙な運命じゃな」
「散々人を苦しめたこいつが、人に食われて死ぬ─か」
両手を合わせ、何とも言えぬ黙祷を捧げるシェフ一同。礼を終えたら早速調理開始である。
「ミートドラゴンはアク抜きと臭い消しの過程で煮るからビーフシチューにする!良いよな親父!」
「クラヌと呼べクラヌと。とは言え実際こいつはビーフシチューがとても美味しい奴じゃ。下ごしらえはお主らに任せる。ワシらは……。シャバリェでハンバーグを作る!」
ワイワイとシチュー調理組が楽しくやっている中、二人は早速ハンバーグを作り出す。まずは肉をミンチにするのだが……。
「ん!?なんだこの……。なんだ?!」
「成程焼肉などに向かぬわけじゃな」
ビックリする程脂身が少ない肉。ビーフ百%ならぬドラゴン百%肉で作るのが無理と言うのも当たり前である。困惑しながらもミンチにし終えたのでお次は様々な香草を混ぜ込んでいく。更にここにオーブンで焼いたシャバリエの骨髄を入れ油を追加する。
「初めてハンバーグを作ったのは『ハルバ・グン』と言う将軍じゃよ」
「確かアレだろ親父?クッソ硬くて臭くて赤身しかない牛『カッド』を旨く食う為に作られたのがコレだろ?」
「そうじゃよ。臭いのであれば香草で臭いを消せばいい。赤身しか無いのであれば細かく切って他の具材と油を混ぜればいい、そして硬いのであれば小さくして触感に変えてしまえばいい。先人の知恵と言う奴じゃな」
香草卵牛乳パン粉、それと『ギネボール』のみじん切りを混ぜ、若干粘り気が出るまでよく混ぜる。この際手を冷やしながらやると油が出にくいぞ。そして粘り気が出たところでタネを手のひらサイズ分に取り分けて空気を抜いていく。しばらく作っていると隣から凄まじい臭いが漂ってくる。
「コレ全部ミートドラゴン……?」
「やはり臭いは相当じゃの。一応臭み消しにこの肉ダネにも入れている『ハラーブ』とギネボールは入っておるんじゃが……」
圧倒的な臭みとアク。煮ても煮ても凄まじい量のアクが出てくる。とは言えようやく落ち着いてきたころなのか、皆汗を拭き他の具材の調理を始めているところであった。しばらくして肉ダネを全て丸め終えたところで、一番重要な焼きの作業に入って行く。
「では……オーブンは?」
「既に余熱済みです!」
「よろしい!では皆!焼くぞ!」
ここは手早くする為に手を余しているシェフ全員を呼び出す。熱したフライパンに『マダラオリーブ』のオイルを入れ、そこに肉ダネを入れていく。肉の焼ける音と匂いが辺りに漂い出し食欲を誘う。そして表面をカリッカリに焼き上がたところで素早くフライパンから引き出し天板に並べていく。
「今回はしっかり目に焼くからな!ニ十分以上は頼む!」
それをオーブンで焼くのだ。こうする事で仲間でしっかり火を通しつつ、肉汁があふれ出ないように焼ける。今回は街の皆に振舞う為かなり急いでいるがここをしっかりしないと食中毒などを引き起こす為に慎重である。
「出来たか?一つ割ってみろ」
「うおぉっすっげぇ肉汁!ちゃんと中まで焼けてます料理長!」
「よし!ビーフシチュー……この場合ドラゴンシチューって言うのか?」
「面倒じゃ、ビーフシチューで構わんじゃろ」
ビーフシチューはと言うと、トロトロになるまで煮込んだ肉とゴロゴロ入っている野菜類。やや赤黒く煮込まれたそれを味見したクラヌは悪くないと頷き指示を飛ばす。
「これなら問題ないのぉ。では皿を用意しろ!」
そしてそろそろ出来上がると言った所でアズマがフラフラと帰って来た。料理が出来上がったのを匂いで感じ取ったのだろう。食器を並べる手伝いをしつつも誰よりも早く椅子に座る。そして街の皆がやって来たところで、それぞれの前に料理を並べていく。
「出来たぞ!皆今日は……存分に食べて行ってくれ!」
そうクラヌが言うと出てきた料理に歓声が上がる。皿の上にはシャバリェのハンバーグと添えられたたっぷりのビーフシチュー。テーブルにはちらほらとパンの入ったバゲットが。いただきますと両手を合わせた後、アズマは早速マイ箸でハンバーグを割ってみる。
「─うおぉ……!」
割った瞬間に溢れる肉汁の圧倒的な匂いが鼻に襲い掛かる。どんなに食欲の無い人間でも嗅げば一発でヨダレが出るような、圧倒的な存在感。コレを食らって耐えられる奴はいないだろう。まずはハンバーグだけの味を試す。
「ん!肉!」
口に広がる肉。肉。肉肉肉肉肉肉肉肉!!!
「うおっヤベェ!肉食ってる感がすげぇ!」「食いごたえあるな!」「その上後味が妙に爽やか……!」
臭みも硬さも露と消え、残ったのは旨味と圧倒的な肉感。噛めば噛むほど肉の味が口いっぱいに広がり、飲み込んでもしばらく消えない程の圧倒的肉。これ単体でもとんでもなく旨いだろう。
「パン?も美味しいね」「それそう食べないよ……」
縦に長い『ポリナパン』を一気食いしながら、お次にビーフシチューを口にする。スプーンの使い方は教わったのでもう使える。
「ん!コレは中々」
シチューの中に溶け込んだ肉の旨味、野菜の甘味。それらを引き立てるブイヨンなどの濃厚な旨味と香り。パンに付けて食べるとこれまた美味しい。であれば……。
「コレをかけて……食べる!」
当然。それをソース代わりにして食べればとてつもなく旨い。ビーフシチューがハンバーグを、ハンバーグがビーフシチューを引き立てる。肉汁を吸ったビーフシチューはパンによく合い、二つを乗っけて食べるとなお美味しい。コレをシミッシミに浸したしたパンなどもはや主食。
「野菜も美味しいね」
添えられた『ソメヨシノ』のフライドポテトや、『天人参』のグラッセなども合間合間に食べると非常に美味しい。またコンソメスープとパンはお代わり自由なので貪れるだけ貪ろうとしている様子のアズマ。
皆が食べ終え満足感に浸っていると、デザートが目の前に置かれて行く。
「デザートは『ラズスベリー』のシャーベットです」
全人類デザートは別腹。どれだけ腹がいっぱいでもデザートだけは入ってしまう。甘さ控えめのシャーベットを皆満足げに食べ終え、席を立って皆家に帰って行く。残されたのはアズマただ一人。まだパンをかじっていた。
「お前まだ食うのか……ま、良いや。俺も食うから混ぜろよ」
「─肉は?」
「あるぞ?」
散々食べたのにまだまだ要求するアズマ。そんな彼を見ながら笑顔で対応するリシャル。
「……そろそろ奴も修行の旅に出すべきか……」
他のシェフたちも集まって二次会が始まってしまった所で、クラヌは一人誰にも聞こえない程の小さな声で、そう言うとシェフ達の元へと歩いていくのであった。
『ソメヨシノ』:こっちで言うジャガイモに相当する芋の種類。甘みが強く茹でればホクホクと良い触感になるのが特徴。フライドポテトにするととても美味しい。ランクはE+。
『天人参』:ニンジン。ただし生えている場所が三十メートル越えの場所にある為、やや手に入れにくいがとても甘く生で齧っても旨いとされている。ランクはD-。
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