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15:鰻と爺やとティア

 

「……そうですか。お嬢様は私の事を探して……」


「ん。……ところで、本人なの?」


「はい。……今はメラッキを名乗っていますが……。名前を知られているのでは構いません、カーラとお呼びください」


 名前を呼ばれた事で落ち着いたのか、アズマからティアの昔食べた料理を再現してほしいと言う依頼を受けていると言う事、そしてモードイールと言うウナギの駆除依頼を受けていると言う事を説明する。するとカーラは深く頷いた後なぜこんなところにいるのか説明を始める。


「……私は、今から五年ほど前死んだ。……死んだはずだった」


「……なんで?」


「─国王様を殺さんとする者共に連れ去られ……気が付けば私は四肢を失っていた」


「……」


 かつては国王軍所属第一騎士長『カーラ・マヴェーラ』として国で働いていた彼だが、引退しティアの爺やとして働いていた。だが今から五年前に王を護衛していた時に賊に襲われ一度四肢を切り落とされてしまったと言う。アズマはくっ付いてるじゃんと言おうとしたが肌から見える機械の腕を見て口を噤む。


「勿論死んだと思った。……だが私は奇跡的に生きていた。ヒノモトの『鳩羽(はとば)』なる変人に救われて……な」


「─それで四肢を機械に?」


「あぁ。……だが一度護衛任務を失敗した私が。なおかつこの腕と足になった私が……再び王の元へ向かう事など、出来なかった」


「……で、今は?」


「お嬢様に昔食べさせて美味しいと喜んでいただいた……『白銀鰻(はくぎんうなぎ)』の養殖は出来ないかと色々試していたのだ」


「─白銀鰻!最高級品!」


「お主知っているのか?……まぁとにかくどうにか量産できないかと試行錯誤し……去年、遂に完全養殖に成功した!」


 幸いにも彼には時間はたっぷりあった。ありすぎて困る程にあった。それならばと昔一度だけティアに食べさせ喜ばれたあの食材をどうにか養殖できないかと考えたのだ。そしてこの洞窟の水が白銀鰻が繫殖活動を行うのに最適だと気付き、ついこの間養殖を可能にしたのだ。


「とは言え、これだけの数がいるとは言え知られれば乱獲されすぐにでも絶滅しかねない……。故に私はここを守っていたと言う訳なのだ」


「……。それでナイフを」


「本当にすまなかった……!」


「いいよ。気にしてない」


 そう言って帰ろうとするアズマだが、そんな彼を呼び止めるとそれとな……と続ける。


「─お嬢様には私が生きていると言う事は内緒にして欲しい。」


「……なんで?」


「もし仮にお嬢様が生きている事が分かれば、お嬢様は私に会いに来てしまうだろう。……そうなれば、私はもう一度お嬢様の爺やになりたいと思ってしまうからだ」


「んー……。まぁ分かったけど」


 それはそうと、お嬢様の好物って何?と話を切り出すアズマ。するとカーラは洞窟の奥から壺を取り出してきた。年季の入った壺である。もちろん入っているのは年季だけではないが。


「─あ、タレ?」


「やはり知っているな?まぁそう言う訳だ。コレを持って帰り、アレを作ってやってくれ」


「……じゃあコレ採って行っていい?」


「まぁ……一匹だけだぞ?」


 そう言われるとアズマは湖に潜り白銀鰻を手にして上がって来る。ついでに湖の水も拝借しそれに入れて持って帰る事にした。


「久しぶりに出会った人間がキミのような人間で……良かった」


「ん。僕もあなたが良い人で良かった」


「それでは……。お嬢様をよろしく頼む」


 そしてアズマは一人リシャルの元へと帰って行く。後に残されたカーラは一人鰻たちにエサを与えていた。


「そうか。お嬢様が母を亡くし……。もう十年も経ってしまうのか」


 ◇


 それは十年も前の話。その頃この国では『ヘズド』と言うとんでもない疫病が流行っていた。その疫病は数々の住民を苦しめるだけでは飽き足らず、なんと国王の妻である『ノフィー』にまで手を出した。そして数々の治療も虚しく……。彼女は41歳と言う若さでこの世を去ってしまった。


『どうしておかあさまはおきないのですわ?』


『ティア、聞いてくれ。ノフィーは……』


『おきてくださいましおかあさま。おかあさま……』


 まだティアは五歳である。実の母親が死んだと言う事実に耐えられなかったのだろう。その日から食は減り部屋から出てこなくなってしまった。国王も大変悩み、爺やをしていたカーラは何とか食べてもらおうと毎日必死だった。


『食事を置いておきますお嬢様』


『─いらない』


『……お嬢様……』


『─いらない!』


 一応食事に手を付けない訳ではない。だが必要最低限の食事しかとらないのだ。一日一食だけ。このままではだめだと、カーラは国中を駆けずり回り何かいい食材は無いかと必死になって探した。そこで一つある物を発見する。それが……白銀鰻であった。そしてそれで鰻丼を作ると、ティアが閉じこもっている部屋に入った。


『……お嬢様。私は……』


『こないで』


『……置いておきます。気が向いたら……』


 テーブルの上に丼を置き、そのままカーラは部屋から出た。ティアは始めこそふさぎ込み見向きもしなかったが、その内腹が減ったのかどんぶりに近寄って行く。


『……いいにおいですわ』


 炭火で焼かれ、甘いタレがしみ込んだ鰻丼。米はタレを啜れるだけ啜り旨くなり、鰻は絶妙な火加減で焼かれフワッフワのテッカテカであった。匂いを嗅ぐだけでも思わずつばを飲み込み置かれていた箸を手にすると恐る恐る口に運んで行く。


『……おいしい、ですわ……!』


 それは久しぶりに味わった食事。ショックで味覚を失いかけていた彼女に対し、特効薬とでも呼ぶべき食事。そこからはもう早かった。凄まじい勢いで鰻丼を平らげると、恐る恐ると言った様子で部屋の外へ出ようとする。


『爺や……』


『何ですかな?お嬢様』


『……もっと。おいしいものが……たべたいですわ!』


「……もう一度食べさせたい物だ。私の手で……」


 だがこの手足ではどうにも……と思っていると洞窟に侵入者が入って来た事を知らせる音が鳴り響く。急いで入り口に向かうとそこにはあのモードイールを撃滅していた男の姿が。とりあえず警戒がてら先制を取る為に背後に回りナイフを出す。


「動くなよ。死にたくなければ……」


「そいつは出来ない相談ナリねぇ……。何故なら今から貴殿は某に飼い殺しにされるのですから」


 コイツはヤバいと、首に突き刺そうとしたナイフはペキンと軽い音を立てて割れ、そしてカーラの腹部に周囲を舞っている巨大な手の機械が突き刺さる。壁までぶっ飛ばしたと言うのになお止まらない。軽く機械四肢を破壊し床に体を叩きつける。


「ぐぎ、き、貴様……!」


「おっとぉ~!少し待って欲しいナリよ。某は貴殿を殺すつもりは無いナリ」


「どの口が……!」


「何故なら欲しいのは……」


 そう言うと後ろを振り向き白銀鰻の方に歩いていく男。そして一匹の鰻を掴むとその場で質をチェックしていく。


「ふぅむ……。なんと高品質な鰻ナリでしょう。軽く天然物を超えていますナリねぇ……。大きさもさることながら太さも艶も、色も凄い!これならばヒノモトで大儲け出来る……あっ、ナリねぇ!」


「や、止めろ……。それはお嬢様の為に……!」


「?心配しないでいいナリよ貴殿。先ほども言った通り殺す気はないナリ。ただ……一生某らの為にこの鰻を養殖し続けて欲しいだけナリ」


「手足を奪っておいてよく言うな……!」


「だって……元から無いナリでしょ?その手足。じゃ別に某が引きちぎったからと言って……」


 床でのたうち回る事しか出来ないカーラに対し、腹を踏みつけ顔を最大限近付ける男。


「罪悪感なんかねぇよ」


「外道が……!」


「さてと……んじゃここの鰻は養殖分だけ残して全部売っぱらっちまうナリねぇ!あ、それともお嬢様とやらに高値で売りつけるのも……」


 そう言って白銀鰻の方へと再び歩みを進める男。


「いてっ。……あ?」


「わふぁふ(わたす)……。もふぉふぁ(ものか)……!」


 その足にカーラは噛みついた。それが気に入らなかったのか、男はカーラの事を思いきり蹴り上げると機械の手で持ち上げ握りつぶそうとする。


「は?お前殺すぞ?」


「やかましい……!貴様の様な外道に……!くれてやる知識など無いわ……!」


「あームカつく……!まぁぶっ殺しても脳みそだけ再現すりゃいいから殺していいかぁ!」


 そう言って男がカーラを握りつぶそうとした瞬間。


「やめろ」


 そこにはアズマが抜刀した状態で立っていた。


 手は切り裂かれカーラが落ちてくる。それを受けとめると普段見せない憤怒の表情で男の方を見るアズマ。流石の男も少しビビったのか、若干引き気味で名前を聞く。


「な、何ナリねぇいきなり……。何者ナリか?」


「僕はアズマ。……アズマだ」


「アズマ……、了解なりよ。某は『四乃五之(しのごの)否言(イワズ)』……。じゃぶっ殺してやるk」


 否言が何か言おうとする前に、アズマはその体を思いきり蹴飛ばし洞窟の外へと投げ飛ばす。更に追撃で首を落とすが……。


「あーらら、これだから最近の若者は過激でいけないナリよ!」


「首落として死なない……?」


 それを意に介さず、否言は十機ある手をアズマへ向けて飛ばすのであった。


白銀鰻:超特殊食材の一つ。限られた場所と水質でしか育たず繫殖しないと言う結構えげつない食材。一応ヒノモトにも昔はいたが、今は乱獲により絶滅危惧種とされている。捕獲ランクE-。

ヘズド:ペストみたいな名前だがタチの悪さはペスト以上。何故か体力の無い者にばかり感染しトドメと言わんばかりに悪辣な症状を引き起こすと言う極めてタチの悪い病。別名『弱者殺し』。

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