第1話 荒野をゆく
荒野を一台のエアロバイクが走る。
後方に小さな荷台を引き、サイドカーをつけたエアロバイク。
運転するのは、銀髪のポニーテールをたなびかせ、ゴーグルで目を砂塵から守る女性。
そしてサイドカーには、幼い男の子が乗っていた。
「生体反応?」
女性はエアロバイクに備え付けられた、メーター類のひとつに目を落とす。
まだ目視出来ない距離からの、生体反応。
これは強すぎる生体反応を意味している。
それは、凶暴な野獣の類いが想定される。
「ち、回避するか。ちと遠回りになるけど。」
「だめ。」
女性が進路を逸らそうとするのを、少年がとめる。
「女の子が追われてる。」
「何?」
少年の言葉に女性は、生体レーダーの範囲を縮小させながら、進路を変えずに直進する。
一旦レーダーの範囲外に出た生体反応だが、次にレーダーに現れた時、生体反応はふたつになっていた。
広範囲設定だと、近づけば別だが、遠距離だと強めの生体にしか反応しない。
強めの野獣を避ける目的なら、近距離設定などにはしない。
「やれやれ、また面倒ごとを。」
女性はニヤりと呟きながら、エアロバイクの速度をあげる。
少年は、女の子を助けろと言っている。
女性は、出来ればかかわりたくないのだが、少年の意はくみたい。
そして女性には、その強めの野獣とやらに、うち勝つ術があった。
「サンドワームか。」
程なくして、強めの野獣と女の子とが目視できるようになった。
荒野に散積された岩々の上に、怯えた少女がしゃがみ込む。
その岩の周りの地を、巨大なミミズが泳ぐ。
岩を砕く事は出来ないが、周りの大地を掘り返せば、岩の上の獲物が落ちてくる事に気づいたのか、巨大なミミズは、動きを早める。
「ミリア、お願い。」
少年は女性に声をかける。
「分かったよ、アル。」
ミリアと呼ばれた女性は、少年に答えて、エアロバイクを止める。
宙に浮いていたエアロバイクが、大地に着地する。
荒野の地に降りた新たな獲物に気づいた巨大なミミズは、標的を変える。
「食材の備蓄は、間に合ってるんだけどな。」
ミリアはエアロバイクを降りると、巨大なミミズに向かって歩きだす。
ミリアの右手には、40センチくらいのクダ状の武器が握られている。
「はあ!」
ブオン。
ミリアが気合いを込めると、クダの先から1メートルほどの刀身が伸びる。
ミリアは歩みを早め、走りだす。
巨大なミミズは地面から飛び出して、宙からミリアに突っ込んでくる。
ミリアは剣を振るう。
巨大なミミズは、真っ二つに切り裂かれる。
ミリアの持つ剣は刀身を収め、元のクダ状の形態に戻る。
「おーい、怪我はないかー?」
ミリアは岩の上の女の子に声をかける。
女の子は震えたまま、答えられない。
「ち、助けてやったのに、なんだよ。」
ミリアは顔をそむけて、舌打ち。
「君、大丈夫?」
岩をよじ登り、今度はアルが声をかける。
「うわーん。」
女の子は泣きだした。
「ありがと、」
アルがしばらく頭をなでてると、女の子は泣きやんで、小さくお礼を言った。
「おーい、そろそろ行くぞ。」
岩のふもとにエアロバイクを横付けして、ミリアが呼びかける。
女の子はビクッと反応して、顔をふせる。
そんな女の子に、アルは視線を向ける。
「おい、早くしろよ。」
ミリアの声に、女の子は震えだす。
ミリアには分かっていた。
なぜこの女の子がひとりで、ここに居たのかを。
そんな事に首を突っ込みたくなかった。
女の子は分かってる。
ここに置き去りにされる事は、再び強力な野獣に襲われる事を意味すると。
アルは無言のまま、ミリアを見つめる。
この女の子を助けたい。
その意思はミリアにも伝わる。
「おいおまえ。どっから来た。送ってやる。」
ミリアの言葉に、女の子はゆっくりと、ある方角を指差した。
「そっちか。」
ミリアはレーダーを何度か切り替える。
その方角に、十数名の人間の物らしき生体反応を確認する。
「じゃあ行こっか。」
アルは女の子に手をのばす。
「うん。」
女の子は涙を抑えて、アルの手をつかんだ。
ども(・ω・)ノ
実はこの作品、みらせかの後日談になります。
ミリアは、サポートAIのミサ。
アルは、アルファの21代目クローン。
みらせかを終わらせた後、その後の妄想がわいてきて、こんなストーリーが出来上がりました。
登場人物はみらせかを踏襲してますが、みらせかを知らなくても、一応読める作品にはなってます。多分。
みらせかを知ってる方が、楽しめるとは思いますが。
この作品は、短期連載を目指します。
13話くらいが目安です。