逃げるが勝ち
ユースがペルに大量のマールが入った箱を背負わせようとしていたところ、口が裂けた男が現れた。
「ペル、美味しそうと言われてるぞ」
『捕食者がふえた?!』
「全く、魔王様には感謝ですね。こんな美味しそうな獲物が二匹もいるなんて。しかも、わざわざ食べられに来てくださるなんて」
口裂け男が大袈裟な手振りで、まるで神を崇める狂信者のように二人を見ながら愉悦そうに笑っていた。
「………人も食べるのかぁ」
『………私は変わってませんけどね』
スンッ、とした顔をした二人は顔を近付けて密会を開いた。
「ペルが囮でいいか」
『良くないです!ご主人様が話をして相手の気が逸れた時に、私が逃げれば完璧です!!』
「俺が死ぬわ!お前の毛が抜けるように祟るぞ?」
『やっぱり、二人が生き残る方を選びましょう』
「取り敢えず、俺の強化の魔法でペルを強化して空に逃げればなんとかなるだろう」
『そうですね、流石に空を飛ばないでしょうし』
「『よし』」
実は魔族は空が飛べることを知らない二人は、失敗する作戦を立てて密会は終了した。
「おや?食べられる順番は決まりましたか」
「…………」
「全く、反応くらいしてくださって………おや?」
口裂け男がユース達から目を一瞬逸らした瞬間に、目の前には誰もいなかった。
「……ははは!!!全く!これだから獲物を狩るのは昂るんですよね!」
男は隠していた翼を広げて、獲物を追跡し始めた。
『いやいや〜、相手が間抜けで助かりましたね。今頃アイツ間抜けズラしてるんでしょうね!』
「いや、お前、そんな事言ったらーー」
「おやおやおや、ここに居たのですか?」
『…………』
ユースは無言で持っていた剣を抜き、ペルの顔の前に差し出した。
「よかっな。間抜けズラ見れてw」
『自分の顔見たかった訳じゃないです!!!』
敵の前で呑気な二人であった。
「随分楽しそうですね。では、こちらも楽しませて貰いましょうか」
口裂け男はそう言って消えた。
『しゃう?!』
「……へぇ〜、私の感じた勘は間違ってはいませんでしたね」
そう言って、先程の攻撃を防いだユースの方を見た。
『さっき!まるで足を食べられかけた気がします!!」
「そりゃ、食べられかけたからな」
『なんですと!!ご主人様の方が美味しいですよ!』
「やかましい」
『いた?!』
(一目散に逃げたので勘が外れたと感じましたが、大当たりでしたな。この鳥は大した事はないですが、この男化け物ですね)
ユースは先程の攻撃を全く見ずに防いだ。口裂け男、ヴァローガの攻撃は鋼鉄の塊であろうとも抵抗なく抉り抜く程の力を持つ。
彼は紳士の様な振る舞いを普段からしており、動物、魔物、例え人や魔族であろうとも、一瞬で喰い殺す姿から「暴食の紳士」という異名を持つ。
「……ふふふ」
『ご主人様ヤバいです!変な人が更に変になってます!』
「確かに、ペルの美味しさに気付いたのか?!」
『もしかして食べられた?!さっき食べられたんですか?!』
「失敬、久々の敵を見つけたものでついつい懐かしい戦士の血が騒いだもので」
「『あっ』」
「これからは本気を出すのでご容赦を」
『ご主人様が変なスイッチを押した!!』
ユースが戦狂者を目覚めさせてしまい、一時間にも及ぶ追いかけっこを始める事になった。
ただし、ペルが主に被害を受けたが。




