最後の伝承
「ゲホゲホ!……ったく、いきなり攻撃するとはなんて弟子じゃ」
爆発の煙幕が晴れると見事なアフロの師匠がいた。
「いやいや、照れますね。そうそう、師匠こそ立派なアフロですね」
「ん?………なんじゃと?!やってくれたな!」
「ははは!!ざまぁ!」
「何ヤツ!くらえ!連続『土石流』!!!」
「うぉお?!?!?!」
その後しばらく、二人の報復合戦が続き二人とも立派なアフロになっていた。
「はぁはぁはぁ……」
「イタタタ……」
二人は最初の立ち位置で向かい合っていた。
「……ふむ、そろそろ潮時かのぉ」
そうネルが呟くと、ネルは剣を鞘に戻した。
「ん?師匠こころ移りしたのか?」
男が不思議そうに尋ねると、ネルは静かに首を横に振り、
「いや、死ぬ前に、お主へ奥義を教えようと思っての。弟子よ、ついて来い」
そう言うと、ネルは男を連れて歩き出した。
森の奥にある崖の断面の前にネルは止まった。
「ふむ、こので良いか。弟子よ、よく見ておけ。これが万水流の奥義『縁切り』じゃ」
そう言うと、スキルを解除したネルは、静かに剣を構えた。
その姿はあまりにも神々しく、男は無意識の内に息を飲んでいた。
ネルは息を吐き目を瞑ると、意識に深く潜り、『流眼』と深く繋がった。
彼が目を開けた時、青色の瞳が金色の瞳になっていた。
「『縁切り』」
男はその技が何を起こしたか見ていた。しかし、理解が出来なかった。
それは崖の断面を切っただけだ。けれども、それこそがようわからなかった。
男は『流眼』により、いろんな流れを見る事ができる。剣で木を切ったとしても、そこには流れが残る。それは常識だ。
いくら優れた剣士であっても、剣圧をなくす事はできない。それは物理法則がある限り覆す事ができない。
だが、見えなかったのだ。
師が崖の断面を切った時に見える筈の流れが。
風の流れ、時間の流れ、運命の流れ、全ての流れがなかったのだ。
目の前で起きたありえざる奇跡を目撃した男は、「これからこの技を受け継ぐ」という事実を思い出した時、不思議な高揚が身を穏やかに、けれども熱く駆け巡った。
「この奥義は、文字通り『縁』を切る。物理的な流れ、精神的な流れ、時間の流れ、そして運命の流れさえ『切る』。これは神にさえ届く奥義だ」
ネルはこの技を使い、神殺しを成し遂げた。
この技はまさしく、『奥義』なのだ。
「これがわしの最後の課題だ。わしはもう教える事は出来ないからのぉ」
そう言われて男がネルを見ると、
『切れていた』
ネルの命が。
「……まだ、教わり足りないですよ」
男がポツリと言葉を漏らした。
「そうかもしれん」
ネルは弟子を見ずに答えた。
「「…………」」
二人は過去を振り返った。
何万年も生きたときよりも、長く感じた100年。
転生してから共に過ごし、確実に強くなった100年。
それぞれが思い出を駆け戻っているなか、終わりの時が訪れた。
「……そろそろ、終わり、かのぉ?」
死に際だというのに、平気な顔をするネルは今から晩酌をするかのように楽しそうに笑った。
「……そうだなぁ、終わりとも言えるし、始まりかもしれない」
男は静かに、けれどもどこか楽しそうに言った。
「そうそう、お主にはまだ『名』はなかったよな」
「それは神様や師匠との酒盛りで忘れてだからでしょ?」
そう、男に名前を付けるはずの神はすっかりそのことを忘れていたのだ。
「元々考えていた名前があるのだ」
「それはどんな?」
ネルは息子を見るように弟子を見た。
「お主の名は『ユース・ピナ』、次からそう名乗れ」
「意味はあるのか?」
ネルは何か思慮にふける真似をしたが、すぐに辞めて言った。
「意味……か、それはいずれ分かる」
悪戯をしたかのようにネルは笑ったあとーー
ーー息を引き取ったーーー
「全く困った師匠だ。名前の由来さえ教えずに去るなんてなぁ」
男、いや、ピナ・ユースはその後、ネルの墓を作ったあと、日を跨いで100年間過ごした家を出た。
彼が旅に出る時、一度も後ろを振り向かなかった。




