研磨の行先
「覚悟はいいか?弟子よ」
「いいぜ師匠」
一週間後、二人は切り開いた森の中に向かい合っていた。
周りには森の動物や、魔物が今から始まる戦いを察知し小鳥以外は逃げ出していた。
「この酒瓶が地面についたら始めよう」
そう言って、昨晩飲みあった酒瓶を持ち上げた。
「この戦いはお主に教える最後の指導じゃ。これから旅立つお主に最高の餞別をくれてやろう」
ネルはそう言って悪戯をしようとする子供のように笑った。
「それはそれは、弟子として最大限頂きますよ?師匠」
男も釣られるように笑いながら言った。
暫く笑い合った二人は、ネルが酒瓶を上に投げると周りの空気が変貌した。
風が嵐のような暴風が吹き荒れ、空気は鉛の如く周囲を重厚にした。
逃げていなかった小鳥たちはその殺気が迸る雰囲気に当てられ、気絶するものや、中にはショック死をしたものもいた。
酒瓶が落ちるまで五秒もなかったが、二人は極限状態へとなっていた。
そんな空気の中、酒瓶の割れる甲高い開幕のホイッスルが鳴った。
次の瞬間五メートル離れていた距離を二人が一秒も過ぎずにぶつかり合った。
その衝撃は凄まじく、爆風が周囲の木々を薙ぎ倒し、街が一つ入る範囲が切り拓かれた。
しかし、二人が習得した万水流は全ての動きが繋がる。
その剣戟は荒れた大海原で波がぶつかり合うに激しい。
けれども、その中には長い年月をかけて研ぎ澄まされてきた『技』が詰め込まれており、映画の超大作を生み出していた。
「師匠!もう少し手加減してもいいぞ!!」
「なに、もう少し強くしても良いんだぞ?」
「くそ師匠!!さっさとくたばれ!!!」
けれども、その二人が言い放ち合う言葉のせいで台無しになっていたが。
万水流とは流れを操る。それは剣の流れであり、戦闘の流れ、相手の流れを支配することが真骨頂である。
しかし、ある境地に辿り着くとそれが通過点だと知る。
この世界には進化と呼ばれる現象がある。地球で言えば何万年も掛けてするものを、この世界では何十年ですることが出来る。
それは『魔力』と呼ばれるエネルギーが存在するからに他ならない。
進化に必要なエネルギーが豊富に溢れるため、頻繁に進化が起きている。
ネルは勿論この現象を知っていた。だからこそ万水流は完成したのだ。
彼は長い年月の中で進化の方向を操作出来ることに気付いた。環境により進化することが多い魔物を見て、可能だと確信したからだ。
彼は更に長い月日を掛けて求める力を得ようと試行錯誤した。
ある日は、環境が一日に十回以上変貌する場所に百年住んだ。
ある日は、神域に近いとされる場所で断食を一年続けて瞑想をした。
毎日毎日、彼は進化を求めた。
そして、彼は『流眼』を手に入れた。
これこそが、万水流の師範の証であり、この流派の奥義にも繋がる。
この目は流れを理解し、長年修行を続けると身に付けることで習得した。
しかし、それでは完璧な習得とは言えない。
二人の体にはいつの間にか、切り傷が多く付いていた。男の方が多いのが未だ差がある事を示していた。
「弟子よ」
「なんだ、師匠?」
ネルは男にハッキリと言い渡した。
「今のお主ではいくら足掻こうがワシを殺し得ない」
そうネルは言った。




