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羨望の眼差し

「ぶっちゃけ下手って・・・」


彰人は風花の言葉に戦慄していた。nyちゃんねるのハーヴェスタムーンスレで

「詩亜は下手だよなwww」なんて書き込んでしまったら、それはもう一生粘着されてWikiのトップに晒されてしまうくらいの禁忌<タブー>である。

ワッチョイを巧みに回避したとしても”絶対に気づいてしまうマン”によって特定されるのだ。ネットの掲示板は実質魔界と言って差し支えない。


風花は自分と向き合い、過去の自分が下手だとそう言い放った。

空はそんな風花を見て素直に憧れを抱いてしまった。

今でこそ友達ができて週末にカラオケができるまでリアルが充実しているが、ついこの間まではぼっちだったのだ。

どうしても忘れられない痛みがある。それは、ふとした時に仄暗い水の底へと気持ちを落ち込ませる。今が幸せだからこそ、その痛みがより際立つ。

空は過去から目を背けていた。そしてまた、そのことを誰にも相談できずにいた。


「・・・」


彩香は空を見ていた。風花に羨望の眼差しを向けたと思ったら、うつむいて静かに席につく。

それはマグダナルダで彰人が席を外し、彩香と二人きりになった時の様子と一緒だった。

人を見るのは得意だ。というか”人を正しく判断しないとやっていけない世界”にいて、嫌でも身についた特技である。

人気があれば群がって来るし人気がなくなれば去っていくという、そんな世界でずっと演じて来たのだ。

自分を守るために、生きていくためにそうするしかなかったとも言える。

空が彰人に想いを寄せていることを感づいて発破をかけたのもそういう意図があった。

・・・ここまで自分が劣勢に立たされるとは、と内心苛立ちがないわけではない。

勝算がなければ勝負を挑んだりはしない。遊んでいるように見えるが実は堅実派なのだ。

瀬良からはそれを「ビビり」だと言われたこともある。その時はムカついたから顔をグーで殴ってやった。

瀬良はそれを避けようとせず受け止めた。

綺麗に拳を振り抜いたはずなのに、殴った感触がまるでなかったのを覚えている。

瀬良はいつも彼女のわがままを聞いてくれるし、多少の無理を言っても怒らない。

瀬良と恋は決して自分を裏切ったりしない・・・と思う。


そんな二人を”試してみた”ことがあった。VTuberでありながら中の人の写真をSNSにアップするという”絶対怒られるやつ”をやってみたのだ。

恋の住んでいるマンションに押しかけて二人で一緒にお風呂に入り一緒に寝る。

その際にお互いのネグリジェをはだけさせてスマホで撮影してヌイッターにアップした。

ネットは1分経たずにヒートアップし、その様子をきちんと確認したあとで投稿を削除した。


恋はまったく怒らなかった。というかあんまり自分を取り巻く環境に興味がないらしく、火消しもせずそのまま彩香と寝るのを優先した。

翌日、当然呼び出されて厳重注意された。グチグチと怒られて終わったと思ったら瀬良だけが残るように言われ、恋と彩香はロビーでずっと待っていた。


瀬良は3時間くらい経ってから現れた。なんかすごいげっそりしてたから彩香が愛飲しているガーゴイルエナジー(どんなに疲れていても元気が出たような気分になってしまうヤバいエナジードリンク)を差しだしたらめちゃくちゃキレた。

瀬良は昔からガーゴイルエナジーだけは飲まない。緑茶だと偽って出してみたらそのまま台所へ向かい、シンクへ捨てていた。

(彩香はそれをもったいないと思いながら見ていた。ガーゴイルエナジーは高いのだ)


その後、恋との二人一緒の配信は無くなった。自分が思っていた以上に深刻だったらしい。

そして瀬良は前よりもっと優しくなった。ガーゴイルエナジーにはキレたが、自分に対してキレいたわけではないようだった。

3人は出会った当初と変わらずに関係を維持している。

それ以来、彩香も二人を試すようなことはしていない。信頼・・・しているのかどうかは自分にもわからなかった。


「(親友なら・・・ここで手を差し伸べるんだろうけど)」


彩香はそっと空から視線を逸らした。

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