それぞれの中の人
彰人、空、風花の3人が部屋を出ていき、残りの3人は雑談をしていた。
彩香と凛は初対面だし、ここは浅村が率先して場を持たせようとしていた。
凛は彰人と浅村の出会いに興味深々のようだった。
「ねぇねぇ、彰人くんと浅村くんってどうやって友達になったの?」
「ああ、天河とはクラスが同じになって俺が一人で飯を食ってたら池上と一緒に話しかけてきてくれたんだ」
「・・・へぇ、浅村くんがぼっち飯ねぇ」
彩香は心底意外、といった感じで相槌を打つ。浅村にとってその反応は心外だったようだ。
「彩香さん?俺をなんだと思ってるの?」
「んー?陽キャでモテ男でパーリーピーポーって感じ」
「・・・」
彩香は遠慮せず言った。まるで切れたナイフのような言葉が浅村に突き刺さる。
浅村は明らかにしょんぼりしていた。どこか浅村にだけとげとげしい態度だ。
「自分を嫌え」と遠回しに言っているようだった。
凛は浅村の彩香に対する態度で”二人の関係性”に気づきはじめた。
ここは大人(だが見た目はゴスロリ)の自分がフォローするべきだろう。
「彩香ちゃん、男の子は見た目じゃないんだよ?確かに今どきの男の子って感じだけど、浅村くんは誠実な人だと私は思う」
「なぁに凛?浅村くんに肩入れでもしてるの?」
「そういうわけじゃないけど・・・まぁ彰人くんの親友って時点で悪い人ではないよ」
年上の凛を早速呼び捨てにする彩香は平常運転だった。凛もそれを気にしないで受け止める。
浅村は凛に感謝しつつ、彩香に向き直った。
「確かに女子からの評判は良いかもしれない。けど、それを見た男子は俺と関わろうとしないんだよ。だから天河達が話しかけてくれるまで一人だったんだ」
「・・・まぁあたしもずっと一人、みたいなもんだし?その気持ちはわからなくないけど」
「えっ、彩香さんが一人・・・?」
「な に か 問 題 で も ?」
浅村に顔を近づけデスボイスで威嚇する。浅村は顔が近いし、こんなに感情を表に出す彩香が初めてだったのもあり、デュアルショック(二重の衝撃)を受けていた。
そして、そんな彩香があらためて可愛いと思ってしまい顔が赤くなる。
「ふふっ・・・」
「ちょっと凛、なにがおかしいの?」
「えー?なんかお似合いだなって」
「凛・・・あんた後で覚えてなさいよ。あと浅村くんもどうしてうつむいてるの?」
「えっ・・・いや、可愛いなって思って・・・」
「・・・」
彩香は自分がつい感情的になってしまったことに気が付いた。今日の目的はあくまで”彰人を堕とすこと”であって、その親友の浅村を堕とすことではないのだ。
「ふん。そんな言葉で乗せられたりしないんだから。どうせあたし以外にも言ってるんでしょ」
「いや、俺は本当に可愛い時にしか可愛いと言わない。そうじゃないと相手に失礼だと思うから」
「ほぁぁぁ・・・私はおじゃまぷよみたいな存在だぁ・・・」
凛は超定番のパズルゲームのおじゃまキャラと化していた。ちなみにそのゲームの後半のステージは「もう少しで勝てる!」って思うと10連鎖以上してきて、ばよえ~んされて返り討ちにあうという、血も涙もないゲームである。
その頃、クウカ姉妹の部屋では風花とクウカがお互いを見つめあい、そのまま時間が停止していた。
社会現象化したアニメの最後の使徒を初号機が握りつぶすシーンくらい長い間静止していた。
やがて、風花がゆっくりと口を開く。
「クウカさん、その曲はね・・・」
「(ああ、釈迦、仏陀、アドラー、マザーテレサ・・・!私に力を・・・!)」
釈迦と仏陀はなんとなくわかるがアドラーは心理学者だし、マザーテレサは慈愛に満ちた人であって願いを叶えてくれそうなポテンシャルは秘めてなさそうである。
しかし、この4人には「全員、人間を否定しない」という共通点があった。
クウカは日和に対して”お姉ちゃん”するために読書をしているのだ。
読書は良い。様々な教養が身につくから。
「私が一番苦労した曲なんだよ?想いを形にするのがこんなに難しいと思わなかった。だからその曲が一番好きって言ってくれてうれしいな」
「え・・・じゃ、じゃあ!」
「いいよ。今日は特別。シンフォニック・オーバーレイ~2023Mix~とでもしましょうか」
「うおおおおお!マジかーーーーー!」
と叫んだのは誰でもない彰人である。忘れているかもしれないが、彰人も相当な月の民なのだ。地団駄を踏んでガッツポーズまで取っている。
「良かったね!お姉ちゃん!」
「うん・・・うん!」
狂喜乱舞している彰人と抱き合っている姉妹を見て、空はひとり( ゜д゜)ポカーンとしていた。
どうやら風花は空が思っている以上にすごい存在らしい。
「行きましょう空。今度は私が歌う番。言っとくけどかなりレアなんだからね?」
「よくわからないけどわかった」
空は曖昧だがきちんと返事をした。
そう言って部屋を出ようとする風花をクウカが止める。
「あのっ!録画・・・録画していい?」
「・・・絶対SNSとかにアップしないこと。約束できる?」
「私はできる!神に誓ってそんなことしない!」
「やったー!じゃあ俺も!」
「彰人はダメ」
「ナンデ?!風花ナンデェェェ?!」
「好きな男子が自分の動画を見てるなんて想像できる?」
「くっ・・・しかし・・・!」
「彰人は絶対にダメ。クウカさんも見せちゃダメだからね」
「サー!」
ビシッ!と風花に向かって敬礼をするクウカ。彰人はがっくりとうなだれた。
そうして5人は彰人たちが取っている部屋へと移動した。
「ただいま。ありがとね浅村くん」
「ん、この子達がサークルのファンってことかな」
「そう。クウカちゃんと日和ちゃんって言うの」
「あ、あのあのあのあの!初めまして!お姉・・・クウカお姉ちゃんの妹の日和と言います!今日はその・・・お世話になります!」
「ふふ・・・礼儀正しい子だね・・・って、え?!お姉ちゃん?!」
凛は姉妹の違和感を隠しきれなかった。どう見ても妹のほうが大人で、クウカは幼く見えたからだ。
クウカはそんな凛の声を聞いて目を見開いていた。
「えっ・・・?その声・・・どこかで聞いたことある・・・ゴスロリだし・・・」
「ゴスロリは関係ないでしょ・・・」
彩香は呆れた様子で言った。彩香もなんとなくその”声”を知っていた。彩香は職業柄、声の仕事の関係者と一緒になることが多い。ひょっとしたら・・・とは思っていた。
「お?もしかして気づいてくれた?私、実は声優やっておりましてー・・・ってまだ候補生だけどね」
にひひ、と照れ笑いを浮かべる凛。有名な声優さんはテレビに出たり雑誌で紹介されたりするが、凛はまだそこまでではない。声を聞いたことがあっても姿は知らないという人がほとんどだ。だからこそ、クウカの反応が嬉しかった。
「ねぇ彰人、凛さんは誰の中の人なの?」
「ああ、撲殺天使ガイコツちゃんの・・・」
「Marinさん!私、あのラノベすごく好きで!アニメも見てて!夢みたい!」
空はそばにいた彰人に聞いた。彰人は雷撃文庫で話題となり、アニメ化もされたタイトルを教える。彰人の隣にいた日和は大喜びしていた。
日和はクウカの手を取ってブンブン振り上げている。クウカ姉妹はラノベやアニメが好きなのだ。
「いいねぇ・・・初々しいねぇ。日和ちゃん、クウカちゃん、私も嬉しいよ。駅前の本屋で彰人くんと一緒にバイトしてるから会いたかったらおいで~」
「えー?!会いに行ける声優さん!潤烈みたい!」
「潤烈て・・・」
彰人は日和の例えに苦笑いした。潤烈は”会いにいけるアイドルグループ”である。
スーパー銭湯などで会える身近な存在としてファンも多い。
凛の正体をバラしたタイミングで風花もみんなに向き直る。
「えーっと、浅村くんは気づいているみたいだけど・・・私ね、ハーヴェスタムーンっていう同人サークルのボーカルをやってて・・・」
「へぇ・・・あんたが詩亜なんだ。じゃあ表の人だかりってもしかして風花のせい?」
「うーん・・・一応まだバレてないはずだから凛さんのせいじゃないかな」
「えー?私は普通に駅前に向かって歩いてきただけだし?そしたらなんか砂鉄みたいに集まってきただけだしー?」
みんなで責任転嫁しあっていた。彰人はそんな凛に普段言わなかったことを伝えようと思った。
「凛さん。実は本屋でバイトしていると凛さんとお友達になりたいっていう男性が後を絶ちません。店長に相談して断るようにしていますけど・・・もしかしたら身バレしてる可能性もあります」
「そっかぁ。私も有名になったってことかな!ガハハ!」
「もう、凛さんは魅力的な女性だし、もっと気を付けてください。本屋にいる間は俺が全力で守りますけど・・・」
「うんうん。愛してるよ彰人くんっ!」
「からかわないでくださいよ~」
空は戦々恐々としていた。一人は有名な同人サークルのボーカルの中の人であり、もう一人は声優の卵だということに。
そうなると彩香も・・・と思い何気なく彩香を見る。すると彩香と目が合った。
彩香は空を見て妖艶に微笑む。そしてストールをゆっくりと剝ぎ取った。
そんな彩香を見て空は・・・
「(露骨におっぱいを私に見せてくる!ゆるるさーん!)」
と自分の平坦な胸板を嘆いたのだった。




